石綿訴訟判決 法的救済の拡大を急げ

朝日新聞 2010年05月20日

アスベスト判決 政府は責任認め、救済を

関西空港の対岸、大阪・泉南地域には、かつて100軒を超える石綿(アスベスト)の紡織工場があった。戦前は軍需産業、戦後は自動車や造船など基幹産業の成長を下支えして、工場の外にまで石綿が雪のように積もっていたという。

そうした工場で働いていた人たちが肺がんなどになったのは、国が規制を怠ったためだと訴えた集団訴訟で、大阪地裁は「省令で適切な対策を講じなかったことは違法」と、国に総額約4億3千万円の賠償を命じた。石綿の被害をめぐる裁判で、初めて国の責任が認められた。

石綿は天然の繊維状鉱物だ。吸い込まれて肺に突き刺さった細い繊維はいつまでも溶けず、中皮腫や肺がんを引き起こすことがある。中皮腫は10年から40年もたって発症することから、「静かな時限爆弾」と呼ばれている。

石綿の粉じんが健康被害を引き起こすことは早くからわかっていた。被害を防ぐため1960年に国はじん肺法をつくったが、排気装置の設置を事業所に義務づけなかった。それを義務づけた後も粉じんの測定結果を報告したり、労働環境を改善したりすることを求めなかったために、被害の拡大を招いた。判決はそう指摘した。

石綿の被害は世界的に大問題になり、欧米では80年代に使用禁止にした国もある。だが、日本では90年代半ばまでかなりの量を使い続けた。

石綿を使っていた業界が「代替品がない。管理して使えば大丈夫」と主張し、政府がその言い分を受け入れてしまったからだ。

規制を厳しくすれば経営者に負担をあたえる。だが経済効率の前に人々の健康を犠牲にしてはならない。数々の公害でも問われたことが、ここでも言える。判決も「労働者の健康や生命の安全をないがしろにすべきではない」と明快に指摘した。

鳩山政権はまず国として石綿被害を拡大させた責任を認め、被害者に謝罪すべきである。そして控訴せずに、被害者対策に乗り出した方がよい。

兵庫県尼崎市でクボタ旧神崎工場周辺の石綿被害が明らかになったことをきっかけに、労災では救われない住民を対象にした石綿健康被害救済法が06年にできた。だが、月10万円余の療養手当などではあまりにも手薄だ。法施行から5年をめどに見直すことになっており、予期せぬ被害を受けた人の救済を充実させてほしい。

国内で使われた石綿は1千万トンに及び、中皮腫による死者は今後40年間で10万人にのぼるとの試算もある。石綿が使われた建物はそろそろ耐久年数を迎え、建て替えのため解体される。

石綿の被害は過去のことではない。この判決を、対策の遅れを取り戻すきっかけとして生かしたい。

毎日新聞 2010年05月20日

石綿訴訟判決 法的救済の拡大を急げ

アスベスト(石綿)被害を巡り国家賠償を求めた裁判で、大阪地裁は初めて国の不作為責任(怠慢)を認め、賠償を命じた。原告は大阪府泉南地域の石綿紡織工場の元従業員らで、長年にわたって石綿肺などで苦しんできた。被害を発生させた大半は零細企業で既に廃業している。判決は、救済から取り残された労働者の健康被害を重くみて、規制を怠った行政の責任を厳しく指摘したといえ、評価できる。

泉南地域は、約100年前から石綿を使った紡織業が盛んだった。石綿は船や自動車の部品に使われ、高度経済成長を下支えしてきた。

判決は周辺住民の請求を退けたものの「旧じん肺法が制定された1960年までに、工場に石綿粉じんを抑える排気装置の設置を義務付けなかったのは違法」と国の責任を明確に認めた。さらに判決は「対策を講じる工場に負担がかかることを理由に、石綿粉じんにさらされる労働者の健康や生命の安全をないがしろにすることはできない」と国を戒め、共同不法行為責任があるとした。

判決は、04年の筑豊じん肺訴訟の最高裁判決が示した「許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるとき」という基準を踏まえ、行政の権限不行使を違法と判断した。健康被害を巡る訴訟で国の不作為責任を認める流れは定着しつつあり、水俣病やじん肺の訴訟でも患者勝訴が続いている。

石綿被害では東京地裁や横浜地裁で国賠訴訟が係争中で、今回の判決が影響を与えるのは必至だ。

石綿による健康被害の多くは発症までの潜伏期間が長いのが特徴で、中皮腫では平均40年といわれる。中皮腫での死者は08年に1170人と10年間で倍増し、00年からの40年間で10万人に上るとの予測もある。被害は今後数十年にわたって確実に拡大していくとされる。

05年に機械メーカー「クボタ」の旧工場の従業員や周辺住民に中皮腫や肺がんなどの石綿被害が広がっていたことが社会問題化した。これを受けて政府は緊急法案をまとめ、翌年に患者・遺族の救済を図る石綿健康被害救済法を施行した。

しかし、救済対象は原則、中皮腫や肺がんで医療費の支給などに限定されている。大企業による被害補償の動きも進んだが、零細企業や廃業した企業には補償能力はなく、多くの被害者が置き去りにされている。

迅速な被害救済のため、不備が指摘される救済法の改正が急務だ。支給金の増額や救済対象の拡大を図る必要がある。危険な石綿の使用を長年放置してきた国は判決を謙虚に受けとめ、積極的な被害救済に乗り出さねばならない。

読売新聞 2010年05月20日

アスベスト判決 国の怠慢が被害を拡大させた

アスベスト(石綿)の危険性を早くから知りながら、国は必要な対策を怠り、健康被害を拡大させた――。

大阪府南部・泉南地域の石綿紡織工場で働き、石綿肺(じん肺)や肺がんになった元従業員や家族らが国家賠償を求めた訴訟で、大阪地裁は国に約4億3500万円の支払いを命じる判決を出した。

石綿被害をめぐり、国の責任を認めた初の司法判断である。東京、横浜、神戸の各地裁で争われている同種訴訟にも、大きな影響を与えるだろう。

判決は、旧じん肺法が成立した1960年までに、国として排気装置の設置を義務付けるなど、危険性を減らし、被害の拡大を防ぐための省令を制定しなかったことを、違法と認定した。

72年には肺がん、中皮腫との因果関係について医学的見解が明らかになったのに、粉じん濃度の測定結果の報告や改善措置を義務付けなかったことも違法とした。

「権限の不行使が、許容される限度を逸脱し、著しく合理性を欠き違法」と、判決は国の怠慢を厳しく批判している。

泉南地域には明治末期から石綿関連の工場が多数集まり、戦前は軍需産業、戦後は国の基幹産業を下支えしてきた。零細業者がほとんどで、従業員は危険性の認識もないまま石綿を吸い込み続け、病に侵されていった。

その点を判決は、「国民に対する石綿被害や危険性に関する適切な情報提供についても、やはり国は怠ったと言わざるを得ない」と指摘した。危険情報が早期に伝えられていれば、被害の拡大はもっと抑えられたかもしれない。

石綿の吸引から病気発症までは長い潜伏期間があり、粉じんと被害の因果関係はわかりにくい。しかし、海外の研究や泉南地域での医学・疫学調査の結果は、因果関係を指摘していた。国がこれらを軽視してきた責任も重大だ。

行政の不作為をめぐっては、筑豊じん肺訴訟や関西水俣病訴訟の最高裁判決(いずれも2004年)が、国に賠償を命じるなど流れが定着しつつある。国民の健康、安全を守る行政の責任はますます重くなっている。

世界保健機関(WHO)が石綿の発がん性を警告した72年以降も、日本では経済成長の波に乗り石綿の大量消費が続いていた。

それが今、ビルや学校などの解体現場で問題化しつつある。国は石綿被害の解消に真剣に取り組んでもらいたい。

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