朝日新聞 2010年06月26日
W杯1次突破 南アからすてきな贈り物
青いジャージーが躍動した。
サッカー日本代表がワールドカップ(W杯)でデンマークに快勝、海外開催のW杯で初の16強入りを決めた。テレビの前で本田選手らのゴールに歓声をあげた人は少なくなかっただろう。
前回優勝のイタリアが敗退。準優勝だったフランスも監督と選手の確執で空中分解し、1勝も出来ぬまま消え去る大荒れの大会だ。日本チームの結束力と着実な闘いぶりが光る。
高さとパワーを誇るデンマークとの対戦は、引き分けでも16強という条件下での試合だった。だが、攻めの姿勢を貫き、勝利をもぎ取った。
チームや選手のプレーに自分の人生や社会の今を重ね、壁を乗り越えるヒントをもらう。スポーツ観戦のだいご味にはそんな側面もあるが、とくにW杯にはその力が大きい。日本代表の躍進からも、様々なメッセージが受け取れそうだ。
例えば組織力。個々の選手が最大限に力を発揮する。それが有機的に結合すれば、1足す1を3にして敵に立ち向かえる――。そんな意識が全選手に浸透しているようだ。
「指示」と「判断」の使い分けも巧みだ。4年前は、自主性を重んじるジーコ監督が戦術的にも選手を縛らなかった。結局は戦う方向性を選手が見失い、惨敗した。今回、選手たちは、岡田監督の指示を念頭に置きつつ、状況を各自が分析し、互いの意思疎通で攻守を組み立てるしなやかさを見せた。
適応力もそうだ。岡田監督が当初目指した、パスを細かくつないで攻める「日本らしいサッカー」は、アジアでは通用しても、世界では厳しかった。その現実にW杯直前の強化試合で直面し、大幅に戦術変更せざるを得なかった。
それでも、選手に大きな動揺はなかった。方針変更を冷静に受け入れ、勤勉に、個々の仕事に徹し切った。
サッカーは国境がなくなり、グローバル化したスポーツだ。日本代表23人の中にも、欧州リーグなど海外でプレー経験があるか、現在所属している選手は半数ほどにのぼる。
異質な環境に身を置き、適応し、自己変革を重ねていく。そんな姿勢が、大舞台でも竹のようなしなやかさと強さにつながっているようだ。
岡田監督が大会直前になって抜擢(ばってき)したゴールキーパーの川島選手は、W杯で戦いながら成長を続けている。若さが秘める可能性の大きさも改めて印象づけた。
高い理想を掲げ、軌道修正しつつも夢を追い続ける日本代表に、多くの人々が励まされた。とりわけ、閉塞(へいそく)感が漂うといわれて久しい日本社会にとって、すてきな贈り物だ。
チームが「8強」に挑む姿からも豊かなメッセージを受け取りたい。
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毎日新聞 2010年06月26日
日本決勝Tへ もっと驚かせてほしい
昨日は未明から何度も何度も同じシーンを繰り返し見た、そんな人が多かったことだろう。何度見ても感動は少しも色あせない。南アフリカで開かれているサッカー・ワールドカップ(W杯)1次リーグで日本代表がデンマークを3-1で降し、決勝トーナメント進出を決めた。
本田圭佑選手と遠藤保仁選手の芸術的なフリーキック、本田選手の絶妙なアシストで3点目を奪った岡崎慎司選手。ゴールは許したものの、PKを一度は止めてみせたGK川島永嗣選手の好守備。珠玉のプレーの数々が見るたびに輝きを増した。
日本時間午前3時半キックオフという時間帯だったにもかかわらず、生中継した日本テレビの平均視聴率は30・5%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)に達した。日本代表への期待の大きさを物語る数字で、それに見事に応え、日本中を明るく、活気づけてくれた選手たちに「よくやった。ありがとう」と感謝したい。
4大会連続4度目出場の日本。決勝トーナメントに進むのは02年の日韓大会に続いて2度目だが、海外で開催されたW杯では過去1勝もできなかった日本だから、1次リーグで2勝した今回は重みが違う。
正直なところ、日本がここまでやると予想した人は少なかったに違いない。W杯開幕直前の強化試合では韓国などに4連敗。「相手チームを強化してどうするつもりだ」。そんな嫌みを言いたくなるほど日本チームの不振ばかりが目に付いた。
しかも主力を構成する田中マルクス闘莉王選手や松井大輔選手、大久保嘉人選手ら81年、82年生まれの選手たちは「谷間の世代」と言われてきた。4年前のドイツ大会の主力だった小野伸二選手、高原直泰選手ら一世代先輩たちはジュニア時代から世界の舞台で華々しく活躍し、「黄金世代」と呼ばれた。その対比でつけられた不本意な呼び名だった。
「自分たちは弱い」。選手の謙虚な思いがチームの結束を強め、W杯の大舞台で「黄金世代」もできなかった成果を上げたのだろう。
今回は波乱の大会の様相を見せている。4年前、決勝を戦ったイタリアとフランスが1次リーグで姿を消した。その中で、一足先に決勝トーナメント進出を決めた韓国に続き、日本も16強入りを果たした。ともにアジアの代表として世界のサッカー地図を塗り替えてもらいたい。
2年半前、病に倒れたオシム監督の後を受け、2度目の代表監督に就任した岡田武史監督は「世界を驚かす」と宣言し、「W杯4強」を目標に掲げた。16強で満足するのはまだ早い。決勝トーナメントでも岡田ジャパンが世界を驚かすサッカーを見せてくれることを期待しよう。
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読売新聞 2010年06月26日
W杯ベスト16 組織力生かしさらに上位を
世界最高峰の舞台で、ベスト16に駒を進めた。日本代表チームの奮闘に拍手を送りたい。
サッカーのワールドカップ(W杯)南アフリカ大会で、日本はデンマークを3―1で下し、決勝トーナメントに進出した。2002年の日韓大会以来、2度目のベスト16である。
前半に本田圭佑選手、遠藤保仁選手が見事なフリーキックを決めた。後半には、岡崎慎司選手のゴールで突き放した。
デンマークの猛攻を体を張って防ぐ日本の選手たちからは、「ここで敗退するわけにはいかない」という気迫が伝わってきた。岡田武史監督は、「素晴らしい選手たちを誇りに思う」と語った。
体格、パワーでは劣っても、選手一人一人が、自らの役割を確実に果たした。組織力でつかみ取ったベスト16といえる。
次戦は29日、相手は南米のパラグアイだ。厳しい戦いとなるだろうが、日本の持ち味を存分に発揮し、初めてのベスト8入りを達成してもらいたい。
大会前、日本代表への期待は、さほど高くはなかった。だが、初戦でカメルーンに勝つと、関心が一気に高まった感がある。
デンマーク戦が中継された25日午前3~5時の関東地区の平均視聴率は30・5%、瞬間最高視聴率は41・3%に達した。時間帯を考えれば、驚くべき数値である。
決勝トーナメントは、負ければ終わりという一発勝負だ。それだけに、応援のボルテージも一層、上がるに違いない。
韓国もベスト16に勝ち上がった。アジア勢が振るわなければ、次回大会のアジアの出場枠が減らされる懸念がある。その意味でも、日韓両国の決勝トーナメント進出は朗報といえるだろう。
意外だったのは、前回大会優勝のイタリア、準優勝のフランスがともに敗退したことだ。それ以外の欧州の強豪国も、苦戦を強いられている。
今大会に出場している南米やアフリカ、アジアの選手の多くが、普段は欧州のリーグでプレーしている。欧州で技を磨いた選手たちが、国別対抗のW杯では、欧州各国の難敵として立ちはだかっているというわけだ。
ブラジルやアルゼンチンなど南米勢は好調だ。日本のサッカーにはない見事な個人技を見ると、サッカーのスタイルの違いを実感させられる。
大会は折り返し点から佳境に入る。世界の頂点を目指すぶつかり合いが、ますます楽しみだ。
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産経新聞 2010年06月26日
W杯16強入り みんなで快挙を喜びたい
サッカーのワールドカップ(W杯)で日本がデンマークを3対1で破り、決勝トーナメントへの進出を決めた。大会前の日本代表に対する評価は低かっただけに、1次リーグ突破は大変な快挙である。
デンマーク戦は南アフリカの現地時間24日夜、日本時間では25日明け方の試合だった。それでも、テレビ中継は30・5%もの視聴率(関東地区)を記録した。スタンドでは大きな日の丸が翻っていた。肩を組んで君が代を歌うチームの姿も印象的だった。意気消沈する出来事が多い現在の日本にとり、勇気と希望にあふれた朝となった。
日本代表の活躍は1次リーグの3試合を通して評価する必要がある。初戦のカメルーン戦は、相手チームのゲームメークに対する意思統一が希薄だったこともあり、多分に幸運な面もあった。守りに重点を置いた戦い方への評価も、必ずしも芳しくはなかった。
それでも、勝つことはそれ自体が重要である。この試合で選手も監督も自信を付けたはずだ。次の世界ランク4位のオランダとの戦いは、敗れたとはいえ、世界の強豪とも十分、渡り合えるという手応えを感じさせた。
デンマーク戦は引き分けでも決勝トーナメントに進出できるという有利な条件だった。だが、その比較優位にしがみついて守りの試合をしていたら、勝利はおろか、引き分けすら期待できない。
ピッチの上の選手たちにそうした消極性はみじんも見られず、勝利を目指して果敢に攻め、そして攻撃的に守った。ひたすら前へ向かう姿勢が、堂々たる勝利につながったということができる。
W杯に限らず大きな大会では、試合を重ねることで一戦一戦、力をつけ、強くなるチームがある。今大会ではまさしく日本がその例だろう。16チームによる決勝トーナメントでは、まずパラグアイと対戦する。今大会で勢いがある南米の強豪だ。
いろいろなチームと真剣勝負ができる。日本代表はいま、その苦しさと楽しさを実感しているに違いない。濃密な時間の中で自信を付け、成長する。その体験は、閉塞(へいそく)感の強い現在の日本への貴重なメッセージでもある。
決勝トーナメントでは、日本代表が一試合でも多く、そうした体験を積み重ねることができるよう声援を送りたい。「ベスト4」はもう、夢ではない。
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