ギリシャ支援 ユーロの安定に協調急げ

朝日新聞 2010年05月11日

欧州動揺 協調の真価問われる世界

ギリシャの財政危機に端を発する欧州の動揺が世界の金融市場の混乱を招いた。欧州そして先進諸国の協調がようやく本格化したが、危機対策の真価が問われるのはこれからだ。

財政悪化に苦しんでいるのはギリシャだけではない。欧州には他にも問題を抱えた国々がある。それらの国債を大量に保有する欧州の銀行の経営が不安視され、銀行同士が互いを信用できず必要な資金が取れなくなることへの懸念が高まっていた。

世界の国々が協力して危機の連鎖を防ぐのは当然のことだ。それにとどまらず、経済に比べて各国の政治的足並みがそろわないというユーロ圏の構造的な弱さの克服に向けて、この際全力を挙げる必要がある。

ギリシャ危機については、すったもんだの末、欧州連合(EU)のユーロ圏諸国と国際通貨基金(IMF)が総額1100億ユーロ(約13兆円)を拠出することが決まった。しかし、市場の動揺は収まらなかった。

そこで、EU加盟の27カ国は緊急の会議を開き、5千億ユーロ規模の基金を作り、IMFの支援とあわせて最大7500億ユーロ(約90兆円)も緊急融資できる仕組みを整え、資金繰り難の国を支えることにした。

これに連動して、欧米と日本の六つの中央銀行は、銀行同士が資金を融通しあう短期金融市場にドル資金を潤沢に供給すると発表した。

2008年秋に米証券大手、リーマン・ブラザーズが破綻(はたん)したときと同様の対策である。世界同時不況の引き金となったリーマン・ショックの二の舞いを恐れたからだ。

これらの措置は、金融市場や株式市場のこれ以上の混乱を防ぐために必要不可欠だ。この国際協調で市場の混乱を収め、回復しつつある世界景気に水をささないようにしたい。

だが、楽観できない要素もある。市場が短期的な資金繰りの問題だけでなく、ギリシャの支払い能力そのものを疑問視していることだ。

多額の支援を受けてもギリシャは立ち直れず、国債は債務不履行に陥り、元本や金利が返ってこないのではないか。そんな疑心暗鬼が消えていない。ギリシャの政府債務の多さや産業の弱さなどをみると、無理からぬ面もある。それはポルトガルやスペインなどに対する不安にもつながっていく。

この疑念は結局、ユーロ圏諸国が放漫な国をいかに律するかという重い課題に答えを出さない限り、ぬぐい去ることはできないだろう。

EUは今回の危機をきっかけに域内の本格的な財政調整の仕組みをつくるべきだ。それがユーロ圏を一つの連邦にまで発展させていく新たな一歩となる。そうした展望も描いてこそ、世界の危機防止の態勢づくりは進む。

毎日新聞 2010年05月11日

ユーロ防衛策 通貨安定の道は険しい

欧州が単一通貨ユーロの安定を目指し、新たな領域に一歩を踏み出した。ギリシャが経験したような危機が他のユーロ加盟国で起きる事態を想定し、事前に支援の仕組みを作る。安全網を用意することで、次の危機を抑止する狙いがある。

欧州各国の政府は、「実効性がある」と評価される仕組みに仕上げると同時に、速やかに国内の支持が得られるよう、国民や議会の説得に全力を挙げねばならない。

ギリシャの財政難に端を発した市場の混乱は、ユーロ圏諸国の連帯した対応が遅れたことでより深刻なものになってしまった。今回、週明けの市場で本格取引が始まる前に合意を発表したのは、ギリシャ危機への対応で失敗したことへの反省からなのだろう。

新制度は、市場から資金を借りられなくなったユーロ加盟国を助けるため、最大7500億ユーロ(約90兆円)の融資枠を用意するものだ。ただ、融資が将来焦げ付けば、最終的にユーロ圏内の納税者が負担することになる。通貨は一本化しながら、財政の国境は堅持してきたユーロ圏だが、財政的にも相互依存を強めることになりそうだ。

こうした展開に、域内の市民がついていけるかは未知数である。国家の権限を少しずつ「欧州」という大きな家に委譲してきたのが統合の歴史だが、人々の支持が不十分なまま政治家や官僚が次々と深めていく統合には、不満がくすぶっている。

それが一気に噴き出せば、欧州の安定と繁栄のためのはずの統合が根底から崩れる危険さえある。そうならないよう各国の指導者らは国民に対し、ユーロ防衛策の目的とコストを正直に、かつ、わかりやすく説明しなければならない。

一方、新融資制度の合意に合わせ、欧州中央銀行(ECB)も一大決定をした。ユーロ加盟国の国債や民間債券を市場で買い取るというもので、方針の大転換だ。機能不全に陥った債券市場の正常化が目的というが、本当に必要な措置なのか。

ユーロの価値を守るECBが不良資産を抱え込めば、通貨の信用低下をもたらしかねない。中央銀行の独立性に対するこだわりが特に強いドイツなどで、支援そのものへの批判が沸き起こる恐れがある。中銀が財政難の国の国債を大量に購入すれば、健全化に対する政府の緊張感を緩ませ、改善が遅れる危険まである。

一連の施策発表を受け、市場はひとまず好転した。しかし支援制度を整えても財政が悪化するようでは、90兆円でさえ不十分だろう。早期の財政再建こそ最大の通貨防衛策だ。財政が健全化するまでは、ユーロの危機は棚上げされたに過ぎない。

読売新聞 2010年05月11日

ギリシャ救済 国際的協調をさらに進めよ

ギリシャ危機のこれ以上の拡大を防ぐため、最大限の措置を取ったということだろう。

欧州連合(EU)などが10日に決めた総額7500億ユーロ(約90兆円)もの緊急対策のことである。

EU加盟国が国債償還などの資金繰りに困った時に、すぐさま対応できるよう、巨額な資金の調達が可能になる仕組みを整えた。

これを受けた10日のアジア、欧州の株式市場で、株価が上昇に転じた。緊急対策が功を奏したと評価していいだろう。

しかし、市場には、危機の火元であるギリシャや、今後の“予備軍”とされるポルトガル、スペイン、イタリアといった国々の財政赤字自体の改善にはつながらない、との指摘もある。

市場の本格的な安定には、ギリシャなどが財政再建策を素早く実施するとともに、国際協調をさらに進めることが肝要である。

今回の緊急対策は、三段構えの対応が特徴だ。

まず、EU加盟国の資金繰りを支援するため、600億ユーロ(約7兆円)の基金を設立する。

また、欧州単一通貨・ユーロを採用する各国が、危機に陥った国を助けるための事業体を設立する。この事業体は債券の発行で資金を集め、最大4400億ユーロ(約52兆円)まで融資できる。

さらに国際通貨基金(IMF)も、最大2500億ユーロ(約30兆円)を協調融資する。

ユーロ圏各国とIMFは、ギリシャに対する1100億ユーロの支援策をすでに決めていたが、問題解決には力不足だとする見方も多かった。今回の手厚い追加策は予想を上回る規模で、それが市場を安心させたようだ。

これに合わせ、世界の金融当局も協調に動いた。日銀と米連邦準備制度理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)など日米欧の中央銀行が、金融市場にドル資金を大量供給する緊急策を決めた。

欧米の主要金融機関の多くは、ギリシャ国債などを大量に保有しており、こうした金融機関の資金調達を円滑にするのが目的だ。

2008年秋のリーマン・ショックの時に採用された措置とほぼ同じで、ギリシャ危機を深刻に見ていることの表れだろう。

ところが、肝心のギリシャでは、増税や公務員給与の削減への反発が根強く、デモが続いている。

財政再建がうまく進まないと判断されれば、市場は再び動揺しかねない。ギリシャ政府の政策遂行能力が問われている。

産経新聞 2010年05月09日

世界同時株安 欧州は危機打開へ総力を

ギリシャの財政危機を震源とする信用不安が世界の市場を揺さぶっている。世界同時株安とユーロ安の加速である。

欧州のユーロ圏16カ国は緊急首脳会議を開き、ギリシャへの協調融資に加え、同様の危機に陥った国への緊急支援のために基金創設を決めた。日米欧先進7カ国(G7)の財務相も電話会談した。

市場の動揺が、立ち直りかけている実体経済に悪影響を及ぼさないよう万全を期す必要がある。ユーロ圏は断固としたギリシャ支援の決意を、G7は市場安定のための緊密な連携姿勢を、それぞれ示さなくてはならない。

市場が動揺した最大の要因は、ユーロ圏15カ国と国際通貨基金(IMF)がギリシャに3年間で約13兆円の資金支援を決めたものの、果たして実現できるかどうか疑問視されている点だ。

ギリシャでは激しい抗議行動が続く中、議会が財政再建法案を可決した。公務員給与の削減や付加価値税の引き上げなど、痛みを伴う緊縮政策の導入である。ギリシャ政府は国民を説得し、早急に騒乱を鎮めてほしい。また他のユーロ圏諸国も、融資実施のための国内手続きを進めねばならない。

緊急首脳会議では財政危機の克服と再発防止に向け、加盟国の財政規律の監視強化や財政赤字削減でも合意した。スペインやポルトガルなどにも信用不安が広がりつつある。ユーロの信認回復に向けて対策の総動員が必要だ。

さらに気になるのは、世界的に金融システム不安が再燃し始めたことである。米格付け会社がギリシャ国債を投資不適格とした結果、保有金融機関の損失拡大懸念が広がったためだ。欧州中央銀行(ECB)は引き続き、ギリシャ国債を資金供給の担保として受け入れると発表するなど沈静化に躍起となっている。銀行間市場での資金調達が滞らないよう、G7の中央銀行間の協調が不可欠だ。

欧州発の危機は日本にとっても「対岸の火事」ではない。一昨年秋のリーマン・ショックに対応するため、世界各国は巨額の財政出動を行って財政悪化を招いた。市場は欧州だけでなく、米国や日本の財政赤字にも注目している。

日本の国債は大半が国内で消化されており、海外投資家に頼る欧米とは違う。だが財政再建の道筋がないまま、ばらまきを続ける鳩山政権への懸念を市場が強めていることを忘れてはならない。

朝日新聞 2010年05月04日

ギリシャ支援 ユーロ安定へいばらの道

財政危機に陥っているギリシャへの支援策がまとまった。

ギリシャが厳しい財政再建策を実行することを前提に、欧州連合(EU)のユーロ圏諸国と国際通貨基金(IMF)が3年間で1100億ユーロ(14兆円)規模の協調融資を行う。

ギリシャ国債を大量に保有している欧州の銀行経営がおかしくなれば、世界の金融界に影響が広がる。第2のリーマン・ショックとして、世界経済を混乱に陥れかねない状況だった。ただ、この支援策で当面の波乱は乗り切れても、欧州が抱える根本的な脆弱(ぜいじゃく)さが克服されるわけではない。

ギリシャの財政削減は成果を上げられるか。ドイツなどユーロ圏諸国の連帯が崩れることはないのか。市場にそうした疑念はなお渦巻く。EUは、ギリシャが財政再建を果たすまで支え続けるほかに選択肢はない。

この巨額支援に至るまで、欧州は苦悩し、迷走した。

ギリシャの財政危機が深刻化したのは昨年末。当初から、支援を求められる側のドイツの反応は冷ややかだった。市場はそこを見透かし、ギリシャ国債は暴落。ユーロ全体の信用問題に発展した。2月のEU首脳会議での支援表明でも動揺はおさまらず、ギリシャ国債は大幅な格下げに。結局、IMFの関与まで仰ぐことになり、欧州だけで解決ができないことを露呈した。

欧州中央銀行(ECB)という一つの中央銀行のもとで、ユーロという単一通貨を持つ。それは、加盟国の経済の実力に最初はでこぼこがあっても、次第に、収斂(しゅうれん)していくことを前提とした仕組みといっていい。

ギリシャのような強い産業基盤を持たない国にとって重い課題である。通貨を安くして輸出を増やしたり、観光客を増やしたりできなくなるからだ。先行する国々に追いつくためには相当な改革が必要だった。ところがギリシャは努力を怠ったばかりか、統計の粉飾までして巨額の財政赤字を隠した。

放漫財政で破綻(はたん)しそうな国が救われる。救うのは別の政府をもつ別の国民。一国の中で大都市が過疎地を救うのとは訳が違う。救う側の国民が、簡単に納得できるはずはない。

だが、基軸通貨ドルに対抗する通貨に育ちつつあったユーロの信頼を保ちたいのであれば、メルケル独首相ら首脳が、ギリシャ支援の必要性を各国民に説得する以外に道はないだろう。

当面、EUや各国の政治への信頼が、この危機の行方を決めるといっても過言ではない。また、長期的な安定についても、経済がここまで一体化し、後戻りができなくなっている以上、政治統合の進展がカギになる。

ユーロが危機を脱出し、信頼を取り戻さなければ、日本を含む世界経済も再び大きく揺らぐ。正念場である。

毎日新聞 2010年05月08日

世界市場混乱 欧州の覚悟が試される

ギリシャに対する総額1100億ユーロ(約13兆円)もの支援融資が決まったにもかかわらず、欧州発の激震が世界の為替・株式市場を揺さぶっている。単一通貨ユーロが抱え込んだ問題の克服が容易でないことを改めて見せつけた形だ。ようやく回復軌道に乗った世界経済を再び危機に陥れる可能性をはらんでおり、日本も影響を受けかねない。

欧州諸国と国際通貨基金(IMF)によるギリシャ支援は当初、総額450億ユーロ規模とされていた。しかし、ギリシャ国債が再び格下げされ「投機的等級」となったことをきっかけに、市場の不安が一層拡大。支援規模は「3年間で1100億ユーロ」へと大幅に引き上げられた。

これでギリシャ政府は当面、国債の償還に必要な資金を市場から高い金利で調達せずに済む。それなのにユーロが売りたたかれ、ニューヨークや東京の株式市場まで大幅安となったのは、「ギリシャに計画通りの財政再建は無理で、信用不安は他のユーロ加盟国に飛び火する」と市場参加者が思っているからだろう。

ギリシャでは、政府の緊縮財政方針に反発する労働者らが連日、大規模なデモを繰り広げている。過激派による放火で死者まで出た。

ギリシャが総力を挙げて難局を乗り切る覚悟があることを示さない限り、市場の安定化は望み難い。それには、まずパパンドレウ政権が国民に、なぜこれほどの危機になったのか説明を尽くす必要がある。ユーロに参加したことで得てきた利益や今回の支援の意味についても、丁寧に語り理解を得なければならない。

国民の間には、税金の徴収や使途に対する不信感が根強い。公平で透明な制度に改革し、信頼される体制とすることも不可欠だ。政権と議会には国民の協力を得るためのあらゆる努力が求められている。

経済規模がユーロ圏全体の3%に満たないギリシャが世界の市場を揺さぶるほど問題が深刻化した責任は、市場の動向に十分敏感でなかったユーロ圏諸国にもある。特に、フランスとともに通貨統合を主導してきたドイツがギリシャ支援に及び腰だった影響は無視できない。

そのドイツのメルケル首相は、市場や格付け会社への非難を強めている。確かに格付け会社が債券市場を後追いする形で格下げを発表し、混乱に拍車をかけた面はあろう。しかし、ギリシャ支援の遅れのみならず、今回のような危機への備えがなかった責任を免れるものではない。

財政再建に向けたパパンドレウ政権の指導力と、危機克服に対するユーロ加盟国の本気度が試されている。信用不安が制御不能になってからでは手遅れだ。

読売新聞 2010年05月08日

世界同時株安 ギリシャ危機の飛び火を防げ

欧州各国と国際通貨基金(IMF)が、深刻な財政危機にあえぐギリシャに、最大1100億ユーロ(約13兆円)の支援を決めたというのに、世界の金融市場で動揺が続いている。

6日のニューヨーク市場は、ギリシャなどの財政赤字を懸念する売りが膨らんだ。誤発注による相場急落も重なり、ダウ平均株価は一時、1万ドルの大台を割った。

これを受けた7日の東京市場は全面安となり、平均株価の下げ幅は一時、400円を超えた。

上海や香港など、アジアの主要市場も軒並み下落し、世界同時株安の様相を見せている。

ギリシャから始まった欧州発の混乱は、日本にとって決して「対岸の火事」ではない。危機の飛び火でやけどする恐れはないのか、警戒が必要である。

ギリシャに対するIMFなどの支援は、ギリシャ政府が付加価値税と物品税の引き上げや、公務員給与の削減などで、財政を立て直すことが条件だ。

ところが、これに反対する市民のデモが激化し、死者も出た。肝心のギリシャ国内が、財政再建を巡って混迷を深めている。

ドイツなど、支援する側の国でも、支援による負担増加に反発する世論が根強く、ユーロ圏の結束がほころび始めている。

市場では、ギリシャと並んで財政赤字が大きいスペインやポルトガルにも危機が波及して、単一通貨・ユーロの信認が揺らぎかねないとの懸念も強い。こうした不安心理が株価を直撃したようだ。

4月に米国で開かれた世界20か国・地域財務相・中央銀行総裁会議(G20)は、ギリシャの財政問題にさほど踏み込まなかった。

IMFとユーロ圏各国に任せておけばいいと判断したようだが、認識が甘かったのではないか。

こうしたスキを今回、市場の投機筋に突かれたと言える。G7やG20は今後、真剣に対策を練る必要があろう。

景気に不安を抱える日本は、財政悪化も深刻だ。日本の国債は95%が国内で安定的に消化されており、7割を海外の投資家が所有するギリシャ国債と事情は違う。

だが、ギリシャの経済混乱は、国債の格付けが引き下げられたことがきっかけだ。日本も二の舞いにならないよう、他山の石としなければならない。

日本経済の信認を最も傷つけているのは、財政再建の道筋も示さず、ばらまきを続ける鳩山政権の経済政策である。まず、ここから改めねばならない。

産経新聞 2010年05月02日

ギリシャ支援 ユーロの安定に協調急げ

欧州の単一通貨ユーロに対する信認が大きく揺らいでいる。ギリシャの財政危機に端を発した信用不安がスペイン、ポルトガルなどでもくすぶり始めたためだ。

ギリシャは欧州連合(EU)のユーロ導入15カ国と国際通貨基金(IMF)に緊急融資を要請した。ユーロ圏とIMFは、ギリシャが新たな財政再建策に取り組むことを前提に今後3年間、最大15兆円規模の融資に応じる方向で調整している。

ギリシャが対外的に債務不履行を起こせば、ユーロにとって大きな打撃だ。その不安定化は欧州だけでなく世界の金融市場を動揺させ、ようやく立ち直りかけた世界経済の足を引っ張りかねない。各国による着実な融資の実行が求められる。

ギリシャ危機が深刻化した背景には4月27日、米国の格付け会社がギリシャ国債の格付けを「投資不適格」にまで引き下げたことがある。これによって、ギリシャは財政赤字を埋めるための国債発行が難しくなった。

ギリシャの経済規模はEU域内総生産(GDP)の3%にすぎないが、市場は、ポルトガルやスペインなども同じ財政問題を抱えていると不信の目を向ける。ギリシャに真剣な再建策を求める一方、財政赤字が先進国共通の課題となっている現実を直視したい。

問題は市場が、欧州の対応が後手に回っていること、緊急融資も対症療法にすぎないことを見透かしている点にある。最大の債権国ドイツでも「なぜ、ギリシャの優雅な年金負担をしなければならないのか」といった国民の不満が根強く、議会承認など融資に向けた手続きが順調に進むかどうか予断を許さない。

ユーロ圏では、金融政策は欧州中央銀行が担うが、財政政策は各国それぞれに任されている。そうした経済政策上の欠陥をどう補っていくか。各国が事前拠出した資金をプールしておき、いざという時に資金供給できるような欧州版IMF構想なども出ている。ユーロを統一通貨とする通貨同盟の見直しが必要なのは明らかな情勢だが、そうした抜本策の話は始まったばかりだ。

世界の投資家は各国の財政状況に強い関心を示すようになった。国と地方を合わせた公的債務残高がGDP比180%を超える日本にとってもユーロ圏の混乱は人ごとではない。

毎日新聞 2010年05月02日

論調観測 ギリシャ支援 「連帯」で揺れる欧州

財政危機下のギリシャを震源とした金融市場の動揺が収まらない。ユーロ加盟国と国際通貨基金(IMF)が緊急融資を実施する運びとなったが、市場では、「次のギリシャ」を探す動きが始まっている。

ギリシャが過去の債務危機と違うのは、通貨を共有する国家集団の中で起きているという点だ。危機を放置すれば、同じ通貨を使う地域全体に信用不安が伝染する怖さがあるが、不安を止めるために救済しようとすれば自国の納税者が反対する。

今回は、この難問に揺れる欧州の論調を取り上げてみたい。

ギリシャ支援への批判が特に目立つのは、最大の負担(欧州分の3割弱)を迫られるドイツだ。大衆紙「ビルト」は、ギリシャを「何十年も浪費を続け、実態をごまかしユーロに加盟した」と非難。そのギリシャにだまされたうえ多額の支援をさせられるとして、独政府に「おめでとう」と皮肉を放った。

同紙や、中立系「フランクフルター・アルゲマイネ」など複数の主要紙が「ギリシャのユーロ離脱はやむなし」との主張を公然と展開している。

支援に及び腰のドイツ政府に厳しい目を向けたのはフランス各紙だ。「ルモンド」は、「(信用不安の)悪循環を絶つ唯一の方法は欧州の連帯だが、ドイツが足を引っ張る」と非難した。

一方、イタリアの左派系「レプブリカ」はギリシャ問題を「トロイの木馬」に例えた。欧州がギリシャ救済をためらい、不協和音に明け暮れている間に、救済という木馬に隠れて米国(の影響が大きいIMF)がやってきた、との分析である。

そのIMFだが、救済と引き換えに厳しい歳出削減や増税などの改革を迫ることになる。ギリシャ国民の不満はさらに高まりそうだが、IMFの関与を「脅威ではなく好機ととらえよ」と呼びかけた論説があった。

ギリシャの新聞「カティメリニ」だ。「ギリシャ政府は自ら健全な財政基盤を築かねばならない。野党は人気取り目当てで足を引っ張ってはいけない」。見出しは「ギリシャの政治家が試されている」だった。

市場の目は今のところ欧州にくぎ付けだが、欧州外にいつ転じるか分からない。毎日は「(日本も)待ったなしの姿勢で取り組む必要がある」と政府に迅速な財政再建の計画作成を求めた。米「ロサンゼルス・タイムズ」も「市場ににらまれてからでは手遅れ」と米政府に警告している。政治家が試されているのは、欧州だけではないのだ。【論説委員・福本容子】

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/328/