首相辺野古明言 沖縄の反発強める愚策

朝日新聞 2010年05月24日

首相沖縄再訪 より険しくなった道のり

沖縄県の米海兵隊普天間飛行場の移設問題は、政権交代後8カ月の迷走の末、結局、振り出しに戻った。

鳩山由紀夫首相はきのう、沖縄県を再訪し、名護市の「辺野古付近」に代替滑走路をつくると初めて明言した。

移設場所や工法の決定は先送りされるが、環境影響評価をやり直さないという米国政府との大筋合意に従えば、現行案の微修正にとどまるのは確実だ。実質的に現行案への回帰である。

「最低でも県外」という公約との「落差の大きさ」には、仲井真弘多知事ならずとも目がくらむ。

首相の公約に力を得て、国外・県外移設要求でまとまった県民の失望と怒りは察するに余りある。知事が首相に「大変遺憾。(受け入れは)大変厳しい」と言ったのも当然である。

辺野古沿岸部の埋め立て案を「自然への冒涜(ぼうとく)」とまで言って拒否する姿勢を見せてきた首相への県民の信頼は、地に落ちるだろう。

今回の結論を出した理由として、首相はきのうも在日米軍の抑止力をあげた。北朝鮮による韓国の哨戒艦撃沈ひとつとってみても東アジアの安全保障環境は不透明だ。中国の軍拡も進む。

しかし、海兵隊の抑止力の実態ははっきりせず、専門家の評価も一様でない。安全保障の根本の議論抜きに、「あれも無理」「これも駄目」と、移設先探しに行き詰まった揚げ句、現行案に戻ったのが実情だ。今更、抑止力という言葉だけで沖縄県民を説得しようとしても力はない。

首相は基地の負担を引き続き求めざるをえない分、訓練の本土移転や米軍の訓練区域の一部返還などで、トータルとしての沖縄の負担軽減に取り組む方針を強調した。しかし、帳尻合わせに訓練は形ばかり県外で、という逃げの姿勢なら許されない。

首相が本当に語るべきは、沖縄の基地を将来的にどう減らしていくのかという構想と戦略である。それを示し、再度の努力を始めなければならない。

沖縄のこれほどの反発を考えれば、米国と大筋で合意したとはいえ、2014年までの移設完了という日程通りに事が進むかどうか疑問符がつく。

地元の名護市議選や沖縄県知事選が年内にあり、結果次第では辺野古移設への逆風が一層強まる可能性もある。海兵隊8千人のグアム移転が滞り、普天間の継続使用という展開になるなら、沖縄の負担軽減と危険性の除去というそもそもの目的もかなわない。

首相はきのう、仲井真知事に念を押され、「これが終わりとは思っておりません」とはっきり言った。

時間をかけてでも、まず沖縄との信頼関係を築き直す。全国知事会などの場を通じ、負担の分かち合いの必要を全国民に訴える。険しい道のりだが、その先にしか打開の手がかりはない。

毎日新聞 2010年05月24日

首相辺野古明言 沖縄の反発強める愚策

道理もなく、実現性も見えない案に回帰したところで道が開けるはずはない。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の同県名護市辺野古への移設案は、鳩山政権の新たな混迷の引き金になる可能性さえある。

鳩山由紀夫首相は23日、沖縄を再訪して仲井真弘多県知事、稲嶺進名護市長ら沖縄北部市町村長と相次いで会談した。この場で首相は初めて具体的な移設先を明らかにした。

知事との会談で首相は、県外移設の約束が守れなかったことを謝罪するとともに、「(普天間の)代替地は辺野古付近にお願いせざるを得ない」「断腸の思いで下した結論だ」と語り、訓練移転など沖縄の負担軽減を図る考えを伝えて理解を求めた。知事は辺野古移設について「大変遺憾だ」「極めて厳しい」「県外、国外という県民の熱い思いとの落差が非常に大きい」と述べた。受け入れは困難との表明である。

また、首相と市町村長の会合で、稲嶺市長は辺野古移設について「極めて残念で怒りを禁じ得ない」「実現可能性はゼロに近い」などと、明確に受け入れを拒否した。

日米両政府は22日、移設問題で米軍キャンプ・シュワブ沿岸部(辺野古)に滑走路を建設し、普天間の基地機能の県外への分散移転を検討することなどで基本合意した。移設先は現行の日米合意案とほぼ同じだ。それ以外は事実上の先送りである。首相が国民に約束した、移設先、米政府、連立与党の合意による「5月末決着」は空証文に終わった。普天間問題は展望が開けないまま先送りされることが確実になった。

仲井真知事は会談後、首相の辺野古移設案について「(県民の間で)失望感というか、裏切られたという感じが非常に強くなっている」と語った。率直な思いであろう。地元・沖縄が「首相の要請」を受け入れる状況は、今まったくない。

また、知事は日米両政府が辺野古移設で合意後、県に方針を伝えた手法について「(日米)政府間の話は、決まってからでしか地元に(報告が)ない」と不信感を表明した。もっともである。日米合意の翌日に沖縄を訪れた首相は、県民には政府間合意を伝えるメッセンジャーとしか映っていない。

普天間問題が浮上して10年以上になる。移設先の合意を取り付ける難しさこそが、解決に長期間を要している最大の理由である。新たな基地を建設するには、地元の理解が必須であることは明らかだ。鳩山政権が、この教訓を無視して基地建設を押しつけても成算はない。

首相の方針は「5月末決着」の体裁を繕うものに過ぎない。最悪の事態である普天間の継続使用が現実味を増していることに気付くべきだ。

読売新聞 2010年05月24日

首相沖縄再訪 決断先送りのツケは大きい

昨年末に現行案での決着を図らなかったツケはあまりに大きい、と言わざるを得ない。前途は多難である。

鳩山首相が沖縄県を再び訪問し、米軍普天間飛行場の移設先を名護市辺野古周辺にする意向を仲井真弘多知事に伝えた。辺野古の米軍キャンプ・シュワブ沿岸部に代替施設を建設するとの日米の大筋合意を受けたものだ。

だが、知事は、辺野古移設について、「大変遺憾で、極めて厳しい」と難色を示した。

仲井真知事は当初、辺野古に代替施設を建設する現行案を容認していた。だが、首相が決断を先送りし、沖縄で県外移設を求める世論が高まる中、県内移設は困難との立場に転じてしまった。

1月の名護市長選で、移設受け入れに反対する稲嶺進氏が当選したことも状況を厳しくした。

昨年末に首相が社民党の反対を押し切り、現行案での実施を決断していれば、その後の展開は全く違ったはずだ。致命的な判断ミスであり、首相の罪は重い。

鳩山首相は会談で、米軍の訓練の県外への分散移転などを通じて沖縄の負担軽減に努める考えを強調した。緊迫する朝鮮半島情勢を踏まえた米軍の抑止力の重要性も指摘し、知事の理解を求めた。

日米合意ができても、沖縄県や地元の反対で行き詰まる事態を避けるためには、簡単ではないが、引き続き知事を説得し、翻意するよう求める必要がある。

鳩山政権発足以来の8か月余、司令塔不在で普天間問題が迷走を重ねる中、政府と沖縄県や名護市との信頼関係は冷え切っている。政府はまず、この関係を地道に立て直さなければなるまい。

住宅密集地にある普天間飛行場を人口の少ない県北部に移す。米海兵隊8000人をグアムに移転し、普天間など米軍6施設を返還する。一連の日米合意の実施が相当な地元負担軽減になることを丁寧に説明することも大切だ。

普天間飛行場の辺野古移設にはほかにもハードルがある。社民党が強く反対していることだ。

民主党内には、社民党に配慮して、月末に予定される政府案決定の先送りを求める声もあるが、そんな無定見な対応は許されない。昨年末の二の舞いになる。

民主党は衆参両院で400議席超を有する。それが、わずか10議席余の社民党に振り回され、国の安全保障にかかわる問題が決められないようでは、国益に反する。鳩山首相の決断力と指導力が厳しく問われよう。

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