丹羽新中国大使 経営感覚生かし「国益」主張を

毎日新聞 2010年06月16日

新中国大使 民間の感覚を外交に

新しい駐中国大使に丹羽宇一郎伊藤忠商事相談役が決まった。中国大使への民間人起用は1972年の日中国交正常化以来初めてだ。丹羽氏には、民間の柔軟な感覚を対中外交に生かすよう期待したい。

大使ポストの多くはキャリア外交官である外務省幹部が占めている。特に国連安保理常任理事国の米国、ロシア、英国、フランス、中国の5カ国の場合、戦後にキャリア外交官以外で大使ポストに就いたのは日銀出身の駐米大使(1952年)とNHK出身のフランス大使(56年)の2例があるだけだ。

外交機密費流用事件を受けた外務省改革で大使への民間人起用は増えている。各層から広く人材を募り外交に活力をつける、との狙いからだ。だが、全体からみるとまだ少ない。15日の閣議では丹羽氏のほかに民間から戸田博史野村証券顧問の駐ギリシャ大使への起用も決まったが、この2氏を含めても141人の大使のうち民間人はまだ9人だけだ。

民主党は岡田克也外相が代表だった05年衆院選のマニフェストで「民間人登用率の倍増を目標とし政権獲得後4年間で達成する」とうたうなど民間人大使に積極的だ。丹羽氏らの起用はその路線に沿ったものであり、「脱官僚依存」人事の一環として歓迎したい。

丹羽氏は政府の経済財政諮問会議の民間議員や地方分権改革推進委員会の委員長を務めたほか、北京市長の国際企業家顧問を経験するなど中国政府や経済界との人脈も豊富だ。中国は今や日本にとって最大の貿易相手国となった。日本経済がリーマン・ショック後の世界的な不況から予想以上に早く回復できたのも、中国市場の成長に支えられた面が大きい。東京証券取引所に上場する日本企業の半数以上が中国に現地法人や営業拠点を構えており、両国間の経済や人の交流は緊密化する一方だ。

菅政権は近く発表する「新成長戦略」で、一層の増大が見込まれるアジアの需要を日本経済成長の重要なエンジンとして位置づける方向だ。日中が2国間の関係においても、アジア域内で経済の緊密化を進めるうえでも中核となるのは間違いない。

日中間には歴史認識や東シナ海のガス田開発、中国の軍備拡大など難しい政治問題がある。また、中国経済の拡大が日中間や東アジア地域で新たな対立の火種を生む恐れもある。このため、外務省内には民間人大使起用への慎重論もあったという。丹羽氏にはこれまで培った知識、経験、人脈を生かし、小さな摩擦やトラブルが大きな相互不信につながらないよう多チャンネルの情報発信に努め、そうした不安を払しょくしてもらいたい。

読売新聞 2010年06月17日

丹羽新中国大使 経営感覚生かし「国益」主張を

中国通のキャリア外交官とは違う、民間出身の持ち味を発揮して、日中の戦略的互恵関係の進展に努めてもらいたい。

政府は、駐中国大使に丹羽宇一郎・伊藤忠商事相談役を充てることを決めた。

中国大使への民間人起用は初めてで、主要国大使人事としても、極めて異例である。

大使人事は、「政治主導」の名の下、単なる官僚外しに走ってはなるまい。それを前提に、有能な人材を適材適所で登用するなら、民間人を排除する必要はない。

丹羽新大使は、伊藤忠で社長、会長などの要職を経て、政府の地方分権改革推進委員会委員長などの公職も務めてきた。

今回は、そうした実績と商社マンとしての国際感覚、対中貿易・投資など経済分野での経験などが買われたものとみられている。

ただ、不安もある。

丹羽氏は、当然ながら外交交渉の経験はない。外交・政治分野の中国政府要人の人脈も限られる中で、情報収集などに困難をきたすこともありえよう。

外務省は、大使館にスタッフを手厚く配置するなど、新大使が仕事をしやすいよう、補佐態勢を整えることが大事だ。

経済界にはビジネスで利害関係のある商社の出身者起用を危惧(きぐ)する声もある。丹羽氏は、その点に心して職務にあたってほしい。

駐中国大使のポストは、これまで主に、中国語を研修し長らく中国を担当する、「チャイナスクール」と呼ばれる外務官僚によって占められてきた。

チャイナスクールは、瀋陽総領事館の亡命者連行事件、台湾の李登輝・元総統への査証発給問題などをめぐって、「中国側に配慮しすぎる」と、その軟弱な対応ぶりが強く批判された。

新大使は、こうした対中外交のイメージを(ふっ)(しょく)するよう努めることが求められる。

日中2国間では、東シナ海ガス田開発の条約交渉が近く始まる。中国海軍の遠洋進出に伴うトラブルも相次いでいる。

いずれも日本の国益や安全保障にかかわる重大な問題だ。新大使には、日本として主張すべきは主張する毅然(きぜん)たる姿勢が肝要だ。

韓国哨戒艦の沈没事件や北朝鮮の核開発の問題では、中国の北朝鮮に対する影響力行使を求めなければならない。

軍縮や地球環境といったグローバルな課題でも、中国に対し、応分の責任を果たすよう促すこともまた重要な仕事になる。

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