「生きているうちに」の願いが、ようやくかなったという思いだろう。元シベリア強制抑留者の救済法成立までに、これほどの長い時間を要したことを、国は真摯に反省すべきだ。
酷寒の地で、森林伐採や鉄道建設など過酷な強制労働を体験した元日本兵らに、特別給付金を支給するシベリア抑留者特別措置法が成立した。
抑留期間に応じて1人25万円~150万円が支給される。
国が抑留の実態調査や遺骨収集、真相究明などに本格的に乗り出すことも明記された。
戦後、旧ソ連によってシベリアやモンゴルに抑留された日本兵は約60万人に上る。約6万人が飢えや寒さで死亡した。生存している元抑留者は推定約7万人で、その平均年齢は88歳になる。
元抑留者らは、1980年代以降、強制労働の未払い賃金に相当する補償を裁判で求めてきた。
本来、支払い義務は旧ソ連にある。しかし、日ソ共同宣言(56年)で賠償請求権を相互放棄していたため、請求相手は日本政府となった。裁判は16年にも及び、97年、最高裁で敗訴が確定した。
6年前からは、当時野党だった民主党が主導して、元抑留者に特別給付金を支給する法案をたびたび国会に提出してきた。鳩山前首相が幹事長時代に、国会で趣旨説明をしたこともある。
政権交代で、元抑留者たちは「今度こそ」と、この通常国会に期待をかけた。閉幕日、16日の成立後に即日公布・施行されたが、一人でも多くの元抑留者を救済するためには当然の対応だろう。
今回、終戦時に「日本兵」として抑留された朝鮮・台湾出身者は特別給付金の支給対象から外れた。今後に残された課題だ。
戦後65年、いまだに抑留問題は全容解明とはほど遠い状況にある。抑留死亡者の4割に当たる2万1000人については、いつどこで亡くなったかすら判明していない。収集できた遺骨も1万8000柱余にとどまっている。
2年前、モスクワの国立軍事古文書館で、抑留者延べ約70万人分の新資料の存在が確認された。それぞれ氏名や収容所番号、移動歴などが記載されている。
厚生労働省が、ロシア側から全データの提供を受け、日本側名簿との照合作業を進めている。埋葬地が特定されれば遺骨収集の手がかりにもなるだろう。
特措法の成立を、一日も早い全容解明の追い風にしたい。
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