参院選きょう公示 「危機」正面から論じよう

朝日新聞 2010年06月24日

参院選公示 「私たち」の政治を鍛える

参院選がきょう公示される。

歴史的な政権交代を起こした民意は早々に鳩山前政権を見放した。政治は一本道を真っすぐには進まない。蛇行や迷走は珍しくもない。それでも決して止めることのできない営みである。

過信や熱狂ではなく、不信や冷笑でもなく、その両極の間にこそ私たち有権者の行く道はある。この参院選を、政治とのかかわり方をさらに鍛え、より成熟するための機会にしたい。

ネット上で注目を集めている動画がある。上半身裸の男が一人で踊り出し徐々に群衆を巻き込んでいく映像。ムーブメントを起こす際に大切なのは最初の一人以上に、それに続く人たちの役割だと説明される。

鳩山由紀夫前首相がツイッターで、この動画に触れて「『裸踊り』をさせて下さったみなさん、有り難う」とつぶやき、話題になった。

鳩山氏に動画をみせたのは、自分たちで「新しい公共」に取り組もうとする若い世代の人たちだ。自分たちの暮らす場所は自分たちでつくる。「お上任せ」を変えて政治の主役になろう。だれが首相であろうと、新しい公共の流れを止めてはいけない――。そんな動きがウェブを媒介に広がっている。

人と人とが「つながる」。この一見たわいないことが、いま日本政治の大きなテーマとなっている。

「個」を重視する戦後社会の流れの裏側で人々の間のきずなはほころび、「孤」が広がった。財政は悪化し、少子高齢化が進み、格差が広がる。暮らしへの脅威が現実に差し迫っている。

人々のつながりを取り戻し、互いに支え合わなければ大変なことになる。菅直人首相や谷垣禎一自民党総裁がそろって目を向けているのも、そこだ。

それには、私たちと政治とのつながり方も変えていかなければならない。

「お上」意識の根強さからか、日本では政治家と有権者があちら側とこちら側に分断されがちだった。政治家は利益を配る側、有権者は受け取る側。政治家は舞台役者で、有権者は観客。

そんな政治はもうだめだという有権者の切迫した危機感が、おそらく昨年、自民党政治に終止符を打たせた。

安全保障のように草の根の意識だけで世の中が変わらない課題もあるが、みずからが「公共」を担うという意識の芽はさらに育てなければならない。

それはどの政党に政権を委ねるのがいいかといった選択を超えた、有権者の地力の問題である。

人々がつながり、これまで「官」が独占してきた政策づくりに取り組むグループがあちこちで生まれている。

多様なムーブメントを起こし、政治の主語を「彼ら」から「私たち」に転換する。そして、その立場から厳しく政治を監視もする。この参院選を、その大きな一歩にしたい。

毎日新聞 2010年06月24日

参院選きょう公示 「危機」正面から論じよう

参院選が24日公示される。戦後初の本格的な政権交代から9カ月を経て、民主党を中心とする政権への国民の評価が初めて下される。菅直人首相による出直しの是非も同時に問われる、重い選択の場面である。

もともとは有権者の審判を受けるはずだった鳩山内閣が直前に退陣し、焦点の財政再建問題では2大政党の民主、自民両党が消費税増税路線で一致する。争点がぼやけた印象も与えるが、財政危機をはじめ日本を覆う閉塞(へいそく)状況への処方せんを正面から論じなければならない。選挙戦と来月11日の投票日を、政治の質を高める機会ととらえたい。

異例の構図である。民主党が消費税増税を含めた早期の税制抜本改革の必要性を打ち出す一方で、最大野党の自民党も「当面10%」を目標として掲げた。外交・安全保障問題で焦点の普天間飛行場移設について両党は「辺野古移設」という点で共通し、むしろ両党と他党の主張の差の方が目立つ。

さきの衆院選で民主党が初めて与党を担い、一方で自民党も政権奪回の足がかりを探る。とりわけ消費税をめぐり両党がタブーなき議論に踏みこんだのは、現実に政権を運営するうえで避けて通れぬとの判断からだろう。政権交代がより踏み込んだ政策論争を可能とした表れとして私たちは歓迎したい。

問われるのは、出直した民主党に政権運営を任せるか、それとも歯止めをかけるかの選択である。衆院選と異なり、参院選は直接政権の枠組みや首相を決める選挙ではない。だが、実際にもたらす政治的意味合いは民主党政権の将来を運命づけるほど重い。

仮に民主党が非改選を合わせ参院で単独過半数の議席を得れば、衆参両院で多数を占める強力な運営の基盤を得る。逆に、国民新党と合わせても与党が参院の過半数を割り野党が多数派となれば、07年参院選大敗で自民党が陥った衆参「ねじれ」に今度は民主党が直面する。そうなれば与党の政策判断には野党勢力との合意形成優先という、大きな制約が加えられる。

それだけに、鳩山内閣の挫折で政権担当能力に疑問符がついた民主党のビジョンと政策の説得力が問われる。理念先行だった鳩山由紀夫前首相と異なり、首相はさきの衆院選マニフェストを大幅に変更、実現重視型の公約を掲げた。財源対策が実質破綻(はたん)する中での変更は当然だ。だが、政権交代で期待されたのが大胆な政治の刷新だったことも忘れてはならない。

焦点の消費税について「自民党の10%を参考にする」と言い続けるだけでは政権党の責任を欠く。首相が言う「強い経済、財政、社会保障」の道筋や、あるべき税制改革像を率先し示すことを改めて求めたい。

揺れる日米関係も焦点だ。鳩山内閣退陣の要因となり、結局は辺野古周辺への移設に回帰した普天間飛行場問題も、地元同意が得られず展望が開けない状況は変わらない。日米合意にある8月末までの代替施設の工法決定をどうするのか。首相の言う「現実主義」外交は鳩山内閣が掲げた「対等な日米同盟」と異なるのか。具体的中身を示したうえで、各党による議論を深めてほしい。

自民党は、民主党との対立軸をどう打ち出すかの正念場だ。鳩山前首相と小沢一郎・民主党前幹事長を標的に「打倒小鳩」を訴える戦略は空振りに終わった。税制、普天間問題などで民主党の方が接近する中でどう国民に政権奪還を訴えるか。民主党の揚げ足取りを超えた建設的議論が谷垣禎一総裁に求められる。

新党も含めた民主、自民両党以外の勢力が「第三極」の地位を参院で築けるかも注目される。国民新党は消費増税に反対している。さらに、首相は参院で与党が過半数割れした場合の他党との連携に含みを持たせる。参院選後の連立の枠組みの行方には不透明感が漂う。

選挙後に政党の数合わせ的な合従連衡が行われ、有権者の不信を買うことがあってはならない。新党の進出ラッシュもあり各党の主張が埋没しかねないきらいはあるが、多様な主張は民主、自民両党の政策をチェックするうえでも有力な指標となり得る。公明、共産、国民新、新党改革、社民、たちあがれ日本、みんなの党など各党は消費税問題をはじめ重要政策への旗幟(きし)を鮮明にすることはもちろん、政策課題の優先度を示すことが肝心である。

取り組むべき課題は多い。数年のうちに国と地方の債務残高が国内総生産(GDP)比200%を突破しかねない財政の一方で、国民に貧困層が占める割合の指標である相対的貧困率は先進諸国の中でも高く、足元の生活が脅かされている。年金、医療、介護など社会保障の制度設計、成長戦略、地域主権改革などこれからの国の姿を描く構想力が、政治に強く求められている。

だからこそ、17日間の選挙戦は政党がどこまで責任を持ち政策を遂行できるか、党首の力量も含め総合的に競い合う場となる。そして投票日に試されるのは、私たち有権者の眼力である。

読売新聞 2010年06月25日

参院選公示 政治と経済立て直しの契機に

国の屋台骨が傾きかけている。そう感じる人は少なくないだろう。

昨秋、政権交代を果たした民主党政権は、政治を変えるどころか大混乱を招いてきた。

日本経済もデフレに足をとられ、なかなか明るい展望を見いだすことができない。

24日、参院選が公示された。

各政党は有権者の不安を払拭するためにも、景気を着実に回復させる経済政策や、日米同盟再構築に向けた外交・安保政策で明確な処方箋を示してもらいたい。

公約の真贋を見極めて

選挙は、9政党が名乗りを上げ、混戦模様だ。有権者は、各党が掲げた公約や擁立した候補者が本物なのか、その真贋を、しっかり見極めてほしい。

鳩山前首相は、「政治とカネ」の問題で国民の信頼を失い、米軍普天間飛行場移設問題では対米関係を大きく傷つけた。その結果、首相に就任してから8か月余りで退陣に追い込まれ、代わって菅首相が登場した。

今回の選挙でまず俎上にのせるべきは、民主党内閣の実績や政権運営のあり方だろう。

昨年の衆院選の政権公約(マニフェスト)でうたわれた子ども手当などは、財源不足から、早速見直しを迫られている。とはいえ、これらバラマキ政策については、何の総括もなされていない。

鳩山前首相と民主党の小沢前幹事長の「政治とカネ」の問題も、解明には程遠い状態だ。

菅政権は一体、前政権と何がどう違うのか。

バラマキ政策や事業仕分けの手法にみられるポピュリズム(大衆迎合主義)、政治主導という名の官僚たたき、巨額の資金が動く金権政治、「小沢独裁」に沈黙した非民主的な党の体質、「親中国・米国離れ」志向、「数の力」を背景にした強引な国会運営――。

菅首相は前内閣の副総理・財務相だった。前政権を特徴づけるこうした問題と決別したのか。

本来なら民主党は、衆院解散・総選挙で信を問うべきだった。それを避けた以上、これらについて説明を尽くさなければ、有権者は判断のしようがあるまい。

消費税率引き上げ問題は、菅新政権の実行力の試金石だ。

菅首相は、消費税を含む税制の抜本改革に関する超党派の協議を呼びかけ、消費税率の「10%」への引き上げに言及した。

消費税論議を深めよ

国家財政の逼迫、社会保障予算の膨張を考えれば、引き上げは当然のことである。自民党が「10%」で先手をとり民主党が追いかけた形だが、引き上げを正面から論じようとする姿勢は、責任政党としていずれも評価できる。

ただ、手のひらを返したような民主党の方針転換については、前政権の失政を隠すための「目眩まし」などと評されている。

菅首相は、消費税率引き上げの理由と使途などを丁寧に説明し、合わせて税制全般の改革像を早急に提示しなければならない。

消費税率上げに反対を表明している政党は、税制論議を深める上でも、現実的な「対案」を示す必要がある。

今回の参院選の勝敗は、民主、国民新両党の連立政権の枠組みに変更をもたらし、政界再編の契機になる可能性もある。

民主、自民の2大政党の間で「第3極」を掲げる新党は、多数の候補者を擁立した。その戦いぶりは2大政党の戦績に影響を与えずにはおかないだろう。

民主党は、衆院に加えて参院でも、非改選を含めて過半数を制し、単独政権を手中にできるか。

それが果たせない場合は、連立与党で過半数を確保できるかどうかが焦点だ。仮に、過半数割れになれば、「第3極」政党の一部などとの連携もありえよう。

自民党は、与党の過半数阻止を目標にあげている。衆参両院で多数派が異なる「ねじれ国会」として、民主党主導の政治にブレーキをかける狙いがあるのだろう。

どんな「政権のかたち」が望ましいのか。有権者は、そうしたことも念頭に置いて、1票を行使することが求められる。

参院のあり方も課題だ

参院が「良識の府」でなく「政局の府」と言われて久しい。

民主党は、菅内閣の支持率が高いうちの参院選を望み、早々に国会を閉じた。参院では野党提出の首相問責決議案の採決をしなかった。これでは「良識」が泣く。

前回参院選で第1党になった民主党は、参院で政府提出法案や人事案を否決して、当時の自民、公明連立政権を揺さぶり、政治を混乱に陥れたこともある。

参院が政局の行方を左右するようなことがないよう、第二院としては強すぎる権限を見直した方がいいとの意見もある。各政党は参院の在り方も論じ合うべきだ。

産経新聞 2010年06月24日

参院選公示 一層の劣化許さぬ選択を 民主の「現実路線」を見極めよ

日本の劣化をこのまま放置するのか、それとも食い止めることができるのか。民主党が政権を獲得したあと、初の本格的な国政選挙として公示される第22回参院選の最大のポイントである。

劣化をもたらしているのは、鳩山由紀夫前政権下で繰り返された数々の迷走と失政にとどまらない。民主党がマニフェスト上に並べてきた子ども手当や農家への戸別所得補償などに象徴される、利益誘導や選挙至上主義の色彩が濃い政策なのである。

前政権を引き継いだ菅直人首相は、消費税を争点化するなどしているものの、東アジア共同体構想や地球温暖化対策の温室効果ガス25%削減目標など、鳩山前首相が重視した基本路線を継承する考えも鮮明にしている。これらで国益を守ることができるのか。

≪依存心招くばらまき≫

実体が不明な東アジア共同体構想に幻惑されたため、鳩山前首相は胡錦濤国家主席との会談で中国海軍による海上自衛隊への軍事威嚇に触れることができなかったのではないか。25%削減目標も企業に負担増を強いて海外脱出を促すことになっていないか。

日米同盟を空洞化し、日本の企業の活力を生かさないことが、この国を劣化させていることを認識しなければならない。

菅政権がうたう「現実路線」への転換が本物かどうか。さらなる劣化を起こさない政治の枠組みはどうあるべきか。有権者の見極めに日本の未来がかかっている。

懸念するのは、財源の裏付けなく、ばらまき政策を実施しようとする政権与党の無責任さだ。参院選向け公約では、子ども手当の満額実施を見送るなどの修正を加えたが、基本的な考えは変わっていない。こうした政策の多用は、国民の政府に頼ろうとする依存心を強め、自立心を損なっている。政府と国民の関係だけでなく、国のあり方も変質させかねない。

前政権以来、もっとも注目を集めたともいえる事業仕分けが、将来を見据えた国家戦略に基づくものでなかったことは、小惑星探査機「はやぶさ」帰還と、それをめぐる政府の対応が示している。

後継機となる「はやぶさ2」の平成22年度開発予算は、概算要求時点の約17億円から政権交代時の歳出見直しと事業仕分けを経て3千万円に縮減された。仕分けにあたった蓮舫行政刷新担当相は、今になって仕分けを再検討する可能性に言及しているが、科学技術における国際競争力強化への関心のレベルを物語っている。

≪自民は存在感足りぬ≫

争点として避けられてきた消費税引き上げを、首相があえて打ち出したこと自体は政策論争を深めており、評価したいが、消費税の使途や10%という税率の根拠などを明確に示すべきだ。社会保障を負のイメージではなく、成長分野に位置付けるのであれば、産業化の具体的姿を示す必要がある。

民主党政権がムダの排除を掲げ、消費税増税を否定する公約を反故(ほご)にしたことの説明も不十分だ。民主党は国家公務員の総人件費2割削減を掲げたが、積極的な取り組みは見られなかった。国会議員の定数削減も、衆院選で掲げた衆院比例代表80の削減は未着手だ。新たに参院で「40程度」削減する方針を示したが、本気度はわからない。

いくら財政の危機的状況を訴えても、「わが身を切る」姿を政府や政治家が実践してみせなければ、負担を求められる有権者の心に届かない。消費税論議と同時に定数削減についても与野党で合意しておくことが必要だ。

沖縄全戦没者追悼式に出席した首相は「沖縄のみなさんと真摯(しんし)に話をしていきたい」と米軍基地が集中する負担の軽減に努める考えを示す一方、「日本の安全だけでなく、東アジアの状況の中で前政権が合意したことをきちんと引き継ぐ」と語った。日米合意に基づき、8月末までに普天間飛行場の移設先の位置や工法を決定する考えを示したものなら妥当だ。

米側には、参院選や9月の代表選などの政治日程を抱える民主党政権が、日米合意を完全履行できるのか懐疑的な見方もある。再び同盟空洞化を招くことのない外交姿勢が問われている。

自民党は野党として臨む党再生をかけた選挙で、与党過半数を阻止し、現政権継続に歯止めをかけるとしている。だが、その重要性について国民への訴えかけは不十分だ。民主党政治の問題点をさらに具体的に突き、受け皿としての存在感を示す必要がある。

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