福知山線事故5年 「考動」する社風の確立を

毎日新聞 2010年04月26日

JR事故5年 起訴の重み、かみしめよ

107人が死亡したJR西日本福知山線脱線事故から25日で5年がたった。井手正敬氏ら歴代3社長が検察審査会の議決を受けて業務上過失致死傷罪で強制起訴された。既に起訴された山崎正夫前社長と併せ、歴代4社長の刑事責任が問われる。裁判で事故の真相が解明され、再発防止につながることを期待したい。

神戸地検は現場付近を急なカーブに付け替えた当時の鉄道本部長の山崎氏だけを起訴した。今回の起訴内容は、井手氏ら歴代3社長が社内の幹部を集めた総合安全対策委員会の委員長として危険性を予見できたのに、現場カーブへのATS(自動列車停止装置)の設置を指示しなかった過失があるとしている。

過失の範囲を広げすぎるとの指摘もあるが、経営トップの姿勢と事故との因果関係を究明するうえで、被害者感情に沿った判断といえよう。

私たちはこの5年、事故の誘因として、営利優先体質や責任があいまいな企業風土を問い、意識改革を求めてきた。国土交通省航空・鉄道事故調査委員会(現・運輸安全委員会)も07年に発表した最終報告書で、ATSの設置が必要だったと指摘し、運行優先姿勢を指弾した。

これを受けJR西は、過密ダイヤの改善や懲罰的な日勤教育の廃止などに取り組んだ。しかし、事故調の最終報告書案が事前にJR西側に漏れ、山崎氏が修正を働きかけていたことが昨年9月発覚した。先月初めには走行中の山陽新幹線車両で車軸のギアボックスが破損するなど、脱線につながりかねないトラブルも起きている。

毎日新聞が今回、遺族と負傷者計81人の回答を得たアンケートでは7割以上がJR西幹部の事故後の対応を「不十分」と指摘。事故責任の所在が明確にされていないことなどから賠償交渉に入れない遺族が3割、負傷者が4割近くいることも分かった。遺族の半数以上がカウンセリングを継続しているなど精神的後遺症の深刻さも浮き彫りになった。

井手氏らは国鉄分割・民営化後のJR西の経営基盤を築いたが、安全対策面でどういう役割を果たしたのかを法廷で真摯(しんし)に説明すべきだろう。

JR西は今年度、過去最高の1000億円以上の安全投資を表明している。ATSや踏切内の障害物検知センサーの設置などを進める。こうした投資は評価できるが、信頼回復へのたゆまぬ努力なくして十全な安全対策とはいえまい。

裁判で問われるのは、歴代社長の刑事責任だけではなく、企業体質そのものだ。JR西は改めて全社を挙げて、被害者の不信をぬぐえなかった5年を検証し、安全と信頼の確立に取り組まねばならない。

産経新聞 2010年04月25日

福知山線事故5年 「考動」する社風の確立を

乗客106人が亡くなった兵庫県尼崎市のJR福知山線脱線事故から25日で丸5年になる。23日にはJR西日本の井手正敬(まさたか)元相談役ら歴代3社長が業務上過失致死傷罪で強制起訴された。

5年はひとつの区切りである。改めて犠牲者の冥福を祈るとともに、公判での事故原因の徹底究明と、再発防止を願いたい。

JR史上最悪の事故は、急カーブを制限速度を超えるスピードで通過しようとした運転士の過失と、現場に自動列車停止装置(ATS)を設置していなかった不備、さらに営利優先の過密ダイヤが重なって起きた。安全第一であるべき鉄道会社において、それを二の次にしていた企業体質がもたらしたといっていい。歴代トップの責任は重い。

しかも昨年9月には、事故調査委員会(現運輸安全委員会)の委員に働きかけて事前に報告書の内容を入手していた事実が発覚し、遺族の怒りをかった。重大なコンプライアンス(法令順守)違反である。事故の反省、教訓を口にしながら社会的責任を自覚せず、企業防衛ばかりに目が向いていたのでは、信頼回復の道は遠い。

企業体質は一朝一夕には変わらない。歴史ある企業、巨大な組織はなおさらだ。分割民営化されたJR西日本には、井手元相談役のような強いリーダーシップが欠かせなかったのは確かだが、上意下達で自由にモノが言えない風通しの悪さは、事故の背景としても指摘された。こと安全に関しては、阻害する要因があれば現場でブレーキをかけることができる。そうした社内ルールであるべきだ。

この際、JR西日本は全社をあげて早急に体質改善に取り組まなければならない。

芽は出てきている。佐々木隆之社長は今年の入社式で新入社員に向かって「考動」を訴えた。文字通り、社員一人一人が、何が期待され何を目指すのかを考え、上司や同僚に自分の意見をきちんと伝えるように動くことだ。

昨年12月には「企業再生推進本部」が設置され、活動の一環として開かれる「安全ミーティング」では、社長をはじめとする幹部と現場の社員が活発な意見交換をしている。また、事故を教訓に社員教育を行う施設は「鉄道安全考動館」と名付けられた。

「考動」が単なるお題目であってはならない。地道な実践こそがJR西日本を再生させる。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/321/