菅新首相 国の針路正し危機打開を ばらまき政権公約を撤回せよ

毎日新聞 2010年06月06日

論調観測 菅新首相 分かれる「市民派」の評価

民主党の新代表に選ばれた菅直人氏が首相に指名され、組閣と党役員人事が進められた。毎日新聞の世論調査では菅首相に期待すると答えた人が60%を超え、民主党の支持率も回復している。

当面の焦点は小沢一郎前幹事長の影響力をどこまで排除できるかで、5日の社説でも「脱小沢」がポイントとなっている。

毎日は「二重権力構造を招かない体制を構築し、組織優先でバラマキ型に陥った悪弊を改めることが必要だ」と指摘し、読売も「背後から首相をコントロールする『二重権力』構造を排除することが大事だ」と述べる。

産経の場合はさらに進み「鳩山由紀夫首相を見習って、政界からの引退を決断すべきである」と主張する。

1年前後で政権を放り出した過去4代の首相のいずれもが首相経験者の子や孫だった。一方、菅氏は普通のサラリーマン家庭に育ち、市民運動を経て政界入りしたという経歴の持ち主だ。

「近年の首相にないユニークさを持つ。ここ数代、ひ弱で資質が問われたリーダーたちとは異質のしたたかさを期待したい」と毎日は評している。朝日も「新首相を表現するキーワードは、『市民』である」と、力点を置いて指摘している。

鳩山前首相が退陣を明らかにするまで、首相の「たらい回し」を批判していたのが朝日だった。しかし、菅氏への交代については一転し、「昨年の政権交代にひけを取らないくらいの歴史的な意味合いを読み取ることができる」と積極的に評価している。

一方、この「市民」という点について読売は「市民感覚も大切である」と述べながら、「国益を重視するという大局的、戦略的な視点からの政治運営に努めてほしい」と注文をつける。そして、日経や産経は市民運動について触れていない。

特に産経は拉致実行犯の釈放嘆願書に菅氏が署名した過去の事例をあげているように、菅首相となっても民主党政権への批判的な構えを継続するようだ。

鳩山前首相辞任の直接の原因となった普天間飛行場問題について菅氏は、辺野古沖移設の日米合意を踏襲すると表明した。

この問題では、日米合意の実行を優先すべきだという主張の一方で、地元が反対する限り移設はできず、普天間の固定化につながるとの主張もあり、社説の論調も分かれている。

市民運動から出てきた菅氏が「民意」にどう対応するのか。注目していきたい。【論説副委員長・児玉平生】

産経新聞 2010年06月05日

菅新首相 国の針路正し危機打開を ばらまき政権公約を撤回せよ

第94代首相に指名された菅直人氏には国家の針路を正し、国難を打開することを強く求めたい。

8カ月余りで崩壊した鳩山政権は迷走を続け、国益を大きく損なった。国民は民主党政治は信頼に値しないと突き放した。

副総理・財務相として内閣に参画していた菅氏は、こうした危機に手をこまねいていたのではなかったか。所管外とはいえ米軍普天間飛行場移設問題に関与しようとしなかったのは、待ちの姿勢と批判されても仕方ない。

これからは国家と国民の平和と繁栄に関する最高の責務を負うこととなる。「この国を立て直すのが第一の仕事」と語ったように国政への信頼を取り戻すことに全力を挙げなくてはならない。

◆小沢氏は完全退場を

菅氏は官房長官に仙谷由人国家戦略担当相、幹事長に枝野幸男行政刷新担当相を充てる方向で調整している。打破すべきは小沢一郎幹事長への権力集中に伴って続いてきた独裁的な党運営である。小沢氏と距離を置いていた人材を内閣と党の中枢に据え、小沢氏の影響力を排除することは当然である。

小沢氏は政治とカネをめぐる問題で国民の信を失ってしまったことを潔く認め、鳩山由紀夫首相を見習って、政界からの引退を決断すべきである。

菅氏は党の政策調査会復活も掲げた。政調会長を閣僚として処遇したいとも述べた。二重権力と呼ばれた政策決定システムを刷新する姿勢を貫いてもらいたい。

国を立て直す最重要課題の一つが、鳩山政権によって破綻(はたん)寸前まで悪化した財政の再建にあることは明らかだ。ユーロ不安で政府債務の信用リスクが問われている中、債務残高の対GDP(国内総生産)比が181%と先進国で突出している日本は、常に経済崩壊に直結する金利急騰リスクにさらされているからである。

菅氏も財政再建に意欲を示した。だが、問題は今月中に策定する財政健全化目標でどこまで具体的道筋を示せるかだ。そのカギを握るのは消費税である。

消費税率見直しの4年間凍結を主張していた鳩山首相は退陣した。議論はしやすくなるが、参院選を控えて与党内に反対論が根強いうえ、菅氏自身が引き上げの必要性を表明するだけでその時期や幅に言及していない。

財政健全化目標は基礎的財政収支の赤字削減にしろ債務残高対GDP比圧縮にしろ、中期と長期の目標数値を示さねばならない。その目標実行の担保として、消費税を中心とした増税の具体的スケジュールは不可欠なのだ。

増税したとしても医療・介護など成長分野に支出し、税収増によって財政を再建するという菅氏のバラ色の手法も疑問が残る。その効果が上がるまで財政破綻は待ってくれないし、机上の計算が一つ狂えば目も当てられまい。

まず、ばらまき政権公約を撤回し、増税を堅実な財政健全化につなげる。それが成長の阻害要因を取り除く最大の政策である。菅氏は鳩山政権で国家戦略担当相、財務相として成長戦略の迷走と財政悪化に深くかかわった責任をもっと自覚せねばならない。

◆郵政法案合意は問題

菅氏は国民新党との連立継続を決めたが、郵政民営化に逆行する郵政法案について「速やかな成立を期す」と確認したことは問題だ。首相として最初の政策判断が問題の法案にゴーサインを出すものでは、政治の方向性が変わらないことを印象づけるだけだ。

亀井静香郵政改革・金融相との協議では、社民党も入った昨年9月の3党合意を引き継ぐことも確認した。連立離脱した社民党に引き続き政権への協力を求める布石だろう。

だが、連立離脱の原因となった普天間問題で社民党が辺野古移設に同意することはあり得まい。安全保障政策の明確な不一致が残っているのになぜ連携なのか。「選挙至上主義」は残念だ。

それより、日米合意に沿って8月末までに代替施設の位置や工法を確定する作業に全力を挙げるべきだ。沖縄の強い反対の中で難しい作業だが、米国との約束を果たし同盟を堅持せねばならない。

不安材料は、北朝鮮による拉致問題への対応だ。拉致実行犯である辛光洙(シン・ガンス)容疑者らの釈放嘆願書に菅氏が署名したことがあるからだ。個別名まで確認する余裕はなかったなどと釈明しているが、明確に謝罪すべきだ。対北制裁問題で毅然(きぜん)とした姿勢を示すかどうか注視したい。

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