イラン制裁決議 国連の信用も問われる

朝日新聞 2010年06月11日

対イラン制裁 圧力に加え、多角外交を

国連安全保障理事会の決議を無視してイランが核開発を進める。脅威に感じた事実上の核保有国イスラエルがイランを空襲する。イランが反撃し、イラク、ペルシャ湾岸など中東全域が取り返しのつかない混乱に陥る。

決して現実にしてはならない最悪のシナリオだ。ではどうしたらいいか。安保理の結論はイランへの追加制裁だった。今回で4度目で、制裁対象の範囲を広げた。資産凍結リストに、核やミサイル開発への関与が疑われる「革命防衛隊」などが追加された。

イランが継続するウラン濃縮活動はもともと、国際原子力機関(IAEA)にきちんと申告せずに始めたものだ。安保理決議が停止を求めても、イランは応じてこなかった。

逆に、濃縮度を高める方針や濃縮施設増設計画を打ち出し、不信感をあおるような政策を次々と繰り出してきた。今回の決議採択の後、オバマ米大統領は「核拡散防止への国際社会の決意を示した」と語った。まったく同感であり、イランは決議採択を極めて重く、受け止めるべきである。

この決議を問題決着にどう生かしていくか。国際社会の決意を示したのはいいが、イランが反発して事態が悪化するばかりでは展望が開けない。制裁による圧力と、外交による対話の組み合わせが、これまで以上に問われる。

引き続き着目したいのが、トルコ、ブラジルの仲介でイランが5月に合意した妥協案だ。イランは、保有する濃縮度3.5%の低濃縮ウラン、1.2トンをトルコへ搬出する。代わりに、医療目的の研究炉用に20%まで濃縮・加工された核燃料棒120キロを受けとる、というものだ。

今回の決議採択では、安保理非常任理事国であるトルコ、ブラジルが反対に回った。すぐに結実しないまでも、妥協案を無にはできないとの思いからだろう。米欧諸国にはこの案に懐疑的な見方が根強い。最大の懸念は、妥協案にウラン濃縮活動の停止が含まれていないことだが、低濃縮ウランを国外に搬出すれば、イランが核保有できる時期を先に延ばす効果はある。

この妥協案が実現してもイランの核疑惑が解消されるわけではないが、危機の進行を止め、外交決着に駒を進める一手となりうるだろう。

ガザ支援船へのイスラエルの軍事作戦で、米国はイスラエルを批判しなかったが、もしイスラエルによるイラン攻撃となれば、窮地に立たされる。オバマ政権にとって、悪循環を断つ外交をどう進めるかが大きな課題だ。

イスラム世界に位置し、北大西洋条約機構の一員でもあるトルコにイランへの説得を強めてもらい、米欧などとの接点をさぐっていく。そんな多角的な外交を同時並行させてこそ、突破口を見いだせるのではないだろうか。

毎日新聞 2010年06月11日

イラン制裁決議 国連の信用も問われる

制裁決議も4度目である。今度こそイランは国際社会の声に耳を傾けて不透明な核開発をやめてほしいが、先行きは暗いようだ。どんなに決議を重ねても無視されるのなら、国連の信用は損なわれ、中東情勢はきな臭さを増していく。核をもてあそんで世界を挑発しても何の得にもならないとイランは知るべきだ。

今回、国連安保理が採択した決議は、イランの核・ミサイル関連物資を積んでいると疑うに足る船舶・航空機への検査実施を盛り込んだ。イランの権力構造を支える「革命防衛隊」関連団体の資産凍結を拡大し、核・ミサイル開発に関係する疑いがあるイラン系銀行の支店開設を拒むことも、加盟国に求めている。

オバマ米大統領が言うように「イラン政府が直面する最も包括的な制裁」であり、それは核不拡散を願う国際社会の意思表示でもあろう。イランのアフマディネジャド大統領は決議が無価値であり「ごみ箱に捨てるしかない」と語ったが、指導者としての品格を疑わざるを得ない。むしろ、イラン国民を制裁強化へと導いた責任を痛感すべきである。

だが、今回の決議に後味の悪さが付きまとうのも確かだ。安保理の中でトルコとブラジルは反対し、レバノンは棄権した。過去3回の決議は全会一致か1国のみの棄権で採択され、反対票が投じられたことは一度もない。決議を主導した米国は、安保理の足並みをそろえるべくトルコやブラジルの説得にもっと時間をかけてもよかったのではないか。

それというのもイランは先月、トルコとブラジルの仲介で、1・2トン分の低濃縮ウランを国外に搬送することを承諾していたからだ。米国はこの3国合意について「制裁逃れ」を疑っているが、イランが制裁決議に怒って搬送計画を白紙に戻せば、事態は一気に悪化しかねない。

もう一つの問題は、イスラエルや北朝鮮と比べてイランが厳しく扱われていると思えることだ。イスラエル部隊による国際支援船襲撃事件はイスラム圏や欧州の国々の怒りを買ったが、安保理は決議より弱い議長声明しか出せなかった。北朝鮮のしわざとされる韓国艦沈没事件でも、安保理内で北朝鮮懲罰に向けた動きは鈍い。

米国がイスラエルをかばい、中国が北朝鮮をかばう構図が露骨になりつつあるのか、と疑わざるを得ない。そうであれば国連の信用と公正さは別の意味で損なわれ、紛争解決能力も失われよう。

日本としては、米・イラクの対立の陰で北朝鮮が核兵器開発を進めたことを忘れてはなるまい。イランの核疑惑追及はもちろん必要だが、北朝鮮への対応がおろそかにならぬよう、特に米国に要望しておきたい。

読売新聞 2010年06月11日

安保理制裁決議 イランはウラン濃縮をやめよ

国連の安全保障理事会が、イランに対する追加制裁決議を、日本などの賛成多数で採択した。

2年ぶり、通算4度目の制裁決議である。

イランは、過去の決議を無視したまま、ウラン濃縮活動をやめないどころか、規模を拡大している。「核エネルギーの平和利用」であって軍事目的ではないと強く主張しても、不信感は増幅するばかりだ。

平和利用を隠れみのに核開発をした北朝鮮のあとをたどるかのようなイランに対して、安保理は、制裁強化でこたえる以外になかった。当然の決定だ。

新たな決議は、核や弾道ミサイルの開発にかかわる人、モノ、カネへの締め付けを強めている。

イランとの深いつながりから、これまで制裁強化に消極的だった中国やロシアも支持に回った。その政治的な意味は大きい。イランは真剣に受け止めるべきだ。

資産凍結の対象に指定された団体は一挙に倍増して75となった。その多くは、イラン国防の中核をなす精鋭部隊「革命防衛隊」傘下の企業や研究所だ。

イランへのガソリンの輸出禁止など、エネルギー分野の制裁は盛り込まなかった。イラン国民の暮らしを直撃すれば、対外強硬論を招きかねず、逆効果になる、と判断したものとみられる。

今回、初めてトルコとブラジルが決議案に反対票を投じ、全会一致の採択とはならなかった。

両国は先月、イランとの協議でイランが保有する低濃縮ウランの大半をトルコに搬出し、見返りに研究炉用の核燃料棒を第三国から受け取る案をまとめていた。決議への反対は外交努力が水泡に帰したことへの不満の表明だろう。

同様の提案は昨年秋、米欧がもちかけ、イランもいったん同意しながら、その後一転、拒絶して実現しなかった経緯がある。

イランが核疑惑を払拭(ふっしょく)したいなら、まずウラン濃縮活動を停止する必要がある。

イランは、濃縮度3~5%の低濃縮ウランの保有量を増やし続けている。核兵器2発分の高濃縮ウラン生産に十分な量とされる。

しかもイランは、濃縮度を20%に高めることに成功したという。濃縮度90%以上の核兵器用の高濃縮ウラン生産は時間の問題だ。

このままではイスラエルがイランを空爆する可能性も高まる。

日本政府も、かねてイランに濃縮活動の停止を求めてきた。岡田外相が言うとおり、イランは「賢明な決断」をすべき時だ。

産経新聞 2010年06月11日

イラン安保理決議 日本は制裁を傍観するな

核開発を進めるイランに対し、国連安全保障理事会が強制的な貨物検査(臨検)や金融制裁、大型兵器の禁輸などを柱とする追加制裁決議を賛成多数で採択した。

イランに対し、米政権はオバマ大統領が就任した昨年1月、対話路線に転換した。しかし、イランは対話に乗る構えを見せる一方でウラン濃縮施設を増設したり、高濃縮化の成功を表明するなど核兵器開発の疑惑を解消しようとしてこなかった。2006年以来4度目となる今回の制裁決議は当然と言わざるを得ない。

決議ではイランの国民生活に大きな影響を与えるエネルギー分野の制裁が除外され、制裁強化に慎重な姿勢だった中国とロシアも賛成した。イランが「核の平和利用」を主張するのなら、安保理や国際社会が求める濃縮活動の停止に応じるべきだ。

日本のイランへの原油依存度は11・9%(08年)にのぼる。重要な国である。だが、日本は米欧などとともに核不拡散の観点から過去3回の安保理による対イラン制裁を一貫して支持してきた。今回も非常任理事国として決議に賛成した。

岡田克也外相は決議支持の理由について、核不拡散体制の堅持、北朝鮮の核・ミサイル問題への対応との関係、エネルギー供給に大きな影響をもつ中東地域の安定などの観点を挙げ、「毅然(きぜん)とした対応が必要であるとの立場」を強調している。

そう表明した以上、問題解決に向けた具体的な行動が求められる。今回の対イラン制裁決議についても、北朝鮮が1年前に強行した核実験を受けて安保理が採択した対北制裁決議と一体化してとらえるべきだ。

北朝鮮に対する船舶・航空機の貨物検査はこれまで数度にわたり実施され成果を挙げた。対イラン決議では「イラン発着の全貨物」に対象が拡大され、公海上の臨検についても、対北決議と同様、船籍国の同意を得て加盟国に実施を要請するとしている。

北朝鮮とイランの核やミサイル開発における協力関係がしばしば取りざたされる。イランはそのつど否定するが疑惑は消えない。

日本は安保理決議を実行する責務を負う主要国だ。民主党は昨夏の衆院選の公約で「国連を重視した世界平和の構築」を打ち出した。菅政権による毅然とした対応を求めたい。

読売新聞 2010年06月08日

国連安保理付託 北朝鮮の責任を速やかに問え

韓国政府が、哨戒艦沈没事件を国連安全保障理事会に付託した。近く安保理で協議が始まる。

安保理は、北朝鮮の責任を厳しく問う文書を速やかに採択すべきだ。

3月26日に黄海で起きた沈没事件の原因について、韓国の軍・民間合同調査団は、「北朝鮮の魚雷攻撃」によるものと断定した。

北朝鮮の無謀で危険な体質を改めて想起せざるをえない。核とミサイルで武装すれば、その脅威が格段に増すのは明らかだ。

安保理は、この危険性を十分に認識して措置を講じるべきだ。

安保理は、北朝鮮の2度の核実験のたびに制裁決議を採択している。それらの決議では、さらなる核実験や弾道ミサイル発射を行わず、核兵器と核開発計画を放棄するよう北朝鮮に求めている。

それを北朝鮮が無視する現状を放置してはならない。まず、その決議の順守を確認すべきだ。

決議は、北朝鮮に武器禁輸を科している。また加盟国には、北朝鮮の核・ミサイル開発につながるあらゆるカネ、モノ、人の移動を阻止するよう求めている。その履行を徹底する必要がある。

中国は、北朝鮮にとって最大の貿易相手国だ。北朝鮮の新たな挑発を封じ込める上で、中国が責任をもって決議内容を履行することがきわめて肝要である。

交易額で中国に次ぐ規模の韓国は、すでに一部を除き北朝鮮との取引を中断した。ただ、先週の統一地方選で与党は思わぬ大敗を喫した。それが北朝鮮への対決姿勢にどう影響してくるのか。

韓国は「適切な対応」を安保理に求めた。新たな制裁決議を目指す当初の方針は断念したという。北朝鮮とつながりが深い中国が、安保理での決議などの採択に難色を示しているからだ。

安保理では、常任理事国の意向が強く反映されるのが常だ。

先週も安保理は、パレスチナ自治区ガザへの支援船団をイスラエル軍が急襲した事件をめぐり、死傷者の出た「行為」を非難する議長声明を採択した。だが、米国の反対もあって、イスラエルを直接非難することはなかった。

今回も、こうした議長声明になる可能性も指摘されている。

肝心なのは、安保理が今回の事件を容認しないという意思を早期に示すことだ。死者46人を出した事件を不問に付すようでは北朝鮮につけいる(すき)を与えるだけだ。

安保理メンバーの日本は、北朝鮮への独自制裁を強化した。米国とともに韓国を支えるべきだ。

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