角界賭博汚染 何と大甘な協会の対応

朝日新聞 2010年06月17日

角界の賭博汚染 「公益法人」を返上せよ

もはや角界の当事者たちに、自浄能力は期待できないだろう。

親方2人が便宜を図った観戦券が暴力団に渡っていた問題から半月余り。今度は賭博問題である。

私たちはこれまで、日本相撲協会の公益法人としての適格性に疑問を投げかけてきた。ここまで不祥事が続いては、税制の優遇措置を受ける公益法人の資格はないと言わざるを得ない。

武蔵川理事長は「うみは全部出す」と言う。だが、それが実現できるまで、公益法人の資格はいったん返上するべきだ。

野球賭博がしばしば暴力団の資金源となることは知られている。にもかかわらず、大関の琴光喜関はそれに手を染めた。勝ち金数百万円の支払いを求め、逆に元暴力団関係者から脅され、口止め料として300万円を支払ったという。違法行為のあげく、日本人最高位にある力士が、反社会的勢力を支えたことになる。

協会の調査によると、他に28人が野球賭博に関与し、中には力士だけでなく、指導的立場にある親方も含まれているという。汚染は構造的だ。

ところが、協会は調査当初、過去5年間の賭博経験を申告した者は情状酌量で厳重注意にとどめる、としていた。身内に甘いにもほどがある。琴光喜関の賭博への関与も協会の聴取では見抜けなかった。危機管理能力を著しく欠いている。

力士暴行死事件や大麻問題など、角界ではここ数年、不祥事の連鎖が止まらない。協会は問題が発覚するたび、再発防止と体質改善を誓ってきたはずだが、泥沼はむしろ広がる一方だ。

力士出身者が主体の協会執行部のありようにも深い病根がある。常識とかけ離れた金銭感覚や価値観、反社会的な組織や人とのつきあい。角界に身を置き続けたために問題を問題と感じることもできなくなっているようだ。

不祥事が起きても、外部理事2人と監事がなんとか対応を下支えしているのが現状で、力士出身の幹部には事態の深刻さが理解できていない。

こんな人たちに「暴力団と手を切れ」と主張してみても、容易ではないだろう。ファンへの裏切りもいいかげんにしてもらいたい。

もし角界を立ち直らせようとするのであれば、公益法人の資格を返上した上で、理事長は組織運営にたけた人物を外部から招き、外部理事の割合も過半数にする。外からの目が届きにくい「部屋」を中心にした独特の角界構造も徹底的に見直す。それくらいの改革をせねば、同じ過ちを重ねるだけだ。

川端達夫文部科学相は相撲界が「再スタートの瀬戸際」だと述べた。この認識は甘い。とうに土俵から落ちている。協会を一度解体するくらいの荒療治をしなければ再生は無理だ。

毎日新聞 2010年06月13日

角界賭博汚染 何と大甘な協会の対応

複数の現役力士が野球賭博に関与していたことが明らかになった。相次ぐ不祥事の発覚に、相撲ファンは「またか」の思いが強いが、今回は日本相撲協会の「甘い対応」が改めてクローズアップされた。

大相撲夏場所中に「大関・琴光喜関がプロ野球賭博にかかわった」と週刊誌で報道されたことを受け、協会が調査したところ、複数の力士が師匠を通じて野球賭博をしていたと自己申告したという。

協会は「仲間内の賭けで、自発的に申告してきたことを情状として酌む」とし、力士名の公表どころか正確な人数、地位、所属部屋なども明らかにせず、厳重注意の軽い処分で済ませる方針という。協会は週明けの14日まで力士の「自己申告」を受け付け、同様の処分をするという。

なんという大甘な処分だろう。事態の深刻さを全く理解していないのではないかと思わざるを得ない。

賭博はれっきとした犯罪である。力士のマナー違反をとがめているのではない。野球賭博なら背後に暴力団など反社会組織が密接に絡んでいると考えるのが当然だ。十分な調査抜きで、自己申告したからと罪一等を減じて済まされる話ではない。

力士名の公表を控えたことについて協会は「(力士の)将来のことがある」と説明した。若い力士をかばう気持ちは分からなくはないが、その力士を指導している師匠、親方の責任はどうなのか。「力士を守る」を口実に、実は指導責任を厳しく問われるべき師匠や親方を守ろうとしているだけなのではないか。

いつから誰に誘われ、どんな手口でいくら賭け、どれだけの金が動いたのか。仲介者はいたのか、借金はないのか。明らかにしなければならないことは山ほどある。

反社会組織との“黒い交際”を疑わせる事例は今回の野球賭博だけではない。土俵周りの維持員席をめぐり暴力団幹部に橋渡しをした2人の親方を処分したばかりだ。しかも、その処分後に5月の東京場所でも暴力団幹部が維持員席で観戦していた新たな不祥事が発覚している。

興行としての大相撲の歴史は江戸時代にまでさかのぼる。興行に伴う不明朗な「付き合い」を断ち切るのは簡単ではないのだろう。だが、その不明朗な歴史をきちんと清算しないまま、公益法人として税の優遇を受け、活動を続けることは許されない。検察・警察出身の外部理事・監事を迎えた協会理事会は、いまこそ真剣に取り組む時ではないのか。

ピンチはチャンスという。今回明るみに出た数々の不祥事を契機に、お年寄りから子供まで安心して楽しめる国民的娯楽として大相撲が一から出直す好機にしてほしい。

読売新聞 2010年06月16日

野球賭博汚染 暴力団排除が角界再生の道だ

大相撲の力士に賭博が蔓延(まんえん)していることが分かった。看板力士の大関琴光喜も、犯罪行為である野球賭博に手を染めていたことを認め、名古屋場所を休場することになった。

暴行騒動で横綱朝青龍が引退に追い込まれたばかりの相撲界で、今度は大関の不祥事である。日本相撲協会の屋台骨を揺るがす異常事態といえよう。

相撲協会が、力士、親方らに自己申告させたところ、野球賭博には琴光喜を含む29人が関与したことを認めた。仲間内での賭けゴルフや花札、マージャンなどには36人がかかわっていた。

相撲協会は、調査結果を警視庁に報告し、捜査の結果を待って対応を決めるという。

当初は、申告した者については厳重注意にとどめて幕引きを図る方針だった。しかし、所管の文部科学省から、「警察にも言わない段階で情状酌量は早すぎる」と注意され、方針転換せざるを得なくなったというわけだ。

相撲協会の危機管理の甘さが露呈したといえる。

野球賭博には、暴力団がかかわっているケースが多い。力士の賭け金が暴力団の資金源となるようなことが、あってはならない。関係した力士への厳しい処分は避けられまい。

発端となったのは、琴光喜が野球賭博にかかわり、暴力団関係者から口止め料を払うよう脅されたという週刊誌の報道だ。

琴光喜は賭博への関与を否定していたが、他の力士たちが申告するに及んで、言い逃れができなくなったということだろう。大相撲を担う大関としての自覚を全く欠いている。

相撲界には、「タニマチ」と呼ばれる後援者が力士や親方を援助する慣習がある。その付き合いの中で、力士らは暴力団関係者と接する機会もあるとされる。

地方巡業などの興行面でも、暴力団の介在が指摘されてきた。

土俵近くの特別席で多数の暴力団員が観戦していたことも、問題になったばかりだ。席の確保にかかわっていた親方の部屋は閉鎖処分となり、この親方は、暴力団との交際があったことを認めた。

角界と暴力団との根深い癒着がうかがえる。

相撲協会は、税制面で優遇措置を受けている公益法人だ。社会に貢献すべき団体に属する力士や親方が、反社会勢力との関係を断つのは、当然のことである。

()しき体質の一掃が、相撲協会が存続していく唯一の道だ。

産経新聞 2010年06月18日

野球賭博汚染拡大 場所返上でウミ出し切れ

角界の野球賭博問題で警視庁が大関琴光喜関に続いて、元横綱大鵬の娘婿の大嶽親方(元関脇貴闘力)からも事情聴取していたことがわかった。近く幕内の豊ノ島関も聴取する方針で、賭博汚染は底なしの広がりをみせている。

若い力士を教育、育成する重要な責務を持つ現役親方らが暴力団絡みの野球賭博にかかわっていた事実はもはや看過できない。

文部科学省は「日本の国技が存亡の危機にある」と警告、日本相撲協会に第三者による外部委員会を設けて全容の再調査を求めた。中井洽(ひろし)国家公安委員長も「きちんとウミを出してほしい」と注文したように、協会は野球賭博にかかわった力士らの氏名公表も含め、断固とした措置を取るべきだ。そのためには来月11日からの名古屋場所開催を返上して暴力団との関係を断絶する必要がある。

野球賭博への関与を協会に自主申告した者は琴光喜関ら29人、そのほかの賭博も含めると計65人に及ぶ。大嶽親方以外の現役親方や関取もいるとみられ、おざなりな対応は許されない。

琴光喜関は暴力団関係者を胴元とするプロ野球賭博に手を出してトラブルとなり、逆に元暴力団員から脅されて300万円を支払ったという。暴力団による恐喝事件に発展する見通しだ。

にもかかわらず、協会の対応は鈍く、後手後手に回ってきた。大嶽親方らに対する協会の事情聴取も、17日に週刊誌に報じられた後にようやく2人を呼んで対応する始末だった。

警察当局は汚染の広がりを重視し、安藤隆春警察庁長官は17日の会見で「(協会による)暴力団との関係断絶の取り組みが徹底されることが重要だ」と述べた。協会の協力を得ながら、事件を早急に解明すべきだ。

角界では近年、国民を失望させるような事態が相次いでいる。力士暴行死事件や大麻汚染、元横綱朝青龍の暴力騒動、暴力団観戦問題と不祥事が絶えない。武蔵川理事長は「今度こそウミを出し切る覚悟だ」というが、もはや協会に自浄能力を求めるのは難しい。

仙谷由人官房長官は「協会に果たしてマネジメント能力があるのか」と非難、文科省に強い指導を要請した結果が今回の第三者委員会設置である。理事長以下、全関係者が身をなげうつ覚悟で汚染の一掃に取り組まねばならない。

産経新聞 2010年06月16日

角界の野球賭博 甘い対応で悪事が広がる

大相撲が「瀬戸際」(川端達夫文部科学相)に立ち至っている。大関琴光喜関らによる、野球賭博への関与という問題である。

琴光喜関は先月20日、週刊誌で疑惑を報じられて以降、日本相撲協会や警視庁の事情聴取にかかわりを否定していた。

それが一転、関与を認めた。「処分は協会に任せている」と、来月11日からの名古屋場所を謹慎して休場するという。高位にある力士が法律違反の賭博に手を染めたばかりか、協会やファンをあざむいた罪は重い。

野球賭博は、暴力団が資金源確保を目的に絡んでいるケースが多いといわれる。警視庁はこの事件の背後に暴力団が介在しているかどうかなど、厳しく捜査して摘発しなければならない。

相撲協会の認識の甘さには、あきれてしまうほどだ。「琴光喜関が野球賭博に関与し暴力団との間でトラブルになっている」と週刊誌が報じた際、琴光喜関の言い分を漫然と聞いただけだった。

そして、親方や力士ら全協会員(約1000人)に野球や花札、賭けゴルフなどの賭博に関するアンケートを実施した。その結果、65人が賭け事を認め、野球賭博をしたのは29人にも上った。協会は、「自主申告したので、厳重注意」という甘い対応だった。

協会には「身内だけで賭けていた」と申告しているという。だが、29人もの力士が自分たちだけで野球賭博をしていたとは、にわかには信じがたい。

角界と暴力団の結びつきは以前からささやかれていた。地方巡業の際、暴力団関係者が介在するのが慣習だったためだ。こうした体質を裏付けるかのように、土俵下の特別席を親方2人が便宜をはかって提供し、暴力団員が観戦していた問題も発覚している。

うち1人の親方は2、3年前まで暴力団と交際があったことを認め、部屋閉鎖という処分を受けたばかりだ。

琴光喜関の責任は、謹慎して済むようなものではない。警視庁は15日も任意で事情聴取したが、手ぬるくないか。大関も真実を隠さず証言しているのか。

力士暴行死事件や大麻吸引問題、横綱朝青龍関の引退、そして野球賭博と、相撲協会はスキャンダルが相次いでいる。今度という今度は腹をすえ、体質改善に取り組む必要がある。でなければ、国技の看板を下ろすしかない。

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