比大統領選挙 政治改革に期待する

朝日新聞 2010年05月12日

比新大統領 ASEANで存在感を期待

24年前の「ピープルパワー革命」の高揚感を人々はよみがえらせたかったのかもしれない。しかし、この東南アジアの国を率いることになった新大統領が背負う課題はとても重い。

フィリピン大統領選で故アキノ元大統領の長男、50歳のベニグノ・アキノ上院議員が当選を確実にした。

昨年8月に母親が亡くなるまで大統領選の下馬評にすら上がっていなかった。「シンデレラボーイ」だ。

マルコス元大統領の開発独裁体制下で祖国の民主化を訴えた父親は1983年に暗殺された。体制打倒運動を引き継いで先頭に立った母親は民衆の支持を集めて、86年に大統領となった。この国の民主主義が最も輝いていた時だった。

そんな2人から生まれたアキノ氏への期待感を大きくしたのは、過去9年間のアロヨ政権への失望と不満だ。

アロヨ大統領は、汚職疑惑などで批判を浴びながら権力の座に居座り続けた。縁故人事や腐敗が後を絶たない背景には友人や親族との関係に重きを置く社会風土も影響しているだろう。

だが、それは日本を含む外国企業に投資をためらわせる原因にもなった。中国をはじめとするアジアの多くの国々が「世界の工場」として急速な成長を遂げているのに、フィリピン経済はいま一つ勢いが出ない。

こんなことでは、この国は深刻な貧困問題からいつまでも抜け出せない。約140万人が海外への出稼ぎを余儀なくされている厳しい現実の改善にもつながらない。

アキノ氏は選挙戦で、汚職の追放を人々に訴えた。その期待にこたえ、本気で取り組まなければならない。

また、東南アジア諸国連合(ASEAN)が担うこの地域の安全と安定にフィリピンが果たす役割も改めて認識してもらいたい。

とくに南部ミンダナオ島ではイスラム武装勢力と政府軍との紛争が続き、日本やマレーシアも解決に協力しているが、まだ十分な成果が出ていない。島の西側ではイスラム過激派アブサヤフが活動し、海賊行為や外国人の誘拐事件も発生している。

一帯は、日本とマラッカ海峡を結ぶ海域の安全に直結している。新大統領は紛争解決への交渉などで積極姿勢を示すことが必要だ。

フィリピンはかつてタイとともに、東南アジアの民主主義の優等生と呼ばれた。しかしタイはいま政治の混迷に苦しみ、フィリピンも地域での存在感が弱まっている。

今回の選挙でも、マルコス元大統領の親族ら有力政治家一族が影響力を保つという古い面はあった。だが、電子投票を実施する新しさも見せた。政治風土を変え、フィリピン流民主主義の輝きを取り戻してもらいたい。

毎日新聞 2010年05月12日

比大統領選挙 政治改革に期待する

まだ最終集計は出ていないもののフィリピン大統領選の勝者がベニグノ・アキノ氏だというニュースに、同じ名前の父親がマニラ空港で射殺された前後の映像を思い浮かべた人も少なくないだろう。独裁的な当時のマルコス政権に対する懐疑と嫌悪を世界に広げた惨劇だった。

その3年後の86年、犠牲者の妻であるコラソン・アキノ氏を大統領候補にかついだ民主化勢力は、大衆デモでマルコス政権を倒す「ピープルパワー革命」を実現し、世界各地の民主化運動にも影響を与えた。残念ながら彼女の政権は大きな成果を残せなかったが、昨年死去したその母親譲りのクリーンなイメージが、息子アキノ氏を大統領の座に導いた最大の原動力だったようだ。

フィリピンは自由な選挙や言論など民主化の遺産の一方で、汚職体質も色濃く残している。東南アジア諸国で最大とされる貧富の格差や、国民の約1割が海外に働きに出る出稼ぎ依存、自国産業の育成遅れなど、厳しい経済状況や深刻な社会問題も山積している。

新大統領にはこれらが重くのしかかる。何より国民の期待が高いのは不正腐敗の撲滅を目指す政治改革だろう。清新な国づくりに向けた全力投球を望みたい。

コラソン・アキノ政権後を顧みれば、後継のラモス政権は反政府勢力との和解や経済改革を通じて一応の安定と発展の基盤を築いたが、次のエストラダ政権は不正献金疑惑により任期途中で退陣を迫られた。国家再生の期待を担って誕生したアロヨ政権も、家族の不正蓄財など腐敗体質が指摘され、歴代で最も不人気な大統領に転落した。

その「アロヨ政権の腐敗」を追及するのだと、ベニグノ・アキノ氏は公約している。アロヨ氏は今回、下院選の地元選挙区で圧勝した。厳しい政治的対立が予想される。

98年から下院と上院の議員を務めただけのアキノ氏に大きな政治的実績はなく、その手腕はほとんど未知数だ。従来の政権への失望や怒りが追い風となり、謙虚で気さくな言動も好感を持たれたが、カリスマ的な資質は目立たない。まずは国民の信頼を得る努力を地道に重ねることが肝要だろう。

フィリピンにとって日本は歴史的に縁の深い国だ。最大の援助供与国であり、貿易額も米国と並んでトップクラスにある。アキノ氏陣営は日本からの投資増大にも大きな期待を示している。

もっとも、最近は中国による天然資源開発や韓国企業の進出が目立つようだ。経済の停滞感が強いフィリピンだが、相互に利益となる分野の検討や人的交流を、日比双方でもっと推進してもよいのではないか。

読売新聞 2010年05月12日

比次期大統領 汚職と貧困の撲滅が課題に

フィリピンで9年ぶりに政権交代が実現する。任期満了に伴う大統領選で、野党・自由党のベニグノ・アキノ上院議員の当選が確実になった。

アロヨ現政権下での汚職のまん延と貧富の差拡大により、フィリピン社会には政治不信と閉塞(へいそく)感が広がっていた。

こうした現状の変革を求める有権者の声が、清廉なイメージを持つアキノ氏の勝利につながったと言えよう。次期大統領にとって、汚職撲滅や貧困対策への取り組みが、最大の課題となる。

アキノ氏の父親は1983年、民主化運動のために、当時のマルコス独裁政権下の母国に帰国し、暗殺されたベニグノ・ニノイ・アキノ元上院議員だ。

その後、大統領になったコラソン・アキノ氏は母親で、親子2代での大統領が誕生する。

フィリピンでは、都市のスラムで生活したり、ゴミ投棄場付近に住み込んだりする人々に象徴される貧困層が、アロヨ政権時代に拡大した、と指摘されている。

状況が悪化したのは、汚職の続発や縁故主義の跋扈(ばっこ)で、貧困層が顧みられなかったからだ。

「汚職がなくなれば、貧困もなくなる」とアキノ氏が訴えたのも、そうした背景がある。

アキノ氏が改革を公約した、一部の富裕家族が農地の大部分を所有している大農園制度も、富の再配分を困難にしている。

大地主であるコファンコ家の出身だった母親も、大統領時代に実現させると言いながら、できなかった農地改革は、次期大統領にとって大きな試練となろう。

改革を断行する上で、重要なのが国軍の存在だ。アロヨ政権下では軍人のクーデター未遂が3回も発生し、社会不安が増大した。

軍最高司令官を兼務するアキノ氏にとって、軍部をしっかり掌握することが肝要だ。政権が安定してはじめて、貧困対策などに取り組めるからだ。

東南アジア全体の安全保障にとり、フィリピンは重要な位置を占めている。

民主化が高揚していた90年代、国内に駐留していた米軍を追い出した結果、支配していた南沙諸島のミスチーフ礁を中国軍に占拠された苦い経験がある。

フィリピンは、9・11同時テロの発生後は、米軍の駐留を認めている。良好な米比関係の維持は、南シナ海に勢力を拡大する中国を牽制(けんせい)する上からも意味がある。

次期大統領は、そうした現実を忘れてはならない。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/336/