「新成長戦略」 人材育成を最優先に

朝日新聞 2010年06月19日

新成長戦略 内需充実、外需発掘を

掲げた目標を達成する道筋は険しいが、だからこそ全力で挑む必要も値打ちもあると言える。

菅直人政権が発表した新成長戦略は、来年度にも日本経済をデフレから脱却させ、名目成長率を2020年度までの年平均で3%に引き上げるとの意欲的な目標を掲げた。ここ10年、名目成長がマイナスであることに照らせば目標数値はきわめて高いが、挑戦する意思と指導力を買いたい。

菅首相が掲げる「強い経済、強い財政、強い社会保障」を実現するには、何より成長が不可欠である。

首相が「消費税10%」の検討姿勢を示して並々ならぬ意欲を見せた財政改革にしても、社会保障の立て直しにしても、デフレやマイナス成長ではとてもかなわない。

デフレが需要不足から起きている以上、投資や消費を増やすことが脱デフレと成長に大切だが、その中身を時代に合わせて見直さねばならない。

モノをたくさん買うことによる「内需の拡大」でなく、医療や介護、観光など生活の質を高めるような「内需の充実」が求められよう。

外需では、米欧の景気頼みで日本製品を売ってきた「輸出依存」を脱し、新興国や途上国のニーズに合わせたものづくりや、温暖化対策関連の市場開拓にも力を注ぐといった「外需発掘」の発想が必要だ。

企業がそんな転換を進めるための舞台やルールづくりが政府の仕事だ。

新成長戦略は環境・エネルギー、健康、アジア、観光立国など七つの戦略分野と21の重点プロジェクトを掲げた。どれもやるべき事業だ。

ただ、潜在成長率を引き下げている構造要因である少子化・人口減少問題への取り組みが総花的すぎて、淡泊さが否めない。本気で迅速に取り組むことが必要だ。移民や定年年齢引き上げといった政治課題も避けて通れないテーマではないだろうか。

女性の力をもっと社会に生かすことも経済成長に役立つ。その基盤づくりを進める上でも介護、保育ビジネスを短期間に大きく育てるといった、思い切った手を打てないものか。

参院選への思惑から、避けているテーマもある。代表例が農業の市場開放だ。今年度から導入した農家への戸別所得補償制度は農業を下支えする。それをもとに米国や中国、韓国との自由貿易協定づくりに弾みをつけるのが、あるべき成長への道筋だが、これでは何とも説得力を欠く。

昨年末に新成長戦略の基本方針づくりを国家戦略相として指揮した菅氏は、過去10年間に自民党政権下でできた10を超す成長戦略が失敗に終わった理由を「ビジョンと政治的なリーダーシップの不足」と語った。さて、菅さんはどうか。

毎日新聞 2010年06月19日

「新成長戦略」 人材育成を最優先に

政府が「新成長戦略」を発表した。菅直人首相が唱える「強い経済」を実現するための構想という。「環境・エネルギー」「医療・介護」「アジア経済との連携」など七つを「戦略分野」とし、21の「国家戦略プロジェクト」を中核の施策に据えた。

今後10年間の平均実質成長率を2%超に引き上げ(過去10年は約1%)、現在約5%の失業率を3%台まで低下させる、というのが目標だ。

細かいものまで含めると対策の数は330に上る。だが、切り札になるような新機軸は特に見当たらない。当然だろう。これさえやれば成長率がポンと上がる、といった魔法の事業などあり得ないからだ。羽田の国際空港化、日本人学生が留学先で取得した単位の国内認定など、長い間、提案されながら実行に移されなかったものが多く含まれる。成長戦略と呼ぶか否かにかかわらず、必要なことは、さっさと実行していけばいいだけのことだ。

日本経済の活力を高めるという意味では、人材の育成に最も力を入れるべきだろう。人が変わらない限り、経済も変わらない。グーグルやアップルが成功したのは、米政府が「成長分野」に指定し、支援したからではない。まだ誰もやっていないことに挑戦する精神やそれを後押しする教育、経営、金融が米国にはある。

政府は「グローバル人材の育成と高度人材の(海外からの)受け入れ拡大」を戦略の一つに位置づけた。具体的には、外国語教育や高等教育の国際化の支援、外国人学生の日本企業への就職支援などを挙げている。迅速に、大胆に、実行してもらいたい。初等教育から、自由な発想を奨励することも大切だ。

人材育成と並び重要なのは、新しいことに挑戦しようとする民間の意欲を政府が阻害しないことである。多数の利用者が恩恵を受ける事業であれば、まず自由にやらせてみよう。

政府は税の優遇措置をてこに、外国企業の日本誘致を図る構えだが、かつて日本に進出した企業が撤退していった決定的理由は、税率の高さではなかったはずである。複雑な規制や認可までの時間の長さなどさまざまな障壁が背景にあった。それを早期に取り除くことである。外国企業だけでなく、国内企業の新規参入にも貢献するだろう。

民間企業にも言いたい。政府や日銀が「成長分野」なるものを選び、てこ入れを図るのは、企業や金融機関が縮こまり、自らリスクを取ろうとしないからだ。政府に要望するばかりで「攻め」の経営ができないのであれば、経済全体がよみがえることもないだろう。主役はあくまで民間だ。政府が手とり足とりの経済は決して「強い」と言えない。

読売新聞 2010年06月21日

成長戦略決定 「絵空事」に終わらせるな

民間企業の活力をうまく引き出して、期待通りの経済成長を実現できるかどうか、未知数の部分も多い。

政府が決定した新成長戦略は、デフレからの脱却を急ぎつつ、環境・エネルギーや健康など戦略7分野をテコ入れする。国家戦略プロジェクトと銘打った21の施策を進めて、「強い経済」の実現を図るという。

その結果、120兆円を超える新規需要と、約500万人の雇用が生まれ、今後10年の経済成長率は、実質で平均2%超、名目では3%超になると見込んでいる。

有効と思われる内容もあるが、果たしてこれほど劇的な効果が上がるかどうかは疑問だ。施策の重点化など、さらに実効性を高める工夫が求められよう。

成長戦略には、企業活動を後押しして、民間活力を高める施策が多く盛り込まれた。

約40%の法人税実効税率を、30%から20%台半ばにあたる「主要国並み」まで、段階的に引き下げるとした。日本企業の競争力強化に役立つだろう。

アジアへ原子力発電所や新幹線など社会基盤(インフラ)を積極的に売り込むため、官民共同で専門委員会を設ける構想もある。うまくいけば、巨額のインフラ投資の受注が期待できる。

一方で、環境未来都市の整備など、実現できるかどうか疑問符のつくメニューも並んだ。10年先を目指した戦略だけに、内容が大ざっぱで、雲をつかむような構想もある。今後、肉付けが必要だ。

「森林・林業再生プラン」などは、ばらまき的な施策が紛れ込まないか心配だ。成長戦略として適切かどうか再点検してほしい。

全体の問題として、需要創出など効果の数字は出したのに、必要な財政支出などコストを示していない点を指摘しておきたい。

厳しい財政の中、費用をどう工面するのか詰めないと、せっかくのプランも絵空事になる。コストの割に成果が乏しくないかなど、監視の継続も重要である。

実施体制のあいまいさも気がかりだ。過去の成長戦略は、府省の権限争いなどで失敗続きだった。複数の政策を総合的に推進する体制の整備を急がねばならない。

成長戦略の一方で、民主党政権が製造業派遣の原則禁止や、温室効果ガスの25%削減など、企業活動にマイナスになる政策を続けるのは整合性を欠いている。

マニフェスト(政権公約)へのこだわりを捨て、経済優先の姿勢に徹するべきだ。

産経新聞 2010年06月19日

成長戦略 何より実行力が問われる

政府が2020年度までに実現を目指す経済政策を盛り込んだ新成長戦略を閣議決定した。成長が見込まれるアジア市場の開拓を支援するなど、日本企業の国際競争力を強化する狙いがある。

日本経済を再び安定的な成長軌道に乗せるには、企業活動の活性化が何よりも重要だ。だが、この成長戦略では企業に対する十分な支援策は盛り込まれておらず、需要の創造にどこまで結びつくかは不透明だ。

また、戦略を実行する具体的な財源や手順も示されておらず、イメージ先行の印象は否めない。

政府は必要に応じて内容を見直したり、優先順位をつけて政策支援を追加するなど、「絵に描いた餅(もち)」に終わらないよう着実な実行につなげていかねばならない。

政府は成長戦略の基本方針を昨年末に決定しており、今回はその具体策として20年度に達成すべき数値目標を設定した。来年度中にデフレから脱却し、名目で年平均3%、実質で同2%の成長を目指すという。潜在成長率が1%程度の現在の日本にとって夢のシナリオで終わらせないでほしい。

日本経済を苦しめるデフレをどう克服するかという具体策にも触れていない。日銀も、来年度中には消費者物価が前年比水準でプラスに転じると予想しているが、デフレ脱却を確かなものにするため、日銀との協力を含めて明確な政策を打ち出す必要がある。

また、環境・健康・アジア・観光の主要4分野で123兆円の市場と500万人の雇用創出を見込んでいるが、規制緩和の具体策は一部にとどまっている。企業の創意工夫で市場を開拓するためにも政府による規制緩和に向けた不断の取り組みが欠かせない。

法人税の実効税率を引き下げる方針を打ち出したことは評価できる。国際競争力を強化するために現在40%の実効税率を主要国並みの30%以下に引き下げる必要があるが、具体的な時期や減税幅は示していない。租税特別措置の見直しによる課税ベースの拡大とセットで段階的な引き下げを早急に検討しなければならない。

菅直人首相は18日、日本経団連の米倉弘昌会長ら経済3団体のトップと首相官邸で初会談し、成長戦略を説明した。経済界と距離を置いて分配戦略を講じてきた政府だが、今後は、経済界との対話を続けて成長戦略の実効性を高める必要がある。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/381/