ネット選挙解禁 次の大きな一歩につなぐ

朝日新聞 2010年05月27日

ネット選挙解禁 次の大きな一歩につなぐ

踏み出した歩幅は小さい。だが、大切な一歩である。

インターネットを使った選挙運動の部分解禁に各党が合意した。この夏の参院選から、候補者や政党は公示後の選挙期間中も、ホームページやブログを更新できるようになる。

「ネット選挙」が持つ利点と、その可能性は大きい。

まず、候補者が発信する情報が充実する。基本的な政策や考え方は、これまでも公示前に書いておくことができた。だが、公示後の選挙運動の様子や、翌日の演説場所など、その時にならないと発信できない情報が、ネット上を流れていくことになるだろう。

有権者は夜間でも海外にいても、情報に接することができる。どんな政策を望むか、演説を聞いた評価はどうか、有権者から発信もできる。その声に候補者は敏感にならざるをえない。

こうしたネットの能動性と双方向性は、政治家と有権者の距離を縮める。それは、政治参加を促すことになるだろう。しかも、ネットに親しんでいるのは、政治に縁遠い若い世代である。この利点を生かさない手はない。

もちろん、光があれば影もできる。候補者になりすました偽の情報が流れたり、根拠のない中傷が書き込まれたりする懸念はある。だがそこは、弊害を減らす対策を周到に講じながら歩を進めるしかあるまい。

残念ながら、今回の解禁は、弊害への対策が間に合わないこと、各党の合意を優先したことなどから、まだまだ範囲が狭く不十分である。

メールの禁止やツイッターの自粛もそうだが、最大の問題は一般の有権者がネットを通じて選挙運動をするのを認めなかったことだろう。自分の支持する候補への投票を呼びかけることはできないのである。だが虚偽記載や中傷はともかく、支援の呼びかけのどこに問題があるのか。次の段階として、参院選後にはそうした運動を含め解禁の範囲を広げるべきである。

当面、参院選に向けて心配なのは、どんな書き込みが選挙運動に当たるのか、普通の人にはわかりにくい点だ。違反をおそれて書き込みをためらう人が出てくる。それではネットの効果も十分に表れないだろう。どんな書き込みは許され、どこからが違反なのか、わかりやすい指針づくりを急いでほしい。

そもそもの問題は公職選挙法が世界にまれな「べからず法」であることにある。文書の配布禁止などをはじめ、あれもだめ、これもだめの規制を一般の有権者が把握するのは無理だ。みんなが発信できるネット時代、この法をそのままにしていては、有権者が知らないうちに法を犯すことになる。

時代に合った選挙の仕組みをつくらなければ、政治の進化は望めない。

毎日新聞 2010年05月28日

ネット選挙解禁 政治を変える突破口に

遅ればせながら、政治を大きく変える一歩だ。インターネットを利用した選挙運動を解禁するための公職選挙法の今国会改正で与野党が合意した。順調に審議が進めば夏の参院選から実施される見通しだ。

これまでネット選挙を一切解禁しなかったこと自体、著しい政治の怠慢だった。解禁に賛否両論があった簡易投稿サイト「ツイッター」による運動は「自粛」となったが、さらなる自由化に向け、問題点の整理を急ぐ必要がある。今回の改正を突破口に、公選法全体の見直しにつなげるべきである。

ネットによる選挙運動は公選法の解釈上、法定外の「文書図画」とされ、公示後の更新は制限されてきた。総務省の研究会は02年にホームページ(HP)に限定し解禁を提言したが、国会議員の一部に強硬な反対論があり、黙殺されていた。

与野党合意では候補を擁立する政党と候補本人が選挙期間中にHPとブログを更新することを認めた。これに対し、第三者による「なりすまし」が起きやすいと懸念されたメールは禁止した。同様の指摘がある「ツイッター」は法律上はHPと同じ扱いとするものの、与野党でまとめるガイドラインに基づき、自粛を申し合わせる。国政選挙だけでなく、地方選も解禁の対象とした。

参院選が6月24日に公示される場合、周知期間確保のため6月4日までに改正法を成立、公布しなければならない。国会の行方は波乱含みだが、解禁見送りはもはや許されない。その一方で無用の混乱を避けるため、公布後は運用について選挙管理委員会などを通じ、迅速でていねいな啓発活動を進めることが必要だ。

さらに、今回の解禁はあくまで一里塚と位置づけるべきだ。特にツイッターの自粛をどこまで徹底できるか、疑問がつきまとう。あくまで暫定措置とし、解禁に向けさまざまな課題への対応策の検討を急ぐべきだ。政党や候補以外の一般の人のネット活用の自由化に向けた議論も避けては通れまい。

すでに各政党はサイトで動画の活用を活発化するなど、解禁を想定した準備を進めている。政党のHPや候補のブログが選挙期間中にかなり頻繁に更新されることは確実だ。そのことが選挙カーからの名前の連呼に象徴される選挙の風景を変え、政策本位の論戦を加速することを期待したい。

公選法はネットに限らずさまざまな規制に主眼が置かれ「べからず集」と呼ばれている。そもそも「選挙運動期間」をもうけて戸別訪問などを厳しく制限する国はほとんどない。今回の改正を契機に、与野党は公選法の抜本見直しに踏みこまねばならない。

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