薬害被害者から改めて怒りの声が上がるのは当然だろう。
厚生労働省は、田辺三菱製薬の子会社が新薬の試験データを組織的に改ざんしたとして、田辺三菱と子会社に業務停止を命令した。
何回も合併を重ねている田辺三菱の前身企業の一つに、薬害エイズと薬害肝炎を引き起こしたミドリ十字がある。田辺三菱グループは、薬の安全性にはひときわ真摯に取り組む責任があるはずだ。
にもかかわらず、子会社の「バイファ」は新薬の承認・販売に必要な試験で、問題化しそうなアレルギーのデータを差し替えるなど16件の不正を行っていた。
バイファ社員の内部通報でこれを知った田辺三菱は、昨年3月に不正を公表して自主回収した。
田辺三菱が設置した第三者委員会の調査報告書によると、バイファ社は新薬のための工場を建ててしまったことなどから、承認の遅れを避けたかったと見られる。
投与された人に健康被害は確認されていないというが、だからといって許されるものではない。
田辺三菱もバイファ社と共同で新薬の承認申請をしており、不正を見逃した責任は重い。製薬大手の業務停止は異例だが、医薬品の信頼を根本から損なうような不祥事だけに、当然の処分である。
バイファ社は旧ミドリ十字が設立した子会社で、幹部社員も多くが旧ミドリ十字の出身だった。問題の新薬開発も旧ミドリ十字が始めたプロジェクトだ。
今回の不正を、薬害エイズ事件などで明らかになった前身企業の安全軽視体質が、いまだ残っていた結果と見ることもできよう。
しかし、背景には業界全体に共通する要素も横たわっている。
製薬業界では今年以降、大きな収益を上げてきた薬が続々と特許切れとなる「2010年問題」に直面している。生き残るためにはできるだけ早く、新薬を開発することが必須だ。
また、調査報告書は、旧ミドリ十字が抱えていた不祥事や懸案への対処は同社の出身者を中心に行われたために、全社的な対応が遅れたとも指摘している。親会社が合併を繰り返し、子会社の監督が不十分だった。
内外で厳しい競争にさらされ、合併・再編が相次ぐ製薬業界だけに、今回の不祥事を人ごとで済ますわけにはいかないだろう。
医薬品は命に直結する。田辺三菱は無論だが、業界全体でも再発防止に取り組み、日本の薬に対する信頼を守ってもらいたい。
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