ウラン国外搬出 イランは誠実な対応を

朝日新聞 2010年05月19日

イラン核合意 言行一致が信用の条件だ

イランがこのままウラン濃縮を続けると、数年後には核兵器を保有できる状態になりかねない。これを止めようと、米欧などが国連安全保障理事会で、新たな制裁決議を準備中だ。ニューヨークで開催中の核不拡散条約(NPT)再検討会議では、イランと米国が非難合戦を演じている。

出口は見いだせないのか。

緊迫感が高まるなか、イランが、平和裏の決着に向けたブラジル、トルコの調停案に合意した。すぐさま懸念が解消されるわけではないが、イランが外交で緊張を緩和する動きに出たことは新たな展開だ。外交による最終決着に向けた糸口にできればと思う。

調停によってイランは、保有する濃縮度3.5%の低濃縮ウラン、1.2トンのトルコへの搬出に合意した。その代わりに、医療用の研究炉に使う、20%に濃縮・加工された核燃料棒120キロの受領を条件にしている。

米軍幹部は先月の議会証言で、イランは1年以内に核兵器をつくるのに必要な量の高濃縮ウランを手にし、その後、3~5年で使用可能な核弾頭を製造できるようになりかねないとの見通しを示した。1.2トンが搬出されれば、イランが核保有できる危険水域を先延ばしすることはできる。

ブラジルのルラ大統領はイランで最高指導者のハメネイ師とも会談した。ハメネイ師が調停外交を評価した、とイランのテレビは伝えている。「国外搬出」に反対してきた保守派が柔軟な姿勢に転じたことをうかがわせる。搬出先が、米欧ではなくイスラム世界の友好国であるトルコという点も、イラン世論を説得する材料になっている。

今回の調停を国際社会は、どう受け止め、生かしていくべきか。

イランにはこれまで言行不一致が何度もあり、欧米諸国はおおむねなお警戒的だ。イランが、調停に応じる一方で、ウラン濃縮の継続を表明している点への不信感も強い。調停を足がかりに外交決着へと進むには、イランが、疑問の余地なく「平和利用」を行動で示し、信頼を回復することが先決だ。

たとえば、低濃縮ウランはトルコへの搬出分がすべてではない。イランの保有量は約2トンとも言われる。このうち1.2トンの搬出で核開発の速度は鈍るが、なぜ全量ではないのか、との疑問は残る。

しかも、ウラン濃縮を継続するなら、再び保有量が増えることになる。「平和利用」を証明するには、全量の国外搬出、ウラン濃縮活動の停止に踏み出すべきだろう。そのための条件などを外交の場で考えるべきだ。

ブラジル、トルコは現在、安保理非常任理事国だ。これまで主にイランと交渉してきた安保理常任理事国とドイツは、この両国と連携を強めながら、イランの説得にあたってもらいたい。

毎日新聞 2010年05月19日

ウラン国外搬出 イランは誠実な対応を

確かに核問題の曲がり角ではあるのだが、その先の風景が明るいのか暗いのか、どうも測りかねる。それが実情ではないか。低濃縮ウランの国外搬出をめぐるイランとトルコ、ブラジルの合意には、あいまいな点が多い。この合意を核問題解決の足がかりにするには、何といってもイランの誠実な対応が必要だ。

合意内容はまず、2トンもの低濃縮ウランを持つとされるイランが、うち1・2トンをトルコに搬出して、これを国際原子力機関(IAEA)が監視下に置く。そして、米国とロシア、フランスなどが合意すれば、医療用アイソトープ生産用に加工したウラン燃料120キロを1年以内にイランに供給する、というものだ。

イランが国内でウラン濃縮などをやめるわけではないから根本的な解決にはならないが、大量の低濃縮ウランを国外に出すことは歓迎できる。たとえ一時的にせよ、核兵器製造の意思や能力がないことを示すことにもなろう。イスラエルによるイラン空爆という中東の潜在的危機も当面は薄らぎそうだ。合意の実践に向けイランはIAEAや関係国と真摯(しんし)に折衝してほしい。

無論、手放しでは喜べない。イランは国連安保理の追加制裁の危機に直面しており、イスラム圏の友邦(トルコ)の仲介で時間稼ぎの「合意」をたくらんだ可能性があるからだ。昨秋、イランは「ロシアでウランを濃縮し、フランスで核燃料棒に加工する」案に合意しながら、結局はうやむやにした経緯がある。

「もはや安保理でのイラン追加制裁の論議は不要」(トルコ首脳)というのは早計だろう。米欧もロシアもイランに懐疑的な姿勢を崩していない。今回の合意履行も含めて、イランが核疑惑解消に積極的に努めなければ制裁論議は避けて通れまい。この際、改めてイランに求めたい。国際社会が懸念する不透明な核開発は、直ちにやめるべきである。

おりから国連では核拡散防止条約(NPT)再検討会議も開かれ、イスラエルのNPT参加と中東非核地帯構想を軸とする「中東決議」の扱いが焦点になっている。イスラエルの核兵器保有は自明とみられているのに米欧は何も言わない。他方、かつてはイラク、今はイランと、イスラム圏の核開発をやり玉に挙げるのは不公平だという不満は根強い。

5年前の再検討会議もイランと米国が対立し、長期間の会議は事実上決裂した。今回、イランがトルコの仲介を得て搬出合意を打ち出したのは、追加制裁の動きをけん制しつつ、NPTの場で再び米国とイスラエルを批判する布石とも思える。中東の核問題について、特に米オバマ政権の巧みなかじ取りが必要だ。

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