朝日新聞 2010年07月02日
財政再建と成長 両立へ、新たな道開こう
大恐慌に陥った世界経済の立て直しのため66カ国がロンドンに集まった1933年の世界経済会議。「借金してでも財政出動を」という英国の経済学者ケインズの提言は採用されなかった。それから70年余。財政出動は、リーマン・ショック後の世界金融危機を乗り越える切り札となった。
ところが先週末のG20首脳会議では、米欧の意見が割れた。ギリシャ危機に揺らぐ欧州は、景気刺激の維持を求める米国の反対を押し切って歳出抑制や増税路線にかじを切った。
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毎日新聞 2010年07月04日
論調観測 岡田ジャパンと相撲界 スポーツが映す日本
日本の新聞はサミット(主要国首脳会議)報道に相当な熱を入れる。例年この時期に開かれるG8(主要8カ国)サミットは、開催のかなり前から連載や特集記事で盛り上がりを見せる。ところがG20(主要20カ国・地域)とのセット開催となった今年は、淡々としていた。
理由はいくつかあるだろうが、国内の関心が二つのスポーツの話題に集中したことと無関係ではないだろう。一つはもちろん、日本代表の健闘がうれしい驚きとなったサッカー・ワールドカップ(W杯)。もう一つは度重なる不祥事に続く野球賭博問題で、多くのファンを失望させた大相撲である。
まず角界だが、毎日、読売、朝日、産経は、日本相撲協会が名古屋場所開催を決めた翌日の29日付社説で、一斉に自浄能力のなさを非難した。サミットの総括は30日に回した。東京と日経は30日付で取り上げた。
クローズアップされたのは、一般社会の常識と相撲界の常識の大きな隔たりだ。存亡の瀬戸際だというのに、全容解明や改革は後に回し、とにかく場所開催にこぎつけようとする相撲協会。「この期に及んで、いまだ協会の体面を守ろうとしているように映る」(毎日)「当事者たちは、事態の深刻さをまだ理解していないというほかない」(朝日)と追及が渦巻いた。
協会は4日に開く理事会で処分などを決定するが、抜本的な体質改善の意思があるのかどうか、海外のファンも含め大勢の目が見つめている。
一方、閉塞(へいそく)感が続く日本を大いに沸かせたのはW杯だ。日経を除く各紙は複数回、社説で取り上げたが、「夢」「可能性」「誇り」といった、前向きのことばが久々にあふれた。
結局、初の8強に進むことはできなかったが、敗れても充実感やすがすがしさをおぼえたのは、「敗退の向こうに新たな可能性が見えた」(東京)からであり、「日本中が一体感を感じるような出来事」(朝日)だったためだろう。
今大会が始まった直後の毎日社説は、「世界共通語を楽しもう」と書いた。グローバル競技であるサッカーの世界で、可能性を信じ強豪に挑む日本人の姿が輝いただけに、「国技」の座に安住し、内輪のみ通じる特殊言語以外、受け付けてこなかった相撲界の閉鎖性が際立った。
岡田ジャパンは「4強」という途方もない目標を自らに課し、成長していった。相撲界も私たちを驚かせるような高い目標を掲げて、自己変革できるだろうか。【論説委員・福本容子】
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読売新聞 2010年07月01日
W杯日本敗退 選手の奮闘に元気をもらった
日本のサッカー史上、初めてとなるベスト8には、またしても手が届かなかった。しかし、日本代表の選手たちは、最高峰の舞台で、力を存分に発揮した。健闘をたたえたい。
サッカーのワールドカップ(W杯)南アフリカ大会の決勝トーナメント1回戦で、日本はPK戦の末、パラグアイに敗れた。2002年の日韓大会と同じ成績で、日本のW杯挑戦は終わった。
堅守速攻が身上のパラグアイに対し、日本は、中沢佑二選手、駒野友一選手ら守備陣の体を張った守りでわたりあった。
延長戦を含め120分を戦った末の紙一重の敗戦だ。PKを外した駒野選手は悔しいだろうが、胸を張って帰国してほしい。
W杯の計4戦、日本代表は1戦ごとに自信を得て、強くなった。チーム一丸となって強豪国に挑む姿には、頼もしさを感じた。選手の持ち味を引き出した岡田武史監督の采配も奏功した。
日本の存在感を、世界に向かって十分に示したといえる。
だが、世界の壁は、やはり高かった。岡田監督は、「まだまだ、そんな簡単じゃないよと言われているんだと思う」と語った。
日本の守備力は、W杯でも通用したが、明らかに足りないのは得点力だ。少ないチャンスをものにすることができなかった。4年後の次回大会までの宿題である。
日本代表の試合の度に、列島は大いに盛り上がった。パラグアイ戦のテレビ中継の瞬間最高視聴率は64・9%に達した。
みんなで日本代表を応援する一体感を味わい、選手たちから元気をもらった人も多いのでないか。スポーツが持つ力の大きさを改めて実感する。
前回のドイツ大会で惨敗して以降、日本代表の戦績は上がらず、スター不在の代表チームへの関心も薄れがちだった。海外チームとの親善試合でも、スタンドには空席が目立った。
しかし、代表チームが強ければ、注目度も高くなる。本田圭佑選手らの名は、W杯を通して一気に知れ渡ったはずだ。
日本は22年のW杯招致に名乗りを上げているが、今回のW杯は、機運を高めるきっかけになるかもしれない。
選手たちは、この経験を糧に、Jリーグや海外のチームでさらに技を磨き、日本サッカーのレベルアップにつなげてほしい。
W杯でのベスト8、さらに、今回の目標だったベスト4の夢は、4年後までとっておこう。
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産経新聞 2010年06月30日
G20首脳宣言 「例外扱い」は恥ずかしい
日本はカナダで開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)で約束された「先進国は2013年までに財政赤字を半減する」という目標の適用が除外された。日本の国・地方の長期債務残高が今年度末で国内総生産(GDP)の1・8倍にも達する見通しで、目標の達成は到底難しいとの判断からだ。
しかし、菅直人首相はサミット後の会見で「財政再建策のスケジュールは各国から積極的に受け入れられた」と自画自賛した。「例外と見なされるほど困難な状況」という反省こそ、語るべきではなかったか。
世界第2位の経済大国である日本が先進国共通の目標から除外されたとは、恥ずかしい限りだ。これでは先進国としてリーダーシップを発揮することなどできない。例外と見なされてしまった現実を直視し、一層の危機感を持ち財政再建に取り組むべきだ。
半減目標は議長役のカナダのハーパー首相が主導し、欧州諸国が強く主張した。ギリシャの財政危機に端を発した欧州の信用不安はなお収束せず、世界経済の先行きが懸念される。欧州勢は財政再建策をサミット前に発表しており、半減目標を掲げることで市場の信認を得たいとの思惑があった。
問題は今回の適用除外について菅首相にどこまで危機感があるかだ。ハーパー首相は除外理由として国債の95%が日本国内で買われていることを挙げた。だが、高齢化で貯蓄率の低下が必至のため、今後も安定した国債の国内消化が保証されているわけではない。
日本が財政運営戦略で掲げた目標は、国・地方の基礎的財政収支の赤字をGDP比で2015年度までに半減、20年度までに黒字化するというものだ。達成には消費税増税などによる税制抜本改革が欠かせない。
しかし、菅首相は先に「年度内に改革案をまとめたい。消費税率は(自民党が提案する)10%を参考にしたい」と言っておきながら、支持率が下がり始めると「(野党に議論を)呼びかけるところまでが私の提案だ」とトーンダウンさせた。
G20サミットは一昨年秋の米国発金融危機から世界経済を立て直すために先進国に新興国を加えて始まった。その中で、「先進国基準」からはじかれるようでは日本は存在感を示せまい。首相の本気度を問いたい。
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朝日新聞 2010年06月30日
G20 「例外日本」の情けなさ
先進国は2013年までに財政赤字を半減させるが、日本は例外とする。カナダでのG20サミット(20カ国・地域首脳会議)が、そんな宣言を発した。情けない扱いに、いつまでも甘んじてはいられない。
まだふらついている景気の浮揚を重視する米国と、財政再建を優先したい欧州連合(EU)諸国。首脳たちは「成長に配慮した財政健全化」という表現で妥協した。
成長は重視するが、各国の状況に合わせて財政を引き締めていく。それによって市場の信認を得られ、成長も持続する、との考えだ。
経済成長と財政健全化の二兎(にと)を追うのは厳しい道のりではあるが、どちらも欠かせない以上、追い求める姿勢は共有するしかない。先進国の協調が乱れているとみられれば、市場で新たな攻撃の材料にもなる。
むろん成長重視といっても、むやみに高い成長を追い求めるべきではないことは言うまでもない。
米国の過去十数年の成長率は、ITバブルや住宅バブルによって底上げされていた。米国がかつての感覚で景気回復を図ると、再び世界にさまざまなひずみをもたらすことになる。
欧州でも、スペインやアイルランドといった周辺国でバブルが発生していたため、欧州統合のほころびがみえなかった面がある。そうした過ちを繰り返さないためにも、景気への悪影響を最小限にとどめつつ、財政再建を進めていくことが必要だ。
米国も、中期的な財政再建の必要性は認めている。それゆえに赤字半減で一致したのだが、そこで取り残されたのが、国内総生産(GDP)の2倍近い借金を抱える日本だった。
日本が年間40兆円を超す財政赤字を13年までに半減させようとすれば、歳出を増やさない場合でも、消費税9%分に相当する増税をする必要がある、との試算が成り立つ。
デフレ下でこんなに急激な増税策をとるのは現実的でない。だからこそ早くデフレを克服し、財政再建に乗り出したいところだ。
国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)を20年度に黒字化するという菅政権の目標は、各国に比べて甘い。強い経済、強い社会保障を実現するためにも、消費増税などの税制改革を織り込んで、強い財政をつくらなければいけない。
欧州経済に対する不安も手伝って、日本の国債は市場で買われている。それは、菅政権が消費増税の方向を打ち出し、日本が財政再建に踏み出したと評価されているからでもある。
参院選情勢が厳しいからといって、増税への意思をあいまいにすれば国際社会で失望を買い、「例外」扱いを卒業する展望も失われる。
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毎日新聞 2010年07月02日
参院選 成長戦略 ゴールへの経路示せ
日本銀行の6月の企業短期経済観測調査(短観)によれば、大企業製造業の業況判断指数(DI)は2年ぶりにプラスになった。企業心理の好転は好ましいことだが、日本経済が安定成長軌道に復したわけではない。懸念材料は山ほどある。
日本は何しろ20年ほど低成長が続いている。このままでは財政再建もできず、社会保障も維持できない。参院選で各党が知恵を競うべき政策課題だが、既視感が強いメニューが並び、違いは必ずしも鮮明でない。
バブル崩壊以来、政府は何度となく「経済対策」や「成長戦略」を出し続けている。人知には限りがありタネも尽きるというものだ。
政府が先月発表した「新成長戦略」は「環境・エネルギー」「健康」「アジア経済」「観光」の4分野を有望とみて、そこに集中投資する内容だ。各党の主張にも似たようなことが書いてある。また、民主党が法人税の実効税率の引き下げを打ち出した結果、ますます自民党などとの隔たりが狭くなった。
「成長戦略」とは何か、基本に立ち返って考える必要がある。それは日本経済の実力(潜在成長率)をどのように底上げするかの政策のはずである。有望産業を国が選び補助金を出したり、新幹線や原発輸出を国の先導で拡大しようというのは短期的にはともかく、日本経済の地力増進と生産性向上に役立たない。
地道に規制緩和や競争促進、企業減税など、ビジネスのやりやすい環境整備に努め、教育や基礎研究の充実など政府にしかできない仕事に集中すべきだ。成長政策に奇手・妙手はないことを確認したい。
しかし、成長戦略論争は今回、いつになく活発とも言える。菅直人首相が「強い経済、強い財政、強い社会保障」は三位一体であり、財政再建(消費税増税)しても成長を促すことが可能だというユニークな論を立てたからである。
私たちは菅首相が財政再建に積極的になったことを歓迎する。だが、首相のこれまでの説明では「増税しても成長できる」道筋がすんなりと見えてこない。増税分を介護などの雇用拡大に使えば、消費が拡大し介護産業の足腰も強くなる。そのような論と理解するが、のみ込みにくい。菅政権の成長戦略の核心だけに、もっと丁寧に説明する必要がある。
日本の潜在成長率の現状は1%にも満たないのに、その何倍もの成長を約束する政党が少なくないが、いったいどうやったらそんなことが可能になるのだろう。から元気では困る。ゴールへの経路を具体的に示してもらいたい。
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読売新聞 2010年06月30日
成長と財政再建 G20で首相が負った重い宿題
経済成長を維持しながら財政再建も着実に進める――。先進国と新興国がそれぞれ背負わされた難題である。
カナダ・トロントで開かれた世界20か国・地域(G20)首脳会議(サミット)が採択した首脳宣言のポイントは、「成長に配慮した財政健全化」を打ち出したことだ。
菅首相は、首脳会議の直前にまとめた新経済成長戦略と財政運営戦略を説明し、この二つの戦略が事実上の国際公約になった。
日本も、持続的成長で世界経済の牽引役を果たしつつ、市場に評価される財政再建を実現するという、二兎を同時に追わざるを得なくなった。
菅首相の経済運営の手腕が、今後、問われることになろう。
現在の世界経済は、リーマン・ショック後の金融危機と同時不況を脱しつつある。しかし、ギリシャ危機で欧州経済がもたつき、先行きはまだ不透明だ。
こうした判断から、首脳宣言が「景気刺激策の継続が必要」と指摘したのは当然である。
一方で、宣言は、「深刻な財政赤字国は、財政健全化を加速する必要がある」とも強調した。
特に、「先進国は2013年までに財政赤字を少なくとも半減させる」などと、数値目標を明示した意義は大きい。ただ、財政悪化が最も深刻な日本は異例の「例外扱い」となった。
G20では、財政再建を優先する欧州と、景気重視の米国が対立した。だが、一斉に緊縮財政に走れば景気失速のリスクが高まる。このため欧米は妥協を図り、各国の状況に応じ財政立て直しを求めることで収拾したのだろう。
これで難しい立場に追い込まれたのが日本だ。欧米の財政再建目標から置き去りにされたうえ、経常黒字国として、さらなる内需拡大も要求されたからだ。
参院選後は来年度予算編成に向けた議論が始まる。増税しながら成長を実現するという「菅戦略」の肉付けを急がねばならない。
G20では、中国通貨・人民元の切り上げも重要テーマだった。宣言は人民元を名指しせず、「為替レートの柔軟性」を指摘したが、中国が今後、人民元の上昇容認を迫られるのは確実だ。
今回のG20サミットでも、利害が鋭く対立するテーマでは、意見集約する難しさが改めて浮き彫りになった。
主要8か国(G8)と、G20をどう使い分けていくか。日本は明確な戦略を練らねばならない。
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産経新聞 2010年06月29日
日米首脳会談 合意守る「真剣さ」見せよ
菅直人首相はカナダで胡錦濤・中国国家主席、オバマ米大統領と個別に首脳会談を行い、主要国(G8)首脳会議を舞台とした外交デビューを締めくくった。
日米首脳は米軍普天間飛行場移設をめぐる日米合意の履行や日米同盟を深めることで一致したとはいえ、8月末に迫った代替施設の詳細決定や地元説得は難航が必至の情勢だ。鳩山由紀夫前政権下で空洞化の危機に陥った同盟の信頼と実効性を回復するには実際の行動で示すしかない。
首相は言葉だけの「深化」でなく、全力で日米合意を期限通りに実現させてもらいたい。
日米関係は前政権下で迷走を重ねた。とりわけ普天間問題では、いったんは現行計画を受け入れた地元感情も硬化させてしまった。仮に8月末に代替施設の詳細を決めることができても、11月末の沖縄県知事選の結果次第では、移設計画に地元の了解を取り付けるのは至難の業となろう。
この間に海上自衛隊のインド洋補給支援も打ち切られ、日米安保体制の信頼性と抑止機能が大きく損なわれてきた。ここ1年余に、中国海軍の日本近海への進出や挑発的行動が活発化し、北朝鮮による韓国哨戒艦撃沈事件が起きたのも、こうした同盟の危機的状況がもたらしたものといえよう。
菅首相は「同盟が日米だけでなく、アジア太平洋の平和と繁栄の礎石」との認識でオバマ氏と一致したという。だが、真に問われるのは、前政権が残した「マイナスからの出発」をどこまで首相が認識しているかだ。
オバマ政権が前政権との協議で「対日疲れ」にあったため、「同盟の信頼性回復が急務」とする意見は米側でも強い。首相は9月訪米に言及したが、日米合意の実現に「真剣に取り組む」と誓った結果が厳しく問われよう。
一方、日中首脳会談で、首相が「戦略的互恵関係を深めたい」としながら、日米両国に重大な懸念を与えている中国海軍の挑発行動防止や国防政策の透明性拡大を求めなかったのは極めて残念だ。
民主党は参院選の政権公約で、昨年夏の衆院選公約にはなかった「中国の国防政策の透明性を求める」ことを新たに約束した。それなのに、首相が最初の日中首脳会談でこれに触れなかったのは首をかしげる対応だ。日米も日中も、確固とした国益を実現するための「有言実行」を貫いてほしい。
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朝日新聞 2010年06月29日
日米首脳会談 「同盟深化」も、沖縄も
日米関係もまた再スタートである。
菅直人首相とオバマ米大統領が初の首脳会談を行った。両氏は「アジア太平洋の平和と安全の礎」として日米同盟の重要性を確認し、首相は9月の国連総会時に訪米する意向を表明した。
米海兵隊普天間飛行場の移設問題は、鳩山由紀夫前首相の稚拙な運びによるところが大きいとはいえ、歴史的な政権交代によって生まれた内閣を崩壊させる引き金を引いた。
日米関係の大局からみて、一基地の問題が両国関係全体をぎくしゃくさせ、日本の首相交代にまでつながったことは、双方にとって不幸だった。
だからこそ、両首脳とも今回の会談を、信頼関係を築き直す第一歩と位置づけて臨んだに違いない。
首相は鳩山前政権下で結ばれた日米合意の履行を約束し、大統領も「日本政府にとって簡単な課題でないことは理解している。米軍も地域に受け入れられる存在であるよう努力したい」と応じた。
大統領から首相の訪米を要請したのも、前首相との間で機能不全に陥った首脳外交を立て直す狙いからだろう。
しかし、普天間移設を実現する政治的困難さは何ら変わっていない。
沖縄の民意の大方は、日米合意に盛り込まれた名護市辺野古への移設に反対している。菅政権が合意に従い、地元の理解抜きでも、8月末までに滑走路の場所や工法を決めた場合、県民の反発は一層強まるだろう。11月の県知事選で県内移設反対派が当選すれば、実現はさらに遠のく。
首相は移設と並行して、沖縄の負担軽減に全力を尽くすことで地元の理解を得たい考えだ。今回、大統領にも直接、協力を求めた。
しかし、首相にはさらに踏み込んで欲しかった。沖縄の厳しい現状や日米安保体制を安定的に維持するためにも沖縄の負担軽減が欠かせない事情を、もっと率直に語れなかったものか。
短時間の初顔合わせとはいえ、無難に調え過ぎた印象は否めない。難しい課題を脇に置いたままで日米のあるべき首脳関係を築けるとは思えない。
両首脳は「同盟深化」の議論を続けることでも一致した。テロや核拡散、地球温暖化、大規模災害など、地球規模の新たな脅威にどう対応するかが中心となろうが、米軍と自衛隊の役割分担の見直しに発展する可能性もある。
首相は大統領に「日本国民自身が、日米同盟をどう受け止めるか、将来に向かってどういう選択を考えるか、もっと議論することが重要だ」と語った。沖縄の基地問題についても、大きな文脈の中で打開策を考えたい。
同盟深化と沖縄の負担軽減を一体的に考えるために、国民的な議論を始めなければいけない。首相にはそれを主導する責任がある。
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毎日新聞 2010年06月30日
G20財政目標 日本こそ必要な危機感
主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)が財政健全化に向けて大きくかじを切った。「先進国は2013年までに財政赤字を半減させ、16年までに債務の増加を止める」。首脳宣言には、期限付きの具体的な目標が明示された。
金融危機を受け、新しい協調の舞台として浮上したG20は、危機克服を最優先に、なりふり構わぬ景気刺激策を打ってきた。しかし副産物として借金が積み上がり、新たな危機の種になった。今度はこの種を除こうというわけだ。サミットはG20が転換点に立ったことを印象付けた。
財政健全化をどこまで強く推し進めるべきかを巡っては、参加国間に隔たりがあった。ギリシャ発の信用不安に見舞われた欧州勢は、何より財政再建を急ぐべきだと主張。米国は主要国が一斉に財政をしぼれば世界経済が二番底に陥りかねないとして、景気刺激策の継続を呼びかけた。
財政再建か成長か--。首脳宣言には双方に配慮した文言がちりばめられ、「成長に優しい財政再建」なる新語も登場した。しかし、議長国カナダが提案した数値目標が最終的に宣言に入ったことは、市場への明確なメッセージとなったはずだ。
問題は日本である。財政状況が飛び抜けて悪い日本は、目標の対象外という特別扱いになった。同じ目標を課しても守れるはずがないからだが、先進国で唯一の“落ちこぼれ組”である。
落ちこぼれは、人並み以上の努力をしないと合格点に近づけない。ところが、日本以外の国の方がはるかに強い危機感で財政再建に取り組んでいる印象だ。英国では5月の総選挙で誕生したばかりの連立政権が、来年1月からの付加価値税(消費税に相当)引き上げや歳出の大幅削減をすでに決めた。ドイツは国内総生産に対する公的債務残高が80%程度(日本は約180%)だが、戦後最大規模の財政健全化策に着手しようとしている。このままでは、菅直人首相が呼びかける「超党派による協議」が結論を見る前に、他の先進国は健全化を達成しそうだ。
幸い日本は国債の金利が一段と低下しているため切迫感がないが、これがいつまでも続くという保証はない。金利が低い理由の一つに、日本の増税余力がある。消費税がすでに20%近辺の欧州諸国と違い、日本には増税で財政を改善できる余地が残っている。ただ、余地はあっても「実行は政治的に厳しそうだ」と格付け会社や市場がみなせば、金利が急上昇することもあり得る。
政治的に困難なことを実行できない国とみなされることは、財政に限らず国際舞台を主導するうえでも、大きな損失となろう。
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読売新聞 2010年06月29日
日米首脳会談 信頼回復へ共同作業を重ねよ
まずは無難な初顔合わせだった。だが、傷ついた日米の信頼関係を再構築するためには、今後、政治、経済両面での共同作業を着実に積み重ねることが肝心である。
菅首相がカナダ・トロントでオバマ米大統領と会談した。日米同盟が「両国だけでなく、アジア全体の平和と繁栄の礎」と確認したうえ、安保条約改定50周年に合わせた同盟深化の日米協議を加速させることで合意した。
鳩山前首相が、民主党の掲げる「対等な日米同盟」というスローガンにとらわれて、日米関係を大混乱させた後だけに、同盟の意義を再確認したことは良かった。
「トラスト・ミー(私を信じて)」といった不見識な言動を繰り返した前任者と異なり、菅首相は、慎重な発言に終始している。日米関係を修復しようとの意思は、米側にも伝わったのではないか。
米軍普天間飛行場の移設問題について菅首相とオバマ大統領は、移設先を沖縄県名護市辺野古周辺とした5月の日米合意を着実に実施するとともに、沖縄の負担軽減に努めることで一致した。
普天間問題がここまでこじれたのは前首相の「負の遺産」だが、日米両政府が14年も費やしてきた以上、停滞させてはおけない。
代替施設の位置や建設方法の詳細を詰める日米協議と並行して、最大の難関である地元の理解を得る努力を続ける必要がある。
普天間飛行場の辺野古移設の実現こそが、沖縄全体の基地負担を大幅に軽減するための最も現実的で有効な手段である、と粘り強く説得することが大切だろう。
韓国の哨戒艦沈没事件で両首脳は、国連安全保障理事会で北朝鮮を非難する明確なメッセージを出すべきだとの立場を確認した。
主要8か国(G8)首脳宣言には、ロシアを押し切り、北朝鮮を非難する表現を明記できた。日米が連携し、議長国カナダなどに働きかけたことの成果だ。
中国が慎重なため、安保理協議の行方は予断を許さないが、国際会議における日米協力の有用性の実例と言えよう。
日米の連携をより強固にするには、11月のオバマ大統領来日に向けて、同盟深化の作業を着実に進めるべきだ。米軍の抑止力、ミサイル防衛、サイバー攻撃対策など安全保障面の日米協力を具体化させなければならない。
同時に、北朝鮮、イラン、アフガニスタン情勢や世界経済、環境など、より幅広い分野で日米が緊密に協議することも重要だ。
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産経新聞 2010年06月28日
G8首脳宣言 対北国連決議を速やかに
カナダで開かれた主要国(G8)首脳会議は、韓国哨戒艦撃沈事件で北朝鮮を名指しで非難し、核・ミサイルの放棄と日本人拉致問題解決などを要求する首脳宣言を採択して閉幕した。
哨戒艦事件を含む北朝鮮の行動は世界の重大な脅威である。G8が強力な宣言を採択し、菅直人首相もこれに貢献したことを評価したい。国連安保理で明確な対北非難決議を出せるかは中露の消極的な対応で依然微妙な情勢だが、ロシアには宣言に署名した以上、責任ある対応を求めたい。
首相は日米韓の一層の連携強化に努め、実効性ある成果を出すまで全力を傾けてもらいたい。
G8デビューとなった菅氏は26日の政治・安保協議で哨戒艦事件の討論に口火を切る役を務め、オバマ米大統領らと呼応して「北朝鮮に毅然(きぜん)たる態度できちんと非難すべきだ」と論じたという。
G8閉幕後に行われた李明博韓国大統領との日韓首脳会談では、「事件は許し難く、地域の平和と安全への脅威だ」との見解で一致した。日米韓が結束して安保理協議の再活性化をめざすことが極めて重要だ。
この問題では、オバマ大統領も米中首脳会談で胡錦濤中国国家主席に安保理での協力を要請した。米韓首脳会談では、2年後に予定された米軍から韓国軍への有事作戦統制権移管を2015年末に延期することで合意した。
いずれも朝鮮半島情勢の緊迫化と北による不測の事態に備える配慮からであり、中国とロシアには北の危険な挑発行動が地域と世界にもたらした重大な意味を再認識してもらう必要がある。
とりわけ中国は北朝鮮問題だけでなく、イランの核濃縮、ミャンマー情勢などにも深いかかわりを持ち、その責任は重い。政治・社会体制もG8諸国とは異なる。G8に中国が参画していないのにはそれなりの理由がある。
にもかかわらず、菅氏はG8の夕食会で「時には中国をG8に呼ぶことを考えてもよいのでは」と語り、黙殺されたという。G8は自由や民主主義の価値を共有する主要国として国際社会の平和と安全に主体的責務を担ってきた。
そうした基本的認識を欠いて、中国とG8を混同するようでは外交指導者の認識が問われるのではないか。首相は日米同盟などを通じて日本が築いてきた実績と意味についても忘れてはなるまい。
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朝日新聞 2010年06月26日
G20 危機回避へ協調示せ
急ぐべきは財政再建か、それとも景気回復か。世界が直面する難題に答えを見いださなければ、市場の動揺はおさまらない。
カナダで開くG20サミット(20カ国・地域首脳会議)の課題は重い。リーマン・ショック後の世界金融危機と同時不況を克服しようと始まったG20は、世界経済を恐慌のふちから救い、協調の成果を積み重ねてきた。ところが今回は、米国と欧州連合(EU)諸国の対立が根深い。
背景にあるのは米国経済の変調だ。景気対策の息切れで住宅販売が急減し、失業率が高止まりしている。ここは輸出で稼いでしのぎたい。オバマ政権は世界に対して「引き続き景気回復と経済成長の支援策を続けるべきだ」と、財政の引き締めには時間をかけるよう主張している。
一方のEUは「財政再建が最優先」との立場だ。財政危機に陥ったギリシャだけでなく、ポルトガル、スペインなどでも財政不安が募る。赤字国の国債を保有する欧州の金融機関の経営にも懸念が深まっている。火消しに躍起なEU当局は主要金融機関への特別検査を行い、7月に結果を発表する方針を打ち出した。だが、政府と金融機関の信用が共振するように揺らぐ状況に改善のめどは立っていない。
財政赤字に対する市場の不信をぬぐおうと、ドイツや英国など主要国は増税や歳出カットによる財政再建策を相次いで打ち出した。「最大の脅威は財政危機」との認識から、国民に痛みの甘受を求める策だ。
しかし、それによって欧州の内需が収縮すれば、世界経済の回復の足を引っ張りかねないのも事実だ。このため、秋の中間選挙を控えて経済の急激な失速を何としても避けたい米国と、欧州諸国がG20の場で対立しかねない構図が生まれている。
しかし、大事なのは、危機を克服するために生まれたG20が、新たな世界危機の封じ込めに有効に機能することを示すことである。
成長と財政の二兎(にと)を追う道は極めて細い。それでも政策の優先順位に関する見解の相違を乗り越えて、メッセージを発信しなければならない。
財政再建と成長の両立が必要なことは世界の共通認識といってよいだろう。それを確認しつつ、国や地域ごとの実情に応じた取り組みを認めれば対立は克服できるのではないか。
この意味でも、初参加の菅直人首相は注目に値する。「増税による財政再建と景気回復は両立する」との主張について、世界の首脳らを納得させる説明をしてもらいたい。
それができれば、G20の成功に大きく貢献するに違いない。同じ説明は多くの日本国民も聞きたいと考えている。内外の信頼をかけた舞台である。
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毎日新聞 2010年06月29日
日米首脳会談 再出発へ課題は重い
「日米両国の安全だけでなくアジア太平洋地域の平和と繁栄にとっての礎でもある日米同盟をさらに深めていこう」。こうした認識を菅直人首相とオバマ米大統領が確認し合った。普天間問題の処理という重い課題は残るが、関係修復へ日米首脳が出発点に立ち戻ったことをともかく歓迎したい。
思い返せば、念願の政権交代を果たして初訪米した鳩山由紀夫前首相と、オバマ大統領が同盟関係の強化を確認したのは昨年9月だった。「日米同盟は日本の安全保障の基軸だ」と強調する前首相に、大統領は「今日から長い付き合いになる。その中でひとつひとつ解決していこう」と応じた。
あれから9カ月。日米関係は普天間問題で揺れ、同盟深化どころか首脳会談さえまともに開けない異常な状態が続いた。それだけに、菅、オバマの両首脳には再出発の確認の場となった今回の首脳会談の重みを認識してもらいたい。
菅首相はオバマ大統領との会談に向け、日米同盟に関する共通認識を持つことと、個人的信頼関係を築くことに期待を示していた。
日米同盟に関しては「過去50年以上にわたりアジア太平洋の平和と安定の礎として不可欠な役割を果たしてきた」(首相)、「今後50年も素晴らしい歴史を築いていけることを確信している」(大統領)との認識を確認し合った。11月の横浜でのアジア太平洋経済協力会議(APEC)の際に訪日する大統領との間で日米安保の新しい意義付けや経済、文化なども含めた同盟深化の具体策をどう練り上げるかが課題となる。
日米関係修復への大きなハードルは言うまでもなく普天間問題だ。沖縄県名護市のキャンプ・シュワブ周辺への飛行場移設を盛り込んだ先の日米共同声明は、代替施設の位置と工法の検討を8月末までに終わらせることを明記している。
菅首相は共同声明に基づき移設実現に真剣に取り組む考えを大統領に伝え、それに先立つ記者会見では米軍基地の有無が日米のイコールパートナーシップ(対等な関係)に直結するとは考えていない、と語った。米側への配慮も込めた発言だろう。
しかし、鳩山内閣が地元の頭越しに米側と合意したことに地元の反発は激しく先の見通しは立っていない。処理を誤れば前内閣の失敗を繰り返すことにもなりかねない。
首相にまず求められるのは前内閣が県内移設に方針転換した事情をていねいに説明し、地元との信頼関係を築くことに全力を尽くすことだ。オバマ大統領も理解を示したように、両政府は沖縄の負担軽減にも真剣に取り組む必要がある。
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読売新聞 2010年06月27日
G8サミット 日本の存在感低下に歯止めを
カナダを舞台に、主要8か国(G8)と世界20か国・地域(G20)による首脳会議(サミット)が開かれている。
ここ数年、国際社会における日本の存在感の低下が指摘される中、菅首相は、初外遊で早くも外交手腕が試される。
G8では、ギリシャ危機で揺れる世界経済について、成長を確保しながら、財政再建に取り組む重要性を確認した。
菅首相は、介護や医療分野への支出を手厚くし、成長と財政健全化の両立を目指す方針を説明し、理解を求めた。
帰国後は、消費税率引き上げを含め、経済と財政の立て直し策の具体化に迫られよう。
このほかG8首脳は、母子保健分野で、5年間に50億ドルの途上国支援を行うことで合意した。菅首相も5億ドルの拠出を表明した。
日本は、医療援助では様々なノウハウを持つ。メリハリある戦略的な援助外交を展開すべきだ。
政治分野では、韓国哨戒艦の沈没事件が焦点となっている。
日本周辺の平和と安定の維持はわが国の国益に直結する。日本がG8で発言権を確保し、自らの主張を実現するためには、政治、経済両面で主要国としての役割を果たすことが欠かせない。
ところが、G8外交において、日本の立場は近年、極めて不安定だ。2007年のサミットには安倍、08年は福田、09年は麻生と、出席する首相が毎回異なった。
首相が交代するたびに、各国首脳との関係を一から築き直さなければならない。首脳外交の重みが増す中、これでは、ロシアとの北方領土問題などの外交交渉で指導力を発揮することは望めない。
菅首相は、財務相として先進7か国財務相・中央銀行総裁会議(G7)などに出席したものの、外交面の力量は未知数である。
鳩山前首相は、独りよがりの判断と未熟な手法で、日米関係を迷走させてしまった。
菅首相は、「現実主義を基調とした外交」を心がけるというが、前任者の轍を踏まぬように、専門スタッフの助言にも謙虚に耳を傾けることが必要だろう。
日本外交で問題なのは、長年の重要なカードである政府開発援助(ODA)予算の減少だ。
今年度は、ピークの1997年度の半分近くに落ち込んだ。援助実績(支出純額)も、00年の世界1位から下落し、07年以降は5位にとどまっている。援助額を反転させ、日本の地位の低下に歯止めをかけなければならない。
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産経新聞 2010年06月26日
菅首相G8出席 日本の国益実現優先せよ
菅直人首相が主要国(G8)首脳会議と20カ国・地域(G20)首脳会合に出席するためカナダ入りした。両サミットの合間に、米中韓露など6カ国首脳とも集中的に2国間会談を行う。
首相就任後初の国際舞台デビューである。G8では、北朝鮮の韓国哨戒艦撃沈事件やイランの核開発に加え、欧州による対中武器禁輸問題も焦点となる。日米間では前政権下で失われた同盟の信頼回復も欠かせない。日本が果たすべき国際貢献も踏まえて世界に通用する政策や考え方を明示し、国益を実現する外交を展開してもらいたい。
G8政治協議では北朝鮮、イランの核問題と哨戒艦事件が議題の筆頭に上っている。しかし、哨戒艦事件に対する国連安保理協議は中露の消極的対応のため暗礁に乗り上げたままだ。
菅首相は国会の所信表明で「哨戒艦事件は許し難い」とし、韓国政府の全面支持を明言してきた。韓国はG8メンバーでないため、李明博大統領の分も含めて日本が強く説得する必要がある。北の軍事行動は核、ミサイルとともに、日本を含むアジアと世界にとって重大な脅威であることをしっかりと訴えなければならない。
中国の台頭にどう対応するかも重要だ。中国海軍の挑発的行動の拡大や透明性を欠いた軍備近代化が日米、東南アジアの懸念を高めているが、そうした危機感は必ずしも欧州などに届いていない。
欧州連合(EU)内では、天安門事件以来の対中武器禁輸措置の早期解除を求める声もある。しかし、中国は北、イランの核問題やミャンマー情勢などにも深くかかわり、責任ある行動が求められている。解除は時期尚早だ。
米欧が経済的利害に目を奪われがちな中で、2国間会談も活用しつつ、日本の立場をはっきりと伝えることが求められる。
G8ではアフガニスタン復興やアフリカ支援も討議される見通しだ。菅首相と民主党は、参院選の選挙公約の中で、アフガンを含めた「自衛隊や文民の平和構築活動のあり方」を検討し、海上輸送の安全のための海賊対処も継続することを約束している。
こうした国際貢献の面でも、具体的な日本の活動を提示するのによい機会だ。国際社会に要求するだけでなく、積極的に責務を果たす上で、首相の掲げる「責任ある外交」を実行に移してほしい。
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朝日新聞 2010年06月21日
人民元上げ 中国にも世界にも利あり
中国が人民元の切り上げを認めた。これが米国との摩擦を緩和するためのその場しのぎの策で終わってはいけない。中国自身と世界全体の均衡ある発展に向けた一歩としたい。
人民元は2005年に切り上げられ、その後ゆっくりと上昇した後、08年夏から事実上、対ドル相場を固定する政策が採られていた。金融危機などの影響で、中国の輸出がふるわなくなることを恐れたためだ。しかし、元相場を人為的に低く抑えるための為替介入は、米国など諸外国の反発を招いていただけでなく、中国のインフレや不動産バブルに結びついていた。
国際的な圧力が中国を動かした面はあるが、中国自身にとっても必要な政策であることを、やっと認めたことになる。この意味で中国当局が人民元を切り上げていくという決断は、遅ればせだが当然のことである。
欧州危機によるユーロ安で、人民元の対ユーロ相場は大幅に上昇している。中国にとって欧州連合(EU)は、米国を上回る最大の輸出先になっており、輸出にさらにブレーキがかかる切り上げについては、中国政府内にも消極的な意見があった。
しかし、26日からカナダで始まる20カ国・地域(G20)首脳会議で、中国が切り上げ圧力にさらされるのは必至だった。人民元のドル固定をやめると表明することで、その圧力をかわす政治的なねらいがあった。
中国に対して陰に陽に圧力をかけていた米国政府は、さっそく歓迎するコメントを出している。
とはいえ、切り上げを認めるといっても、中国当局が為替相場に介入する管理相場であることには変わりない。あまりにも小幅なペースの切り上げだと、米国などの不満は消えない。
中国人民銀行の声明が「人民元相場の弾力性を高める」と切り上げを認める一方で、中国の経常黒字の国内総生産(GDP)に対する比率が減少傾向にあることを指摘し、「人民元レートの大幅な切り上げの論拠は存在しない」と述べたことも気になる。
急激な切り上げは成長を損なう危険があるが、人民元を徐々に相当の幅で切り上げてゆくことは、中国自身が資源などを安く輸入して内需を拡大し、持続的な成長を続けていくために不可欠ではないか。
中国には、高い潜在的な成長力がある。05年から3年間で対ドル相場は2割ほど上がったが、10%成長を続けた。日本を抜いて世界第2の経済大国になろうとしている中国が「元高恐怖症」にとらわれる必要はない。
むしろ、人民元の切り上げを必要以上に遅らせればインフレの加速や資産バブルに歯止めがかからなくなる。その影響や反動に中国経済が苦しみ、弊害は世界全体に及ぶだろう。
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毎日新聞 2010年06月28日
G8首脳宣言 北朝鮮への非難を形に
オバマ米大統領が言うように「無責任な振る舞い」には「報い」があってしかるべきだ。カナダで開かれていた主要8カ国(G8)首脳会議は、韓国哨戒艦沈没事件で北朝鮮への非難に踏み切った。何かと北朝鮮に同情的なロシアが日米に歩み寄ったのは歓迎すべきことである。今度は「報い」を検討する国連安保理の協議で、G8に属さない中国の歩み寄りを期待したい。
首脳宣言は、韓国による合同調査結果を踏まえて沈没事件を非難し、北朝鮮に韓国への攻撃や敵対行為をやめるよう求めた。事件は北朝鮮のしわざだとG8自身が断定したわけではないが、全体としてそう読める内容だ。日米と当事国(韓国)の強い結束の反映だろう。
また、北朝鮮の核実験やミサイル発射に強い懸念を表明し、6カ国協議の共同声明に沿って核兵器などを完全廃棄するよう求めた。北朝鮮が核拡散防止条約(NPT)に基づく「核保有国」の地位を占めることはありえないと述べ、「拉致問題を含む人道上の諸問題」に北朝鮮が迅速に対応するよう求めたのも歓迎すべきことである。
こうした非難や懸念をどんな形で表現するか、当面は安保理がどう対応するかが焦点だが、安保理常任理事国であり6カ国協議議長国でもある中国の協力は欠かせない。沈没事件でも核問題でも中国は北朝鮮を刺激しないよう求めてきたが、北朝鮮情勢は一向に改善の気配が見えない。ただ友邦(北朝鮮)をかばうだけでは問題は解決できず、無責任な結果に終わりかねないことを中国は悟るべきだろう。
国際社会は「ルール違反」に厳しく対処すべきである。人類の運命にかかわる「核」の違反ならなおさらだ。首脳宣言がイランの不透明な核開発に「深い懸念」を表明したのも当然である。北朝鮮からイラン、シリアへ核技術が流出している疑いもある。北朝鮮やイランとの関係が深い中露の協力がなければ、こうした核拡散を防ぐのは難しい。
首脳宣言は、イスラエルの封鎖下にあるガザ(パレスチナ自治区)の状況を憂慮し、ガザへの援助物資を積んだ国際支援船がイスラエル部隊に襲われて死傷者が出たことに「深い遺憾」を示した。米国の同盟国たるイスラエルが批判の対象になるのも珍しい。宣言がガザへの物資搬入規制について「今のやり方は変えるべきだ」と強く求めたのは人道的な訴えであり、全面的に賛成する。
無論、一片の宣言だけで問題が解決するはずはない。宣言はあくまで出発点だ。世界の平和と安定を図るために、問われているのは主要国の結束と実行力である。
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読売新聞 2010年06月22日
人民元改革 中国は緩やかな上昇の容認を
中国の中央銀行である中国人民銀行が、「人民元相場の弾力性を高める」と発表し、人民元の切り上げを容認する姿勢を打ち出した。
緩やかな元高は、中国ばかりでなく、世界経済にとってもメリットが大きい。言葉通り、中国は国際社会が納得できる元切り上げを実現すべきである。
リーマン・ショック前の2008年7月から、中国当局は大規模な市場介入を続け、1ドル=6・83元前後で相場を固定してきた。
しかし、今週末にカナダで開かれる主要20か国・地域(G20)サミット(首脳会議)では、人民元問題が議題になる見通しだ。
サミット前に、中国は自主的な改革姿勢をアピールし、米国などで高まっている元の切り上げ圧力を回避する狙いだろう。
ところが、中国当局が21日に示した元相場の基準値は、前週末と同じ1ドル=6・8275元だった。上海外国為替市場の取引は、基準値より元高にはなったが、今後の動きは不透明だ。
大幅切り上げにはやや慎重な姿勢もうかがえる。改革のポーズだけでは、失望感が広がる。外圧もさらに強まるに違いない。
人民元相場は、2005年7月から3年間で、対ドルで約2割上昇した。今後も、それくらいの切り上げペースが必要でないか。
注目されるのは米国政府の出方だ。米国は4月、中国を為替操作国に認定することを先送りし、中国の自主的な判断を待った。
貿易不均衡の拡大を背景に、議会では対中制裁法案が浮上している。元安が是正されない場合、米中摩擦が激化する恐れがある。
元切り上げは、中国にとっても喫緊の課題と言えよう。元高の抑制を目的に相場介入を続けた結果、副作用が顕在化した。
大量のマネーが市中にあふれ、不動産価格が高騰し、消費者物価も上昇している。景気は過熱気味で、バブル経済の状況だ。
このバブルが崩壊し、景気急減速を招けば、中国経済は大打撃を受け、世界景気にも響く。
中国は、輸出主導から内需主導型へ転換する途上にある。インフレを抑制し、成長を維持するには、経済力に応じた元の上昇を受け入れねばなるまい。
中国ビジネスを展開する日本企業にも、中国経済の安定はプラスとなる。
ただ、元高に連動し、円が急騰すれば、輸出企業の収益に悪影響が及ぶ。日本は元相場の推移を十分に注視する必要があろう。
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毎日新聞 2010年06月22日
人民元改革 進展を冷静に見守ろう
中国が、08年夏以降、事実上ドルに固定してきた人民元相場を再び変動制とする方針を表明した。近くカナダ・トロントで開催される主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)を意識したようだ。人民元に関し何も打ち出さなければ、サミットで「人為的な為替相場が貿易不均衡をもたらしている」などと非難を浴びる恐れがあった。
2年ぶりの政策転換だが、中国が目指しているのは、あくまで自国主導の緩やかな元高と見られる。実際、中央銀行である中国人民銀行が21日に発表した取引の基準値は1ドル=6・8275元で、方針表明前と変わらなかった。
今後も目立った人民元の上昇がなければ、米議会などで再び対中非難や中国製品への制裁措置を求める声が強まる可能性がある。
元高で、米国の貿易赤字や失業が改善するわけではない。にもかかわらず米議会で人民元悪玉論が根強いのは、中間選挙を前にした議員らにとって、てっとり早い攻撃対象だからだろう。だが、外圧は有益でないばかりか、「圧力に屈した」との印象を持たれたくない中国当局の姿勢を硬化させ、人民元の上昇を逆に遅らせてしまいかねない。ここは冷静に中国の対応を見守った方がよい。
人民元改革が必要であることは中国も認識しているはずだ。内需拡大を目指すうえで、国民の購買力向上につながる元高はプラスである。気になるインフレの抑制にもなる。
しかし、大きく二つの事柄が状況を複雑にした。一つはユーロ安だ。中国にとって最大の貿易相手は今や欧州だが、ギリシャ危機に伴いユーロが下落した結果、元は対ユーロで今年すでに約17%上昇している。一層の元高は輸出企業に痛手となる。
もう一つは元高を見込んだ投機マネーの流入だ。先進国の超低金利政策であふれ出したマネーの一部が中国の不動産に流れ込み、バブルを膨らませているとの指摘がある。人民元が一直線に上昇を続けると受け止められたら、投機が一層過熱しかねない。世界経済の回復を支えてきた中国で大規模なバブルが崩壊すれば世界全体が重大な打撃を受けよう。
人民元の動向は、日本経済にも影響を与える。元高・円安は付加価値の高い日本製品の対中輸出や中国人観光客の増加につながる半面、中国企業による日本企業の買収を活発化させる可能性がある。
肝心なのは、元高、元安といった相場の方向ではなく、人民元が市場で自由に取引され国際的に通用する通貨となることだ。短期的視点で政治圧力をかけるのではなく、資本市場の自由化など中国の構造改革を支援する方が賢明である。
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