普天間共同声明 米国優先は禍根を残す

朝日新聞 2010年05月25日

北朝鮮の挑発 日米中韓の連携が鍵だ

だれも新たな軍事衝突に発展することは望まない。しかし、異様な独裁体制に武力挑発をやめさせるためには強い圧力が必要だ。

北朝鮮の魚雷による韓国哨戒艦の撃沈を受け、韓国をはじめ各国が直面しているのは、そうした難しい課題だ。緊密な国際的連携で解決への道筋を見つけ出さなければならない。朝鮮半島の安定に大きなかかわりを持つ日本にとって、これは自身の問題でもある。外交や可能な法的手段を動員して事態の打開に努めたい。

「北朝鮮の軍事挑発であり、北は相応の対価を払うようになる」

韓国の李明博大統領はきのう発表した談話で北朝鮮を強く非難した。

来月は、朝鮮戦争の勃発(ぼっぱつ)からちょうど60年。「この60年、北は少しも変わらなかった。同じ民族として実に恥ずかしい」。大統領の言葉には強い憤りといらだちがにじんだ。

韓国は「対価」として、北朝鮮との交易や交流を原則的に止めることを決めた。武力侵犯には「即刻、自衛権を発動する」とも強調した。

また、米軍と合同で対潜水艦演習を実施し、米国主体の大量破壊兵器拡散防止構想(PSI)による海上封鎖訓練も行う意向を明らかにした。

北朝鮮は激しく反発する姿勢を見せている。魚雷攻撃を否定し、「戦争局面に入った」と脅す。韓国が北朝鮮との境界付近に設けている対北宣伝用のスピーカーを撤去しなければ射撃すると警告、「核抑止力を拡大・強化する権利がある」と主張した。

応酬を衝突にエスカレートさせてはならない。緊張を過度に高めることなく、北朝鮮に自制を迫るために国際社会は何ができるか。韓国は国連安全保障理事会に問題を提起する方針だ。安保理のなかでも米中両国の役割は重い。日本も非常任理事国だ。

折しも北京で米中の戦略・経済対話が始まった。クリントン国務長官は「北朝鮮問題で米中は共同で対処しなければならない」と語った。米議会内ではすでに北朝鮮をテロ支援国家に再び指定すべきだとの声も出ている。

経済的に北朝鮮を支える中国が平壌に圧力を加え、暴走を阻むことは、中国に国際社会が求めている役割だ。

鳩山内閣はきのうの安全保障会議で、韓国を支持して日米韓の連携を強めることを確認した。

中国への働きかけも鍵だ。月末の日中韓首脳会議は大切な舞台になるが、事態は切迫している。米、中、韓、ロシアという関係国の外相会談を緊急に呼びかけてはどうか。

核開発に対する安保理制裁を受けて、北朝鮮船などの検査を可能にする貨物検査特別措置法案が衆院を通った。北朝鮮への国際的な包囲網を強めるためにも、成立は不可欠だ。

毎日新聞 2010年05月25日

朝鮮半島緊迫 中国説得の機会逃すな

「朝鮮半島情勢が重大な転換点を迎えています」。韓国の李明博(イミョンバク)大統領は海軍哨戒艦「天安」の沈没事件に関する国民向け談話を、こう切り出した。

それは単に、北朝鮮の魚雷による撃沈と結論付けた先週の発表で危機局面に入ったという意味ではあるまい。北朝鮮の行動を変えさせるという目標への決意表明だったろう。

李大統領は事件を国連安全保障理事会に提起し「国際社会と共に北朝鮮の責任を問う」と明言した。

これを受けて日本政府は、鳩山由紀夫首相を議長とする安全保障会議を開き、安保理での対応などで日米韓の連携を強化することにした。北朝鮮に対する日本独自の新たな制裁措置を検討し、北朝鮮関係の船舶を対象とする貨物検査特別措置法案の早期成立を図る方針も確認した。

一方、北京を訪問中のクリントン米国務長官は「米中戦略・経済対話」の開幕式で、「天安」事件について中国側に協調を呼びかけた。これは重要な点である。北朝鮮の行動を変えさせるには中国の協力が不可欠だと、私たちは繰り返し指摘してきた。中国は北朝鮮への制裁的措置に消極的だが、慎重一辺倒では責任ある大国とは言えない。

幸い、28日に中国の温家宝首相が訪韓し李大統領と会談する。翌日は済州島で日中韓首脳会談が開かれ、さらに温首相の訪日へと続く。北朝鮮への対応をめぐり日韓が連携して中国に協力を促すチャンスだ。この機会を生かしてもらいたい。

李大統領の談話には苦悩が満ちていた。北朝鮮非難の中で金正日(キムジョンイル)総書記を名指しすることは避けたものの「世界で最も好戦的な集団と対峙(たいじ)している現実」には言及した。

打ち出された対応策は厳しい。安保理への提起だけではない。黄海での米韓合同の対潜水艦訓練や、大量破壊兵器拡散防止構想(PSI)に基づく海上封鎖訓練などの実施予定は、北朝鮮に恐怖をもたらすに違いない。反発も激しかろう。

また南北間の交易・交流の原則的中断では、韓国側に痛みもある。南北関係を完全に断絶させるのはむしろ危険なため、北朝鮮地域に進出した開城工業団地は維持するが、それ以外にも北朝鮮と取引のある韓国企業が少なくないのだ。

対北融和政策を掲げた金大中(キムデジュン)、盧武鉉(ノムヒョン)両政権の10年間に「成果」とされた緊張緩和のための措置や人的交流も縮小必至だ。これらは韓国内で対立を招くだろう。

李大統領の談話を、金総書記が委員長を務める国防委員会は「下手な芝居」などとこきおろした。当面、緊張の継続は不可避だ。慎重に、粘り強く対処するしかあるまい。

読売新聞 2010年05月25日

韓国大統領談話 安保理は北朝鮮の責任を問え

韓国の李明博大統領が国民向けの談話で、哨戒艦の沈没事件を「北朝鮮の軍事的挑発」だと断定し、国連安全保障理事会に提起して厳しく責任を問う方針を表明した。

乗組員46人の命を奪った沈没事件の原因については、先に国際的な合同調査団が、「北朝鮮の魚雷攻撃だった」とする結果を物的証拠とともに明らかにしている。大統領が言うとおり、「戦争行為」以外のなにものでもあるまい。

安保理は当然、こうした非道な行為を指弾すべきである。

焦点は、拒否権を持つ常任理事国の中国の対応だ。事件を安保理で扱うことに慎重で、これでは新たな制裁決議は無論、議長声明すら困難との見方がある。中国は、北朝鮮を追い込むことは逆効果と考えているのかもしれない。

昨年4月、安保理は、長距離弾道ミサイルを発射した北朝鮮を非難する議長声明を採択した。北朝鮮は激高し、2度目の核実験を強行した。今回も、安保理が制裁に動けば3度目の核実験を行い、情勢は緊迫するとの懸念がある。

だが、安保理がこの問題で議長声明すら出せないようでは、北朝鮮は、核実験やミサイル発射をしないよう求めた現行の制裁決議をなおさら軽視しよう。こうした事態は東アジアの平和と安定を損ない、中国のためにもなるまい。

日米韓は、北朝鮮の行為を看過しないため共同歩調をとるよう、中国の説得に努めるべきだ。開幕した米中戦略・経済対話、それに続く中韓首脳会談、日中韓首脳会談はそのための重要な機会だ。

李大統領は、韓国が独自にとる制裁措置として、開城工業団地の操業を除く「南北交易と交流の中断」を宣言した。

韓国は国際的な制裁圧力の強化を狙って、北朝鮮をテロ支援国に再指定するよう、米国への働きかけを強めるだろう。

李大統領は、「武力侵犯」には自衛権を発動する、と北朝鮮に強く警告した。韓国政府は、大量破壊兵器・関連物資の移転や輸送を防ぐ拡散阻止構想(PSI)に積極的に参加し、米韓合同の対潜水艦訓練も実施するという。

日本も、鳩山首相が安全保障会議で、韓国の立場を支持するとともに、独自の追加制裁措置を検討するよう指示した。

日本は、北朝鮮のいかなる挑発にも、安保理決議の違反にも、断固として対応すべきだ。自衛隊の警戒・監視や情報収集態勢を再点検し、日米同盟の実効性を強化することは待ったなしの課題だ。

産経新聞 2010年05月25日

北朝鮮制裁 貨物検査法案の成立図れ

韓国海軍の哨戒艦が北朝鮮の魚雷で沈没したとの調査結果を受け、李明博大統領が国民に向けた談話を発表した。

北朝鮮に謝罪と関係者の処罰を要求し、国連安全保障理事会に問題提起する一方、今後北朝鮮が韓国の領海、領空を武力侵犯した場合は自衛権を発動する内容だ。

韓国のみならず、北東アジアの安全にかかわる重大事件への対応だ。李大統領の断固たる方針は当然である。

問題は韓国が安保理に北朝鮮制裁決議案を出した場合の対応だ。鳩山由紀夫首相は「先頭に立って努力したい」と述べたが、日本の安全保障に直接かかわる問題であり、言葉よりも具体的行動が求められる。24日の政府の安全保障会議で、首相は日米韓の連携強化や独自制裁の検討、貨物検査法案の早期成立への取り組みを指示した。迅速に行動すべきだ。

日本政府はすでに対北全面禁輸、人的往来・送金の規制など独自制裁を実施しているが、事件を受け自民党から送金の全面停止や資産移転禁止の対象拡大など制裁強化の申し入れがあった。鳩山政権は積極的に対応すべきだ。

韓国政府が発表した具体的な措置には、米韓合同の対潜水艦軍事演習や大量破壊兵器拡散防止構想(PSI)に基づく海上封鎖訓練が含まれる。

国連安保理の北朝鮮制裁決議を受け、経済封鎖が現実となった場合、日本にも支援要請してくる可能性がある。具体的には米韓の包囲網を逃れた北朝鮮船舶の追跡や検査などが想定される。

しかし、現行国内法では十分に対応できない。

現行の周辺事態安全確保法と船舶検査活動法によれば、自衛隊が船舶検査を行うことができるのは国連安保理決議により平和の破壊、侵略行為と決定され、経済制裁の対象となる場合だ。だが「周辺事態」ではなくなった場合は、戦闘が行われていない後方地域での支援もできないと規定され、実効的な役割を果たせない。

20日に衆院を通過した貨物検査法案では、検査を拒んだ船舶を近くの日本の国内港まで誘導することができるなど、より実効性がある。早期成立を図るべきだ。

経済の破綻(はたん)と慢性的な食糧・エネルギー危機にあえぐ北朝鮮の動きを封じるには国際包囲網が不可欠である。日本だけが網の後方にいることはできない。

朝日新聞 2010年05月21日

普天間共同声明 米国優先は禍根を残す

覆水、盆に返らず。今更、日米合意の現行案に限りなく近い形に戻すといっても、解決にたどりつけるとは思えない。負担を引き受ける沖縄の理解を後回しにするやり方が通るだろうか。

米海兵隊普天間飛行場の移設問題で、日米両政府が今月末、外務・防衛担当閣僚名で共同声明を発表する方向で最終調整に入った。

移設先は名護市辺野古周辺と明記されそうだ。具体的な工法には触れないが、鳩山政権が提案した桟橋方式に米国側が難色を示していることから、最終的には埋め立てが採用されるとの見方が強まっている。

鳩山由紀夫首相としては、共同声明という体裁を整え、「5月末決着」を果たしたと言いたいのだろう。

しかし、この進め方は今後に大きな禍根を残す。

首相はこれまで、沖縄と米国双方の理解を得て案をまとめると繰り返してきた。沖縄が反対する県内移設を米国と合意して政府方針とするなら、鳩山政権が結局は沖縄よりも米国との関係を優先したということになる。

首相が現行案の見直しに挑戦したのは、在日米軍基地の75%が集中する沖縄の負担を軽減し、国外・県外移設を求める県民の願いに何とか応えたいという思いからではなかったのか。

それが、本気で「県外」への糸口を探ることもないまま公約をほごにし、沖縄の頭越しに米国と手を握るというのでは、県民の目には二重の裏切りと映るに違いない。

北朝鮮の魚雷による韓国哨戒艦沈没やイランの核開発問題など、日米関係をいつまでもきしませたままにできない事情はある。同盟関係維持の大切さは言うまでもない。

しかし、基地問題を解決するには、沖縄との信頼関係が決定的に重要だ。

沖縄の政治状況はこの間、様変わりした。国外・県外移設を求める世論はかつてない高まりをみせ、名護市では初めて移設反対派の市長が誕生した。

辺野古移設を条件つきで容認していた仲井真弘多知事といえども、簡単に同意できる立場ではない。新たな日米合意を盾に辺野古移設を強行すれば、大きな混乱は避けられまい。

2014年までの移設完了という現行案の日程が実現できなくなることも大いにありうる。そんな展開は米国にとっても望ましくないだろう。

鳩山政権のこれまでの迷走は見るに堪えないが、安保の負担を沖縄に押しつけてきた差別的構造を見つめ直し、国民全体で安保を考えようという機運も一部には出始めている。世論の前向きな変化の腰を折ることになるなら、首相の罪は重大である。

態勢を立て直し、安保とその負担のあり方を米国と、沖縄と、そして国会で議論し直すことを改めて求める。

毎日新聞 2010年05月23日

論調観測 「北朝鮮魚雷」事件 日米中に何を求めるか

韓国海軍哨戒艦の沈没事件で、多国籍合同調査団は、「北朝鮮製魚雷による水中爆発」が原因であると断定した。韓国大統領は「断固たる対応」を宣言し、国連安全保障理事会での制裁決議を求める考えだ。対応を協議するため日中韓3カ国を歴訪中の米国務長官は「挑発的な行動を取れば報いを受ける」と強い姿勢を表明し、日本も米韓両国と緊密に連携して北朝鮮への圧力を強める意向である。

国際社会が北朝鮮に対して行動する時のキープレーヤーは、米中両国である。特に、中国は北朝鮮にもっとも影響力を持っている国であり、安保理常任理事国でもある。姿勢、行動が注目されるのは当然だ。北朝鮮の後ろ盾になってきた中国がこれまで同様、制裁に消極姿勢をとり続ければ、国際的な共同対処に大きな足かせとなる。

北朝鮮を一斉に非難した各紙社説は、中国と米国、日本政府に何を求めたのだろうか。

毎日は、中国が制裁に慎重姿勢をとれば制裁決議どころか議長声明での非難も難しいとし、米国の金融制裁強化や「テロ支援国家指定」復活など安保理以外の制裁の選択肢を挙げた。日本には中国の協力を取り付ける努力を求め、核問題を扱う6カ国協議の進展が一時的に困難になっても「確固たる共同対処」を優先させるよう主張した。

安保理決議などで中国が重要な役割を担うという点では朝日も読売も同じだ。朝日は、中国に北朝鮮の挑発的行動を抑え、外交の場に引き出す努力を、日本には中国への働きかけを求めた。読売は、中国に毅然(きぜん)とした対応を要求し、日本には中国の説得と同時に、日本の安全保障にかかわる重大問題と認識して米国と緊密に協議するよう主張した。6カ国協議については早期再開の道を探るよう訴えた。

3紙に比べ、外交上の対処にとどまらず、安全保障上の対応をより強く日本政府に注文したのが日経、産経両紙である。

日経は「(事件は)日本の安全保障上の脅威」とし、北朝鮮に出入りする船舶への貨物検査を実施する特別措置法の早期成立や、「日米関係の足かせになっている米軍普天間基地問題の打開」を求めた。産経は「国の総力を挙げて防衛態勢を再構築すべきだ」と主張し、貨物検査特措法を成立させ、抑止力の実効性を高める方向で普天間問題を解決すべきだと語った。6カ国協議では、日経は事件をあいまいにしたまま再開努力するのは無理があるとし、産経は事件への対応を優先するよう訴えた。【論説委員・岸本正人】

読売新聞 2010年05月22日

日米外相会談 現行案軸に「普天間」合意急げ

もはや鳩山首相はメンツにこだわっている時ではない。米軍普天間飛行場の移設問題で日米合意を目指すなら、小手先の修正に固執せず、現行案に回帰する決断をすべきだ。

来日したクリントン米国務長官が岡田外相と会談し、普天間問題の日米合意を月内にまとめる方向で調整を急ぐ方針を確認した。長官は記者会見で、「日米同盟の強さを反映する形で解決できると確信している」と強調した。

鳩山政権は当初、沖縄県名護市辺野古の沿岸部を埋め立てて普天間飛行場の代替施設を建設する現行案に否定的だった。

だが、最近、現行案の代替施設の位置や建設工法を一部修正することで決着を目指す方針に転じた。鹿児島県・徳之島など新たな移設先候補が、地元の反対で次々と頓挫したためだ。

鳩山首相が約束した5月末の問題決着が絶望的となる中、せめて日米合意をまとめ、体裁を繕おうという思惑があるようだ。

遅すぎた方針転換だが、日米同盟を堅持しつつ、沖縄の負担軽減を実現する観点からは、現実的で望ましい方向と言えよう。

方針転換した以上、「環境重視」の名目で埋め立てを(くい)打ち桟橋方式に変更することなどは、早く断念した方がいい。

代替施設の影響を最も受ける辺野古地区の住民組織が埋め立てによる現行案を容認していることをもっと重視する必要がある。

鳩山首相は、普天間問題に関する理解不足から「県外移設」を主張したり、昨年末に現行案での決着を決断できなかったりした自らの過ちを率直に謝罪し、沖縄や地元の理解を求めるべきだ。

日米外相会談では、「北朝鮮の魚雷攻撃」が原因と判明した韓国軍哨戒艦沈没事件について、日米両国が韓国の立場を支持し、連携していく方針で一致した。

被害を受けたのは韓国だが、日本にとっても決して人ごとではない。日本自らの安全保障にかかわる重大な問題と認識したうえ、日韓共通の同盟国である米国と緊密に協議を重ねることが大切だ。

韓国が国連安全保障理事会に事件を提起すれば、実効性のある厳しい決議を採択し、北朝鮮包囲網を構築するよう、日本が最大限協力するのは当然である。

重要なのは、北朝鮮に一定の影響力を持つ中国の協力を得ることだ。29、30両日の日中韓首脳会談が重要な外交の場となる。鳩山首相は、韓国と足並みをそろえ、中国を説得せねばならない。

産経新聞 2010年05月24日

米軍普天間基地 「辺野古」で合意まとめよ

沖縄を再訪問した鳩山由紀夫首相は、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設先について「名護市辺野古の付近にお願いせざるを得ない」との考えを初めて仲井真弘多知事に伝え、これまでの経過を謝罪した。

辺野古付近は現行計画と重なり、修正する場合でも現行計画に伴う環境アセスメントを遅らせないことで日米間では一致している。首相は事実上、現行計画に戻ることを表明したといえる。

地元も受け入れた経緯があり、米側が「最善の案」とする現行計画は最も現実的といえる。迷走の末とはいえ決断を支持したい。

だが、その実現には多くの課題が残っている。仲井真知事は「極めて遺憾で厳しい」と県民の強い反対意見を背景に首相の提案を批判した。政府側は連立与党内の意見も一致していない。

問題はこれらに加え、具体的な建設場所や工法が秋まで先送りされたことだ。日米両政府は辺野古移設を軸に共同文書を28日に発表し、協議を継続する。5月末までに決着すると国民に約束した首相は、責任を果たすべきだ。秋まで待つ理由はない。直ちに辺野古移設の実現に取り組むべきだ。

首相は知事に対し、韓国哨戒艦沈没なども念頭に「東アジアの安全保障環境に不確実性がかなり残っている」と指摘し、「在日米軍の抑止力を現時点で低下させてはならない」と述べた。海兵隊の機能維持には県内移設が必要だとする説明は当然である。

そもそも、首相の米軍の抑止力への認識不足が県外移設への固執と迷走を招いた。県民に期待を抱かせた一因として知事が指摘した民主党の「沖縄ビジョン」も、米軍基地の大幅縮小などを掲げたものだ。安全保障への根本的な姿勢が問われている。

首相は普天間以外に、米軍訓練に伴う漁業の操業制限区域の緩和など、沖縄県側の要望を尊重する姿勢を示している。

だが、4年前の日米合意には、すでに海兵隊員8000人のグアム移転や嘉手納飛行場以南の米軍施設返還も含まれている。いずれも重要な沖縄の負担軽減につながる内容だ。普天間問題の決着が遅れるほど、米軍再編に伴う負担軽減の実現にも支障をもたらすことを認識する必要がある。

耳に聞こえのいい軽減策を並べるより、辺野古への移設決着が最優先の課題だ。

毎日新聞 2010年05月22日

日米普天間協議 道理なき「辺野古回帰」

来日したクリントン米国務長官が岡田克也外相、鳩山由紀夫首相と相次いで会談した。主題は「北朝鮮魚雷」事件への対応と米軍普天間飛行場の移設問題だった。

政府は普天間問題について、進行中の日米実務者協議を踏まえ、首相の沖縄再訪、日米防衛担当閣僚の会談を経て、28日にも政府の対処方針と日米共同声明を発表する段取りを想定している。日米外相会談は、政府が描くこうした「5月末決着」を演出する場となった。

普天間問題について、外相会談では「5月末の決着に向けてさらに努力する」ことで一致し、会談後の共同会見でクリントン長官は「運用上も政治上も持続的な解決策を見いだしたい」と語った。また、首相は長官との会談で、北朝鮮魚雷事件やイラン核問題を挙げながら、日米の信頼関係強化の重要性を強調し、長官は「オバマ米政権は日米関係に大変強い関心を持っている」と応じた。日米連携の再確認は評価できる。

しかし、普天間の対処方針は、移設先を沖縄県の「名護市辺野古周辺」とし、訓練分散移転や米軍基地の環境対策などで沖縄の負担軽減を図るという内容になる見通しだ。共同声明もこれに沿ったものになりそうだ。「辺野古周辺」への移設は、現行の日米合意である辺野古沿岸部での基地建設とほぼ同じである。

これでは首相が強調してきた「決着」にはほど遠い。移設先の合意がないばかりか、連立与党合意の見通しもない。日米間だけの大枠合意では事実上の先送りである。

何より、移設先の「辺野古回帰」には大きな疑問がある。考え抜かれた結論とは言い難い。首相自ら設けた5月末の期限が迫り、現行案を主張する米側の強い姿勢に直面して、形ばかりの日米合意を作り上げるために辺野古に回帰したというのが実情だろう。「5月末」を乗り切って政権の延命を図る弥縫(びほう)策と言われても仕方ない。

また、辺野古移設には、地元の名護市長が強く反対し、かつて容認姿勢だった仲井真弘多県知事も、地元首長が反対している地域への移設は困難であるとの立場だ。「辺野古周辺」移設は現実的な解決策とは言えない。その結果は、移設計画の頓挫と普天間の継続使用となる可能性が高い。

移設先との合意より日米合意を優先する手法も問題だ。日米合意を沖縄に迫るのは、沖縄県民にとって日米両政府が負担を沖縄に押しつけていると映る。政府と沖縄の対立を深め、解決の前提である両者の信頼関係をさらに傷つけるだけだ。

政府には体裁を整えるだけの対応を排し、全体方針を見直して移設問題に取り組むよう求める。

読売新聞 2010年05月21日

韓国哨戒艦沈没 やはり「北」の魚雷攻撃だった

朝鮮半島の西側の黄海で、3月26日に起きた韓国海軍哨戒艦「天安」の沈没事件について、韓国の軍・民間合同調査団は「北朝鮮の魚雷攻撃」によるものだった、と結論づける調査報告を発表した。

名指しされた北朝鮮は、ただちに「捏造(ねつぞう)だ」と反発し、制裁に対しては「全面戦争を含む各種の強硬措置で応える」と恫喝(どうかつ)した。

今後の展開次第で、北朝鮮が危険な挑発行為に出る恐れもある。日米韓の3か国は連携を強め、これを断固阻止する決意で臨まなければならない。中露両国も、これに呼応すべきだ。

調査団には、米、英、豪、スウェーデンの専門家も加わった。

「北朝鮮の犯行」を裏付ける決め手となったのは、沈没現場の海域で回収したスクリューを含む魚雷用の推進動力部品だった。北朝鮮の輸出兵器カタログに載った魚雷の設計図に示された部品と大きさや形状が合致していた。

そうした物的証拠も公開しての発表は客観的で説得力がある。

当の北朝鮮は、事件との関与を否定している。だが、日本人拉致や、韓国の4閣僚らを爆死させた27年前の爆破テロなどで、ウソを重ねた北朝鮮のことだ。額面通りには受け取れない。

事件現場は、韓国と北朝鮮の艦艇が衝突を繰り返してきた一触即発の海域だ。昨年11月にも、機関砲を撃ち合い、北朝鮮側に損害が出た。魚雷攻撃はその報復だとする見解が韓国内にはある。

韓国は今回の事件を機に、防衛政策の抜本的見直しに入った。米韓同盟の一層の強化を打ち出す見通しだ。左派政権の対「北」融和政策の結果、北朝鮮への警戒が薄れていたことへの反省がある。

韓国政府は、国連安全保障理事会に提訴する方針だ。

鳩山首相とオバマ米大統領は、李明博大統領との個別の電話会談で韓国への支援を約束した。安保理では、北朝鮮の責任を厳しく問う文書の採択に尽力すべきだ。

中国が、調査結果発表を受けて北朝鮮非難の姿勢を見せるかが、注目される。この際、中国には毅然(きぜん)と対処してもらいたい。

北朝鮮の核廃棄を目指す6か国協議の再開は、今回の事件の影響で、当面ずれ込むと見られる。だが、それは協議復帰を渋る北朝鮮にとって、核兵器開発の時間を稼ぐことにつながる。

日本の安全を直接脅かす北朝鮮の核開発を野放しにはできない。日本としては、6か国協議の早期再開の道を探る必要がある。

産経新聞 2010年05月22日

米国務長官来日 抑止力強化は待ったなし

韓国哨戒艦の沈没原因が北朝鮮による魚雷攻撃と断定されたことを受けてクリントン米国務長官が来日し、鳩山由紀夫首相、岡田克也外相と今後の対応を協議した。

この問題で北朝鮮は対決姿勢を強め、さらなる挑発や攻撃に出る恐れがある。日本にとって一にも二にも大切なことは日米同盟の抑止態勢を強化し、防衛の備えを固めて警戒・監視を怠らないことだ。鳩山首相には在日米軍を含む抑止力の意義について改めて認識を深めてもらいたい。

韓国政府は来週、国連安保理への提起を含む対応を公表する見通しだ。岡田外相とクリントン長官は韓国の立場を強く支持し、安保理などで日米韓が連携して対応することで一致した。長官は普天間移設問題の「5月末決着」にも念を押した。

一方、米韓は北が新たな挑発を重ねる事態を警戒し、朝鮮戦争勃発(ぼっぱつ)60年にあたる来月、半島有事を想定した合同軍事演習を検討中という。その場合、沖縄の海兵隊や嘉手納基地の空軍などの在日米軍も参加する可能性が高い。

沖縄だけではない。日本国内ではキャンプ座間、横須賀、佐世保などの米軍施設7カ所が国連軍施設に指定され、朝鮮戦争後も北の侵略を阻止する重要な国際的役割を担っている。沖縄の米軍普天間飛行場もその一つだ。

今回の事件で米韓が「朝鮮戦争の休戦協定違反」と非難したように、朝鮮半島の緊張は決して過去の話ではない。長官も「通常の対応では済まない」と警告した。日米同盟を通じた抑止力の存在が日本の安全や北東アジアの平和と不可分の関係にあることを国民一人ひとりが理解する必要がある。

とりわけ今回の事件で、「何をするかわからない」という金正日体制の危険な本質が改めて示されたといってよい。

これを受けて前原誠司国土交通相が「日本は海に囲まれ、不測の事態が起こらないように万全を期す」と、海上保安庁に原発など重要施設を含めて警戒監視態勢の強化を指示した。原口一博総務相も消防庁などに危機管理に万全を尽くすよう命じた。いずれも当然の対応として評価したい。

北の暴発に備えつつ、国家の安全や同盟を通じた抑止の意味を考えるとともに、その実効力を高めねばならない。普天間移設問題もその中で早急に解決すべきことはいうまでもない。

産経新聞 2010年05月21日

哨戒艦沈没報告 北に断固たる制裁とれ 日米同盟強め韓国と連携を

韓国海軍の哨戒艦「天安」沈没事件の原因について、韓国軍と民間専門家による国際合同調査団が「北朝鮮の小型潜水艦から発射された大型魚雷によるもの」と断定する調査報告を発表した。北朝鮮は関与を否定しているが、報告は具体的事実を網羅し、信頼に足る内容である。

事件は46人の犠牲者を出し、韓国に対する戦争行為に等しい軍事的暴挙といわざるを得ない。昨年春の弾道ミサイル発射と核実験の強行に続き、北東アジアの脅威を高め、世界の平和と安全に対する許し難い挑戦である。日本は米韓との連携を強化するとともに、国連安全保障理事会などを通じて協力し、国際社会の総意として断固たる制裁を発動すべきである。

◆直視すべき危険な現実

事件は日本の防衛と安全保障にも重大な問題を突きつけた。何よりも朝鮮戦争勃発(ぼっぱつ)60年の節目に起きた事件が象徴するのは、日本の安全に直結する北東アジアで、戦争再発につながる危機と緊張が半世紀以上を経て今なお続いているという現実だ。

にもかかわらず、鳩山由紀夫政権下で米軍普天間飛行場移設問題も解決できず、日米同盟は深刻な空洞化の危機に瀕(ひん)している。ミサイルと核の脅威に加え、北のさらなる挑発や朝鮮半島有事の備えも含めて、政府は国の総力を挙げて防衛態勢を再構築すべきだ。

事件が起きた北方限界線(NLL)海域は朝鮮戦争休戦協定直後の1953年夏に設定され、南北の武力衝突が繰り返されてきた。今回の事件も、昨年11月に起きた大青海戦で韓国側が北朝鮮艦艇に甚大な被害を与えた事件に対する周到な「報復」とみられる。

北朝鮮は合同調査団報告を「でっち上げ」とし、韓国側の報復や制裁に対して「全面戦争を含む強硬措置で応える」と警告した。一片の反省もなく、米国や李明博・韓国政権への対決姿勢を鮮明にしたことは、今後も同様な攻撃や挑発があり得るとの前提で対応しなければならない。

とりわけ韓国は、11月に主要20カ国・地域(G20)金融サミット開催を予定している。北の攻撃はこれを威嚇・妨害する効果を狙っているとも考えられる。

報告を受けて、李大統領は週明けにも韓国政府の対処方針を公表するが、少なくとも新たな対北制裁の追加に向けて国連安保理に問題を提起する可能性が高い。米国内では、過去に北朝鮮が起こしたラングーン事件(83年)や大韓航空機爆破テロ(87年)を想起し、ブッシュ前政権時代に解除された「テロ支援国家」に北を再指定すべきだとの意見もある。

米政府は「休戦協定違反」と厳しく非難した。今後は、クリントン国務長官が21日に来日して岡田克也外相らと協議し、訪中や米韓協議を経て具体的な対応を詰めていく見通しだ。

その場合、日本政府は核、ミサイル、拉致問題を一括解決するとの既定方針を貫くためにも、テロ支援国家再指定をオバマ政権に強く求めるべきである。また安保理制裁を履行する上で懸案となっていた北の船舶に対する貨物検査法案が20日、衆院を通過したのを踏まえて、制裁の実効性をさらに高めるために早急に成立させる必要があることもいうまでもない。

◆中国の責任は大きい

北の暴挙をやめさせる上で、とりわけ中国の責任は大きい。中国政府は今月初め、沈没事件に対する北の関与説が強まっていたにもかかわらず、金正日・北朝鮮総書記の訪中を受け入れ、6カ国協議の早期再開へ向けた経済支援について話し合った。

大規模経済支援では合意に至らなかったとの観測もあるにせよ、今回の事件で中国政府が消極的対応を示しているのは理解できない。現在は6カ国協議の再開よりも事件への対応を優先する必要がある。北が協議に無条件復帰しないかぎり、北に見返りを与える形で復帰を促すべきではない。

鳩山首相は20日、関係閣僚会議を開き、「米韓を含む関係各国と緊密に連携・協力していく」との談話を発表した。基本方針として当然だが、テロ支援国家再指定問題も含めて、米韓の態度表明を待つ姿勢では主体性に欠けるといわざるを得ない。

今回の国際調査も、日本の直近で起きた事件である以上、何らかの形で貢献することもできたはずだ。人ごとではない。日本の安全を自ら守る毅然(きぜん)たる姿勢と日米同盟を強化する指導力を発揮しなければ国の安寧は保てない。

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