G20閉幕 日本の財政再建も急務だ

朝日新聞 2010年06月08日

G20 成長と財政の二兎を追う

世界経済に暗雲が広がる中、優先させるべきは景気回復か、財政再建か。簡単には答えが出ない難問である。

韓国・釜山に集まった20カ国・地域(G20)の財務相や中央銀行総裁たちも頭を悩ませたのだろう。共同声明は二兎(にと)を追う書き方になった。持続可能な財政の重要性を強調しつつ、経済成長にも配慮する姿勢だ。

ギリシャとユーロの危機で欧州連合(EU)などが採った措置については歓迎し、深刻な財政問題を抱える国に対して「健全化のペースを加速させる必要がある」とした。

世界経済のリスクは、金融危機から財政危機に焦点が移りつつある。

それには必然性がある。金融危機によって世界は同時不況に陥った。各国が協調して財政出動に踏み切り、景気を上向かせたが、財政は悪化の一途だ。赤字が深刻な国の国債を抱える銀行などの経営不安から、再び金融危機が起きかねない。

欧州も米国も日本も、財政の悪化がひどい。景気回復の芽を摘むような大幅な増税には踏み切れないが、市場の信認を得て成長を軌道に乗せるためにも、中期的な財政再建の道筋を示すことが喫緊の課題になった。

世界的な金融危機とそれに続く財政危機。この歴史的経験から学ぶべきもうひとつの教訓は、極端なバブルを繰り返さないよう知恵を絞ることだ。

つい先ごろまで、経済学者の間では、中央銀行の金融政策はバブル生成を防げず、バブル崩壊後にすばやく金融緩和するなどして処理をすればよい、という考えが主流だった。しかし、それは次々とバブルを生み出す結果につながってきた。

米国のITバブル、住宅バブル崩壊に続き、欧州でも一部の国の住宅バブル崩壊が経済への打撃となった。新興国のバブルも懸念されている。バブルが崩壊すると、財政出動も切り札にはならず、悪影響は長引く。主流派の考えに疑問符がつくのは当然だ。

金融・財政政策は、その国の状況に応じて行うのが基本である。しかし、規模の大きな国や地域が低金利を長く維持すると、国際的な資本移動を通じて他国のバブルを生み、結局は、自国もしっぺ返しを受ける。

金融政策だけではバブルを防ぐことが難しいが、各国の規制や監督も組みあわせ、バブルを小さくしなければならない。だから金融政策や監督体制は、世界的な視点と協調が重要だ。

そのためにもG20などの会議の場で、財務相や中央銀行総裁たちが率直に意見を交わし、認識を共有する努力が欠かせない。

日本にはこの点、大きな疑問符がつく。1年間で首相が3人目、財務相が4人目。異常さを今度こそ克服しなくては、世界の信頼を失う。

毎日新聞 2010年06月06日

G20会議と日本 財政再建で信頼回復を

日米欧など先進国に主要新興国を加えた20カ国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁会議が韓国の釜山で開かれた。今月下旬にカナダで開催されるG20首脳会議(サミット)に備えた重要な会議だったが、鳩山由紀夫首相が辞任し、次の内閣が発足していない日本からは財務相が出席できなかった。

安定した政権を持たないと、国際的な枠組みや協調体制を決める議論の輪から外れてしまう。昨年9月のロンドンG20も、政権交代直前ということで与謝野馨財務相(当時)が欠席した。会議そのものに参加しないことによる損失もさることながら、1年に3回も財務相が代わるようでは、他国政府との人脈や信頼関係も築けない。国際社会における、こうした重大なロスを、政治家は深刻に受け止めるべきだ。

釜山会議は、欧州での信用不安が引き続き世界経済に影を落とす中で開催された。進行中の景気回復が腰折れしないよう必要な施策を継続する意義を認めつつ、財政面の不安を解消する重要性で一致した。

金融市場が各国の債務の状況にかつてない注目を寄せていることから、共同声明は「深刻な財政課題を抱える国は健全化のペースを加速させる必要がある」と一層の改善を求めている。どの国が、とは述べていないが、日本の財政が最も深刻であることは事実だ。国内に多額の金融資産があることなどから、市場は日本の債務残高をまだそれほど不安視していない。しかし、だからこそ、本気で財政再建に取り組む時なのである。市場に目を付けられてからでは、改革の痛みが何倍にも増す。ギリシャの例が示している。

国際通貨基金(IMF)も先月、「景気回復の力強さが見えてきた今こそ、財政再建に着手する好機だ」と日本に迅速な行動を促した。「財政の安定性が確保されることが消費者や企業に安心感を与え、成長につながる」と来年度からの消費税の段階的な引き上げを提案した。

今回、釜山の会議に財務相として出席するはずだった菅直人氏も、増税と経済成長は両立可能と主張し、消費税の早期引き上げに前向きな発言をしてきた。その菅氏が首相となったことで、財政再建が具体的に動き出すことを期待したい。

政府が月内に取りまとめる財政再建目標とその達成計画は最初の試金石となる。菅首相は、新内閣や与党と危機感を共有し、痛みを伴う再建への理解を求めなければならない。

釜山の会議は出席しなかったが、本番のサミットに首相として初参加する菅氏である。信頼に足る財政再建計画を伴って国際デビューを果たしてもらいたい。

産経新聞 2010年06月06日

G20閉幕 日本の財政再建も急務だ

主要20カ国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁会議は「世界経済の持続的成長のためには深刻な財政課題を抱える国の財政再建の加速が急務だ」とする共同声明を採択して閉幕した。

ギリシャ発の信用不安は欧州連合(EU)や国際通貨基金(IMF)による巨額資金支援が合意されたが、一向に収まらない。さらに問題なのは、日本を含む先進各国の財政リスクを市場が注目するようになった点だ。

にもかかわらず、今回の会議に日本の財務相の姿がなく、日本の存在感の低下が一段と目立った。菅直人新首相は財政再建に全力を傾け、世界に信頼される日本を取り戻さなければならない。

会議は4日のニューヨーク株式市場が4カ月ぶりの安値を付けるなど世界的な金融市場の混乱が続く中で開かれた。財政悪化懸念がギリシャから南欧諸国に広がり、そうした国々の国債を引き受けている欧州金融機関の信用不安が取りざたされるようになった。

会議の焦点も信用不安の連鎖を断ち切るために、どこまで明確なメッセージが出せるかにあった。声明で「金融市場の変動が世界経済の回復を妨げる懸念がある」としたのは当然である。

このまま放置すれば、金融危機が実体経済を悪化させ、一昨年秋のリーマン・ショックの繰り返しになりかねないとの懸念は全参加国で共有された。世界経済は各国が協調して財政出動と金融緩和を行い、ようやく回復に転じたばかりだ。景気の二番底は是が非でも回避しなければならない。

拙速な財政再建は景気を冷やす懸念があり、経済対策とのバランスが難しい。だが市場が注視している以上、先進国も声明で明示した財政再建の具体化が必要だ。

今回、新首相に選出された菅財務相の代わりに峰崎直樹財務副大臣が最終日だけ出席した。この1年間でG20は4回開かれたが、日本の財務相本人の出席は1回にすぎない。それぞれ事情があるにせよ、グローバル経済の不確実性が高まる中で国際会議の重要性は増している。閣僚の出席に工夫の余地がなかったのかどうか検証し、改善しなければならない。

菅氏は民主党代表選で「強い経済、強い財政、強い社会保障を一体としてめざす」と訴えた。成長戦略と財政再建をどう両立するのか。さっそく、政策の発信力と実行力が試される。

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