NPT運用会議 もう失敗は許されない

毎日新聞 2010年05月02日

NPT運用会議 もう失敗は許されない

5年前の失敗を繰り返したくない。というより、失敗は許されないのではないか。核の脅威は確実に高まっている。その半面、オバマ米大統領が主唱する「核兵器なき世界」への弾みも生まれた。3日から28日までニューヨークの国連本部で開かれる核拡散防止条約(NPT)再検討会議は、世界が安定へ向かうか、さらに混迷を深めるかの重大な分かれ道と言ってもよかろう。

1970年の発効から40年がたつNPTには190カ国が加盟し、5年ごとに運用状況を見直している。核兵器保有を容認された5カ国(米英仏露中)は核軍縮に努め、その他の国は原子力平和利用の権利を有するものの核兵器の開発・保有は許されない。それが条約の骨子だ。

05年の前回会議は、米同時多発テロ(01年)やイラク戦争(03年開始)の影響もあって米ブッシュ政権は武断的な強硬姿勢に終始した。核実験全面禁止条約(CTBT)に反対し、新型核兵器開発も断念しない米国に対してイランなどの不満が爆発した。その結果、会議の最終文書を採択できず決裂状態で終わったのは、残念なことである。

今回は心強いことに米国自身がNPT体制の強化をめざしている。オバマ大統領は4月に米露の新たな核軍縮条約に調印し、ワシントンで核安全保障サミットを開いた。それに先立って米国の「核態勢見直し」(NPR)報告を公表し、新型核の開発をしないことや、NPTを順守する国には原則的に核攻撃をしないことを明らかにした。

再検討会議に照準を合わせて、核兵器を持たない国を広く味方につける作戦だろう。米国の力点は対イラン包囲網を築くことにありそうだが、前回会議後、2度も核実験を行った北朝鮮の核開発はイランより進んでいるはずだ。イランやシリアとの核技術協力も取りざたされる。そんな北朝鮮の脅威を十分に検討し、有効な対応策を打ち出してほしい。

イスラエルへの対応も大切だ。中東では同国のみがNPTに加盟せず、しかも大量の核兵器を持つといわれる。イスラエルの同盟国である米国は95年の会議で、NPTの無期限延長の見返りとして「中東決議」の採択を容認した。だが、決議がめざす中東非核地帯構想などはまったく前進していない。

アラブ諸国などの不満はもっともだ。米国は中東決議の実現に努力すべきである。だが、前回同様の紛糾や決裂は避けたい。イランはこの問題でも米国と対立しそうだが、まずは不透明な核開発をやめるのが筋だ。核の脅威は中東だけでなく東アジアにも他の地域にも存在する。より大きな視野で核を論じてほしい。

読売新聞 2010年05月04日

NPT会議 核不拡散の強化を打ち出せ

世界の安全保障を脅かす核拡散をいかにして阻止していくのか。

3日から28日までニューヨークで開かれる核拡散防止条約(NPT)の運用状況を検討する会議は、その具体策を講じる重要な機会だ。

NPTは、核兵器の拡散防止を図る国際的な取り決めである。

核兵器保有国を、1967年以前に核実験をした米露英仏中の5か国に限定し、全加盟国に不拡散を義務づけることで新たな核兵器国の出現を抑止するのが目的だ。日本など約190か国が加盟し、発効から40年を迎えた。

だが、このNPT体制は大きく揺らいでいる。

北朝鮮はNPTからの脱退を宣言し、核実験を2度も強行した。「原子力の平和利用」を隠れみのにした核兵器開発、という危険な先例を作った。

イランも国際原子力機関(IAEA)の査察をかいくぐり、ウラン濃縮を行う違反を犯した。国連安全保障理事会の再三の決議を無視して濃縮活動を続け、北朝鮮と同じ道をたどろうとしている。

世界の闇市場で核関連物質が取引され、核爆弾の製造技術が広まった。ならず者国家やテロ組織の核武装の危険は高まっている。

世界の安全にとって、グローバルな不拡散体制の要であるNPTの立て直しが不可欠だ。今回の会議で各国は、実質的なNPT強化策で合意を目指すべきである。

それには、核兵器国と非核国が協力する必要がある。核兵器国は核軍縮の義務履行を加速化すべきだ。非核国はIAEAの査察を通じて核開発していないことを立証しなければならない。

双方が真摯(しんし)に取り組んでこそ不拡散の国際連携は強化できるが、現状は楽観できない。

最大の攪乱(かくらん)要因はイランだ。大統領自らが会議に出席し、全会一致が原則の「最終合意文書」の採択を阻む構えだ。

日本や欧米諸国は、NPT脱退通告の乱用防止策や、IAEAの査察権限を強化する追加議定書の普遍化を求める方針だ。だが、それを先進国による介入とみて警戒する途上国は少なくない。

中東諸国には、欧米諸国はイラン問題を重視しても、NPT未加盟のイスラエルの核問題に向き合わない、との強い不満がある。

各国の相互不信が募れば不拡散のタガは緩む。決裂に終わった前回会議の再現となっては、北朝鮮やイランのような違反国家の跋扈(ばっこ)を招くだけだ。不拡散強化へ大きな流れを作り出す必要がある。

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