支援船急襲 ガザ封鎖解除が急務だ

朝日新聞 2010年06月04日

ガザ沖の悲劇 イスラエルは封鎖を解け

またしても、イスラエル軍の強硬な軍事行動が悲劇を生んだ。

イスラエルによる封鎖で人道的な危機が続くパレスチナ自治区ガザ。そこに向けて医薬品をはじめとする援助物資を運んでいた国際船団を公海上で拿捕(だほ)しようとして発砲した。人権活動家ら9人が死亡し、多数が負傷した。

イスラエルのネタニヤフ首相は、防衛のための行動だったと主張する。だが一方は完全武装の部隊であり、他方はトルコや欧州などの民間人である。首相の説明には納得できない。

国連安全保障理事会が緊急会合を開き、「イスラエル軍の武力行使で人命が失われたことを遺憾」とする議長声明を出したのも当然だ。

アラブ・イスラム諸国やトルコでイスラエル非難の行動が広がっている。米国はイスラエルへの影響力を生かして、迅速に事態打開に動く必要がある。さもなければ、米国の仲介するイスラエルとパレスチナの間接交渉も台無しになるだろう。

トルコは伝統的にイスラエルと友好関係を持ってきた。シリアやイランとイスラエルや米欧をつなぐ役割も果たしてきており、事態の悪化を放置すれば、中東安定化の試みにも打撃だ。

議長声明は2007年から続く封鎖による「ガザの人道的状況に重大な懸念」を表明した。

封鎖は国際法が禁じる集団的懲罰に当たるとの批判が強い。占領地に必要な物資やサービスを提供する義務を無視しているというものだ。08年末から3週間続いたイスラエルのガザ攻撃では多くの民間人を含む1400人以上のパレスチナ人が死亡した。そしてこんどの事件である。

中東の暴力と流血の連鎖を断ち切るには、圧倒的な軍事力を持つイスラエルが国際的なルールを守ることが不可欠だ。それを迫ることは安保理の役割だ。その第一歩として、事件の真相究明に動いてもらいたい。

米国の同盟国にも動きが広がっている。キャメロン英首相はイスラエル軍の行動を「まったく受け入れられない」と表明。ラッド豪首相はネタニヤフ首相に電話し、独立機関による事件の真相調査を要請した。

日本政府は「犠牲者が生じたことは遺憾」とする外務報道官の談話を出した。米国の立場を配慮したためか、安保理議長声明よりも抑えた内容だ。

輸入原油の約9割を中東に依存する日本。パレスチナ和平の展望が開けなければ核不拡散も危うくなり、核廃絶をめざす政策も行き詰まりかねない。日本が続けてきたパレスチナへの支援も現状ではうまく生かせない。

政府は中東和平を脅かすひとつひとつの問題にもっと敏感に反応し、行動してほしい。それも日本外交のきわめて大切な領域だ。

毎日新聞 2010年06月04日

支援船急襲 ガザ封鎖解除が急務だ

にわかには信じがたい事件である。イスラエルによる境界封鎖に苦しむパレスチナ自治区ガザへ、人道団体の船団が支援物資を運んできた。するとイスラエル軍兵士がヘリコプターなどで支援船を急襲し、小競り合いの末の発砲で少なくとも9人が死亡した。流血の経緯は明らかではないが、死者は8人がトルコ人、1人は米国人との報道もある。

国連安保理は事件翌日(1日)、イスラエル軍の武力行使に「深い遺憾」の意を表明する議長声明を全会一致で採択した。速やかな採択は是としたい。明確な非難に至らなかったのは、イスラエルへの「無条件の支持」を旨とする米国が反対したためだが、友好国をかばって済ませる問題ではない。

徹底的な真相究明が必要だ。ジュネーブの国連人権理事会はイスラエルの行動を強く非難し、国際的な独立調査団の派遣を求める決議を賛成多数で採択した。米国は反対、日本は棄権した。米国はイスラエルの調査を重視しているが、国際的な構成の方が中立性は高まる。その調査にイスラエルも全面協力すべきだ。

無論、イスラエルの「正当防衛」の主張にも耳を傾けなければならない。だが、それを信じる国がほとんど見当たらないのは、昔からイスラエルの「過剰な武力使用」が指摘されてきたからだろう。08年以降のガザ攻撃では1300人を超えるパレスチナ人が死亡した。レバノンでは、イスラエル側が「誤爆」と主張する攻撃で、国連関係者や多くの民間人が犠牲になってきた。

ユダヤ人入植地の建設や国際司法裁判所が違法と断じた「分離壁」も含めてイスラエルの問題行動は多い。しかし、これまでは安保理にイスラエル非難決議案が提出されると、米国が拒否権で葬り去るのが常だった。そんな米・イスラエル関係への怒りが急進イスラム勢力の台頭を促し、テロの土壌を肥やしてきた可能性は否定できまい。

米オバマ政権には、より公平な対応を求めたい。支援団体「フリー・ガザ・ムーブメント」の船団には約700人が乗り込み、ノーベル平和賞受賞者も支援していた。イスラエルはガザを実効支配するハマスなどの「テロ組織」と同団体が関係しているとみなし、08年以降、支援船を拿捕(だほ)したこともあったという。

支援団体の行動が合法的かどうか見定める必要もあるが、イスラエルは05年のガザ撤退後も境界を管理し、実質的封鎖を続けている。150万人ものガザ住民が食料や燃料、医薬品にも事欠く非人間的な状況は容認できない。イスラエルはガザの封鎖を直ちに解くべきだ。米国は責任を持って同国を説得してほしい。

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