郵政見直し法案 「改悪」の本質を見極めよ

読売新聞 2010年05月01日

郵政改革法案 民間と共存の道を探るべきだ

郵政事業がさらに便利で、経済活性化にも役立つものとなるよう、改革を進めてほしい。

政府は30日、郵政改革法案を閣議決定した。

日本郵政グループは来年10月、現在の5社から、郵便事業を行う親会社の下に、ゆうちょ銀行とかんぽ生命保険の2社が入る3社体制に再編成される。

「民営化で郵便配達の人に貯金を頼めなくなった」など、苦情の多いサービスの縦割りも改められる。日本郵政は今回の改革を、利用者本位の体質に生まれ変わる好機としなければならない。

日本郵政の柱となるべき郵便事業は経営環境が厳しい。電子メールの普及で、はがきなど郵便の利用は減り続けており、09年度決算は、赤字が見込まれている。

改革案が、貯金の預入限度額を2000万円に倍増し、融資などの新規業務への参入を認可から届け出に緩和したのも、金融事業の収益力をさらに強化し、郵便事業の全国一律サービスを支える狙いだろう。

金融業界は、ゆうちょ銀などには「暗黙の政府保証」があり、さらなる肥大化や民業圧迫を招きかねないと警戒する。政府が郵政グループに全額出資する現状では、こうした指摘もうなずける。

このため、政府が新規業務を認める際には、政府保有株の売却を始めるか、売却スケジュールを示すなどして「官業脱却」の道筋をつけるべきだ。

民業圧迫を防ぐための郵政改革推進委員会の役割も重要だ。

郵政に集まった資金のうち、貯金の8割、保険の7割が低金利の国債で運用されている実態も変えていく必要があろう。

郵政マネーを、新興国の鉄道建設など、外需獲得を狙う日本企業に対する融資や、地方活性化に役立つ投資に回すアイデアもある。これまで、国債購入に充てられていた巨額資金を、効果的に活用する意義は大きいのではないか。

とはいえ、ゆうちょ銀は融資経験に乏しい。まず、ノウハウの蓄積と人材育成が先決だろう。政府系金融機関などとの共同事業から始めてはどうか。

中小零細企業向けの融資や、住宅ローン、教育ローンなど個人向け業務は、中小金融機関と競合する。協調融資や商品の相互供給など、共存共栄の工夫がほしい。

亀井郵政改革相は、約20万人の非正規雇用の半数を正規雇用にするよう求めているが、人数ありきでは困る。意欲と能力の高い人を厳選すべきである。

産経新聞 2010年05月01日

郵政見直し法案 「改悪」の本質を見極めよ

政府は「郵政改革法案」を閣議決定し、今国会に提出した。日本郵政の公的性格を強め、肥大化を容認する内容だ。

民営化を通じた経営の効率化と規模縮小という改革の本来あるべき姿からは大きく逆行する。国会は徹底的な審議を通じて、「改悪」の実態を洗い出してほしい。

法案では郵貯の預入限度額と簡保の保障限度額をそれぞれ2倍に引き上げる。政府が3分の1超の株を所有し、限度額を引き上げれば、「暗黙の政府保証」と受け取る国民が民間金融機関から預金を郵貯に移すことが予想される。

しかし、郵貯には融資のノウハウがないため、いまは大半を国債で運用している。郵貯を通じてさらに国債に資金が大量移動すれば、民間に回る資金量が縮小し、産業金融を歪(ゆが)めることになる。

亀井静香郵政改革相や原口一博総務相ら関係閣僚からは、郵貯と簡保が保有する資産の一部を国内外の道路や橋などに投資する主張が相次いでいる。

だが、閣僚らの構想は政治に翻弄(ほんろう)されたかつての財政投融資の復活と映る。

しかも、超長期にわたる海外への投融資はリスクが高い。政府がリスクを保証する政府開発援助(ODA)や国際協力銀行(JBIC)など専門機関があるのはそのためだ。すぐに解約が可能な郵貯の資金を原資に、長期投資する原口総務相らの構想は現実的とはいえまい。

鳩山由紀夫政権は地方のお年寄りの利便性や貯金を守るために改革を行うと主張しているが、このまま見直しが進めば、貯金をリスクにさらし、かえって国民負担を招くことになる。

法案づくりを主導してきた亀井氏は、組織の肥大化についても正当化の布石を次々に打ってきた。日本郵政にいる約20万人の非正規社員のうち半分を正社員化する計画もその一つだ。正規雇用を増やすことで、リストラによる事業縮小を難しくする狙いなのだろう。雇用対策に名を借りた姑息(こそく)な手段との批判を免れまい。

法案では、がん保険などの新規業務参入も自由化される。欧米各国が「民間との競争条件に公平性が欠ける」として世界貿易機関(WTO)への提訴を示唆するなど新たな火種も抱えた。

法案は将来の民営化阻止が狙いなのは明白だ。国民は郵政見直しの本質を見極めねばならない。

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