第94代首相に指名された菅直人氏には国家の針路を正し、国難を打開することを強く求めたい。
8カ月余りで崩壊した鳩山政権は迷走を続け、国益を大きく損なった。国民は民主党政治は信頼に値しないと突き放した。
副総理・財務相として内閣に参画していた菅氏は、こうした危機に手をこまねいていたのではなかったか。所管外とはいえ米軍普天間飛行場移設問題に関与しようとしなかったのは、待ちの姿勢と批判されても仕方ない。
これからは国家と国民の平和と繁栄に関する最高の責務を負うこととなる。「この国を立て直すのが第一の仕事」と語ったように国政への信頼を取り戻すことに全力を挙げなくてはならない。
◆小沢氏は完全退場を
菅氏は官房長官に仙谷由人国家戦略担当相、幹事長に枝野幸男行政刷新担当相を充てる方向で調整している。打破すべきは小沢一郎幹事長への権力集中に伴って続いてきた独裁的な党運営である。小沢氏と距離を置いていた人材を内閣と党の中枢に据え、小沢氏の影響力を排除することは当然である。
小沢氏は政治とカネをめぐる問題で国民の信を失ってしまったことを潔く認め、鳩山由紀夫首相を見習って、政界からの引退を決断すべきである。
菅氏は党の政策調査会復活も掲げた。政調会長を閣僚として処遇したいとも述べた。二重権力と呼ばれた政策決定システムを刷新する姿勢を貫いてもらいたい。
国を立て直す最重要課題の一つが、鳩山政権によって破綻(はたん)寸前まで悪化した財政の再建にあることは明らかだ。ユーロ不安で政府債務の信用リスクが問われている中、債務残高の対GDP(国内総生産)比が181%と先進国で突出している日本は、常に経済崩壊に直結する金利急騰リスクにさらされているからである。
菅氏も財政再建に意欲を示した。だが、問題は今月中に策定する財政健全化目標でどこまで具体的道筋を示せるかだ。そのカギを握るのは消費税である。
消費税率見直しの4年間凍結を主張していた鳩山首相は退陣した。議論はしやすくなるが、参院選を控えて与党内に反対論が根強いうえ、菅氏自身が引き上げの必要性を表明するだけでその時期や幅に言及していない。
財政健全化目標は基礎的財政収支の赤字削減にしろ債務残高対GDP比圧縮にしろ、中期と長期の目標数値を示さねばならない。その目標実行の担保として、消費税を中心とした増税の具体的スケジュールは不可欠なのだ。
増税したとしても医療・介護など成長分野に支出し、税収増によって財政を再建するという菅氏のバラ色の手法も疑問が残る。その効果が上がるまで財政破綻は待ってくれないし、机上の計算が一つ狂えば目も当てられまい。
まず、ばらまき政権公約を撤回し、増税を堅実な財政健全化につなげる。それが成長の阻害要因を取り除く最大の政策である。菅氏は鳩山政権で国家戦略担当相、財務相として成長戦略の迷走と財政悪化に深くかかわった責任をもっと自覚せねばならない。
◆郵政法案合意は問題
菅氏は国民新党との連立継続を決めたが、郵政民営化に逆行する郵政法案について「速やかな成立を期す」と確認したことは問題だ。首相として最初の政策判断が問題の法案にゴーサインを出すものでは、政治の方向性が変わらないことを印象づけるだけだ。
亀井静香郵政改革・金融相との協議では、社民党も入った昨年9月の3党合意を引き継ぐことも確認した。連立離脱した社民党に引き続き政権への協力を求める布石だろう。
だが、連立離脱の原因となった普天間問題で社民党が辺野古移設に同意することはあり得まい。安全保障政策の明確な不一致が残っているのになぜ連携なのか。「選挙至上主義」は残念だ。
それより、日米合意に沿って8月末までに代替施設の位置や工法を確定する作業に全力を挙げるべきだ。沖縄の強い反対の中で難しい作業だが、米国との約束を果たし同盟を堅持せねばならない。
不安材料は、北朝鮮による拉致問題への対応だ。拉致実行犯である辛光洙(シン・ガンス)容疑者らの釈放嘆願書に菅氏が署名したことがあるからだ。個別名まで確認する余裕はなかったなどと釈明しているが、明確に謝罪すべきだ。対北制裁問題で毅然(きぜん)とした姿勢を示すかどうか注視したい。
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