金正日訪中 中国は北朝鮮に核放棄を迫れ

毎日新聞 2010年05月10日

金総書記訪中 楽観できぬ6カ国協議

先週、中国を訪問した北朝鮮の金正日(キムジョンイル)総書記と胡錦濤国家主席の首脳会談では、核問題に関する6カ国協議再開の合意に至らなかった。韓国海軍の哨戒艦「天安(チョンアン)」の沈没に北朝鮮が関与した疑いが当面の焦点となっており、核問題の行方もこれに大きく左右される。この危険な状況のコントロールを誤ってはならない。関係国は細心の注意をもって臨むべきである。

ルール違反の核開発について、北朝鮮の脅威は決して座視できないが、国際社会の関心は現在、主としてイラン制裁に向いているようにも見える。両方にからむ米国や中国の真意がどこにあるのか、視野を広げて見ておきたい。

金総書記の訪中は形式上、中国側の招待に応じたものだ。今年初めから「近日中にも」といった情報が乱れ飛んでいた。北朝鮮は長期的な経済停滞や昨年来のデノミネーション(通貨呼称単位の変更)の失敗、食糧事情の悪化などから、外部の支援に頼らざるを得ない。一時は韓国から援助を得ようとしたが南北関係改善に失敗し、中国への依存拡大以外の選択肢はなくなっていた。

6カ国協議の議長国である中国としては、約1年半も中断している協議の再開に援助が活用できる。中国はすでに昨年10月、温家宝首相が訪朝して大規模支援を提示し、金総書記から協議復帰の可能性を示す発言を引き出していた。

この流れは当然、北京での中朝首脳会談でさらなる進展を、という期待につながる。しかし、うまくいかなかった。その背景になったのが「天安」沈没事件である。

この事件に関する米韓などの合同調査結果が今月中に発表される見通しだ。仮に北朝鮮の関与が明確になれば、6カ国協議を順調に再開できる雰囲気ではなくなってしまう。特に韓国の立場が難しい。その後の展開によっては極めて緊迫した局面にもなりかねない。日米韓の結束が崩れないよう注意が必要だ。

また、中国にも責任ある大国としての義務を果たすよう求めていかねばならない。北朝鮮への支援に国連の制裁決議を骨抜きにする側面があることについても考えるべきだ。

もちろん、問題の根源は北朝鮮の悪質な身勝手さにある。北朝鮮は金総書記の北京での会談内容を中国より1日遅れで報じたが、胡主席が提案した政府間の「戦略的な意思疎通の強化」や温首相が示した「中国の改革・開放の経験を紹介していく意向」などを省略した。「指図は受けない」という意思表示であろう。

支援者に対してさえこの姿勢だ。それでも中国の影響力に期待しつつ粘り強く対処するほかはない。

読売新聞 2010年05月05日

金正日訪中 中国は北朝鮮に核放棄を迫れ

北朝鮮の金正日総書記が、約4年ぶりに中国を訪問している。中朝両国から一切の発表がないままに進行する、いつもながらの異常な北朝鮮の対中首脳外交である。

金総書記は、北京で中国の胡錦濤国家主席と会談するとみられている。2年前に脳卒中で倒れた総書記が万全ではない体調をおして訪中した狙いは、経済と安全保障の両面で、中国からの支援、支持を取り付けることにあろう。

胡主席は、首脳会談で、何よりも6か国協議の議長国の首脳として、金総書記に核放棄を強く求めるべきである。

肝心の6か国協議は、再開のめどすら立っていない。

いったんは「不参加」を表明した北朝鮮は、その後やや軟化し、経済制裁の解除など条件付き復帰の姿勢に転じた。だが、核兵器保有を含め自らの立場を正当化する姿勢には何らの変化もない。

胡主席が6か国協議の再開をめぐり、金総書記からいかなる言質をとれるか、が一つの焦点だ。

北朝鮮は国際社会の警告を無視して、2006年10月と09年5月に核実験を強行した。核拡散防止条約(NPT)からの脱退を宣言し、国連安全保障理事会の制裁決議に背反して核兵器開発を公然と継続している。

国際社会は、北朝鮮によるこうした危険な核拡散活動を断じて容認することはできない。

中国には、NPT体制の中核メンバー国として、また安保理常任理事国として、核不拡散体制を強化すべき格別の責任がある。世界の安全を脅かす北朝鮮に、毅然(きぜん)と対処してもらいたい。

韓国は、海軍哨戒艦の沈没事件に北朝鮮の関与が明白になれば、安保理に提訴する方針だ。金総書記には、事件との関与を否定し、中国の理解を得て、さらなる制裁を回避したい狙いもあろう。

長年の失政によって、じり貧に陥った北朝鮮の経済は、度重なる核実験や弾道ミサイル発射で、国際社会の経済制裁強化を自ら招いた結果、さらに悪化している。

北朝鮮にとって、最大の支援国・中国との関係強化は、破綻(はたん)した経済の立て直しに不可欠だ。

金総書記は、胡主席との直談判で、支援や投資の拡大を要請する可能性がある。北京入りに先立って、中朝貿易の盛んな中国東北部の港湾拠点、大連市を視察したのも、将来への布石とみられる。

胡主席は金総書記に、核武装と経済発展は両立しないことを、はっきり告げなければならない。

産経新聞 2010年05月08日

金総書記の訪中 中国は北の勝手を許すな

北朝鮮の金正日総書記が特別列車を仕立てて5日間中国を訪れ、大連、天津両市の経済開発区などを視察し、北京で胡錦濤国家主席、温家宝首相らと会談した。

3月下旬に起きた韓国軍の哨戒艦沈没事件では北朝鮮の関与説が濃厚になっている。中国がこの時期になぜ、金総書記の訪中を受け入れたのか。中国にとっての国益という観点からしても、首をかしげる点が多い。

金総書記の訪中の大きな目的は中国からの食糧・エネルギー、経済支援の獲得とみられる。北朝鮮はこの4年間に2度核実験を強行し、国連の厳しい経済制裁を受けている。さらに昨年11月末に実施したデノミネーション(通貨呼称単位の変更)の失敗で一層危機的な状況に陥った。

中国側の発表要旨は、中国からの支援に直接言及していない。しかし、支援を獲得した過去の総書記の訪中時もこうした言及はなかった。訪中自体が支援要請であり、実務レベルで支援は織り込み済みとみていい。

1年半開かれていない6カ国協議の再開は不透明なままとなった。「関係各国が誠意を示し、協議プロセスの推進で積極的に努力」すべきだとの考えで双方が一致し、北朝鮮側が「関係国とともに再開に有利な条件を作り出したい」と表明したにすぎない。

「誠意」や「条件」が経済制裁の緩和・解除や、朝鮮戦争を終結させる米朝平和協定の締結という手前勝手な要求を指しているのは明らかである。中国は再開へ向けた成果を示せなかった。

北朝鮮側の発表が北京訪問や胡主席との会談に一切ふれなかったのも異様だ。加えて中朝双方の発表が、重大な韓国軍哨戒艦の沈没事件を無視したことも国際社会の疑念を深めた。

韓国に米英など4カ国を加えた軍民の国際合同調査団が14日にも調査結果を発表する。北朝鮮の関与が明白となれば、韓国政府は国連安保理に新たな対北制裁を求める構えだ。岡田克也外相は「調査結果が明確にならなければ、北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議を進める状況にはない」と述べ、韓国との連携重視を打ち出した。

この問題では、日米韓が連携を一層強めることが重要である。北朝鮮に強い影響力をもつ中国は、安保理常任理事国にふさわしい毅然(きぜん)とした対北朝鮮外交を展開すべきである。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/333/