「25%削減」 実現へ説得力ある道筋を

朝日新聞 2009年09月08日

「25%削減」 実現へ説得力ある道筋を

「日本の政権交代が気候変動対策に変化をもたらし、人類社会の未来に貢献したといわれるようにしたい」

民主党の鳩山代表が、朝日新聞社主催の地球環境フォーラムで地球温暖化防止への新政権の強い決意を述べた。

今回の政権交代は、京都議定書に続く新しい国際的な枠組みづくりの時期と重なった。国際交渉は、12月の国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)に向け大詰めを迎えつつある。

最大の難問は、先進国と新興国・途上国との間に横たわる溝である。先進国は「率先して大胆な行動を」とさまざまな要求を突きつけられている。

これに応えて、鳩山氏が温室効果ガス削減について「2020年に90年比25%減」を目指すという日本の目標を明言した意義は大きい。3カ月前、麻生首相が表明した「05年比15%減」から大きく踏み出すものだ。

取り組みが遅れている途上国への資金や技術の支援でも、政権発足後に「鳩山イニシアチブ」を打ち出す姿勢を表明した。温暖化の被害を軽減するための支援も盛り込む方針だという。新興国・途上国に、国際的な合意づくりのために歩み寄るよう求める重要な手がかりになるはずだ。

温暖化対策で、日本は変わる。そんな確かな予感を世界に抱かせる次期首相のメッセージである。

こうした方針は欧州諸国と足並みをそろえるものであり、先進国が結束して高い目標に取り組むことも促すだろう。慎重論が根強い議会を説得しているオバマ米大統領にとっても、追い風になるのではないか。

先進国が積極的になれば、中国も動かざるを得なくなる。中国と米国は世界の温室効果ガスの約4割を排出する。この2カ国を巻き込んで初めて、次の枠組みは実効性あるものになる。

しかし重ねて強調したいのは、日本にとって「90年比25%減」という目標はそう簡単に実現できるものではないことだ。産業界からの反発は必至だ。様々な負担増が予想されるなか、国民からの異論もあろう。だからこそ鳩山氏は「政治の意思としてあらゆる政策を総動員する」と力説したのだろう。

どのようにこの目標を達成していくのか、新政権は国内排出量取引市場や地球温暖化対策税などの具体策を早急に詰める必要がある。そのうえでロードマップをつくり、ひとつずつ着実に実行していくべきだ。

同時に、ガソリン税などの暫定税率廃止や高速道路の無料化など、排出削減に逆行しかねない政策の賢い見直しも忘れないでもらいたい。

今月下旬には国連で気候変動をめぐる首脳会合が予定されている。鳩山氏は野心的な提案をもっていく意向のようだが、肝心なのは国内世論を説得し、合意をつくり出す指導力である。

毎日新聞 2009年09月09日

25%削減目標 米中動かす戦略も大事

「2020年までに90年比25%削減をめざす」。民主党の鳩山由紀夫代表が環境問題のシンポジウムで日本の温室効果ガス削減の中期目標について明言した。

この数値は、民主党がマニフェストに掲げた政権公約である。今年6月に麻生太郎首相が表明した政府目標より野心的で、政権交代を象徴する政策転換のひとつだ。

年末には京都議定書以降(ポスト京都)の枠組みを決める国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)を控えている。22日にはニューヨークで国連気候変動ハイレベル会合が開かれ、鳩山代表や米国のオバマ大統領も出席する。日本が温暖化問題に積極的に取り組む意思を示し、国際交渉にはずみをつけることは大切だ。

一方で、日本だけが高い目標を設定しても地球規模の温暖化防止が実現できないことも確かだ。講演で鳩山代表は、日本の国際社会への約束の前提として、「すべての主要国の参加による意欲的な目標の合意」を挙げた。

世界最大の排出国である米国と中国はもちろん、インド、ブラジルなどの新興国も削減しない限り、気候の安定化は望めない。日本の積極的姿勢を全員参加の呼び水にできるよう、民主党は策を練ってほしい。

鳩山代表が「25%減」を明言したことに対し、産業界の一部は生産拠点を海外に移さざるをえないといった懸念を表明している。失業率が増えるなど国民の負担が非常に大きくなると指摘する声もある。

実際には、政府が掲げてきた「2005年比15%減(90年比8%減)」と「90年比25%減」とは単純比較できない。政府の目標は国内での削減分(いわゆる「真水」)を示したものだが、民主党の数値には海外での削減分や排出権のやりとりなどが含まれているとみられるからだ。

それでも、「25%減」は容易に達成できる目標ではなく、国民の覚悟が必要だ。民主党は、達成手段として、省エネ、再生可能エネルギーの推進、炭素回収・貯留技術の開発などに加え、これまで政府が避けてきた国内排出量取引や環境税の導入も挙げている。

こうした政策をどう進めていくかはこれからだが、具体策や国民の負担についてよく説明し、国民が納得して協力できるようにしてほしい。

これまでの政府の対応には、日本の未来社会をどういうものにするのかのビジョンが欠けていた。民主党は低炭素社会のビジョンを示すことが肝心だ。それを国民が共有することによって、「25%減」のコストを、未来への投資と受け止めることができるのだ。

読売新聞 2009年09月09日

CO2削減目標 25%のハードルは高過ぎる

京都議定書の教訓を生かし、二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出を削減する公平な枠組みをどう築くのか。新政権の力量が厳しく問われることになる。

民主党の鳩山代表が講演で、2020年までの温室効果ガス削減の中期目標について、「1990年比25%削減」を言明した。近く国連の気候変動に関する首脳級会合で表明するという。

鳩山代表は、今年末に交渉期限を迎える「ポスト京都議定書」を念頭に、「すべての主要国の参加による意欲的な目標の合意が、我が国の国際社会への約束の前提となる」と述べた。

米国、中国の2大排出国など、主要排出国の削減努力があって初めて「25%減」に取り組むとしたのは、当然のことといえる。

そのためには、鳩山代表自身、首脳会談などで各国に強く働きかけていくべきだ。特に、削減の数値目標を課されるのを拒む中国に対しては、他の先進国と連携して説得することが求められる。

それにしても、「90年比25%減」は妥当なのか。今後、国内議論が活発化するだろう。05年比に直すと30%減の削減率に当たり、米国の14%減、欧州連合(EU)の13%減より大幅に高い。

厳しい排出規制が必要になるため、産業界には「景気に悪影響を及ぼす」といった反発が強い。「家計の負担が年36万円増加」といった麻生内閣の試算もある。

国連で公言すれば、「ポスト京都」で日本に課せられる削減義務の最低線になる可能性が高い。国内合意がないまま、国際公約とすることは避けるべきだ。

国民生活にどんな影響が生じるのか。鳩山代表はまず、それを丁寧に説明しなければなるまい。

25%の削減のうち、「真水」といわれる国内削減分がどの程度なのかも、はっきりしない。

日本は、京都議定書で課せられた90年比6%の削減ですら難しい状況にある。削減の不足分を補うため、海外から排出枠を購入して帳尻を合わせる方針だ。その額は約2000億円とされる。

「ポスト京都」では、こうした愚策を続けてはなるまい。

鳩山代表は「削減に努める途上国に対して、先進国は資金的、技術的な支援を行うべきだ」と述べた。日本が培ってきた省エネ技術は、世界全体の排出削減の有力な手段となり得るであろう。

高い削減目標より、現実的な施策で世界の排出削減に貢献する。それが日本がなすべきことだ。

産経新聞 2009年09月08日

25%減表明 どう実現するかの説明を

日本の温室効果ガス排出削減の中期目標について、民主党の鳩山由紀夫代表が「1990年比で25%減」という高い数値を表明した。

今回の衆院選で民主党は、これをマニフェストに掲げていたが、現在の政府が目標とする「2005年比で15%減」をはるかに上回るとてつもない削減量である。

鳩山代表は、22日にニューヨークの国連本部で開かれる気候変動ハイレベル会合に新首相として出席し、この新目標を国際社会に提示する考えであるという。

だが、待ってほしい。国民は民主党がどのようにして、これだけの削減を実現しようとしているのか知らされていない。そもそも25%のすべてが真水(正味の削減)なのか、それとも排出量取引などの経済手法を併用するのかさえ説明されていないではないか。

国内産業界の負担は計り知れないものがある。環境と経済の両立を目指すにしても景気回復の出はなをくじかれてはたまらない。

国連の舞台で、25%削減の決意を語れば拍手で迎えられるであろう。しかし、05年比で14%削減を目指す米国との調和を欠く可能性がある。

中国をはじめとする新興国や途上国勢に対して、一枚岩で対抗しなければならない先進国側の足並みを乱す懸念もある。

石油資源に代表されるエネルギー問題を考えても、世界は低炭素社会に移行すべき時期にある。これは同時に、二酸化炭素排出削減の必要性を意味している。

エネルギーの利用と地球温暖化防止のために、世界各国が温室効果ガスの削減を進めなければならないのは当然だ。問題は、世界規模での削減をいかに実効的、効率的に遂行するかである。

日本が突出して高い削減率を示すことにどういう意味があるのだろうか。25%削減で、国民の生活と国の経済が疲弊しても世界全体では1%減に薄まってしまう。なおかつ、努力をしない国が経済的に潤うという不条理な状況さえ生まれかねない。

地球温暖化問題は「環境冷戦」の側面すら持っている。各国の国益がかかった厳しい交渉なのである。理想を現実の鏡に照らして物事を進めるのが政治ではないか。「友愛精神」だけでは通用しない世界である。日本が重い削減義務を背負い込んだ京都議定書の二の舞いだけは避けたい。

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