財政危機 ギリシャの連鎖防げ

朝日新聞 2010年04月25日

G20 監督強化は実情に沿って

世界経済に明るさが増す中、金融危機の再発を防ぐための規制・監督強化の議論が進みつつある。各国の足並みがそろいにくい面もあるが、改革の努力に期待したい。

予想以上に世界景気は回復しつつある。そんなメッセージを発して、ワシントンの20カ国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁会議は閉幕した。経済政策のかじ取り役が成長率などの回復傾向に自信を深めているのは、好ましいことだ。

ただ、回復の足取りはまだ確かなものとはいえず、ぬかるみにはまりそうな危うさがあちこちにある。

信用不安が深刻化しているギリシャでは、政府がついに欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)に支援を頼みこんだ。G20では、EU関係者から報告があった。景気が過熱気味の中国の人民元の切り上げ問題についての議論は見送られた。

2008年9月のリーマン・ショックで深刻化した世界金融危機をきっかけに議論が続いている金融規制や破綻(は・たん)処理のあり方についても、議論はなかなか深まりきらないようだ。

規制や監督については、主要国間で、ある程度の方向性を共有する努力は重要だが、完全に一致させるのは難しい。各国の経済や金融の実情が異なるからだ。

米国では、大手金融機関の幹部が高い報酬をもらいながら、リスクの高い投資に走って、金融危機を招いた。公的資金で救済されたことに対する納税者らの怒りが強いのは当然だ。

そこで米政権は、銀行がファンドを所有したり、自己勘定で顧客サービスと関係のない取引をしたりすることを禁止する規制改革を進めようとしている。金融機関の規模が巨大化することに歯止めをかけ、「大きすぎてつぶせない」という矛盾を解消していく考えだ。欧州や日本がこの動きに追随する方向にはない。

米国は一国だけでも規制強化に踏み切るだろうし、それで構わない。日本では、むしろ銀行が国債の購入を増やすなど運用が消極的すぎて、経済の活性化を妨げている実態がある。

米証券取引委員会(SEC)は金融大手ゴールドマン・サックスを証券詐欺の疑いで提訴した。同社が投資家に対して適切な情報開示を行わなかったことを理由としている。

金融はますます複雑化しており、情報の格差を利用して、もうけに走る姿が世界的に目立つ。日本でも、一般投資家向けにすら、デリバティブを使った複雑な商品が売られている。

一層の情報開示を進めるのは当然のことだ。同時に、その国の実情にあわせて検査・監督体制を強化することが重要だ。厳しい摘発があってこそ、金融機関への信頼も回復するだろう。

毎日新聞 2010年04月25日

財政危機 ギリシャの連鎖防げ

世界経済の回復は予想以上に進んでいる--。ワシントンに集まった主要20カ国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁らは、協調して大胆な景気浮揚策をとったことが世界同時不況からの早期脱出につながったとして成果を強調した。しかし、安心してはいられない。新たな危機の火種が育ちつつあるからだ。

次なる危機とは、国家の財政に関するものである。

ワシントンの会議では出席者の関心が、遠くエーゲ海を望むギリシャに集まった模様だ。財政難の深刻化で国債価格が暴落したギリシャは、ついに欧州連合と国際通貨基金(IMF)に緊急融資を仰いだ。ユーロ圏による初の加盟国救済がいよいよ実行に移されることになる。

しかし、これで不安が解消するわけではない。市場関係者の間では早くもギリシャへの追加融資や債務の部分免除の必要性を唱える声が出ている。ギリシャ発の信用不安が他のユーロ圏に広がるのも心配だ。世界の金融市場を揺さぶり景気回復を反転させかねないだけに、欧州にはギリシャ支援の迅速な執行と不安の拡大防止に全力を挙げてもらいたい。

現時点で市場の関心はユーロ圏に集中しているが、米国やユーロを採用していない英国、財政状態が飛び抜けて悪い日本も傍観してはいられない。金融危機対策で主要国の財政はどこも大幅に悪化した。IMFは最近発表した報告書の中で、各国が必要な手を打たなければ、財政危機が連鎖し世界的な金融危機に発展しかねないと警告した。“第2のリーマン・ショック”への警鐘である。

G20は共同声明で「出口戦略」の必要性をうたった。経済政策を金融危機対応から平時に戻す作戦である。ただ一方で景気回復が弱い国では当面、財政・金融面からの支援が必要だとも指摘しており、緊急性はあまり伝わってこない。

会議に出席した菅直人副総理兼財務相も、日本がギリシャを「他山の石として」財政問題に取り組む必要があると語った。政府は6月に財政健全化に向けた道筋をまとめることになっているが、待ったなしの姿勢で取り組む必要がある。

格付け会社をはじめ市場関係者は、消費税率引き上げなど具体的な対策に裏打ちされた計画が示されるかどうか、日本の対応を見極めようとしている。参院選への影響に配慮し、あいまいな中身でお茶を濁そうとすれば、新たな金融危機の火の粉が日本国債に降り注がないとも限らない。

鳩山政権は普天間問題や高速道路料金などを巡り、方針を二転三転させてきた。財政再建では一枚岩の決意とそれを貫く行動力を見せてほしい。6月はすぐそこだ。

読売新聞 2010年04月25日

G20声明 ギリシャ危機をどう乗り切る

世界の景気は持ち直してきたが、ギリシャ危機などの不安材料も抱えながら、どう成長戦略を描いていくか――。

日米欧や中国などが参加し、ワシントンで開かれた世界20か国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁会議が、共同声明を採択し、閉幕した。

共同声明は、「世界経済の回復は予想以上だ。しかし、回復が確実になるまで必要に応じ、景気下支えを続けるべきだ」と、景気対策継続の重要性を強調した。

まだ安定感を欠く世界経済を考えれば、妥当な判断だろう。

国際通貨基金(IMF)は、今年の世界経済を4・2%成長と予想する。ただし、日欧は1%台と低く、米国が約3%、中国、インドが約9~10%とバラバラだ。

金融危機と世界不況克服のため、各国は、財政出動や超金融緩和などの対策を総動員した。

声明は、それらの政策を元に戻す「出口戦略」の必要性も指摘したが、拙速な政策変更は、景気失速を招きかねまい。

まだ低成長が続く日欧は、特に慎重な(かじ)取りが肝要だ。

G20のさなか、財政危機に陥ったギリシャがついに、欧州連合(EU)とIMFに正式に資金支援を仰いだことが象徴的だ。

EUとIMFが連携し、迅速にギリシャを救済しなければ、世界の市場を混乱させたり、欧州域内のポルトガルなど他国にも波及したりする恐れがある。

険しい道だが、ギリシャはさらなる歳出削減などで、早急に財政を再建することが求められる。

大型の財政出動を続けた結果、日本はギリシャ以上に財政悪化が深刻だ。菅財務相が「他山の石としなければならない。成長と財政再建の二兎(にと)を追う戦略が必要だ」と述べたのは当然のことだ。

日本は当面、デフレ克服に向けた景気対策を続けるべきだ。景気回復が確実になれば、財政再建に舵を切ってよかろう。

声明は、中国・人民元の切り上げには言及しなかった。反面、中国に内需拡大を促したのは、世界経済の牽引(けんいん)役としての中国に対する高い期待感の表れだろう。

金融規制強化策として、金融機関が破綻(はたん)した際にかかるコストを金融界から徴収する案を議論した。しかし、日米欧で思惑が食い違い、結論は先送りされた。

一定の規制強化は必要だが、過度な規制は実体経済に打撃を与えかねない。拙速を避けながら、どう協調を実現するかが、6月のG20首脳会議などの課題である。

産経新聞 2010年04月25日

G20閉幕 自律回復への詰め怠るな

主要20カ国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁会議は「世界経済の回復」を強調する共同声明を採択、閉幕した。

中国やインドなど新興国の成長が世界経済全体を牽引(けんいん)しているとの認識だ。だが新興国に比べ先進国の成長力は弱い。

財政による景気の下支えから民間主導の自律回復に向け、いかに転換していくか。とりわけ先進国は、財政出動を通常の政策に戻していく「出口戦略」の具体化が問われる。

会議直前に財政危機に直面したギリシャが欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)に対して緊急融資を要請したのは、世界経済の先行きがなお不安定なことを象徴する出来事だ。

焦点のギリシャ問題は声明にこそ明記されなかったが、各国代表者らの大きな関心事となった。一昨年秋の米国発金融危機は、総額5兆ドルに上る各国による大規模な財政出動と中央銀行の金融緩和策によって沈静化した。だが、ギリシャの危機により、金融市場の混乱が再燃するのではとの懸念が広がっている。

EUとIMFは計450億ユーロ規模の融資に応じる意向だ。ギリシャが財政赤字を埋める国債を発行できずに対外債務不履行状態になれば、欧州単一通貨「ユーロ」の信認は地に落ちる。着実な融資の実行を求めたい。

共同声明では、「信頼性のある出口戦略を練るべきだ」と強調した。先進各国とも巨額の財政出動で財政が悪化している一方で、日米欧の金融緩和が長引いて新興国に大量の投機資金が流れ、インフレ圧力が強まっている。

それが、途上国のバブルを引き起こしかねない事態を招いている。先進国は財政再建の道筋を、新興国はインフレ対策を示すことが重要だ。その意味で、中国の人民元の切り上げ問題が全く議論されず先送りされたのは残念だ。

菅直人副総理・財務相は「日本は成長と財政再建の二兎(にと)を追う戦略が必要だ」と述べた。日本国債の大半は国内で保有されており、海外投資家を頼っているギリシャとは違うが、先物を取引する投機筋などが日本の財政赤字に注目している。

政府は6月に財政健全化の枠組みをまとめる。財源なきばらまき政策を続ける鳩山政権に、果たして市場を納得させる政策が提示できるかといえば、懸念を抱かざるを得ない。

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