殺人時効廃止 難事件解決へ広域体制で

読売新聞 2010年05月02日

殺人時効廃止 重要性が増す警察の初動捜査

殺人など、罰則に死刑の適用もある凶悪犯罪の公訴時効を廃止する改正刑事訴訟法が4月27日成立、即日施行された。

審議入りから1か月足らずでの成立であり、成立即施行というのも異例である。直後に時効を迎える事件があったことを考慮した、妥当な対応だった。

刑訴法は2004年にも改正され、殺人などの時効が15年から25年に延長された。今度は事件から何年が経過しようと犯罪者を逮捕し、処罰できる。犯した罪は一生消えるものではないとする、刑事司法制度の大転換だ。

しかも、前回は施行前の事件は従来のまま15年とされたが、今回は、時効成立前の過去の事件にも適用される。憲法違反との指摘もあったが、逃亡中の犯人を利する必要などまったくない。

「処罰感情は薄れない」と、時効制度の理不尽さを訴えてきた犯罪被害者の遺族らの心情を考えても、当然の判断だった。

改正を促した背景として、人々の、治安への関心と厳正処罰を望む意識の高まり、という時代状況の変化も見逃せない。

時効が迫っていた事件に、東京都八王子市のスーパーで、アルバイト店員の女子高校生2人とパートの女性従業員の計3人が拳銃で射殺された事件がある。

この7月30日で発生から15年となる。至近距離から頭部を撃ち抜く残忍な手口だったが、捜査は行き詰まったままだ。

警察には、こうした難事件の解決に一歩でも近づく捜査を期待したい。時効廃止を機に、国民の側も、情報提供などで捜査に積極的に協力していきたいものだ。

時効廃止には、時の経過とともに冤罪(えんざい)の危険性が高まるという反論があった。確かに記憶が薄れ、目撃者の供述などが、あいまいなものになってくる恐れはある。

捜査本部を設置する重大な事件は、年間平均で約130件起きている。解決率は8割強だが、その9割以上は3年以内に解決しているというデータもある。

冤罪の防止や早期解決を目指すうえで、いっそう重みを増すのが警察の初動捜査だ。

警察庁が先月、証拠の収集の徹底など、初動捜査を強化するよう全国の警察本部に通達を出したのも、こうした認識からだ。今後はますます、容疑者などのDNA型データベースの拡充、防犯カメラの整備も必要になるだろう。

時効廃止の精神を生かすためには、一つ一つの事件を確実に解決していくことこそ大切である。

産経新聞 2010年04月30日

殺人時効廃止 難事件解決へ広域体制で

殺人などの公訴時効が廃止された。時効目前の事件に配慮して、政府は27日の改正刑事訴訟法成立後、即施行という異例の手続きをとった。与野党も約1カ月の審議で成立させた。

これで重大・凶悪事件の時効そのものがなくなった。「逃げ得は許さない」という被害者遺族の強い要望が、時効廃止の動きを加速させたといえよう。

事件を捜査する警察当局には重い責務が課せられた。捜査能力に一層の磨きをかけて、難事件を解決してもらいたい。

改正法は、最高刑が死刑にあたる殺人などについて現行25年の時効を廃止するのが最大の目的だ。無期懲役・禁固の強姦(ごうかん)致死などの時効は、15年を30年にするなど原則2倍とした。「凶悪で悪質な犯罪には厳罰で臨む」という強い姿勢の表れとして支持したい。

過去の事件でも、施行時点で時効が未成立の事件は時効廃止や期間延長の適用対象となった。

これにより、28日午前0時に時効とされていた岡山県倉敷市の夫婦放火殺人事件の時効は消滅し、警察の捜査が継続された。

また、7月30日が時効だった東京・八王子のスーパーで女子高生ら3人が射殺された残忍な強盗殺人事件も時効が消えた。捜査は難航しているが、時効撤廃を機に捜査資料をもう一度、入念に洗い直すなどして、是が非でも犯人検挙に結びつけたい。

警視庁は昨年11月、殺人や強盗などを扱う捜査1課内に未解決事件専門の「特命捜査対策室」を設置した。DNA型鑑定など最新の科学捜査手法を駆使して、事件の解明にあたっている。

捜査当局には今後、息の長い地道な捜査を続け、未解決事件を1件でも多く解決していくことが求められる。とくに大都市圏と地方の警察では、捜査力に差があることは否めない。全国レベルで各警察署の捜査能力を高めていくだけでなく、警察庁に広域犯罪に対応できる専門組織を設置することも喫緊の課題だ。

また警察は、証拠品などの管理や保管をこれまで以上に厳重に行い、冤罪(えんざい)の防止にも努めなければならない。

ただ、基本はあくまでも初動捜査だ。発生から日時がたつほど事件の解決は困難になる。初動捜査のあり方を含めて、未解決事件を極力減らしていくためのさらなる工夫と努力を求めたい。

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