上海万博 中国の未来図を描け

朝日新聞 2010年05月01日

上海万博 国威より学びあいの場に

上海万博がきょう開幕する。

史上最大の240余りの国と地域、国際機関が参加する。月の石が人気を呼んだ、1970年大阪万博の約6400万を上回る過去最大の7千万人の入場者を見込む。

中国は70年代末から始めた改革開放政策で急速な経済成長を果たし、世界の工場、さらに世界の市場へと変貌(へんぼう)した。今年は日本を抜いて第2の経済大国になることが確実視されている。

上海万博でも、中国の吸引力には目を見張らされる。北朝鮮が初めて出展するほか、台湾館が大阪万博以来久しぶりに姿を見せる。外交関係のない国々の参加も目立つ。

上海の街のあちこちに国旗の五星紅旗がはためく。マナー向上が呼びかけられ、洗濯物を外に干したり、パジャマで外出したりする姿が影を潜めた。

胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席らは「中華民族5千年の輝かしい文明と改革開放30年余の成功を示す」場と位置づける。確かにこの万博は「途上国で初めて」と形容されており、08年北京五輪と同様に中国の存在感を世界に印象づける機会にしたいという気持ちはわかる。

とはいえ、これだけ経済発展し国際的な発言力も強くなったというのに、中国が、まるで国際的な舞台にデビューする小さな途上国のような夢だけを万博開催に託しているとしたら、いささか違和感がある。

今の中国はすでに解きほぐしがたく世界とからみ合っている。世界全体の行方は中国人の将来と密接につながる。であれば、自国宣伝や国威発揚より相互理解を深めるための万博にする。それが、大国たる中国で開く意義ではなかろうか。

中国には存在感を訴えるより、むしろ「より良い都市、より良い生活」のテーマにふさわしい環境を守ろうというスタンスを貫いてほしい。

たとえば、日本館は太陽電池と一体化した軽量膜が覆うドームで、排熱や換気には打ち水などの伝統の知恵を活用する。スイス館は自然分解する大豆繊維を使っている。各国が環境への優しさを競う。そこで学びあうのは大きな意義がある。

また、これだけ多くの中国人が外国や外国人とふれあうのは初めてだ。世界が「より良い生活」のために何をしているのか、その思想は何か、を知ってもらいたい。万博はモノを見たり見せたりするだけでなく、人々が交流する場でもあるはずだ。

上海は日中戦争で日本が軍事占領した都会でもある。戦前、約10万ともいわれる日本人社会があった。世界有数の経済都市となった今も、企業駐在員ら邦人約5万人が暮らし、縁は深い。万博には100万の日本人の入場も期待される。日本館の前評判も高い。日中間でも理解を深めるための好機だ。

毎日新聞 2010年04月30日

上海万博 中国の未来図を描け

中国上海市で上海国際博覧会(上海万博)が5月1日開幕する。10月31日まで6カ月間に7000万人の入場者を想定している。40年前の大阪万博は約6500万人だった。それを若干上回る規模になりそうだ。

中国政府にとって上海万博は、2008年の北京五輪、09年の建国60周年記念式典に続く3年目の国家行事である。

前世紀の末、中国の高度成長が軌道に乗った。当時、政府のシンクタンクに集まった社会学者たちは08年からの数年間、中国社会のさまざまな指標、例えば貧富の格差、失業者、高齢化の進行などが一斉に危険水域に入ると予想した。高度成長経済が胸突き八丁に入る。それを乗り切るためのモデルにしたのが、日本の東京五輪と大阪万博だった。

北京五輪を契機に都市建設ラッシュが始まった。そのおかげで、途中でリーマン・ショックに巻き込まれても、次の上海万博を名目に公共事業を前倒しして国内の景気を維持することができた。

そもそも、1980年代にトウ小平氏が提起した「翻両番(ファンリャンファン)」(所得倍々増)という成長政策は、1960年に池田勇人首相が提唱した所得倍増論を採用したものである。その4年後の東京五輪は、敗戦で打ちのめされた日本人が、やっと高度成長で自信を回復したことを自ら確認するイベントだった。北京五輪でも中国人はテレビ画面を見つめるうちに、世界の大国としての地位を築いた自信を深めたことだろう。

「人類の進歩と調和」がテーマの大阪万博の年には、「モーレツからビューティフルへ」が流行語になった。成長至上主義からの転機だった。今年、日本を抜いて世界第2位の国内総生産(GDP)大国となるだろう中国では、政府は「調和ある社会の建設」をスローガンにしている。

中国は、日本の高度成長の道筋を、早回しの映画のような勢いでたどっている。なぜいま万博が中国で開かれるのか。その必然性を日本人は理解できる。「流血GDP」という言葉さえ生んだGDP至上主義でひた走ってきた中国人は、万博を機に中国という国の姿、形を、世界の国々のなかに置いて客観的に見るだろう。失ったもの、失ってはならないものに気づくだろう。それだけの自信と余裕が、いまの中国人には生まれたはずだ。国内だけではない。国際社会からも責任大国としての度量が求められている。

その結果は、中国共産党の一党独裁体制にとって好ましくないかもしれない。だが社会主義というより開発独裁というほうがふさわしい今の体制はもう壁に直面している。上海万博で大きな未来図を描くときだ。

読売新聞 2010年05月01日

上海万博開幕 国威発揚の場を生かせるか

先進国への仲間入りを目指し、伸張する国力と存在感を世界にアピールしたいのだろう。

上海万博が5月1日に正式に開幕する。中国では初めての国際博覧会だ。

先の北京五輪に続く国家的イベントである。万博史上、最多の189か国・地域と57の国際組織が参加した。孤立化を深める北朝鮮が初参加し、中台融和を象徴する「台湾館」も登場する。

半年間に及ぶ会期中の入場者は、過去最多だった大阪万博(1970年)の実績6400万人を超える7000万人を狙う。

過去30年余りの改革・開放政策の成果を誇る中国の意気込みがうかがえる規模だ。

万博の開催を国際社会から尊敬される「責任大国」への一歩にしてほしい。

テーマは「より良い都市、より良い生活」である。参加国が、独自の文化や歴史を披露する一方で、環境に配慮した都市づくり、住みよい生活に役立つ最先端のエコ技術などを競い合う。

華やかな会場の周辺では、会期中に懸念されるテロを防止するため、多数の警察官らが配置され、厳戒体制が取られている。

胡錦濤指導部は上海万博を通じて、国威発揚を図り、「愛国・愛党」キャンペーンをさらに推進して、政権への求心力を高める思惑があろう。

中国の存在感が強まる中で、欧米諸国では「中国傲慢(ごうまん)論」が起きている。こうした批判を少しでも和らげ、中国のイメージアップにつなげたい意図もあるだろう。

ただ、運営面では心配がないわけではない。上海市民を数十万人規模で招待して行われた内覧会では、一部の入場者が列を乱してわれ先に押しかけ、負傷者も出る混乱が生じた。

会期中は、多数の外国人客も訪れる。中国人のマナー向上を図るとともに、入場者の安全を最優先で確保してもらいたい。

開幕直前には、万博PR曲が、日本人歌手の作品と酷似している盗作疑惑が浮上した。

大会公式マスコット「海宝(ハイバオ)」のニセ物は摘発されたが、違法販売は続いているようだ。著作権など知的財産権を尊重する意識の向上を図る機会とすべきだ。

日本は日本館や日本産業館、大阪館で、最新鋭の環境技術やロボットなどを展示する。万博開催のノウハウでは中国に協力した。

出展する日本企業は先端技術や食文化などを世界にアピールし、新たな商機につなげてほしい。

産経新聞 2010年05月01日

上海万博開幕 発展モデル転換の糸口に   

中国で初の国際博覧会となる上海万博が1日開幕した。

参加国・地域、国際機関が246を数え、10月末までの期間中の予想入場者も7千万人と史上最大規模である。中国共産党政権にとっては一昨年の北京五輪に続き、改革・開放政策の成果を内外に誇示する舞台だ。

だが、人類が築き上げてきた、その時代の至上の技術や芸術を世界に披露し、同時に将来への課題をさぐるのが万博である。本来の意義は強調しておきたい。

総延長が世界一となった地下鉄建設費などを加えれば2兆6千億円もの資金がつぎ込まれた上海万博のテーマは「より良い都市、より良い生活」という。

確かに中国の国内総生産(GDP)は今年中に日本を抜き、米国に次ぐ世界第2位となる。広大な万博会場でひときわ目立つ中国館では北宋時代(10~12世紀)の長さ100メートルの絵巻「清明上河図」が音声つき動画で再現される。

しかし、会場の外に目を転じれば、極端な格差の現実がある。北京や上海など沿海部の都市には1億円以上もする超高級輸入車を買う富裕層が出現する半面、地方農村には貧困にあえぐ人々が少なくない。

中国が現在の経済成長を続ければ、同じペースでエネルギー消費も膨らみ、近い将来には世界中から資源を買いあさっても追いつかないのは必至だ。すでに世界一の温室効果ガス排出国であり、公害も深刻化している。

中国は自らの発展モデルを転換する糸口を上海万博で見つけてほしい。例えば、官民連携で出展の日本館は太陽電池シートを外装にした発電膜をはじめ太陽光や雨水、空気などを取り込んだ省エネシステムを採用している。省エネや環境問題で先に経験を積んだ日本は、自らの存在意義をもっと強調していい。

中国が今最も必要とする環境技術を日本を含む世界から導入するためには、国際標準に沿った受け入れ態勢を整えなければならない。そのために知的財産権の保護が重要だが、最近の万博PRソングなどの盗作騒動でも明らかになったように中国側の知財保護の意識は希薄だ。

上海万博を機に、中国がまず国際標準を受け入れるよう、日本も「環境・省エネ技術」をカードに働きかけを強めるべきだ。それが戦略的互恵関係ではないか。

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