シベリア特措法 抑留の全容解明につなげたい

読売新聞 2010年06月18日

シベリア特措法 抑留の全容解明につなげたい

「生きているうちに」の願いが、ようやくかなったという思いだろう。元シベリア強制抑留者の救済法成立までに、これほどの長い時間を要したことを、国は真摯(しんし)に反省すべきだ。

酷寒の地で、森林伐採や鉄道建設など過酷な強制労働を体験した元日本兵らに、特別給付金を支給するシベリア抑留者特別措置法が成立した。

抑留期間に応じて1人25万円~150万円が支給される。

国が抑留の実態調査や遺骨収集、真相究明などに本格的に乗り出すことも明記された。

戦後、旧ソ連によってシベリアやモンゴルに抑留された日本兵は約60万人に上る。約6万人が飢えや寒さで死亡した。生存している元抑留者は推定約7万人で、その平均年齢は88歳になる。

元抑留者らは、1980年代以降、強制労働の未払い賃金に相当する補償を裁判で求めてきた。

本来、支払い義務は旧ソ連にある。しかし、日ソ共同宣言(56年)で賠償請求権を相互放棄していたため、請求相手は日本政府となった。裁判は16年にも及び、97年、最高裁で敗訴が確定した。

6年前からは、当時野党だった民主党が主導して、元抑留者に特別給付金を支給する法案をたびたび国会に提出してきた。鳩山前首相が幹事長時代に、国会で趣旨説明をしたこともある。

政権交代で、元抑留者たちは「今度こそ」と、この通常国会に期待をかけた。閉幕日、16日の成立後に即日公布・施行されたが、一人でも多くの元抑留者を救済するためには当然の対応だろう。

今回、終戦時に「日本兵」として抑留された朝鮮・台湾出身者は特別給付金の支給対象から外れた。今後に残された課題だ。

戦後65年、いまだに抑留問題は全容解明とはほど遠い状況にある。抑留死亡者の4割に当たる2万1000人については、いつどこで亡くなったかすら判明していない。収集できた遺骨も1万8000柱余にとどまっている。

2年前、モスクワの国立軍事古文書館で、抑留者延べ約70万人分の新資料の存在が確認された。それぞれ氏名や収容所番号、移動歴などが記載されている。

厚生労働省が、ロシア側から全データの提供を受け、日本側名簿との照合作業を進めている。埋葬地が特定されれば遺骨収集の手がかりにもなるだろう。

特措法の成立を、一日も早い全容解明の追い風にしたい。

産経新聞 2010年06月21日

シベリア特措法 忘れまいソ連の不法行為

第二次大戦後に旧ソ連のシベリアなどに抑留された日本人に1人当たり25万~150万円の特別給付金を支給する特別措置法が成立した。

シベリア抑留は、昭和20(1945)年8月に日ソ中立条約を破って旧満州などに侵入した旧ソ連軍によって引き起こされた歴史的な犯罪行為である。関東軍将兵ら約60万人がシベリアなどの収容所に連行され、最高11年半に及ぶ強制労働をさせられた結果、約6万人が死亡したといわれる。

これは、ソ連も加わったポツダム宣言の日本軍人らの本国帰還を求めた規定(第9条)にも違反している。本来、ソ連(現ロシア)の責めに帰すべき問題である。

しかし、昭和31年の日ソ共同宣言で、日本はソ連への賠償請求権を放棄した。その後、抑留体験者の一部が国に強制労働の未払い賃金などの補償を求める訴訟を起こしたが、最高裁は平成9年、「戦争被害は国民が等しく受忍しなければならない」として、原告側の要求を退け、補償の要否を立法府に委ねた。

その結論が戦後65年たって、ようやく出されたといえる。ただ、給付金の支給対象は生存している元抑留者に限られる。帰国した46万人を超える元抑留者のうち、生存者は7万~8万人で、平均年齢は87歳前後と推定される。

特措法は、抑留の実態調査や遺骨収集、追悼などを行うための基本方針策定も政府に義務づけた。異国の地で亡くなった人や、帰国後、特措法を待てずに死亡した元抑留者のためにも、国はこれらの義務をきちんと果たすべきだ。

ソ連崩壊後、明るみに出た機密文書などによれば、シベリア抑留はソ連の独裁者、スターリン首相の指令によって行われたものだ。北海道の北半分の占領を狙ったスターリンの要求を米国のトルーマン大統領が拒否し、その代償として抑留を強行したのである。

今回の特措法をめぐり、シベリア抑留は「日本の侵略戦争」などが引き起こしたとする論調が一部マスコミにあるが、歴史を直視しない一方的な見方である。

ソ連の不法な対日参戦で、多くの日本の民間人も犠牲になった。しかも、ソ連は日本固有の領土である北方四島を占領し、ソ連を引き継いだロシアは今も不法占拠を続けている。日本国民はこうしたソ連の不法な行為を子や孫たちに語り継いでいかねばならない。

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