オバマ・胡錦濤 関係修復を演出した首脳会談

毎日新聞 2010年04月14日

人民元問題 米中の巧妙な衝突回避

鳩山由紀夫首相が滞在中のワシントンでは、オバマ大統領と胡錦濤国家主席による米中首脳会談も行われた。中国の人民元をめぐる両国の対立がどこへ向かうかに関心が集まったが、両首脳は自国の立場を主張しつつも、関係修復のため互いに歩み寄る姿勢を見せた。米中の衝突が回避され、人民元改革への環境が改善したといえそうだ。日本も含め世界にとって歓迎すべきことである。

中国は2005年夏以降、人民元の対ドルレートを段階的に切り上げたが、08年の金融危機後は1ドル=6・8元台に事実上固定している。このため、失業率が高止まりした米国では、中国による人為的な元安が廉価な中国製品の大量流入をもたらし米国の雇用を奪っている、といった“人民元主犯論”が広がった。

特に中間選挙を控えた連邦議会では、超党派議員130人が中国への対抗措置をオバマ政権に書簡で要求するなど、対中強硬派の動きが先鋭化していた。

人民元が、市場実勢を反映した柔軟な為替相場制へと移行することは中国経済にとっても世界経済にとっても長期的に望ましい。しかし、通貨を切り上げるよう外国が圧力をかけるのは、逆効果である。国内で外圧に屈したとの印象を持たれたくない中国当局はかえって動きづらくなるし、ひとたび前例を作れば投機の対象にもなりかねない。外圧は制裁が制裁を呼ぶ貿易戦争へと発展する危険もはらむ。そもそも、人民元を切り上げたところで、米国の雇用が改善するものではない。

その意味で、オバマ政権が中国を「為替操作国」と名指しするかどうか注目された外国為替報告書の議会提出を見送ったのは、賢明な決断だった。中国も首脳会談のタイミングに合わせるように、ハイテク製品の政府調達で外国企業の参入につながる方針転換を表明した。両国政府が首脳会談に備え周到な地ならしを重ねた印象である。

今後、中国は慎重にタイミングを計りながら、段階的に人民元の上昇を容認していくのだろう。ただ、元切り上げで、貿易不均衡や中国経済の抱える課題が解決するわけではない。むしろ目を向けるべきは、低い労賃や不透明な金融の仕組み、未整備の社会保障制度など中国製品を割安にしている構造上の問題である。国有企業を中心に滞留している利益を、国民に還元する改革が経済の安定成長には不可欠だ。

2国間交渉で為替問題を扱うより、G20など多国間協議の場で中国に構造改革を促していく方が、はるかに有益だろう。日本も自らの経験をもとに貢献できることが少なくないはずである。

読売新聞 2010年04月14日

オバマ・胡錦濤 関係修復を演出した首脳会談

年初以来、きしみ続けていた米中両国関係を、ひとまず修復したと言えるのだろう。

オバマ米大統領と胡錦濤・中国国家主席の両首脳が、5か月ぶりに、ワシントンで会談した。

相互依存関係が強まり、世界の景気回復や核不拡散の問題など両国が連携すべき課題は数多い。台湾やチベットなど2国間問題の立場の違いを超え、国際的な課題の解決では、米中が協調していくことを再確認した形だ。

焦点だった人民元の切り上げ問題では、対立の表面化を回避しようとする動きがうかがえた。

対ドルの人民元相場は、2008年夏から1ドル=6・8元程度で動いていない。中国が輸出産業を保護しようと、市場介入で元の上昇を抑制しているからだ。

これに対し、今秋に中間選挙を控えた米議会では、元安が米国の産業界に打撃を与え、失業問題を悪化させているとして、反発が根強い。中国製品に報復関税をかける制裁法案も浮上しつつある。

首脳会談は表向きは対決ムードを避けた。だが、大統領が人民元切り上げを求めたのに対して、胡主席は「外圧の中では改革を進められない」と牽制(けんせい)し、自主的に判断する考えを示した。

米政府は、15日に予定していた為替報告書の発表を延期し、中国を「為替操作国」に名指しすることを先送りしたばかりだ。

大統領は輸出戦略を打ち出し、雇用の拡大を重視しているが、当面は対中圧力を和らげ、元切り上げを待つ構えだろう。

しかし、中国がいつ改革に踏み切るかは不透明だ。早期に動かなければ、米国内の対中強硬論が勢いを増し、対立が先鋭化しかねない。中国は決断を急ぐべきだ。

中国経済は金融危機を克服し、2けた成長を回復したが、過剰マネーによる不動産価格の高騰など元安に伴う副作用も目立つ。

ここで過度な市場介入をやめて元高を容認し、バブルを退治することが中国にも利益となろう。

イランの核開発疑惑では、国連安全保障理事会での追加制裁決議の早期採択を目指す米国に対し、胡主席は、中国も国際的な核拡散防止体制を維持する義務があるとして、協力する姿勢を示した。

中国は原油の輸入先や投資先として、イランとの関係を深めているだけに、米側に一定の歩み寄りを示したと言える。

米中両国は自国の利益だけにとらわれず、国際的な課題解決に冷静に取り組んでもらいたい。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/303/