所信表明演説 超党派で財政再建に取り組め

毎日新聞 2010年06月12日

所信表明演説 指針裏付ける戦略示せ

菅直人首相による初の所信表明演説が行われた。首相は悪化する財政への危機感を強調、税制抜本改革に向け、超党派議員による検討会議の創設を提案した。

財政再建と同時に経済成長、社会保障の充実を進める意向も首相は示した。危機を直視し取り組む意欲は評価するが、難題を解決できると国民が信用するに足る戦略が演説で示されたとは言い難い。付け焼き刃でない議論が必要である。

鳩山内閣を継承しつつ、どう独自色を打ち出すかが問われた。市民運動からスタートした自身の経歴をアピールしたのが印象に残ったが、総じてあっさりした内容だった。

目立ったのは、財政への言及だ。首相はギリシャなどユーロ圏の混乱にふれ国債市場が信認を失うケースまで引き合いに出し、税制抜本改革の着手は不可避と明言した。消費税には直接ふれなかったが、税率アップを念頭に超党派議員による「財政健全化検討会議」を提言した。参院選後をにらんだ動きとして、注目に値しよう。

同時に「経済(成長)、財政、社会保障を対立するものととらえる考え方は転換する必要がある」と三位一体の立て直しを強調した。だが、それを裏付ける戦略はこころもとない。20年度まで年平均名目3%、実質2%の成長を掲げたが、方策は抽象的な項目を寄せ集めた印象だ。

地域主権改革、子育て支援、公教育の充実に関する薄味さが特に気になる。「強い社会保障」を目指すならば実施の主力となる自治体への分権は不可欠だ。潜在成長力も女性の社会進出、教育水準の維持が前提のはずだ。首相が言うところの公共事業中心、市場原理主義にかわる「第三の道」の中身があいまいでは、負担増へ国民の理解は得られまい。

日米関係が揺らぐ外交は「『現実主義』を基調とした外交」を掲げた。普天間飛行場移設問題については辺野古沖に移設する先月末の日米合意を踏襲し、沖縄の基地負担軽減に努める基本を示すにとどめた。

「現実主義」を強調したのは、鳩山内閣が沖縄基地問題で迷走した意識からだろう。では、前政権の「緊密かつ対等な日米同盟」の看板は外したのか。日米同盟を「国際的な共有財産」と強調するだけでは、いかにも説明不足だ。

政治とカネの問題、政治主導の進め方などで各論にほとんどふれずじまいな点も大いに疑問である。消費税率引き上げにしても、財政再建で他党の協力を呼びかけるならば参院選の民主党公約でより具体像を示す責任があることは言うまでもない。国民が期待するのは、あくまで改革者としての首相である。

読売新聞 2010年06月12日

所信表明演説 超党派で財政再建に取り組め

理念ばかりが先行し、空回りし続けた鳩山前首相と違って、地に足のついた現実的な政治を目指す姿勢は評価できる。ただ、具体的な政策は乏しく、物足りなさは否めない。

菅首相が初の所信表明演説を行った。前首相の挫折を乗り越え、国民の信頼を回復することを自らの最大の責務と位置づけた。

新内閣の政策課題として「戦後行政の大掃除の本格実施」「経済・財政・社会保障の一体的建て直し」「責任感に立脚した外交・安全保障政策」の3項目を挙げた。

「戦後行政の大掃除」は前首相が掲げたスローガンだ。道半ばにある事業仕分けや無駄遣いの根絶、地方分権などを継承する考えを示したものだが、具体的に何にどう取り組むかは明確ではない。

「経済・財政・社会保障の一体的建て直し」は、菅首相が最近、一貫して主張している。日本経済を安定した回復軌道に乗せるとともに、財政再建に道筋をつけることの重要性は言うまでもない。

菅首相は、公共事業中心の「第一の道」や、小泉構造改革に代表される「第二の道」に代えて、増税で得た財政資金を社会保障分野などに投入して新たな需要と雇用を創出し、成長につなげる「第三の道」を追求する、という。

だが、それだけで、名目成長率3%超という「強い経済」が実現するほど甘くはあるまい。

急造の演説とはいえ、成長分野ごとに優先順位を定め、予算や施策に反映させる方向性を示さなければ、説得力を持たない。

一方で、首相が、税制の抜本改革を視野に入れ、超党派の「財政健全化検討会議」の創設を提案したのは、妥当である。

財政の赤字体質からの脱却や社会保障の財源確保には、消費税率の引き上げが欠かせない。こうした重要な政策課題については、与野党が共通の認識・合意を形成することが望ましい。自民党など野党も積極的に応じるべきだ。

外交・安保分野で、菅首相は、「現実主義」の外交を唱え、日米同盟が「外交の基軸」と明言した。23日に沖縄を訪問し、米軍普天間飛行場の移設問題の前進に自ら取り組む考えも示した。

「対等な日米関係」を標榜(ひょうぼう)し、無用の摩擦や混乱を招いた前首相を反面教師にしたのだろう。ただ、同盟深化や中韓両国との関係改善のために何をするのか、といった各論への言及はなかった。

今月下旬にはカナダで主要国首脳会議が開かれる。各論の詰めを急がなければならない。

産経新聞 2010年06月12日

首相所信表明 国の在り方をなぜ語らぬ

菅直人首相による初の所信表明演説は、「いのちを守りたい」などを訴えた鳩山由紀夫前首相の演説に比べれば、現実路線にシフトしたといえる。一方で、憲法や教育問題など国の在り方に直結する課題に踏み込まなかったのは残念だ。

鳩山前政権の失政と迷走は、日本をどうするかという国の基軸を構築する構想力と統治力が欠けていたことが大きかった。このことを教訓としてくみ取っているのだろうか。前内閣の副総理として「責任を痛感」と語ったが、問題の本質を分かっているとはいえない。

「政治とカネ」の問題についても、鳩山氏や小沢一郎民主党前幹事長の辞任で「けじめがつけられた」としただけだ。2人が関係する疑惑解明に民主党が動こうとしなかったことに国民が絶望したことを、もう忘れたようだ。

「現実主義を基調とした外交を推進」に異論はないが、中国の軍事力増大をどう直視するかがポイントだろう。「中国とは戦略的互恵関係を深める」というだけでは、安全保障への認識は不十分と言わざるを得ない。

普天間問題でも、「先月末の日米合意を踏まえる」と語ったが、力点はむしろ沖縄の負担軽減に置かれ、この問題をどう決着させていくのか具体的な言及はなかった。首相交代による支持率急上昇に紛れて、前政権の失策に知らん顔では、首相がいう「最大の責務は国民の信頼回復」がどうして実現できようか。

経済・財政・社会保障を一体的に立て直す「第三の道」についても、どう実現させていくのか手順を示さなかった。そもそも問題点が多い。社会保障では少子高齢化に伴う負担だけをみるのではなく、雇用創出などによる成長を強調してみせた。だが、非効率な現行制度を改革しなければ、単に財政負担が膨らむだけだろう。

成長戦略も昨年まとめた骨格をなぞっただけだ。規制緩和など企業向け支援策もみられない。年平均で名目3%の経済成長を目指すとしたが、まずはデフレ脱却を最優先させるべきではないか。

財政健全化をめぐっても消費税への言及を避けたが、責任ある対応とはいえまい。与野党協議を提案したことは評価するが、与党案を示すことが先決だ。

閉塞(へいそく)状況の打破と元気な日本の復活という新内閣の任務を具体的な成果としてみせてほしい。

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