安保改定50年 日米同盟深化へ戦略対話を

読売新聞 2010年06月19日

安保改定50年 日米同盟深化へ戦略対話を

デモ隊が国会議事堂を取り囲む混乱の中、新しい日米安全保障条約が自然承認されてから、19日で50年を迎えた。

この間、日本とアジアが平和と安定を確保し、経済的な繁栄を享受してきたことに、日米同盟が重要な役割を果たしてきたことは論をまたない。

安保条約の国会承認の手法はともかく、安保条約を改定し、日米同盟を堅持するという当時の岸内閣の政治的判断は誤っていなかったと言えよう。

条約改定は正しかった

「60年安保」は、国際的には東西冷戦、国内では保革対決の時代だった。戦後復興から高度成長期に入る直前で、多くの国民には悲惨な戦争体験の記憶が残る中、国論は大きく割れた。

政府・自民党など条約改定推進派は、1951年の旧安保条約の不平等性を是正し、米国の日本防衛義務を明確化すると訴えた。社会党など反対派は、「日本が戦争に巻きこまれやすくなる」などと条約破棄を主張していた。

与野党の国会議員から一般国民まで多大な政治的エネルギーが費やされた。5月19~20日の自民党の強行採決による条約批准案の衆院通過を受けて、抗議デモ・集会が大規模化していく。

6月中旬には、東大生・樺美智子さんが圧死し、アイゼンハワー大統領の来日が中止となった。読売新聞など在京新聞7社が「暴力を排し議会主義を守れ」と題する異例の共同宣言を発表した。

岸首相は、6月23日の条約発効の直後に退陣を表明した。

多くの困難を経て生まれた日米同盟は冷戦中、旧ソ連の軍事的脅威への有効な歯止めとなった。

冷戦後も、朝鮮半島などの地域対立や大量破壊兵器、テロなど新たな脅威の抑止力として機能した。「安保再定義」により、日米同盟はアジア・太平洋の安定を支える「公共財」と位置づけられた。

日米防衛協力指針も見直され、同盟の実効性が高まった。

鳩山前首相のお粗末な外交による日米関係の悪化を、韓国や東南アジア各国が本気で懸念していたのは、日米同盟を「公共財」とみなしている証左でもある。

前首相の「離米」ともとれる言動は皮肉にも、多くの国民が日米関係を再考する機会となった。過去の歴史と経緯を踏まえ、この先、同盟をどう深化、発展させるかを考えることが肝要だろう。

「普天間」を前進させよ

最初に取り組むべきは、米軍普天間飛行場の移設問題だ。

その前提として、菅政権は、現状は、沖縄県名護市辺野古周辺に代替施設を建設する現行計画に戻っただけではなく、地元が反対に回った分、現行計画よりも格段に悪い状況に陥ったことを自覚する必要がある。

まず、8月までに代替施設の位置や建設工法を決定するとの5月末の日米合意をきちんと履行することが求められる。沖縄県や名護市との関係を修復し、粘り強く理解を求める努力も大切だ。

菅首相は、民主党代表だった2003年11月、「米海兵隊基地と兵員が沖縄にいなくても極東の安全は維持できる」などと発言したことがある。

現在は、日米合意を順守すると明言しているが、その場しのぎの「現実主義」であってはならない。米側と信頼関係を築くには、過去の立場との決別が必要だ。

日米両国が戦略的な対話を重ねることも重要である。

いかに朝鮮半島を安定させ、中国に政治、経済両面で大国としての責任ある対応を求めるのか。地球温暖化、テロとの戦い、軍縮などの課題に、日米がどう協力し、関係国とも連携するのか。

こうした議論を深めつつ、日本が国際的な役割を一層果たしていくことが、より強固な同盟関係の構築につながろう。

同盟の中核は安全保障にある。北朝鮮は核ミサイルの開発を進め、韓国軍哨戒艦を攻撃した。中国は急速に軍備を増強・近代化し、海軍の活動範囲を広げ、周辺国との摩擦を起こしている。日本の安保環境は楽観できない。

防衛協力強化が重要だ

自衛隊と米軍が平時から緊密に連携し、緊急事態に対処できる態勢を整えておくことが、結果的にそうした事態の抑止力になる。

同盟関係は時に、自転車の運転に(たと)えられる。

慣性力が働いている間は自転車は前に進むが、きちんとペダルをこぎ続けなければ、いずれ失速し、最後は倒れてしまう。

同盟を維持するには、両国共通の目標を設定し、その実現に向けた共同作業に汗を流すとともに、両国間の懸案を一つ一つ処理していく不断の努力が欠かせない。

「日米同盟が日本外交の基軸」といった言葉を単に唱えるだけでは済まされない。

産経新聞 2010年06月22日

日米安保改定50年 共同防衛の実効性高めよ

■新たな脅威に日本も対抗力を

日本の外交・安全保障の基軸である日米安全保障条約が現行条約に改定されてから23日で50年を迎える。にもかかわらず、昨年秋の政権交代で発足した民主党の鳩山由紀夫前政権の下で米軍普天間飛行場移設問題は迷走を重ね、海上自衛隊によるインド洋上の補給支援は終結させられた。安保体制は大きく揺らぎ、日米同盟は空洞化の危機に立たされてしまった。

その最大の理由は、日本の安全保障環境が21世紀に入って激変した現実を正しく認識していなかったことにあるといえよう。

◆安保環境が激変した

北朝鮮の核・ミサイル開発や中国の核戦力増強と海洋進出に伴う挑発的活動の拡大などは、50年前になかった新たな脅威だ。国際平和維持、復興支援、海賊対策など日本に期待される活動や貢献も安保改定時の想定をはるかに超える時代に入っている。 

とりわけ、相対的な米国の力の低下がいわれる中で中国は「接近阻止」能力を高めつつある。アジア太平洋の米中の主導権争いは今後も激化するだろう。自由や民主主義の価値で結ばれた日米同盟の役割と重要性がかつてなく高まっている。そのことを強く認識しなければならないときである。

現行条約と旧条約の最大の違いは、日米による「相互の協力」を明文化したことにある。安保改定をもって、日本は条約の文面上は自らの意思で地域の平和と安定をともに支える公共財となる選択を下したはずだった。

60年の安保改定時、国会は「アンポ粉砕」を叫ぶデモと怒号に包まれ、90年代には同盟が「漂流」する危機にさらされた。そのつど安保体制を維持してこられたのは日米の政治指導者や官僚らの知恵と努力によるものだろう。

冷戦終結と日米が仮想敵としてきた旧ソ連の消滅を受けて「日米安保再定義」(96年)が行われ、小泉純一郎政権下では「世界の中の日米同盟」を掲げてきた。

イラクへの陸上自衛隊派遣による人道復興支援や、アフガニスタン支援のための海上自衛隊によるインド洋補給活動はそうした相互協力の一環だった。ミサイル防衛の展開も進められた。

内閣府が3年ごとに行う世論調査によれば、「安保条約が日本の平和と安全に役立っている」との意見が76%(昨年1月)を占めている。日本の安全についても「現状通りに日米安保体制と自衛隊で日本を守る」という意見が77%にのぼり、安保体制と日米同盟は今や国民に定着した観がある。

しかし、現実には「外交も安保もアメリカ任せ」という対米依存体質から抜け切れていないのが実態といわざるを得ない。世論調査に表れた数字も、自らを防衛する現実の努力や日米共同で担うべきリスクへの対処を怠っている現状の追認とみえなくもない。

◆米国依存体質の脱却を

今後は集団的自衛権を行使できるようにすることや「米国頼み」に陥らないように、主体的な自主防衛努力が欠かせない。そのためには、同盟強化の一方で憲法改正の作業も必要になるだろう。

テロとの戦いや海賊対策などの分野では、日本がもっと率先してリスクを負うべきだ。「世界の中の日米同盟」をめざしてきた流れを止めてはならない。

問題は、鳩山政権と交代した菅直人政権にそうした正しい現実認識がそなわっているかにある。

菅首相は所信表明演説で「日米同盟を基軸」とし、「現実主義を基調とした外交」を進めると述べた。だが、菅氏が引用した「平和の代償」(故永井陽之助著)はあくまで1960~70年代の「古い現実主義」ではないか。21世紀の新たな現実を踏まえた確かな構想とはいえまい。

政府は日米合意に基づき8月末までに普天間移設先の詳細を決着させなければならず、11月には沖縄県知事選がある。移設をめぐる地元の理解が得られなければ、在日米軍再編や日米同盟の将来はさらに厳しい局面に置かれよう。

鳩山氏がこだわった「常駐なき安保」論や、米海兵隊が沖縄に常駐することで担保される抑止力の意義などについて、菅氏は具体的な外交・安保政策に即してもっと語る必要がある。安保改定半世紀の節目を機に、共同防衛を実効性あるものにする努力が必要だ。

それが直ちに問われるのは、主要国首脳会議(G8)に伴って開かれる日米首脳会談だ。首相は言葉だけでなく、日本の平和と繁栄が維持できる安全保障の基本政策を示す責務がある。

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