家畜の伝染病である口蹄疫が、宮崎県で猛威を振るっている。感染が広がれば、日本の畜産全体に甚大な被害が出る。政府は封じ込めに全力を挙げるべきである。
口蹄疫は、牛や豚など蹄のある動物がかかる病気だ。人体に影響はないが、ウイルスによる感染力が強く、治療法はない。感染した家畜だけでなく、一緒に飼育されている家畜もすべて「殺処分」するよう義務付けられている。
4月20日以降、疑いのある例を含めて100以上の農場で発見され、処分しなければならない牛や豚は8万5000頭を超えた。
国内で確認されたのは、2000年以来10年ぶりだ。当時は、宮崎県と北海道で740頭の牛が処分され、3か月で終息した。
今回は発生後1か月で、殺処分の対象となった家畜が前回の100倍を超えている。
長年かけて育て上げた種牛に、感染が広がったことも大きな打撃だ。宮崎産の種牛は評価が高く、子牛は県外に出荷され、松阪牛などのブランド牛として育てられるケースも多い。
県は、感染を避けて事前に一部の種牛を移動させたが、避難した種牛にも感染の恐れがあるという。出荷する子牛が減れば、全国の産地が影響を受ける。
発生地では、半径10キロ以内の家畜の移動を禁止し、ウイルスを運ぶ可能性がある人や車を消毒するなど、封じ込めに躍起だ。
だが、この間の行政の対応は、十分とは言い難い。
宮崎県は最初に疑いのある水牛の事例が農家から報告された後、3週間たって初めて感染を確認した。その間に感染が拡大した可能性が高く、県の判断は甘かったと言われても仕方あるまい。
農林水産省にも問題があった。今年に入って東アジア各地で口蹄疫感染が報告され、韓国では4月には被害が拡大していた。こうした国々からウイルスが宮崎に上陸した疑いもある。水際で防ぐ措置が必要だったのではないか。
現地の畜産農家は、精神的にも経済的にも打撃を受けている。処分した家畜を埋める土地が見つからない農家も多いという。
感染防止を確実にするためにも農家への支援は重要である。
01年に口蹄疫が大流行した英国では、対応の遅れで600万頭以上の処分に追い込まれた。
政府は対策本部を設置し、1000億円の予算措置を打ち出したが、被害が拡大するようであれば、追加対策も検討すべきだろう。
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