地域主権大綱 「政治主導」はどうした

朝日新聞 2010年06月25日

地域主権大綱 「政治主導」はどうした

「分権とは明治以来百数十年、特に戦後強化された集権システムと、それを支える政官業の『鉄のトライアングル』を突き崩そうとするもの……」

「地方の時代」を唱えた神奈川県の長洲一二知事(当時)が本紙「論壇」にこう書いたのは1994年、政府の地方分権大綱ができたときだ。

あれから16年。菅内閣が地域主権戦略大綱を決めた。「地方分権」から「地域主権」に表題を変えたが、その冒頭にも「明治以来の中央集権体質からの脱却」をめざすとある。

なんとも歩みののろい改革なのだ。

今回の大綱も「国の出先機関の原則廃止」の方針が盛り込まれたことは評価できるが、まだ抽象論の域を出ていない。より具体的な内容に目を向けると、自治体の仕事のやり方を法律でしばる「義務づけ」の廃止などは、いかにも物足りない。自治体側の要望が大きい改革の核心部分だけに、たいへん残念な内容だ。

改革に対する民主党政権の意気込みを、私たちは3月の社説で「大風呂敷を歓迎する」と評したが、あの頃の意欲はしぼんでしまったように見える。

とくに、民主党の目玉政策の「一括交付金化」は原点から揺らいだ。

各省が差配する補助金が国と地方の省庁縦割りの上下関係を固定化させてきた。だから補助金をやめて、住民が使い道を考えられる交付金にする。「省庁の枠を超えた」「地域が自己決定できる財源」にするはずだった。

原口一博総務相はこの考え方を全面支持しつつ、「大綱の内容を決めるのは首相と一部閣僚、学者、知事らによる地域主権戦略会議だ」と言い続けてきた。確実に予想された各省の抵抗を首相らの政治判断で突破するという宣言である。傍らで菅直人首相も仙谷由人官房長官もうなずいていた。

それなのに、戦略会議でいったん了承した「一括交付金化」の内容が土壇場で、国が深く関与するものに変質した。自治体の裁量枠が大きくなれば、各省は権限も影響力も失う。それを恐れた役所側の巻き返しを認めてしまった格好だ。これでは霞が関と二人三脚だった自民党政権時代の分権改革と変わらない。

地域主権改革は日に日に各省のペースになりつつある。副大臣や政務官らが各省の省益をそのまま代弁するような光景が増えている。まるで官僚に振り付けされた、官僚のいいなりの「政治主導」を見せられているようだ。

大綱を決めた戦略会議で、菅首相は「分権改革のさきがけ」である政治学者の松下圭一氏の名を挙げて、改革への意欲を語った。そして最後には「もしかしたら、これからが本勝負になるのかな」と締めくくった。

本来の政治主導にかじを戻す覚悟の言葉なら、実行あるのみだ。

毎日新聞 2010年06月26日

参院選 地域主権改革 やはり「一丁目一番地」だ

地域主権改革が今回、参院選の争点として脚光を浴びているとは、残念ながら言えまい。

「一丁目一番地の改革」と位置づけた鳩山前内閣に比べ、菅直人首相の重視度が疑問視されたり、具体的争点がイメージしにくい点が影響しているのかもしれない。財政、社会保障など各党の論戦が進むにつれ、地方分権が避けて通れぬ課題として再認識されることを期待したい。

菅首相の就任直後、ひとつの騒ぎがあった。地域主権改革の基本方針となる戦略大綱の決定が調整不足などを理由にいったん、参院選後に先送りされそうになったのだ。原口一博総務相らが巻き返し、滑り込むように22日、閣議決定された。

だが、土壇場で中身は後退した。国から地方に配るヒモ付き補助金を使い道を定めぬ「一括交付金」に改編することが目玉だが、原案になかった記述が大幅に加筆され、中央官庁が制度設計や配分に関与できるようになった。府省の抵抗が次第に強まり、改革が空中分解しかねない現状を浮き彫りにした。

さきの衆院選に続き、民主党は参院選公約でも「地域主権」を掲げている。だが、内閣の姿勢はどうか。首相はさきの記者会見で保育所行政の地方分権に関し、国が最低限度の生活を保障する「ナショナル・ミニマム」との兼ね合いを懸念する見方があることを指摘した。

これこそ、分権に抵抗する府省が「地方に任せられない」理由の決まり文句として持ち出す論理である。住民に身近な行政は自治に委ねるという「補完性の原理」こそ、改革の大原則のはずである。

とはいえ、首相の強調する「日本の閉塞(へいそく)状況」を解く鍵が分権改革にあることを、首相もいずれ気づくのではないか。「強い社会保障」や雇用対策の強化を目指すのであれば、公的な担い手となる自治体への権限、税財源の移譲は不可欠だ。首相が言う「個人の孤立」の問題に取り組むにしても、地域コミュニティーの再生と切り離せまい。

現行の都道府県を廃止し、再編する道州制導入論議の活発化も、今参院選の特徴だ。自民、公明、新党改革、たちあがれ日本、みんなの党などが実現を掲げている。民主党は道州制への態度が明確と言えないが、自治体の将来像について、政権党としてそろそろスタンスを定める必要がある。

分権改革は複雑でとっつきにくい印象がある。論戦を通じ「なぜ必要か」という認識が国民に深まることが、改革の骨抜きを防ぐうえでも重要だ。知事、市長ら地方も大いに議論に加わってほしい。

読売新聞 2010年06月28日

地域主権大綱 菅政権の実行力が問われる

地方分権のメニューはほぼ網羅された。今後、問われるのは、菅政権の実行力である。

政府が地域主権戦略大綱を決定した。

国のひも付き補助金を一括交付金に改める。国の出先機関を抜本的に改革する。国の法令で自治体の仕事を細かく縛る「義務付け・枠付け」を見直す。都道府県の権限を市町村に移す。

いずれも、国の権限や関与を小さくし、地方の自由裁量を拡大することで、地域活性化を図るための重要なステップだ。着実に実施する必要がある。

使途が限定される補助金を、地方が自由に使える一括交付金にすることは、民主党が昨年の衆院選の政権公約で掲げたものだ。

教育、社会保障など義務的な補助金は対象外とする一方、公共事業などの補助金は2011年度から順次、一括交付金化する。

問題は、どこまで本気で取り組むかだ。大綱では、原案にあった「地域が自己決定できる財源」といった表現が削除されるなど、国が関与する余地も残している。

今後、各府省任せにしては、一括交付金化が進まない恐れがある。予算編成に入る前に、より具体的な指針を作るべきだろう。

国の出先機関の見直しでは、民主党の政権公約通り、「原則廃止」と大綱に明記したが、具体的には何も進んでいない。民主党の参院選公約でも言及はない。結局、自民党政権と同様、出先機関の統廃合にとどまるのではないか。

まず、各府省が8月末までに、所管する出先機関の事務や権限について、「地方へ移譲」「国に残す」「廃止・民営化」など4項目に「自己仕分け」をする。その後、地域主権戦略会議が年内に行動計画を策定するという。

だが、各府省が自らの権限や職員、財源を減らすのに抵抗はしても、協力するとは考えにくい。

やはり菅首相や仙谷官房長官が前面に出て、政治主導で取り組むことが重要だ。民主党が自画自賛する「事業仕分け」を活用するのも一案だろう。

大綱は、出先機関の事務や権限の地方移譲について、自治体の発意に基づく選択的な移譲や、都道府県単位でなく、複数の都道府県の広域連合への移譲も可能とする仕組みを検討するとした。

こうした柔軟な仕組みを導入することは、地方の選択の幅を広げるもので、悪くない。

その際、国の事務や権限を積極的に引き受ける覚悟があるのか、各自治体の姿勢も試されよう。

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