韓国海軍の哨戒艦「天安」沈没事件の原因について、韓国軍と民間専門家による国際合同調査団が「北朝鮮の小型潜水艦から発射された大型魚雷によるもの」と断定する調査報告を発表した。北朝鮮は関与を否定しているが、報告は具体的事実を網羅し、信頼に足る内容である。
事件は46人の犠牲者を出し、韓国に対する戦争行為に等しい軍事的暴挙といわざるを得ない。昨年春の弾道ミサイル発射と核実験の強行に続き、北東アジアの脅威を高め、世界の平和と安全に対する許し難い挑戦である。日本は米韓との連携を強化するとともに、国連安全保障理事会などを通じて協力し、国際社会の総意として断固たる制裁を発動すべきである。
◆直視すべき危険な現実
事件は日本の防衛と安全保障にも重大な問題を突きつけた。何よりも朝鮮戦争勃発(ぼっぱつ)60年の節目に起きた事件が象徴するのは、日本の安全に直結する北東アジアで、戦争再発につながる危機と緊張が半世紀以上を経て今なお続いているという現実だ。
にもかかわらず、鳩山由紀夫政権下で米軍普天間飛行場移設問題も解決できず、日米同盟は深刻な空洞化の危機に瀕(ひん)している。ミサイルと核の脅威に加え、北のさらなる挑発や朝鮮半島有事の備えも含めて、政府は国の総力を挙げて防衛態勢を再構築すべきだ。
事件が起きた北方限界線(NLL)海域は朝鮮戦争休戦協定直後の1953年夏に設定され、南北の武力衝突が繰り返されてきた。今回の事件も、昨年11月に起きた大青海戦で韓国側が北朝鮮艦艇に甚大な被害を与えた事件に対する周到な「報復」とみられる。
北朝鮮は合同調査団報告を「でっち上げ」とし、韓国側の報復や制裁に対して「全面戦争を含む強硬措置で応える」と警告した。一片の反省もなく、米国や李明博・韓国政権への対決姿勢を鮮明にしたことは、今後も同様な攻撃や挑発があり得るとの前提で対応しなければならない。
とりわけ韓国は、11月に主要20カ国・地域(G20)金融サミット開催を予定している。北の攻撃はこれを威嚇・妨害する効果を狙っているとも考えられる。
報告を受けて、李大統領は週明けにも韓国政府の対処方針を公表するが、少なくとも新たな対北制裁の追加に向けて国連安保理に問題を提起する可能性が高い。米国内では、過去に北朝鮮が起こしたラングーン事件(83年)や大韓航空機爆破テロ(87年)を想起し、ブッシュ前政権時代に解除された「テロ支援国家」に北を再指定すべきだとの意見もある。
米政府は「休戦協定違反」と厳しく非難した。今後は、クリントン国務長官が21日に来日して岡田克也外相らと協議し、訪中や米韓協議を経て具体的な対応を詰めていく見通しだ。
その場合、日本政府は核、ミサイル、拉致問題を一括解決するとの既定方針を貫くためにも、テロ支援国家再指定をオバマ政権に強く求めるべきである。また安保理制裁を履行する上で懸案となっていた北の船舶に対する貨物検査法案が20日、衆院を通過したのを踏まえて、制裁の実効性をさらに高めるために早急に成立させる必要があることもいうまでもない。
◆中国の責任は大きい
北の暴挙をやめさせる上で、とりわけ中国の責任は大きい。中国政府は今月初め、沈没事件に対する北の関与説が強まっていたにもかかわらず、金正日・北朝鮮総書記の訪中を受け入れ、6カ国協議の早期再開へ向けた経済支援について話し合った。
大規模経済支援では合意に至らなかったとの観測もあるにせよ、今回の事件で中国政府が消極的対応を示しているのは理解できない。現在は6カ国協議の再開よりも事件への対応を優先する必要がある。北が協議に無条件復帰しないかぎり、北に見返りを与える形で復帰を促すべきではない。
鳩山首相は20日、関係閣僚会議を開き、「米韓を含む関係各国と緊密に連携・協力していく」との談話を発表した。基本方針として当然だが、テロ支援国家再指定問題も含めて、米韓の態度表明を待つ姿勢では主体性に欠けるといわざるを得ない。
今回の国際調査も、日本の直近で起きた事件である以上、何らかの形で貢献することもできたはずだ。人ごとではない。日本の安全を自ら守る毅然(きぜん)たる姿勢と日米同盟を強化する指導力を発揮しなければ国の安寧は保てない。
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