朝日新聞 2010年06月15日
政治とカネ 「小鳩」の沈黙を許すな
民主党の小林千代美衆院議員がきのう、議員辞職を表明した。昨夏の総選挙での違法献金事件の責任をとった。関係者への有罪判決が続き、鳩山由紀夫前首相から「責めをぜひ負って」と名指しされていたのだから辞めるのは当然であり、むしろ遅すぎた。
鳩山政権を痛撃した「政治とカネ」の問題を、多くの有権者は「民主党よ、お前もか」との思いでみていた。退陣する鳩山氏が「クリーンな政治を取り戻そう」と呼びかけたら、民主党への支持率が一気に回復したのは、この問題への関心の深さを表している。だからこそ、菅政権が首相交代や小林議員の辞職で一件落着のような態度をとっていいわけがない。
だが、きのうの衆院代表質問で首相は、うしろ向きな答弁を繰り返した。
たとえば、小沢一郎前幹事長の問題だ。政治資金規正法違反事件で、衆院議員の石川知裕被告ら3人の元秘書が起訴されている。本人は嫌疑不十分で不起訴となったが、検察審査会で「起訴相当」を一度議決され、いまも審査中だ。本人が衆院の政治倫理審査会にすら出席しない現状は許し難い。
それなのに首相は「幹事長辞任」をもって「政治的には大きなけじめをつけられた」と述べるばかり。検察審査会での審査中を理由に踏み込んだ発言を避け、国会招致も「国会でお決めをいただきたい」としか言わなかった。
毎月1500万円を母親からもらっていた鳩山氏に関しても同様だ。元秘書の有罪が確定したのに、鳩山氏は何の説明もしていない。「裁判が終わった暁には、できる限り皆様方に使途を説明したい」と語っていたのは何だったのか。これにも菅首相は「総理を辞任されたことの意味は極めて重い」と答えただけだ。
首相が本気でこんなふうに考えているとしたら、「菅さん、あなたもか」というしかない。新政権への期待も損なわれるだろう。
荒井聰国家戦略相の事務所費問題も「政治とカネ」に対する緊張感が欠けている事例だ。合法だからいいとか、領収書を出さなかった自民党よりもまし、といった対応ではなさけない。
われわれが「政治とカネ」にこだわるのは、それが昨年の政権交代に至る政治改革の原点だからだ。
思い返せば、1988年のリクルート事件が政治に金権腐敗の根絶を迫った。あれから20年余を経て政権交代にたどりついた。それなのになぜ、まだ政治は不透明なカネと縁が切れないのか。この原点をないがしろにしては、政治が信頼されるわけがない。
このままでは参院選で「政治とカネ」がまた問われる。各党が自浄能力を示せるのかどうか。
有権者はうんざりしながら目を光らせている。
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毎日新聞 2010年06月16日
北教組事件 議員辞職もご都合主義
「政治とカネ」をめぐり、またも厳しい司法判断が出た。
北海道教職員組合(北教組)の不正献金事件で、札幌地裁は政治資金規正法違反罪で委員長代理に有罪判決を言い渡した。昨年の衆院選の選挙資金として、民主党の小林千代美衆院議員の陣営に計1600万円を提供したものだ。これを受け、小林氏は議員辞職を表明した。当然だが、遅きに失したくらいだ。
教員には政治的な中立が求められるにもかかわらず、北教組は違法な献金に手を染めた。判決は「目的実現のために手段の違法性に目をつぶったと評されてもやむを得ない」と批判し、両罰規定を適用して北教組にも50万円の罰金を言い渡した。重く受け止めねばならない。
委員長代理らが逮捕された3月、北教組は「法令違反はない。不当な組織弾圧と言わざるを得ない」とコメントした。しかし、公判で委員長代理は起訴内容を認めた。提供資金は、緊急時に使う組合の「対策費」から捻出(ねんしゅつ)したと委員長代理は公判で説明したが、出金の手続きについては「知りません」と繰り返しており、実態はあいまいなままだ。
北教組側は判決後の会見で、チェック体制強化や、有識者も入る委員会設置に言及した。真摯(しんし)に反省し、再発防止に速やかに乗り出すことが求められる。
一方の資金を受け取った小林陣営元会計責任者も既に有罪判決を受けている。また、小林氏への投票を電話で呼びかける事前運動などで公選法違反罪に問われた連合の元地区幹部も1、2審で有罪判決を受けた。
選対幹部らが相次ぎ刑事責任を問われたことへの政治家本人の責任は重い。だが、小林氏はこれまで、労組を巻き込んだ選挙の実態について「知らない」と言い続け、自身の責任も明確にしてこなかった。
鳩山由紀夫前首相は退陣表明の際の民主党両院議員総会で小林氏を名指しして辞職を求めたが、党側の対応も鈍かった。
小林氏は、この期に及びなお、国会閉会後に辞職を先延ばしした。公選法の規定で、国会開会中に辞職した場合、補欠選挙が参院選と同日になるためとみられている。選挙準備が整わないとの党側の事情が理由とすれば筋が通らない。
今回の事件では、労組との癒着について民主党の体質が問われた。だが、事件について党として事実関係の調査に真剣に取り組んだようには見えない。政権公約の企業・団体献金禁止も、今国会での議論は先送りされた。小沢一郎前幹事長の国会での説明責任も果たされず、「政治とカネ」をめぐる民主党の対応は甘いと改めて指摘したい。
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産経新聞 2010年06月15日
北教組事件判決 組合との癒着は変わらぬ
民主党の小林千代美衆院議員陣営への違法献金事件で、札幌地裁は北海道教職員組合(北教組)の委員長代理に禁固4月、執行猶予3年、団体としての北教組には求刑通り罰金50万円の有罪判決を言い渡した。
判決理由で裁判長は北教組が「組織を挙げて支援した」と認め、「(当選)目的のため違法性に目をつぶった」と行き過ぎた選挙活動の実態を厳しく指弾した。支援を受けた民主党と関係者は、有罪判決を重く受け止めねばならない。
事件を通じて、労働組合が人とカネのすべての面倒をみて特定政党の候補者を支援する選挙手法が明らかになった。さらに、政治的中立を求められる教職員の団体が集金・集票組織となる実態もみせつけた。だが事件を教訓に組合の体質を見直す動きは鈍く、開き直りの姿勢とも受け取れる。
違法献金の原資には税金である「主任手当」がプールされ、流用された疑いが出ていた。検察側は北教組が会計帳簿の提出を拒み、隠蔽(いんぺい)したと指摘した。北教組は裏金の存在を否定するだけだ。調査しようとしないのはおかしい。
北教組は以前から教職員を動員した違法な選挙活動が問題となっていた。事件発覚後も一部支部が選挙運動強化を求める内部文書を出していた。
事件を受けて、北海道教育委員会は、勤務時間中の組合活動やカンパなどについて教職員の聞き取り調査を始めた。調査は当然であるが、一部団体などから「思想信条の自由を脅かす」「組合活動を妨害するもの」などと、相変わらず反対の動きがある。
組合ぐるみ選挙では過去にも山梨県教組の政治資金規正法違反事件が起きた。3月の日教組臨時大会では「特定政党支持を押しつけるのをやめるべきだ」との意見は一部にとどまった。中村譲日教組委員長は教員の政治活動に罰則を科す法改正を「時代錯誤の考え」と語った。反省はみられない。
小林議員は国会閉会後に議員辞職するという。辞職は当然であり、遅すぎる。辞職引き延ばしは政治不信を高めただけだ。
仙谷由人官房長官は議員と労組との関係について「一線を絶えず考え、(資金の)管理を厳正にしなければいけない」と語った。
民主党は参院選に組合の組織内候補を10人以上擁立する。特定団体との癒着をなくすことができるか、注視したい。
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