「普天間」政府方針 この首相に託せるのか

朝日新聞 2010年06月03日

鳩山・小沢ダブル辞任 「維新」の出直しに挑め

多くの国民の信頼を失っていたとはいえ、国の指導者として無責任な政権投げ出しには違いない。就任わずか8カ月で、鳩山由紀夫首相が退陣する。

「政治とカネ」の問題を抱え、世論の大方が辞任を求めていた小沢一郎・民主党幹事長も、ついに職を去る。

昨年の総選挙で政権交代を実現した立役者二人の「ダブル辞任」である。

有権者自身の手による史上初めての政権交代を、鳩山首相は「無血の平成維新」と名付け、「国民への大政奉還」を宣言した。日本にようやく新しい政治が芽生えると、国民は大いに歓迎した。その期待を裏切った二人の、そして民主党の罪は重大である。

■政権交代の原点に

政権が窮地に陥っているとしても、目前の参院選対策という政党の都合で安易に首相を取りかえるのはよくないと、私たちは主張してきた。民意に直接選ばれた首相の立場には、与党内の「たらい回し」で選ばれるのとはまったく違う正統性と重みがあるからだ。

内政外交全般にわたり短命首相が続くことの弊害も大きい。腰を据えた政策の実行が難しくなり、日本の発言力の低下につながるからだ。

しかしながら、「政権交代そのものが間違いだった」といった幻滅感が、有権者の間に広がりつつあるとすれば事はさらに深刻である。

政権交代なくして実現できなかった変化は少なくない。事業仕分けや、「コンクリートから人へ」の予算配分の見直し、日米密約の解明などだ。

その一方で、自民党時代と変わらない金銭スキャンダルが繰り返される。普天間問題や財政無策に象徴される統治能力の欠如も、いくら待てども何ら改善される気配がない。

政権交代の功の部分を「小鳩政権」の罪の部分が帳消しにしてしまって、首相自身が認めるように何を言っても国民がまともに耳を傾けなくなった。

政治不信と政党離れという民意の荒廃を食い止めなければならない。歴史的な政権交代の意義を無駄にはできない。今回のダブル辞任が「平成維新」の出直しに資するなら、必要な通過点だと考えるべきだろう。

問題はすべてこれからである。

■小沢氏も政界引退を

首相、幹事長が辞めるといっても、民主党が信頼される政権党としてリセットするのは簡単ではない。

今の民主党は異質な潮流が同居する「寄り合い所帯」の側面をなお残す。鳩山氏や菅直人副総理ら旧民主党出身者と、自民党旧田中派、旧竹下派の嫡流とされる小沢氏らとの間には、理念政策の方向性でも政治手法や体質でも大きな隔たりがある。

そうしたなかで首相は、選挙対策、国会対策などの党運営を小沢氏に全面的に委ねてきた。小沢流は、数にものを言わせた強引な国会運営、選挙至上主義と露骨な利益誘導を特徴とする。小沢氏に誰もものをいえない風潮は、野党から「小沢独裁」と批判された。

こうした「古い政治」の体質や小沢氏依存の党運営を、首相が放任し傍観しているだけだったことも、有権者を失望させたことを忘れてはならない。

政権交代に有権者が期待したのは、小沢氏的ではない「新しい政治」の姿だったはずだ。政官業の癒着の排除、徹底した情報公開や政策決定の透明化、自由闊達(かったつ)な議論を通じた丁寧な合意形成などである。その原点に戻るには、小沢氏の影響力から脱し、その手法と明確に決別しなければならない。

首相は次の総選挙には立候補しない考えを表明した。小沢氏もこの際、政界引退を考えるべきだ。政治改革を始め、政権交代も実現した小沢氏の功績は大きい。だが今となれば、「小鳩体制」の文字通りの清算こそ民主党再生への近道ではないか。

■代表選に手を抜くな

鳩山氏の後任を選ぶ党代表選挙は、8カ月の失政を厳しく総括し、党の力量を鍛え直す重要な舞台である。

複数の候補者が徹底した論戦を通じ政見をぶつけ合い、誰が次のリーダーにふさわしいかを競い合う場である。

有権者の歓心を買うことを優先した「ばらまき」型マニフェストの限界を論じ、見直す好機でもある。十分な日数を確保することが欠かせない。

ところが驚くべきことに民主党は、あすの両院議員総会で新代表を選出する方針を決めてしまった。国会を延長せず、参院選を既定方針通り、24日公示、7月11日投票で実施するためだ。

新内閣が発足して勢いのあるうちに、また野党の対抗策が整わないうちに選挙に臨んだ方が有利だという思惑が明白だ。しかし、顔を代えれば支持が戻ってくるというポピュリズム(大衆迎合主義)的な発想に引っかかるほど有権者は甘くはあるまい。

「小鳩体制」の構造的な問題を総括する。理想あって方法論なしとも揶揄(やゆ)される統治能力不足の克服策を考え抜く。経済財政や外交安全保障政策を見直す。代表選で議論すべきことはやまほどある。拙速はいただけない。

野党時代の民主党は、「政権選択」に直結する総選挙をしないまま、自民党が次々と首相を交代させたことを厳しく批判してきた。その言葉はいま、民主党自身にはねかえってくる。

新首相はどんな政治を進めるのか、一定の判断材料を国民に示したうえ、なるべく早く解散・総選挙をし、信を問うのが筋である。

毎日新聞 2010年06月05日

菅直人新首相 政治立て直す指導力を

菅直人新首相が誕生した。迷走を極めた鳩山内閣が9カ月足らずで退陣し、民主党の政権担当能力への国民の信頼が大きく揺らぎ、2度の失敗が決して許されない中で国政のかじ取りを担う。

前政権の失敗を踏まえ政権の性格が変わったことを示すためには小沢一郎前幹事長との二重権力構造を招かない体制を構築し、組織優先でバラマキ型に陥った悪弊を改めることが必要だ。危機的状況にある財政再建、揺らぐ日米関係の再構築など内外の諸課題で責任ある方策を掲げ、来る参院選で国民の審判を仰がねばならない。

「日本の行き詰まりを打破したい」。菅氏は国会での首相指名後の記者会見で難局にあたる決意を強調した。だが、人事、政策については総じて慎重な言い回しに終始した。

今回、民主党代表選の焦点は、鳩山由紀夫前首相と共に役職から身を引いた小沢氏の影響力排除をどこまで示せるかにあった。菅氏の貫禄勝ちだったとはいえ、小沢氏と距離を置く姿勢を明確にしたうえで樽床伸二衆院環境委員長に圧勝した意味は大きい。最大勢力である小沢氏系グループがキングメーカーとなる構図は幻想だったとすら言える。

とはいえ「脱小沢」の明確な指標は、党の要の幹事長人事だ。小沢氏と距離を置く枝野幸男前行政刷新担当相の起用を検討している模様だが、仮に小沢氏への配慮から見送るようでは政権の足元を見られよう。

国会で首相に指名されたにもかかわらず、組閣を来週に先送りした対応も異例だ。体制構築にある程度の日数をかけることはやむを得ないが、危機管理上、本来は首相指名選挙も延ばすべきではなかったか。

菅氏に求められるのはトップの言動への信頼を回復するリーダーシップの発揮である。市民運動からスタートし、さきがけなどを経て旧民主党結党に参画した菅氏は非2世議員で、自民党に所属した経歴も持たないという近年の首相にないユニークさを持つ。ここ数代、ひ弱で資質が問われたリーダーたちとは異質のしたたかさを期待したい。

だからといって、国民の菅氏を見る目が決して温かいわけではあるまい。鳩山内閣の副総理としても存在感を発揮したとは言い難い。かつて厚相として「薬害エイズ」に切り込んだ改革者のイメージを取り戻すには、前政権の路線継承を強調するだけではいけない。政策や政権運営の見直しを果断に進めねばならない。

組織票対策があらゆる政策課題に優先したかのような選挙至上主義を捨て、開かれた党運営に改めることが大切だ。「政治とカネ」の問題も真に政界の浄化を目指すのであれば小沢氏らが説明責任を果たすことはもちろん、企業・団体献金の全面禁止など結果を見せねばなるまい。

「脱官僚」の政治主導が機能しなかった総括も必要だ。政治家と官僚の役割分担を整理し、意思決定をスムーズに行う仕組みを再構築すべきであり、菅氏が会見で官邸体制の再構築に言及したのは理解できる。鳩山内閣では首相が政務、小沢氏が党務を分担する仕組みが機能せず混乱した。政権交代と同時に廃止された党政調を復活させることも賛成だ。

内外の政策課題でまず直面するのが政権崩壊の要因となった沖縄・普天間飛行場の移設問題である。菅氏は辺野古沖に移設する日米合意を踏襲し、沖縄の基地負担軽減に取り組む姿勢を示した。だが、沖縄県や名護市の同意が得られるめどは立っていない。その一方で、8月末に工法など具体案の策定を迫られる。

仮に調整に失敗すれば普天間飛行場の固定化という最悪のシナリオを招きかねない。当面の危険除去の検討を急ぐことはもちろん、首相自ら早期に沖縄に行き、失われた信頼関係の構築を急がねばならない。

財政も危機的状況にある。菅氏はこれまで消費増税積極論者だったが鳩山前首相の「消費税4年据え置き」との方針を果たして見直すのか。指針を示さなければ、責任ある政治とは言えまい。

その意味で、重要なのが参院選で有権者に示す党の公約だ。さきの衆院選で掲げたマニフェストはバラマキ型の内容ですでに財源の骨格が破綻(はたん)している。誤りは率直に国民に謝罪したうえで、実現可能なプランを示さねばならない。

参院選は本来、鳩山内閣の中間評価の場となるべきだった。菅氏が小沢氏と距離を置けばその分、9月に任期満了を迎える代表選のハードルは高くなる。参院選である程度の結果を示せなければ政権運営が立ち行かなくなる事態も十分にあり得る。そうなれば民主党の政権担当能力が今度こそ問われる。

一方で、自民党など野党も戦略の練り直しを迫られる。逆風が吹く鳩山内閣の下での参院選突入を本音では期待していた向きもあった。だが首相交代を受け、単純な与党批判から一歩踏み込んだ政策論争が選挙戦で求められよう。

鳩山前内閣の混乱と挫折を決して無駄にせず、教訓として生かすべきだ。それは、与野党が共通して国民に負う責務である。

読売新聞 2010年06月03日

鳩山・小沢退陣 脱「二重権力」で政策転換図れ

万事休したということだろう。鳩山首相が退陣を表明した。

昨年9月、民主、社民、国民新3党による鳩山連立内閣が発足した時、これほどの短命を予測した人は、まずいまい。

だが、わずか8か月半の間、鳩山首相は、米軍普天間飛行場移設問題で、わが国の外交・安全保障の基軸である日米同盟を傷つけ、日本政治を大混乱させた。

母親からの巨額資金提供など、「政治とカネ」にまつわる疑惑も払拭(ふっしょく)できなかった。

◆2トップ辞任は当然◆

首相とともに小沢民主党幹事長も辞任することになった。2人は政権運営の行き詰まりに「連帯責任」を負わねばならず、辞任は当然のことだ。

民主党は、首相と党執行部の退陣を受け、4日の両院議員総会で「ポスト鳩山」の新代表を選出する運びだ。

後継には、菅副総理・財務相らの名があがっている。

新政権は、日米同盟関係の再構築と、経済政策の一新による景気の回復に、全力を挙げる体制をつくらなければならない。

鳩山首相は両院議員総会で、「国民が徐々に聞く耳をもたなくなってきてしまった」と辞任の理由を述べた。国民がほとんど耳を貸さなくなったのは、首相自らが招いた結果だ。

普天間飛行場の移設問題で、首相は「最低でも県外」と言い、米国、連立与党、沖縄の合意を得るという「5月末決着」を何度も繰り返しながら、いずれも、あっさり反故(ほご)にした。

これだけ言行不一致を重ねれば、国民が首相の言葉を信じなくなるのは当たり前だろう。

小沢氏は、自らの資金管理団体をめぐる土地取引疑惑など「政治とカネ」の問題について、国会で一切説明してこなかった。

これが国民の政治不信を招き、鳩山政権の足を引っ張ってきたのは明らかだ。

本紙の世論調査でも、小沢氏の幹事長辞任を求める声は圧倒的だった。小沢氏が何らけじめをつけなければ、批判は一層強まったに違いない。

小沢氏が辞任に至ったのは、こうした事情が背景にあったためとみられる。ただ、首相が強調したように、「クリーンな民主党」を目指すというなら、小沢氏には、一連の疑惑について、詳しい説明が求められよう。

◆衆院解散が筋だが◆

衆院選で国民の審判を受けていない政権は正統性に欠ける。これまで民主党は、こう主張し、毎年のように首相の交代を繰り返す自民党内閣を批判してきた。

本来なら衆院解散によって新首相を選ぶのが筋だ。ただ、参院選が迫っているうえ、目下、朝鮮半島情勢は緊迫し、日本経済も岐路に立たされている。

民主党が政治空白を最小限にするとして、新政権づくりに着手したのはやむを得まい。

民主党の新政権は、これまでの「小・鳩」体制と同じ過ちを繰り返してはならないだろう。

小沢氏が、首相を背後からコントロールするような「二重権力」構造は一掃すべきである。

「政策決定の内閣一元化」の名の下に内閣と与党との関係がギクシャクし、党内の議論が封印される愚も避けることが大切だ。

◆政権公約を見直せ◆

民主党が政権の「顔」を替えれば、有権者の支持を回復できると考えているなら甘すぎる。

鳩山政権の挫折の原因は、政治倫理の問題や外交・安全保障政策の失敗だけではないからだ。

衆院選での政権公約(マニフェスト)への過度のこだわりや、官僚組織を排除する「政治主導」の弊害は大きい。

選挙のための、目に余るポピュリズム(大衆迎合)政治に、終止符を打ってはどうか。

大事なのは、子ども手当や、農家への戸別所得補償制度、高速道路無料化といった「財源なきバラマキ施策」を、できるだけ早く見直すことだ。

財政再建と社会保障制度を安定的に運営するための財源確保に、消費税率の引き上げが避けられない。この点については、国民の理解も進んでいる。

新代表は、税制の抜本改革に正面から向き合うなど、党の政策を転換させる胆力が欠かせない。

日本経済の確かな将来像を描く成長戦略の策定も急務だ。

一方、日米同盟をしっかり機能させていくことも重要だ。

米国が対日不信を強める中、北朝鮮の魚雷攻撃による韓国哨戒艦沈没事件が発生した。中国海軍は、遠洋での艦隊訓練を常態化させようとしている。日米関係の悪化は、アジア太平洋の関係諸国にも不安を与えている。

新政権は普天間問題の日米合意を堅持し、両国の信頼関係を確かなものにしなければならない。

産経新聞 2010年06月03日

鳩山首相退陣 国民に信を問うのが筋だ これ以上国益失う政治やめよ

鳩山由紀夫首相と小沢一郎民主党幹事長が辞任を決断した。遅きに失したとはいえ、当然すぎる判断である。

昨秋の鳩山政権発足以降、内政、外交両面での場当たり的な政策と迷走は国益を損ない続けた。政治とカネをめぐるトップ2人の開き直りと不誠実な対応は、国民の信頼を失墜させた。

鳩山氏は釈明の弁を述べていたが、日本を混乱と混迷に追い込んだ失政の数々に向き合おうとはしなかった。

トップ2人の首をすげ替えても問題の本質は何も変わらない。民主党は4日に新代表を選ぶが、拙速な選択では、これまでの国益無視と弥縫(びほう)策の政治をそのまま継続することになりかねない。首相が代わる以上、国民の信を問うことが最優先されるべきだ。

◆国を潰す「ばらまき」

民主党主導による政治の是非を国民に問うべき理由は、日本の安全保障と財政運営を任せることに根本的な疑念があるからだ。

首相は両院議員総会でのあいさつで、今年度予算を成立させたことを「誇りに思う」と述べたが、鳩山政権は国民のための予算と称して、子ども手当や農家への戸別所得補償など、ばらまき政策を推し進めた。一方で、これらの財源を安定的に確保することを怠ってきた。これをどう考えるかだ。財源として国債発行や「埋蔵金」をあてにするのは、国家財政への責務を放棄したものだ。

朝日新聞 2010年06月02日

首相退陣論 これで逆風はかわせない

目前の参院選を何とか乗り切るために、鳩山由紀夫首相に辞めてもらう。そういう狙いが見え見えである。考え違いというほかない。

首相が米軍普天間飛行場の移設問題で大きくつまずき、社民党は政権を離脱した。それをきっかけに、民主党内で首相退陣論が噴き出している。

確かに深刻な失政である。外交・安全保障分野に限らず、首相の言葉の軽さと判断のぶれは目に余る。国の指導者としての資質に疑問符がつき、内閣支持率の危機的な水準は世論が首相を見放しつつあることを示している。

自民党政権時代なら間違いなく引きずり下ろされているだろう。2001年の森喜朗首相から小泉純一郎首相への交代が典型だ。目先を変え、逆風をかわそうという発想である。

しかし、時代は決定的に変わったはずではなかったのか。

昨年の政権交代の大義は、永久与党の地位に甘え、有権者を差し置いて自分たちの都合だけで首相の座を「たらい回し」してきた自民党政治との決別ではなかったか。

その動きの先頭に立って有権者を引っ張り、巨大な支持票を集めたのが、ほかならぬ鳩山民主党だった。

トップリーダーの力量、理念政策の方向性、政治手法や体質といった政党の持つ統治能力そのものを有権者が見比べ、直接選ぶ。それが「政権選択」時代の政治の姿であるはずだ。

鳩山政権の迷走でかすんだ感があるとはいえ、政治の質を根本的に変える試みの意義は大きい。

そうした政治の流れから誕生した首相を退陣させようというのなら、早期に衆院解散・総選挙を実施し、有権者に再び政権選択を求めるべきではないか。それなしに「たらい回し」に走るのは、民主党の自己否定に等しい。

いま民主党がなすべきは、政権8カ月の失敗から何を学び、どこを改めるのか、猛省することである。

政権への期待はなぜしぼんだのか。

政治とカネの問題はもちろんだが、政権与党としての統治能力のほころびが限界に達しつつある。

とりわけ政権公約(マニフェスト)という有権者との約束の取り扱いを誤った。予算の見直しにせよ普天間にせよ、「やるやる」というだけで実現に結びつかない。財源の裏付けを欠いたままのもの、理念に逆行する利益誘導的な施策も目立つ。努力の上での挫折ならまだしも、最初から約束を守る気があったのかという疑問すら浮かぶ。

本来の理念や方向性は生かしつつ、公約を少しでも実現可能なものに書き改め、参院選で有権者に投げかける。

それしか失われた政権への信頼を取り戻す道はない。そのための議論の時間が退陣騒ぎで奪われるのは、民主党自身にとっても愚かしいことである。

毎日新聞 2010年06月03日

鳩山首相退陣 民主党は猛省し出直せ

戦後、初めての本格的な政権交代が、わずか8カ月余でこんな事態となるとは誰が予想しただろう。

鳩山由紀夫首相が2日、辞任を表明した。首相自らの大失態となった普天間問題をきっかけに、民主党内で噴出してきた退陣要求に追い込まれた末の決断である。併せて小沢一郎幹事長も、鳩山首相にうながされる形で辞任した。政治資金問題にけじめをつけることができなかった小沢氏の辞任もまた当然であり、むしろ遅過ぎたほどである。

日本の民主主義の試練でもある。しかし、私たちは今回の「ツートップ」の辞任を、昨夏の総選挙で多くの有権者が政権交代に託した大きな期待を失望に終わらせないための新たなステップだととらえたい。今回の失敗を民主党は所属議員全員が猛省し、この首相交代が「与えられた最後のチャンス」と覚悟して、出直す必要がある。

自民党政権がそうだったように首相が短期間で交代するのは確かに望ましい姿ではない。内政・外交ともに課題は山積している。だが、鳩山首相が国の最高責任者にとどまるのは、もはや無理だった。迷走の末、移設先が沖縄県名護市の「辺野古」に回帰した普天間問題をめぐる一連の言動は、沖縄県民への裏切りとなっただけではなく、「首相をどれだけ信用できるのか」と、その資質に強い疑念を抱かせたからだ。

2日の両院議員総会でも首相は「私の不徳の致すところ」としながらも、「国民の皆さんが聞く耳を持たなくなってしまった」、「何としてでも(普天間の移設先は)沖縄県外に、と思ってきた。その思いをご理解いただければ」と語った。「思い」は正しかったと弁明したかったのだろうが、政治は結果責任だ。「アマチュア首相」の甘えやひ弱さを最後まで払しょくできなかった。

小沢氏の責任も重い。政権がつまずく契機となったのは、鳩山首相も認めた通り、首相と小沢氏の「政治とカネ」の問題だった。特に小沢氏は一度も国会で説明していない。

なぜ、ゼネコンから巨額の献金を受けてきたのか。小沢氏が「決別する」と訴えてきた古い自民党体質そのものではないか。私たちは小沢氏の政治家としての責任を指摘してきたが、民主党は決着をつけず、先送りしてきた。これが国民の政治不信を招き、政権の足かせとなってきたのは間違いない。

もちろん、この8カ月余の鳩山政権は評価すべき点はいくつもある。事業仕分けでは税金の使い道に対する国民の見方を大きく変えた。日米安保条約改定や沖縄返還をめぐる日米密約が明らかになったのも政権交代の成果である。しかし、首相と小沢氏という政権のツートップの言動やスキャンダルが成果も帳消しにしてしまったということだ。

私たちは昨年の総選挙での有権者の選択が間違っていたとは今も思わない。ただ、振り返ってみよう。昨年5月、小沢氏が代表を辞任した際、普天間をはじめとする安全保障政策などについて十分な党内論議もなく、短期間で代表選を行って、鳩山首相を代表に選び、小沢氏の影響力も温存された。そのツケが今、回ってきたのではなかろうか。

子ども手当などの政策を実現するための財源をどう確保するか。今の深刻な借金財政をどうするか。党内に問題意識を持つ議員は少なくなかったが、「選挙の時に国民の負担増を打ち出すのは愚策だ」「政権交代すればいくらでも財源は出てくる」と財源を詰めなくなったのは06年、小沢氏が代表となってからだ。

それを鳩山首相も引き継ぎ、昨年の衆院選でのマニフェストはバラマキ路線となった。政権発足後は、かつての自民党政権さながら、業界、団体重視の利益誘導型政治も目につくようになった。真っ先に取り組むべきだった政治主導に関する法案も放り出したような状況だ。官僚も使いこなしたとは到底いえず、内閣と党との関係も絶えず混乱していた。

民主党は4日、代表選を告示し、同日中に両院議員総会を開いて直ちに新代表を決定するという。緊急事態との理由から後継選びは菅直人副総理兼財務相が軸となりそうだ。

国政の停滞は無論許されないが、代表選びはどさくさ紛れで行うべきではない。代表選は、「鳩山・小沢」体制下であいまいにしてきた国の基本にかかわる安全保障や、消費税率引き上げも含む財政再建論議など、徹底的に詰めるいい機会となる。一定の時間をかけるよう再考を求める。そして何より、小沢氏の影響力を排除することだ。従来のような分かりにくい二重権力構造が続けば、国民は「民主党は変わった」とは見なさない。オープンな政治を改めて目指してほしい。

本来は新首相のもとで早急に総選挙を実施し、政権の信を問い直すのが筋である。だが、参院選は予定通り7月11日に投開票となる見通しで、衆参同日選の可能性は低そうだ。いずれにしても民主党はマニフェストをきちんと見直し、有権者に示すのが最低限の責務だ。政権に対する評価は、新代表=新首相が誰になるかだけでなく、そこで下される。

読売新聞 2010年06月02日

鳩山首相進退 民主党は密室排し広く議論を

鳩山首相の進退をめぐって、民主党内が混乱している。

参院選の改選議員を中心に、首相退陣論が噴き出した。米軍普天間飛行場移設問題などによる内閣支持率の下落や、社民党の連立政権離脱に伴う参院選への悪影響を懸念してのことだ。

党内の厳しい声を伝えるため、小沢幹事長と輿石東・参院議員会長が、1日夜、鳩山首相と会談した。首相らは会談の中身を明らかにしなかったが、この日は結論を持ち越し、引き続き協議することになったという。

だが、政権の行方を左右する重大な局面で、党首脳ら3人が密室で対応を決めてよいのか。

改選議員らの首相進退を問う発言も、記者会見などでの意見開陳に過ぎず、党内では一度も論議されていない。全議員による懇談会や、広く党員や地方組織にも意見を聞くなど、オープンな場で堂々と議論するのが筋である。

そもそも、鳩山政権が失速した一義的な責任が首相にあるのは確かだとしても、首相だけが責任を負うべきものなのか。

小沢氏は、自らの資金管理団体の政治資金規正法違反事件で、国会での説明責任をいまだに果たしていない。

普天間問題での連立与党内の調整にも積極的に動かなかった。社民党の連立離脱では、小沢氏の責任も重大だ。

小沢氏に距離を置く仙谷国家戦略相や前原国土交通相らは、鳩山首相の続投を支持している。

首相だけが交代し、小沢氏が幹事長にとどまれば、誰が後継首相になっても、小沢氏が党の実権を握る「二重支配」が継続する。これを懸念しているのだろう。

だが、仙谷氏らが、そうした党内力学を優先した発想で、首相の続投を支持するのは無責任だ。むしろ、首相と小沢氏の連帯責任を問うべきではないのか。

民主党内ではこれまで、首相や小沢氏の「政治とカネ」の問題が表面化しても、2人の進退を問う声がほとんど出てこなかった。その結果、自浄作用の働かない政党という印象を強めたことも、有権者の民主党離れの一因である。

今回、首相の退陣を要求している参院議員たちも、他の民主党議員同様、これまで沈黙してきた責任は免れない。落選の危機を感じてようやく批判の声を上げるのは、あまりにご都合主義だ。

参院選への逆風を吹かせてしまったのは、民主党自身であることを自覚すべきである。

産経新聞 2010年06月02日

首相進退問題 トップ2人の共同責任だ

鳩山由紀夫首相の退陣論が民主党内で急速に広がっている。首相と小沢一郎幹事長が1日も協議を行うなど情勢が緊迫の度を加えている。

社民党の連立離脱に加え、内閣支持率が2割を切るなど下落傾向に歯止めがかからない。改選を控えた民主党の参院議員の中から「このままでは参院選を戦えない」と窮状を訴える声が一気に強まったためだ。

だが、こうなった事態は首相と小沢氏による「政治とカネ」の問題が大きい。さらに自浄能力を示そうとしなかった民主党議員に対する国民の不信によるものだ。表紙を変えようとしても、信を取り戻すことにはならない。

情勢が動き出したのは、米軍普天間飛行場の移設先を「辺野古」地区とする日米合意が決まり、社民党が離脱を決めてからだ。「沖縄や連立与党の合意も得る」とした5月末決着の約束を果たせなかった首相の責任は重大で、退陣に値することは言うまでもない。

だが不可解なのは、小沢氏が首相の首をすげ替えて参院選を乗り切ろうとされていることだ。問われているのは「鳩山−小沢体制」そのものをどうするかで、小沢氏には共同の責任がある。

首相は31日、「続投は当然だ」などと意欲を示したが、輿石東参院議員会長は「一両日中に結論を出したい。皆さんの意をくんで対応する」と、改選議員の意見を重視し、首相の退陣を念頭に置き、決着を急ぎたい意向を示した。

朝日新聞 2010年05月31日

社民連立離脱 多様な協力の形を探る

当然の選択である。

社民党が、民主、国民新両党との連立政権からの離脱を決めた。米海兵隊普天間飛行場の移設問題で、党首の福島瑞穂・消費者担当相が閣議決定への署名を拒み、罷免されたためだ。

社民党と同様、鳩山由紀夫首相も「最低でも県外」への移設をめざすと明言していた。「言葉に責任を持つ政治をやりたい」との福島氏の言葉を、首相はかみしめるべきである。

安全保障、基地問題や憲法問題は、社民党の理念政策の核心をなすテーマだ。社会党当時の村山富市委員長が、首相になったとたん、自衛隊合憲、日米安保堅持へと路線転換したことが、今日へと続く党勢退潮に拍車をかけた。そのトラウマは深い。

3党連立合意は大きく10項目、細かくは34項目あり、安保はその一つに過ぎない。しかし、それが「譲れない一線」であるなら決断もやむをえない。

閣内を去るとはいえ、安保以外の政策合意では今後も鳩山政権と協議し、その実行に努めていくことも決めた。参院選に向けた選挙協力も、ご破算にはしない。「古い政治に戻したくないという多数の国民の意思」を踏まえたという。賢明な選択と評価したい。

連立か、対決か。そんな二者択一の発想に政党間協力のあり方が縛られる必要はない。多様な連携の形がありうることは過去の経験からも明らかだ。

1997年の社民党の運動方針は、時の橋本龍太郎自民党政権に対して「閣外協力の与党」というスタンスを掲げた。閣僚を送り込む「政権連合」ではなく、政策面で協力する道を探る「政策連合」という考え方である。

自公連立は政策合意による政権連合ではあったが、組織票を融通しあう「選挙連合」の側面が際だった。

様々な政党間協力の形の中で、政策ごとに話し合い、接点を求め、必要なら法案を修正していくという作法に、日本の政党政治はいまだ習熟していない。社民党の選択は、新たなルール形成の契機となるだろうか。

発想の転換を求められているのは、むしろ民主党の側である。

郵政改革法案をはじめ、民主党の国会運営はいかにも乱暴だ。数にものを言わせて採決を強行するばかりでは、政党間の政策協議どころではない。

社民離脱で参院での与党議席は過半数ぎりぎりになった。逆風が予想される夏の参院選で過半数を割り込めば、なりふり構わぬ多数派工作がまたぞろ展開されるのかも知れない。

衆参両院の議席の「ねじれ」が、「大連立」騒ぎに象徴される無原則な政権づくりへの先祖返りをもたらすなら、民主主義の前進はない。

透明で正当な政党間協力のルールをつくる。それができれば、政権の姿も、国会の姿も変わるはずである。

毎日新聞 2010年06月02日

首相退陣論加速 「小鳩」双方に責任がある

混迷は深まるばかりだ。鳩山由紀夫首相の退陣を求める声が選挙を控えた参院を中心に民主党内に一気に広がり、首相は小沢一郎幹事長らと対応を協議した。首相の進退をめぐり、緊迫した状態が続いている。

米軍普天間飛行場の移設問題が迷走したうえ社民党は政権を離脱、各種世論調査で内閣支持率は2割前後に低迷するなど、鳩山内閣は窮地にあえいでいる。責任を問う声が出ること自体はむしろ当然だが、「政治とカネ」をめぐる不信や、政府と党の意思疎通の混乱も政権の混迷をもたらした大きな要因だ。責任をめぐる論議は首相、小沢氏双方に対して行われるのが筋である。

一種の倒閣運動と言っても過言ではあるまい。退陣論の震源となったのは、夏の参院選を直前に控える参院側だ。高嶋良充参院幹事長は「どのような形で対応されるかは首相の決断にかかっている」と述べ、首相の自発的辞任を公然と促した。異例の事態である。

普天間問題をめぐる首相の対応は拙劣であり、リーダーとしての資質に大きく疑念を抱かせた。党内に責任論が噴き出すのはある意味で自然だろう。

だが「鳩山首相では選挙を戦えない」との議論ばかりが出る有り様にも首をかしげてしまう。政権の混迷をこれまで静観していた参院側に退陣論が急速に広がったのは党を束ねる小沢氏が首相に距離を置いた、との見方が広がってからだ。社民党の連立離脱に激高しているのも、参院選の選挙協力で得られる組織票への懸念からだろう。政権運営を問い直すより、ひたすら選挙怖さでうろたえているのが実態ではないか。

責任問題で首相と同様に無視できないのが小沢氏の動向である。資金管理団体をめぐる問題では東京地検特捜部が再度の不起訴処分を決めた。だが、衆院政治倫理審査会への出席をはじめ、国会での説明責任はいまだに果たされていない。

毎日新聞の最新の世論調査でも、小沢氏に辞任を求める人は73%で、首相の引責退陣を求める58%を上回るなど、不信は解消されていない。そもそも、政治主導のシステムがうまく機能しないのも首相、小沢氏が政策と党務を分業する構想の失敗による。首相と小沢氏の関係は「一蓮托生(いちれんたくしょう)」と言わねばなるまい。

社民党の政権離脱で与野党が拮抗(きっこう)する参院に野党が首相問責決議案を提出する構えをみせるなど、国会は緊迫の度合いを増している。このまま体制を維持して果たして首相が言うところの「国難」に立ち向かうことができるのか。政権の要である首相と小沢氏が安易にもたれ合うようでは、解決になるまい。

読売新聞 2010年05月31日

社民党離脱 連立崩壊を招いた首相不決断

「水と油」のように相いれない外交・安全保障政策を持つ政党同士が、連立政権を続けてきたこと自体に、致命的な問題があったと言えよう。

社民党が、米軍普天間飛行場の移設問題をめぐる福島党首の閣僚罷免を踏まえて、鳩山政権から離脱する方針を決定した。ただ、夏の参院選で民主党との選挙協力を行う可能性はあり得るという。

国の安全保障問題で政府方針に反対し、閣議での署名を拒否した以上、鳩山首相による福島氏罷免は納得できる。一方で、社民党の政権離脱も当然だろう。

問題なのは、首相が、国会運営や選挙協力の観点から社民党との連立維持を優先し、普天間問題などで妥協を重ねてきたことだ。

鳩山政権が今後、選挙目当てで社民党の協力を得るため政策面ですり寄れば、再び同じ過ちを犯しかねない。むしろ参院選後の政界再編や、政策ごとに与野党が連携する「部分連合」を視野に入れて行動すべきではないか。

社民党は2006年の社民党宣言で、「違憲状態にある自衛隊は縮小を図る」「日米安保条約は平和友好条約に転換させる」方針を掲げた。普天間問題でも、米国が到底同意できない国外移設や決着先送りを主張し、現実的な問題解決の努力をしなかった。

鳩山首相は昨年末、政権離脱をちらつかせた社民党に屈して、現行計画での決着を決断できず、問題を一層迷走させた。

仮に首相が社民党の離脱を甘受し、問題を決着させておけば、米国や沖縄との関係を壊し、国益を損ねることはなかったろう。

その後、普天間問題に膨大な政治的エネルギーを費やす必要もなく、同盟深化の作業など、他の外交・内政案件にもっと真剣に取り組む態勢がとれたはずだ。

連立政権では政党間の妥協が付き物だが、重要な基本政策の不一致を黙認してきたツケが今回、一気に噴き出したと言える。

読売新聞の緊急世論調査で、鳩山内閣の支持率は19%に続落し、首相は退陣すべきだとの回答が6割近くにも上った。参院比例選の投票先では、政権交代後初めて民主党が自民党を下回った。

普天間問題を決着できず、「国民との約束」を破りながら、責任をとらない鳩山首相に対する国民の評価はかつてなく厳しい。

民主党内では、ようやく首相批判の声が出始めた。国民の冷たい視線は、何ら自浄能力を発揮しない民主党にも向けられていることをきちんと自覚すべきだろう。

産経新聞 2010年05月31日

社民連立離脱 基本政策「抜き」のツケだ

鳩山政権を支えてきた民主、社民、国民新3党の連立体制が、昨年9月の発足から8カ月余で瓦解することになった。

社民党は米軍普天間飛行場の国内移設に反対した福島瑞穂党首が消費者・少子化担当相を罷免されたことを受け、連立離脱の方針を決めた。安全保障にかかわる重要政策で与党間の意見が食い違った以上、離脱は当たり前であり、むしろ鳩山由紀夫首相の方から連立解消を求めるべきだった。

首相と民主党の小沢一郎幹事長の「政治とカネ」をめぐる政治不信や、普天間問題をめぐる迷走と失政などから、鳩山政権はすでに国民の支持を失っている。ここで連立基盤の一角が崩れることのダメージは大きい。

政権を担当するにあたり、国の存立基盤である外交や安保など基本政策について十分議論せず、対立点を放置してきたツケが出てきたと言わざるを得ない。

福島氏を罷免した後も、首相は連立関係の維持に期待する考えを示していた。社民党内でも政権にとどまり、「辺野古」移設を含む日米合意に反対していくべきだとの意見があった。

だが福島氏は「私の罷免は社民党の切り捨て」として、連立離脱やむなしとの考えを表明した。同党の全国幹事長会議でも、執行部の離脱方針に賛成する地方組織が大勢を占めた。このため、辻元清美氏も国土交通副大臣を辞任することになった。

しかし、民主、社民両党の間では、連立を解消した後も、政策ごとの連携を模索する動きがある。昨年9月の政権発足時の3党合意の実現に今後も取り組むことにより、両党間の選挙協力を継続しようという狙いだが、そうした姿勢はおかしい。

「派遣切り」規制などを盛り込む労働者派遣法の改正は社民党が強く主張して、連立合意に入った。連立を離脱しても終盤国会で改正案の成立を図ろうとしているが、これには、厳しい派遣規制が逆に雇用不安をもたらす恐れがあるなど問題点が多い。

民主党は参院選での選挙協力の継続を求めるため社民党に配慮するようだが、安全保障を含めた基本政策を徹底して吟味することがなければ「選挙至上主義」の批判を招くだけだ。

国のありようをどうするかを合意して初めて、連立政権は成立することを忘れてはなるまい。

朝日新聞 2010年05月29日

首相の普天間「決着」 政権の態勢から立て直せ

これが、鳩山由紀夫首相の「5月末決着」の姿だった。深い失望を禁じ得ない。

米海兵隊普天間飛行場の移設問題は最後まで迷走を続けたあげく、政府方針が閣議決定された。臨時閣議に先立ち発表された日米共同声明とともに、移設先は名護市辺野古と明記された。

これは、首相が昨年の総選挙で掲げた「最低でも県外」という公約の破綻(はたん)がはっきりしたことを意味する。首相の政治責任は限りなく重い。

首相は決着の条件として、米国政府、移設先の地元、連立与党のいずれの了解も得ると再三繰り返してきた。

しかし、沖縄は反発を強め、訓練の移転先として唯一明示された鹿児島県徳之島も反対の姿勢を崩していない。

社民党党首の福島瑞穂・消費者担当相は国外・県外移設を貫くべきだとして方針への署名を拒み、首相は福島氏を罷免せざるをえなくなった。連立の一角が崩れたに等しい打撃である。

「5月末決着」という、もうひとつの公約すら守れなくなることを恐れ、事実上、現行案に戻ることで米国とだけ合意したというのが実態だろう。

地元や連立与党との難しい調整を後回しにし、なりふり構わず当面の体裁を取り繕おうとした鳩山首相の姿は見苦しい。

この「決着」は、大きな禍根を二つ残すことになろう。一つは沖縄に対して。もう一つは米国政府に対して。

沖縄県民には、今回の政府方針は首相の「裏切り」と映るに違いない。

政権交代の結果、普天間の県外移設を正面から取り上げる政権が初めて誕生した。県民が大きな期待を寄せたのは当然であり、そのぶん反動として幻滅が深くなることもまた当然である。

日米合意は重い。だが辺野古移設は沖縄の同意なしに現実には動くまい。首相はどう説得するつもりなのか。

それが進まなければ、2014年までの移設完了という「日米ロードマップ」(行程表)の約束を果たすことも極めて困難になる。それとも強行という手段をとることも覚悟の上なのか。

一方、米国政府に植え付けてしまった対日不信も容易には取り除けまい。

きのうの共同声明は「21世紀の新たな課題にふさわしい日米同盟の深化」を改めてうたった。両国が手を携えて取り組むべき「深化」の課題は山積している。だが、普天間問題の混乱によるしこりが一掃されない限り、実りある議論になるとは考えにくい。

私たちは5月末の期限にこだわらず、いったん仕切り直すしかないと主張してきた。東アジアの安全保障環境と海兵隊の抑止力の問題も含め、在日米軍基地とその負担のあり方を日米間や国内政治の中で議論し直すことなしに、打開策は見いだせないと考えたからだ。その作業を避けたことのツケを首相は払っていかなければならない。

普天間問題の迷走は、鳩山政権が抱える弱点を凝縮して見せつけた。

成算もなく発せられる首相の言葉の軽さ。バラバラな閣僚と、統御できない首相の指導力の欠如。調整を軽んじ場当たり対応を繰り返す戦略のなさ。官僚を使いこなせない未熟な「政治主導」。首相の信用は地に落ち、その統治能力には巨大な疑問符がついた。

もとより在日米軍基地の75%が沖縄に集中している現状はいびつである。県民の負担軽減が急務ではないかという首相の「問い」には大義があった。

しかし、問いに「解」を見いだし、実行していく力量や態勢、方法論の備えが決定的に欠けていた。

普天間に限らない。予算の大胆な組み替えにしても「地域主権」にしても、問題提起はするものの具体化する実行力のなさをさらしてしまった。

首相と小沢一郎幹事長の「政治とカネ」の問題や、利益誘導など小沢氏の古い政治手法も相まって、内閣支持率は20%を割り込むかというところまできた。鳩山政権はがけっぷちにある。

55年体制下の自民党政権であれば、首相退陣論が噴き出し、「政局」と永田町で呼ばれる党内抗争が勃発(ぼっぱつ)するような危機である。

しかし、鳩山首相が退いても事態が改善されるわけではないし、辞めて済む話でもない。誰が首相であろうと、安保の要請と沖縄の負担との調整は大変な政治的労力を要する。そのいばらの道を、首相は歩み続けるしかない。

そのためには民主党が党をあげて、人事も含め意思決定システムの全面的な再構築を図り、政権の態勢を根本から立て直さなければならない。

何より考えるべきなのは鳩山政権誕生の歴史的意義である。有権者が総選挙を通じ直接首相を代えたのは、日本近代政治史上初めてのことだ。

政治改革は政権交代のある政治を実現した。永久与党が短命政権をたらい回しする政治からの決別である。選ぶのも退場させるのも一義的には民意であり、選んだらしばらくはやらせてみるのが、政権交代時代の政治である。

歴史的事件から1年もたたない。政治的な未熟さの克服が急務とはいえ、旧時代の「政局」的視点から首相の進退を論じるのは惰性的な発想である。

普天間への対応も含め、鳩山首相への中間評価は間もなく参院選で示される。首相は「5月末」は乗りきれても、国民の審判からは逃れられない。

毎日新聞 2010年05月31日

社民党連立離脱 政権の窮状は極まった

政権は一層、窮地に立たされた。米軍普天間飛行場を沖縄県辺野古周辺に移設する政府方針に反対したため福島瑞穂党首が閣僚を罷免された社民党が鳩山内閣からの離脱を決め、3党連立は崩壊した。

沖縄基地問題という党の看板とも言える政策で鳩山由紀夫首相に党首がクビを切られたのだから、政権からの離脱は至極当然だ。日米合意を受け毎日新聞が実施した世論調査では首相が責任を取り退陣すべきだと答えた人は6割近くに達しており、迷走への国民の怒りは強い。このまま参院選に突入するか、内閣は重大な局面を迎えた。

福島党首の閣僚罷免劇まで、社民党には連立残留を求める声が強かった。それでも離脱に踏み切ったのは「私を罷免することは社民党を切り捨てることだ」との論理にそれなりに筋が通っていたためだ。基本政策がここまで食い違った以上、同じ政権に居続けることなど到底、許される状況ではなかった。

一方で、党首を罷免しながら連立維持への期待を表明し続けた首相の感覚を疑ってしまう。社民党が政権を離脱しながら参院選の選挙協力については民主党と協議を継続しようというのも不可解だ。これでは社民党のけじめも問われよう。

衆院選の民主党圧勝を受け発足した鳩山内閣だが、安全保障、予算の規模、郵政改革などこれまで社民、国民新両党の主張に振り回される印象を与えた。基本政策のすり合わせが不十分なまま連立を組み、参院の多数確保や参院選の選挙協力を重視したひずみが出た。

終盤国会にしても民主党は国民新党が強く求める郵政改革法案の会期内成立に固執し、衆院委員会の審議わずか1日で採決を強行する愚挙に踏み切った。国民新党との協力に伴う郵政票の行方ばかりが頭にあるとみられても仕方あるまい。

「最低でも県外」といったん言いながら地元の頭越しに辺野古周辺への移設を決めた首相への国民の評価は厳しい。世論調査で退陣を求める人が過半数を占めただけでなく、内閣支持率20%は衆院選直前の麻生内閣に近い低水準だ。琉球新報と合同で実施した沖縄県民に対する世論調査では辺野古移設に賛成する人は6%、内閣支持率は8%に過ぎない。一連の迷走が首相の資質への疑問を急速に深めている事態を重く受け止めなければならない。

民主党内には、このままでは参院選は乗り切れないとの危機感から、首相の退陣を求める声がここにきて公然と出始めている。首相自らが招いた事態だが、すべてが「選挙目当て」の原理で動く党の状況も一方で深刻である。

読売新聞 2010年05月29日

普天間日米合意 混乱の責任は鳩山首相にある

日本政治と日米関係を混乱させた末、「国民との約束」を簡単に破る。一応謝罪はするが、責任はとらない。これが鳩山首相の本質だろう。

日米両政府は、米軍普天間飛行場の移設先を沖縄県名護市辺野古周辺と明示した共同声明を発表した。日米合意に反対し、閣議での政府対処方針への署名を拒否した社民党党首の福島消費者相を、鳩山首相は罷免した。

連立与党の一角を担う党首とはいえ、政府方針に同意しない以上、罷免は当然である。

◆福島氏罷免は当然だ◆

鳩山政権が、展望のない県外移設を断念し、辺野古沿岸部に代替施設を建設する現行計画にほぼ回帰したのは、現実的判断だ。

だが、方針転換がいかにも遅すぎた。昨年までは現行計画を容認していた地元が反対に転じており、実現のハードルは高い。辺野古移設は迷走の末、元に戻ったというより、政権発足前より悪い状況に陥ったにすぎない。

政府は、日米合意の実現に向けて、沖縄県や名護市の説得に全力を挙げるべきである。

共同声明は、沖縄の負担軽減策として、米軍訓練の分散移転や、自衛隊と米軍による米軍施設の共同使用など8項目を掲げた。

ただ、その多くは、代替施設建設の進展に応じて「検討」するとされているだけだ。負担軽減がどの程度実現するかは不透明だ。

政府は当初、県内移設に反対する社民党に配慮し、日米の共同声明にある移設先の「辺野古」を、対処方針には明示しない方向で調整していた。だが、福島党首の罷免に伴い、対処方針にも「辺野古」を明記した。

「二重基準」をとらなかったのは当然のことだ。民主党には、社民党が政権を離脱し、参院選での選挙協力ができなくなる事態を避けたい思惑がある。だが、選挙目当てで、安全保障にかかわる問題をあいまいにすべきではない。

社民党は、「日米安保条約は平和友好条約に転換させる」「自衛隊は違憲状態」との見解を維持している。そもそも、民主党が、基本政策の異なる政党と連立を組んだこと自体に無理があった。

鳩山首相自身が、「常時駐留なき安保」を持論とし、“米国離れ”志向を見せていたことも、混乱を招く一因となった。

◆社民との連立解消を◆

社民党は、県内移設に反対するばかりで、実現可能な対案を出さなかった。普天間問題の迷走への責任は免れない。

社民党との連立が続く限り、外交・安保政策をめぐり、対立が繰り返されるだろう。首相は、この際、社民党との連立解消をためらうべきではあるまい。

首相は、問題決着に「5月末」の期限を自ら設けた。それまでに沖縄県、移設先の自治体、米国、連立与党の同意を得ると「大風呂敷」を広げたうえ、最近まで「職を賭す」などと言い続けた。

ところが、実際は、米国との合意を得ただけで、沖縄も移設先も社民党も反対している現状は、これらの発言を裏切るものだ。

政府の最高責任者が「国民との約束」を反故(ほご)にすれば、政治への信頼は地に落ちる。

鳩山首相は28日夜の記者会見で「誠に申し訳ない思いでいっぱいだ」と謝り、「今後も粘り強く基地問題に取り組むことが自分の使命だ」と強調したが、単なる謝罪で済まされるものではない。

これは、鳩山政権が、普天間問題に詳しい官僚を外し、知識と経験、洞察力の乏しい首相と担当閣僚がバラバラで場当たり的に取り組んだ結果である。

名ばかりの「政治主導」で、重大な失政を犯しながら、首相も担当閣僚も責任をとらず、民主党内から強い批判も出ないのは、あまりにお粗末だ。

鳩山首相は、その資質に深刻な疑問符が付いている。首相発言は日替わりのように変わり、指導力も決断力も発揮できなかった。

政治で問われるのは結果責任だ。努力したが、できなかったでは、誰も評価しない。

首相に求められるのは、自己流の「思い」を語ったり、会談相手に迎合したりすることではない。着地点を見極めつつ、閣僚と官僚を使いこなし、最後は自ら決断して問題を解決する実行力だ。

◆同盟強化が緊急の課題◆

鳩山首相の力量不足により、日本政府と米国や沖縄県、関連自治体との信頼関係は、大きく損なわれてしまった。

北朝鮮の魚雷攻撃による韓国軍哨戒艦沈没事件で、朝鮮半島情勢は緊迫している。中国軍の増強や示威的活動の多発など、不透明な東アジア情勢を踏まえれば、日米同盟の強化は緊急の課題だ。

政府は、その視点を忘れず、道半ばの普天間問題の解決に真剣に取り組まなければならない。

産経新聞 2010年05月29日

普天間日米合意 国益損なう首相は退陣を 逃れられぬ迷走と失政の責任

目を覆うばかりの失政が続いている。米軍普天間飛行場移設に関する日米共同声明がようやく発表され、「辺野古」が明記された。当然だが、遅きに失した。

昨秋以来、鳩山由紀夫政権は迷走を続け、現行計画とほぼ同じ内容を沖縄県などが受け入れるのは当面絶望視されている。「最低でも県外」と鳩山首相が県民感情をあおったためである。これでは閣議決定された政府対処方針も画餅(がべい)にすぎないではないか。

「5月末までに決着させる」とした首相の約束は果たせなかった。その政治責任は極めて重大だ。しかも首相は尖閣諸島の領有権に関して、日中間の当事者が話し合いで結論を出すと表明した。尖閣諸島が日本固有の領土であることへの認識すらない。

一国の平和と繁栄の責務を担う最高指導者として不適格と言わざるを得ない。国益を損なう「愚かな首相」は、一刻も早く退陣すべきである。

問われる政治責任の第一は、4月の党首討論で「米政府、地元、連立与党との合意をすべて達成する」と約束しながら、米との一定の合意しか取り付けられなかったことだ。首相は28日夜、「申し訳ない思いでいっぱいだ」と国民に謝罪したが、進退に関して責任をとる姿勢は見せなかった。

首相は沖縄県などの負担軽減に努力したことを会見で強調していたが、政治は結果責任である。結果が伴わないことの政治責任に向き合わず、自己の立場を正当化するのは開き直りである。

しかも、日米関係もこれまでにないほど悪化させた。昨年11月の日米首脳会談でオバマ米大統領に約束した早期決着を果たしていれば、首相や日本政府への米側の不信感はこれほど強まっていなかっただろう。首脳間の個人的な信頼構築には程遠く、4月の首相訪米時には公式首脳会談を設定できず冷え込んだ関係を象徴させた。

◆「尖閣」守れるのか

安保改定50周年を迎えた今年、海上自衛隊への中国海軍の挑発行為や北朝鮮による韓国哨戒艦沈没事件は、同盟の深化と日米安保体制強化を喫緊の課題としている。にもかかわらず、普天間問題がそのための協議を阻害してきた。

キャンプ・シュワブ沿岸部(名護市辺野古)に移設する現行計画を首相が白紙に戻したことで、仲井真弘多知事や県民らは実現可能性を疑いながらも、いたずらに県外移設への期待を強めた。1月の名護市長選では受け入れ容認派の前職が敗れ、4月には県内移設に反対する大規模反対集会が開かれて問題をさらに難しくした。

安易なスローガンや口約束を乱発したあげく、期待を裏切った首相が県民の心をもてあそんだといえる。最終的には、地元も受け入れた経緯があり最も現実的な「辺野古」移設案に戻ったとはいえ、実現の困難さを考えれば移設は大幅に後退したとみるべきだ。

さらに看過できないのは、27日の全国知事会議での尖閣諸島をめぐる発言だ。首相は「米国は帰属問題は日中間で議論して結論を見いだしてもらいたいということだと理解している」と述べた。

「領有権問題は存在しない」というのが尖閣諸島に関する一貫した政府見解である。それなのに、中国と話し合う必要があるかのような発言は主権意識を欠いており、耳を疑う。

◆遅すぎた福島氏罷免

共同声明は、普天間移設が海兵隊8千人のグアム移転や嘉手納基地以南の返還と連動していることを改めて確認した上で、代替施設の工法などの詳細を「いかなる場合でも8月末まで」に決定すると明記している。あと3カ月で地元の理解を得るのは困難にせよ、作業を加速し、何としても合意を達成しなければならない。

基地の環境保全、漁場の使用制限の一部解除など米側が日本の要望に応える内容も盛り込まれた。双方が迅速かつ誠実に合意内容を実現していくことが、同盟の維持・強化に欠かせない。

首相は「辺野古」明記を容認しない福島瑞穂消費者・少子化担当相を罷免した。安保政策が一致しない以上、当然の措置だが、あまりに時間をかけすぎ、国民の信頼を損なう結果となった。

社民党の連立離脱論が強まる中で、与党議員ら180人が「将来の国外・県外移設」を政府対処方針に盛り込むよう求める声明を出したのも理解し難い。国家の安全保障よりも、選挙協力のための連立維持に奔走する政権与党の姿勢は極めて問題である。

毎日新聞 2010年05月30日

論調観測 「普天間移設」政府方針 首相の資質を強く断罪

米軍普天間飛行場の移設問題が大きく展開した。政府は28日、日米共同声明を出し、「辺野古」を明記した対処方針を閣議決定した。併せて鳩山由紀夫首相は、署名に応じなかった社民党党首の福島瑞穂消費者・少子化担当相を罷免した。

この問題を巡り、読売、産経、日経は従来、現行案の「辺野古」回帰を主張してきた。一方、毎日、東京、朝日は、国外、県外移設を含めた沖縄の負担軽減に力点を置いてきた。

ただし、この8カ月間迷走を続けた首相の政治責任は重いという認識では各紙一致する。

29日付社説は、首相の資質と進退がテーマとなった。

毎日は「首相が政治の最高責任者の座に就き続けることに大きな疑念を抱かざるを得ない」と強い懸念を表明した。見出しで「この首相に託せるのか」と問い、来る参院選では首相の資質も問われるとした。

責められるべきは公約を実現できなかった首相であり、福島氏罷免は筋違いだ。東京はそう述べ、やはり国民が参院選で意思を示すほかないとする。

読売は「首相は、その資質に深刻な疑問符が付いている」、日経は「罪万死に値する失政である。首相としての資質そのものが疑われるという深刻な事態を招いている」と、首相の資質に関する言葉は激しい。ただし、両紙は進退には触れない。

進退をめぐり主張が好対照だったのが朝日と産経だ。産経は、国益を損なう「愚かな首相」は、一刻も早く退陣すべきだと主張した。尖閣諸島の領有権をめぐる首相発言も批判する。

一方、朝日は「首相は歩み続けるしかない」と背中を押した。朝日も「首相の信用は地に落ち、その統治能力には巨大な疑問符がついた」と指摘しながら、旧時代の「政局」的視点から首相の進退を論じるのは惰性的な発想だとするのだ。結論として、政権の態勢を根本から立て直せと言う。だが、その方策は抽象的で具体性に乏しい。

最後に地元紙の主張を紹介する。沖縄タイムスは、沖縄をもてあそんだ首相の政治責任は極めて重いとして、退陣を求めた。琉球新報は「非は沖縄切り捨てた側に」として、民意無視の合意はいずれ破綻(はたん)すると予測し、国外移設を軸に、実現性のある移設策を探る方が賢明だと訴えた。徳之島のある鹿児島の南日本新聞も民意無視に「強い憤りを覚える」と表明する。

首相の「辺野古」回帰表明翌日の沖縄タイムスの社説見出しは「怒怒怒怒怒…」。心に刺さる。【論説委員・伊藤正志】

産経新聞 2010年05月28日

普天間移設 安保を選挙の具にするな

鳩山由紀夫首相は社民党との連立の是非を判断するときにきている。

社民党は27日の常任幹事会で、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題をめぐり、28日に発表される日米共同文書に「辺野古移設」が明記された場合、閣議で福島瑞穂党首(消費者・少子化担当相)が政府の対処方針に署名しないとの方針を決めた。

政府内では閣僚の署名が不要な形式をとることで社民党の政権離脱を阻むことなどが検討されているようだが、今回の政府対処方針は日本の安全保障の根幹を形づくるものである。閣内で見解の違いがあることは許されない。

しかも、首相が社民党に配慮している最大の理由は連立体制の維持という当面の政局判断にほかならない。

連立体制の重視とは、具体的には参院選での選挙協力だ。民主党は社民党との連携を進めている。日教組や自治労などにも社民党支持者が少なくない。小沢一郎幹事長や輿石東参院議員会長は、参院選での票の掘り起こしに期待をかけているのだろう。

だが、日本の平和と安全を確保するために民主党と社民党との間には安保政策に隔たりがあることを忘れてはならない。鳩山首相が移設先を「辺野古周辺」とする理由について「海兵隊を含む在日米軍全体の抑止力」を挙げたが、福島氏は「日本の最大の抑止力は憲法9条」との主張を譲らない。

基本的見解がこれだけ違っている以上、首相は速やかに連立を解消して日本の国益を守る枠組みを再構築すべきである。

昨年12月にも同じ事態があった。首相は結局、日米合意に基づくキャンプ・シュワブ沿岸部という移設先を白紙に戻したが、直前に福島氏は「辺野古」移設に反対するため「社民党としても私としても重大な決意をしなければならない」と、連立離脱の構えを示し、首相は屈したのだ。

27日の全国知事会議で、首相は「米軍の訓練の一部を沖縄県外に移すことが可能かどうか、考えてもらいたい」と分散移転に協力を求めたが、鹿児島県・徳之島以外に具体像を提示したわけではない。パフォーマンスとの印象を抱いた知事も多かっただろう。

選挙至上主義がオバマ米大統領の信頼を失い、日米関係の悪化をもたらしたことを首相は再認識して最終判断してほしい。

毎日新聞 2010年05月29日

「普天間」政府方針 この首相に託せるのか

日米両政府は、米軍普天間飛行場移設に関する共同声明を発表した。移設先を沖縄県名護市の「辺野古崎地区及び隣接水域」とし、米軍訓練の鹿児島県・徳之島をはじめ県外への分散移転、グアムなど国外移転を検討するという内容だ。

政府は、共同声明に基づいて普天間移設と沖縄の負担軽減に取り組むとする政府方針を閣議決定した。

鳩山由紀夫首相は、共同声明の辺野古明記に反発する福島瑞穂消費者・少子化担当相(社民党党首)が政府方針への署名を拒否する考えを表明したため、福島氏を罷免した。

普天間問題は首相が約束した、移設先の合意を含めた「5月末決着」も「県外移設」も実現できなかった。

閣議後に記者会見した首相は、県外の約束が守れなかったことを謝罪し、辺野古移設について「代替地を決めないと普天間の危険が除去できない」と語った。また、移設先・沖縄の理解を得ることなどに「今後も全力を尽くす」と述べ、首相の職にとどまる考えを明らかにした。

私たちは、鳩山首相が政治の最高責任者の座に就き続けることに大きな疑念を抱かざるを得ない。最大の政治課題、普天間問題での一連の言動は、首相としての資質を強く疑わせるものだった。これ以上、国のかじ取りを任せられるだろうか。来る参院選は、首相の資質と鳩山内閣の是非が問われることになろう。

首相は5月末決着に「職を賭す」と語っていた。しかし、今回の日米大枠合意は、「辺野古移設」を具体的に決める一方で、沖縄の負担軽減策は、辺野古移設の「進展」を条件とする今後の検討項目となった。カギを握る移設先の同意は見通しも立たない。「決着」にはほど遠い。

移設先をめぐる混迷は、より深刻だ。首相は「最低でも県外」「辺野古以外に」と明言した。「沖縄県民の思い」を繰り返し、「腹案がある」とも語った。06年日米合意の辺野古埋め立てを「自然への冒とく」と非難した。その結果が、現行案と同様の辺野古移設である。

国の最高指導者が「県外」「腹案」と自信ありげに断言すれば、沖縄県民が県外への期待を膨らませるのは当然だ。それを裏切った罪は重い。

県外から辺野古への変心は在日米軍の抑止力を学んだ結果だという。首相として耳を疑う発言だった。「最低でも県外」は党公約ではないと釈明を重ねる姿に、首相の威厳はない。

鳩山首相の言葉は、羽根よりも軽い。そう受け止められている。政治家と国民をつなぐ「言葉」が信用されなくなれば、政治の危機である。

首相が沖縄の負担軽減を願い、県外移設に込めた思いは疑うまい。しかし、希望を口にすれば実現するわけではない。政治は結果責任である。

経済財政政策や深刻な雇用への対策、緊急の口蹄疫(こうていえき)対応、政治主導の国づくり、緊迫する朝鮮半島情勢--内政・外交の諸課題が山積している。しかし、首相の言葉が信を失った今、誰がその訴えに耳を傾けるだろうか。深刻なのはそこだ。

日米同盟は日本の安全のために有効かつ必要である。「北朝鮮魚雷」事件で、改めてその思いを強くしている国民は多い。が、日米同盟の円滑な運営には、基地を抱える自治体との良好な政治的関係が不可欠である。辺野古移設を強行突破することになれば、その前提が崩れる。

沖縄の合意のないまま辺野古移設で米政府と合意したことは、沖縄には、日米両政府が新たな負担を押しつけようとしていると映っている。県外移設に大きな期待を抱いた沖縄の、首相への不信は深い。その落差を、当の鳩山首相が埋めるのは果たして可能だろうか。

稲嶺進名護市長は受け入れ断固拒否の姿勢だ。11月に知事選を控え、かつて辺野古移設を容認していた仲井真弘多知事も、今回の日米合意の内容を認める環境にない。

同月のオバマ米大統領来日にあわせ、辺野古移設の詳細で日米合意しても、実現の保証はない。「世界一危険な基地」普天間が継続使用される最悪の事態が現実味を増している。普天間問題への対応は明らかな失政である。その責めは鳩山首相自身が負うべきだ。

普天間移設が現実に進展しないとしても、普天間問題の原点である周辺住民への危険除去は、ただちに取り組むべきだ。訓練分散などによる飛行回数の大幅減少は急務である。大惨事が起きかねない現状を放置してはならない。

共同声明は、訓練分散移転のほか、米軍施設立ち入りなどによる環境対策、沖縄東方の「ホテル・ホテル訓練区域」の使用制限一部解除など新たな負担軽減策を盛り込んだ。これらの措置は辺野古移設の進ちょくを条件に実施されるとしている。これでは、負担軽減策が先延ばしになりかねない。特に、訓練分散など普天間飛行場の危険除去策は、移設作業と切り離して対応すべきだ。

米政府にも、普天間の危険除去と騒音など生活被害対策に積極的に協力するよう求める。この点で日本政府には強い姿勢が必要だ。

その解決の先頭に立つ指導者として、鳩山首相には不安がある。

産経新聞 2010年05月27日

普天間移設 許されぬ文言の使い分け

米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題で、日米両政府が28日にも発表する共同声明と、これを受けた政府対処方針とで内容を使い分けようとする動きが政府・与党内に出ている。

社民党は移設先となる「名護市辺野古」の明記は認められないと主張し、受け入れられないなら連立離脱も辞さない構えだ。このため、政府対処方針には移設先を入れないことで与党の枠組みを守ろうというものだ。

普天間飛行場の移設先は、8カ月にわたって迷走を続けた問題の核心である。連立与党内の事情で安全保障政策の根幹をゆがめ、米国向けと国内向けの2種類の文書を作成することなど許されない。国としての信用にかかわる。日米合意自体の意義も大きく損なわれよう。

鳩山由紀夫首相は、福島瑞穂消費者・少子化担当相に日米合意の受け入れと移設先の明記を求め、拒否されれば、罷免もしくは政権離脱させるべきだ。

平野博文官房長官は26日、社民党の重野安正幹事長との会談で「社民党の主張に十分配慮している」と述べ、移設先明記に反対していることについてさらに検討する姿勢を示したという。

平野長官は、日米合意と政府の対処方針について「両方あって、不思議ではない」との考えも表明している。日米合意に反対する口実を、自ら社民党に与えたようなものではないか。鳩山首相の責任も大きい。首相自身が社民党への配慮から「辺野古」に代えて「沖縄本島東海岸」などと表記することも模索した経緯がある。

今回の日米合意は、「辺野古」周辺への移設を確認したうえで、具体的な建設地や滑走路の工法などは引き続き検討する内容となる見通しだ。沖縄側の理解と協力を求めることに加え、移設の具体化への詰めを急ぐ必要がある。

2006年の在日米軍再編に関する政府方針の閣議決定では、移設先(キャンプ・シュワブ沿岸部)を明記しなかったが、当時の稲嶺恵一知事はすでに移設容認を決断していた。県内移設に閣内で社民党が反対している今回とは状況が異なり、前例になるまい。

社民党は参院選をにらんで党としての存在意義を示そうとしている。連立維持のために日米合意の改変などを考えること自体が、鳩山政権の国の安全に対する認識の欠如を表している。

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