口蹄疫拡大 迅速で着実な防疫策がカギだ

毎日新聞 2010年06月14日

口蹄疫拡大 国の危機管理の問題だ

牛や豚に感染する口蹄疫(こうていえき)の拡大が止まらない。宮崎県都農町で感染が確認されてから50日余。一時は感染拡大が収まりつつあるかと思われたが、新たな地域で感染が疑われる家畜が見つかっている。

都城市のように、これまでの感染地域から離れた場所でも疑い例が出た。家畜の移動・搬出制限にワクチン接種を組み合わせた封じ込め策をかいくぐっての「飛び火」だ。

もはや、限られた地域の問題ではなく、国の危機管理の問題である。さらに感染が広がる可能性を念頭に置いて防疫策を再チェックし、徹底させる必要がある。地元農家への支援も欠かせない。

感染が飛び火した原因を突き止めるのは難しい。口蹄疫のウイルスは極めて感染力が強い。感染家畜の排せつ物や体液などに含まれ、体外でも感染力を保つ。このため、排せつ物に接した人の靴や服、車などに付着して、知らないうちに遠くまで運ばれることがある。

口蹄疫が発生した農家から半径10キロの移動制限区域では、未感染の家畜にワクチンを接種し、後に殺処分する方策をとってきた。感染拡大を防ぐ有効な手だてと考えられるが、接種した家畜は感染しても病状が出にくい。ワクチン接種に安心し、うっかり接触した人がウイルスを運んだり、消毒がおろそかになった恐れもある。

感染が集中した県央部で家畜の殺処分が追いつかないことも感染拡大の誘因だったかもしれない。環境からウイルスをなくすため、すみやかに処分を進めなくてはならない。その際には、埋却地周辺の住民の不安に答える説明も欠かせない。

感染経路として鳥や風を指摘する声さえあることを考えると、すべての地域で発生に備える必要がある。大事なのは家畜に疑われる症状が見つかった場合の迅速な処分と徹底した消毒だ。埋却場所の確保も考えておくことが大事だろう。

公示を控えた参院選の影響も気にかかる。選挙戦で人々が移動すれば、感染拡大のリスクが高まる。地元宮崎県などでは、このままでは選挙などできないのではないかという声も出始めている。

00年に宮崎県で92年ぶりに口蹄疫が発生した時には、一定期間で抑え込むことができた。ウイルスの感染力に違いがあったとしても、今回、初期対応に問題があったことは否めない。当初は、農家への補償が素早く示されなかったり、家畜の埋却地が見つからないなど、制度上の問題もあった。

これだけ国際的に人や物が移動している現代では、感染症はいつ国内に侵入してもおかしくない。抜本的な対策の見直しも今後の課題だ。

読売新聞 2010年06月13日

口蹄疫拡大 迅速で着実な防疫策がカギだ

宮崎県で発生した家畜の伝染病、口蹄疫(こうていえき)が県内全域に広がりかねない情勢となっている。

震源地の県東部から約50キロ離れた都城市などで新たな感染が確認された。

県外に感染が拡大するかどうかの瀬戸際である。菅首相は現地入りし、被害畜産農家の支援に万全を期す方針を示した。国と県は改めて防疫体制を強化し、封じ込めに全力を挙げねばならない。

これまで国と県は、口蹄疫が発生した農場の牛や豚を殺して埋める処分に加え、周辺地域の家畜の移動や搬出を制限する感染防止策を取ってきた。

主要な発生地から半径10キロ圏内は、未感染の家畜にもワクチンを接種してウイルスの発生を抑え、処分する対策も進めている。

しかし、これまでの多発地区から遠い地域に感染が飛び火した。発生から50日あまりが経過し、防疫措置に緩みはなかったか。

今必要なのは、新たに感染が見つかった地域の被害を最小限に食い止めることだ。

えびの市は、農場で感染が確認された直後に家畜を処分し、封じ込めに成功した。その教訓を生かし、都城市は国による遺伝子検査を待たず、家畜の症例を写真で報告して処分に踏み切った。今後もこうした迅速な対応が必要だ。

感染が拡大した一因と見られるのは、埋める土地や人の手当てがつかず、処分に手間取っている牛や豚の存在だ。これらからウイルスがまき散らされた可能性がある。残されている3万頭の処分を急がねばならない。

4日に施行された口蹄疫対策特別措置法では、農家の同意がなくても国が健康な家畜を殺処分できるようになった。予防的に家畜を処分して空白地帯を作り、感染を防ごうという狙いだ。

農林水産省は、今回新たな感染が確認された地域では適用しない方針だが、感染が拡大するようであれば、こうした措置を取ることもやむを得ないだろう。

拡大の原因解明も急務だ。畜産施設を行き来する人や車などが消毒地点をすり抜けたとの説や、土壌に付着したウイルスが風で運ばれた可能性などが指摘される。防疫専門家による現地調査を強化すべきではないか。

都城市は全国屈指の畜産都市であり、隣接する鹿児島県も黒豚や黒牛で知られる。感染が広がれば日本の畜産業への打撃は計り知れず、国民の食生活にも影響が出よう。菅内閣は口蹄疫問題に最優先で取り組んでもらいたい。

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