口蹄疫被害 拡大阻止に万全を期せ

朝日新聞 2010年05月17日

口蹄疫被害 拡大阻止に万全を期せ

宮崎県で広がる家畜の伝染病、口蹄疫(こうていえき)の影響が深刻になっている。

殺処分の対象になった牛や豚が8万頭を超える。宮崎牛ブランドを支える貴重な種牛にも感染の疑いが出て処分の対象になった。

これらの牛で種付けされた子牛は、松阪牛や近江牛などの産地にも出荷されている。種牛の一部は離れた場所に避難しているが、供給が減れば影響は全国に及ぶおそれもある。

感染や被害が広がらないよう、政府は対策を加速しなければならない。

口蹄疫は、牛や豚、羊など蹄(ひづめ)のある動物がかかる伝染病で、発熱して口の中に水ぶくれができ、乳の出が悪くなったり肉質が落ちたりする。感染力が強く、最もこわい伝染病の一つだ。

国内で口蹄疫が見つかったのは、92年ぶりに発生した2000年春以来だ。このときは、宮崎県と北海道で740頭の牛が処分された。

今回は、4月20日に宮崎県で最初に牛の感染が確認され、半径10キロ以内の家畜の移動禁止措置がとられたが、5月に入って豚を中心に感染が急増した。人の靴や衣服についてウイルスが広がったようだ。殺処分の対象になった家畜はすでに前回の100倍以上とけた違いの規模だ。

前回のウイルスは牛にしか感染しなかったが、今回は豚も含めて広く感染している。英国では01年、発見の遅れもあって大流行を招き、数百万頭が処分された。このときのウイルスも牛、豚、羊などに感染するタイプだった。

今流行しているウイルスは、遺伝子の解析から韓国や香港で流行しているものと非常に似ていることがわかっている。ウイルスが畜産物や人などについて運ばれてきた可能性がある。

韓国では1月から始まった流行がまだ続き、対策に手を焼いている。ウイルスが日本に入ってきて不思議はない状況だった。事前の警戒や備えは十分だったか、反省材料だろう。

現地では、家畜の殺処分が決まっても、埋める場所がなく、そのまま飼育を続けなければならない例も多いという。畜産農家は経済的な打撃に加え、精神的な疲労も濃い。拡大防止のためにも、農家の支援が大切だ。

今のところ、感染は同県内の一部の地域にとどまっているが、ほかの都道府県にも広がるおそれはある。平野博文官房長官は16日、現地入りし、東国原英夫知事と対策を協議した。家畜の伝染病対策は法律上、まず県の責任だとしても、県外への感染拡大の恐れや被害の規模を考えれば、政府が主導して迅速に態勢を整えるべきだ。

消費者にも冷静な対応が求められる。感染した家畜の肉は市場には出回らないし、仮に食べても人には感染の恐れはない。風評被害で農家を苦しめるようなことは慎みたい。

読売新聞 2010年05月18日

口蹄疫感染拡大 封じ込めに全力を挙げよ

家畜の伝染病である(こう)蹄疫(ていえき)が、宮崎県で猛威を振るっている。感染が広がれば、日本の畜産全体に甚大な被害が出る。政府は封じ込めに全力を挙げるべきである。

口蹄疫は、牛や豚など(ひづめ)のある動物がかかる病気だ。人体に影響はないが、ウイルスによる感染力が強く、治療法はない。感染した家畜だけでなく、一緒に飼育されている家畜もすべて「殺処分」するよう義務付けられている。

4月20日以降、疑いのある例を含めて100以上の農場で発見され、処分しなければならない牛や豚は8万5000頭を超えた。

国内で確認されたのは、2000年以来10年ぶりだ。当時は、宮崎県と北海道で740頭の牛が処分され、3か月で終息した。

今回は発生後1か月で、殺処分の対象となった家畜が前回の100倍を超えている。

長年かけて育て上げた種牛に、感染が広がったことも大きな打撃だ。宮崎産の種牛は評価が高く、子牛は県外に出荷され、松阪牛などのブランド牛として育てられるケースも多い。

県は、感染を避けて事前に一部の種牛を移動させたが、避難した種牛にも感染の恐れがあるという。出荷する子牛が減れば、全国の産地が影響を受ける。

発生地では、半径10キロ以内の家畜の移動を禁止し、ウイルスを運ぶ可能性がある人や車を消毒するなど、封じ込めに躍起だ。

だが、この間の行政の対応は、十分とは言い難い。

宮崎県は最初に疑いのある水牛の事例が農家から報告された後、3週間たって初めて感染を確認した。その間に感染が拡大した可能性が高く、県の判断は甘かったと言われても仕方あるまい。

農林水産省にも問題があった。今年に入って東アジア各地で口蹄疫感染が報告され、韓国では4月には被害が拡大していた。こうした国々からウイルスが宮崎に上陸した疑いもある。水際で防ぐ措置が必要だったのではないか。

現地の畜産農家は、精神的にも経済的にも打撃を受けている。処分した家畜を埋める土地が見つからない農家も多いという。

感染防止を確実にするためにも農家への支援は重要である。

01年に口蹄疫が大流行した英国では、対応の遅れで600万頭以上の処分に追い込まれた。

政府は対策本部を設置し、1000億円の予算措置を打ち出したが、被害が拡大するようであれば、追加対策も検討すべきだろう。

産経新聞 2010年05月20日

口蹄疫拡大 後手の対応から抜け出よ

宮崎県で口蹄(こうてい)疫の被害が発生してきょうで1カ月になる。感染が疑われる家畜数や農場の数は、なお増え続けていて衰える気配がない。

東国原英夫知事は「全国に拡大する可能性も否定できない」と非常事態を宣言したが、疫病封じ込めには何より感染に先んじて迅速に手を打つことが重要な意味をもつ。

野党からは、農水省はじめ政府の初動態勢の遅れを国会で追及すべしとの声がある。とりわけ赤松広隆農林水産相の「対応の遅れなどはない」という無責任な発言には憤りすら感じるが、今はともかく感染の拡大を止めることに国を挙げて取り組むときだ。

政府の対策本部(本部長・鳩山由紀夫首相)は19日、新たな対策として、発生が確認されている農場から半径10キロ以内のすべての牛や豚にワクチンを接種することを決めた。消毒などを中心にした対策では感染の拡大を食い止めるのは困難と判断したためで、10~20キロ圏には緩衝地帯を設けることにより、感染の拡大を防ぐ。

家畜へのワクチン接種については感染力を弱める効果があり、防疫態勢を固めるための時間稼ぎには役立つ。しかしウイルスの根絶能力はなく、接種後は殺処分せざるをえないことに変わりはない。また、一度使うと発生が収まった後もしばらく出荷ができなくなるため、是非について専門家の間で見解が分かれている。

だが、堂々巡りの議論を続けることで、いたずらに被害を拡大させるよりはましだ。一定の効果が期待できるなら、最後は政府が責任を負う気構えで対処すればよい。政府も首相が対策本部長に就いた以上、各省の縦割りを排した協力態勢を作り上げねばならない。なかでも深刻なのは、現地で防疫にあたる人員の不足だ。

感染の確認や殺処分の判断を下す獣医師や、処分後の家畜を埋却する人員が圧倒的に不足している。近県からの応援に加え、自衛隊員の増派など、早急に万全の態勢をとってほしい。

現地にはすでに、延べ約2400人の自衛隊員が重機材とともに派遣されている。しかし、拡大のスピードが速く、牛豚を埋却する場所はあっても処理が追いついていないのが実情だ。

この口蹄疫問題では、政府の対応は常に後手後手に回ってきた。鳩山首相の指導力が、ここでも問われている。

産経新聞 2010年05月18日

口蹄疫被害 種牛も汚染された不手際

宮崎県で家畜伝染病の「口蹄(こうてい)疫」が爆発的に広がり、宮崎牛ブランドを支える種牛までが、殺処分の対象となった。

10年前の流行時の100倍以上、約8万6千頭もの牛や豚を殺処分せざるを得ない非常事態で、被害総額は160億円にも上る。

政府はようやく鳩山由紀夫首相を本部長とする対策本部を発足させたが、日本の畜産業全体に打撃が及ばないよう、迅速に対処していくべきだ。

宮崎牛の種牛は、松阪牛や近江牛、佐賀牛にもなる貴重な遺伝子資源であり、日本の知的財産として守られてきた。一元管理する県家畜改良事業団でも感染の疑いが出て、肥育牛と合わせ約300頭が殺処分の対象となった。

宮崎県は最近になって、最も優れた種牛6頭を隔離、避難させている。これらにまで感染が広がれば、宮崎牛の生産は壊滅的な事態にもなりかねない。

口蹄疫の被害は宮崎県東部だけでなく、熊本と鹿児島両県に隣接する地域にも飛び火している。監視体制を強化するとともに牛豚の移動禁止を厳守して封じ込め、県外に感染を拡大させないことが重要だ。人や車の消毒も、さらに徹底せねばならない。

今回は被害の90%以上が豚だ。専門家によると、豚は一度感染すると、大量のウイルスを放出して感染を広げてしまう。養豚場を中心に家畜の健康に細心の注意を払うなど、流行の特徴をとらえた防疫を進めることが肝要である。

中国や台湾、韓国でも発生していた。これだけ人や物資の流れが激しい時代だ。海外の情報をいち早く把握し、速やかに対応すべきだった。感染経路を可能な限り特定して、今後の対策に役立てることも忘れてはならない。

1頭でも感染が確認されると、その農場のすべての牛豚を殺処分にしなければならず、農家の痛手は大きい。損害は国や家畜共済などで全額補償されるが、手塩にかけた牛豚を殺処分する心理的なショックや、畜産を続けられないのではとの不安が生じる。風評被害の影響も懸念される。

国や宮崎県の対応のまずさは指摘しておきたい。初動が遅れ、その後も緊張感に欠けていた。赤松広隆農林水産相は外遊に出て、地元民の怒りをかった。

鳩山政権の危機管理を批判されても、反論できないだろう。今後の反省材料とすべきである。

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