朝日新聞 2010年04月14日
普天間移設 鳩山首相にもう後はない
これでまた、「首相の公約」の重みがずしりと増した。
米海兵隊普天間飛行場の移設先について、鳩山由紀夫首相がオバマ米大統領に直接、5月末までに決着させる方針を伝え、協力を要請した。
首相は国会での先の党首討論で、「腹案がある」と思わせぶりに語った。しかし、当初、3月中にまとめるとしていた政府案なるものはいまだ判然としない。糸口すら見いだせていないのが実情ではないのだろうか。
それにもかかわらず首相は同盟のパートナーに「5月決着」を約束した。首相は国内はもとより、対外的にも、その政治責任から逃れる道をふさいだに等しい。あえてみずからを土俵際に追い込んだ形である。
夕食会の席を利用した10分間の意見交換で、首相は「沖縄県の負担軽減が日米同盟の持続的な発展に必要だ」と伝えた。その通りだ。ところが、対米交渉も国内調整も大変に難しいこの作業に首相の存在感は薄い。
首相は、一部の機能を沖縄県内に残しつつ、極力、県外への移設を模索しているようだ。時間的な制約のなかで、やむをえない方向性ではあろう。
だが、鹿児島県徳之島や沖縄県名護市のキャンプ・シュワブ陸上部にヘリコプター部隊を移設する案には、地元で強い反対運動がおきている。すぐに踏み込んで議論できる状況ではない。
首相はこれまで移設先の地元と米国政府双方の理解を得て案をまとめると繰り返してきた。今なお現行案が最善とする米国の態度を変えさせるためには、とりわけ地元の同意が重要だ。口約束を繰り返す暇があったら、首相は調整の最前線で汗を流すべきなのだ。
軍事施設を簡単に受け入れる自治体があるわけはない。現に徳之島では首長も議会も反対姿勢を鮮明にしており、この週末には、島民による大規模な反対集会が開かれる予定だ。
安保の負担を分かち合ってもらうためには、並大抵の説得では済まない。
1996年に米国政府から普天間返還合意を取り付けた橋本龍太郎首相は、みずからモンデール駐日大使や大田昌秀沖縄県知事と談判した。
首相は就任後7カ月たつが、いまだに沖縄県を訪問しておらず、知事との会談も1度しかない。空費された時間を思えば、「命がけで行動する」という言葉がむなしく響く。
移設反対の市長が誕生した以上、いまさら名護市辺野古に移す現行案の実現は極めて難しくなった。新たな移設先が見つからなければ、結局は普天間がそのまま残るか、結論をさらに先延ばしするしかなくなる。
いずれも鳩山政権に対する国内外の信頼を決定的に失墜させ、存亡の危機にすら直面させるだろう。
残された時間は1カ月半である。
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毎日新聞 2010年04月14日
普天間移設 「5月決着」できるのか
鳩山由紀夫首相が明言した米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設の「5月末決着」が、極めて厳しい情勢になっている。
首相はワシントンで開会した核安全保障サミットの夕食会で隣席のオバマ米大統領と会談し、5月末決着に向けて協力を求めた。大統領の返答など詳細は不明だが、日本側の公式会談要請を拒否し、わずか10分間の非公式会談に終わったことは、移設問題の現状に不満を抱く米側の姿勢を象徴していると言える。
首相らは移設先について、鹿児島県・徳之島にヘリ部隊の大部分を移し、キャンプ・シュワブ陸上部(沖縄県名護市)にヘリパッド(ヘリ離着陸帯)を新設して移転する案を軸に調整しているとされる。「最低でも県外」と約束した首相への批判を回避するには、大半の部隊の徳之島移転が必須という判断なのだろう。
ところが、ルース駐日米大使は先週末、岡田克也外相に対し、日本側が求めていた実務者協議は時期尚早との考えを伝えてきた。移設先の地元合意のめどがたたないうえ、部隊の分散は米軍の運用面で問題があることなどが理由だという。
米側が指摘した地元合意は、現時点でまったく展望が開けていない。徳之島の3町長は移転受け入れ反対を表明しており、18日には同島で1万人規模の反対集会が計画されている。また、名護市長もヘリパッド建設に強く反対している。
首相は、米政府の同意と移設先地元の受け入れ合意が「決着」の条件になるとの考えを表明している。期限は1カ月半後に迫った。期限内決着の見通しは今のところない。八方ふさがりと言わざるを得ない。
このままでは、普天間飛行場が現状のまま継続使用されるという最悪の事態が現実味を増してくる。「世界一危険な基地」の周辺住民の安全を確保し、騒音など生活被害をなくすのが普天間移設の原点である。基地が固定化されるような事態は、何としても避けなければならない。
鳩山政権内では依然として、首相らの考えとは別に、社民党が国外移設を模索し、国民新党も公式にはキャンプ・シュワブなどへの移設を求めている。首相が連立与党をまとめきれず、政権が一枚岩でないことも、米政府や沖縄県など日本国民の不信を買う大きな理由の一つだ。
普天間問題は、鳩山政権にとって当面、最大の課題である。その行方を国民は注視している。飛行場が現在のまま住宅密集地に存続し、継続使用されることになれば、首相の政治責任は極めて重大である。首相には、「5月末決着」を繰り返してきた言葉の重みをかみしめ、解決のための行動を急いでもらいたい。
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読売新聞 2010年04月14日
普天間移設 5月決着は実現できるのか
米軍普天間飛行場の移設問題は、5月末の決着が極めて困難な状況にある。しかし、鳩山首相自身が期限を区切り、今回の日米首脳の非公式協議で改めて確認した以上、もはや先送りは許されない。
鳩山首相がワシントンでの核安全サミットの夕食会で、オバマ米大統領に問題を5月に決着させる意向を示し、協力を要請した。
期限まで1か月半という大詰めの段階で、日米最高首脳が再確認した「5月決着」は、国際公約としての重みを持とう。
首相は従来、「決着」とは米国と移設先の地元の双方から了解を得ることだ、と説明してきた。自分でハードルを設定した以上は、「努力はしたが、できなかった」との弁明では済まされない。
首相は、政治生命を懸けて問題解決に取り組む責任がある。
オバマ大統領は核安全サミット中、13か国首脳と公式に会談する予定だ。ところが、同盟国のうえ唯一の被爆国として核問題で多くの協力が想定される日本とは、わずか10分間の接触にとどめた。
その背景に、普天間問題をめぐる日本側の一連の迷走に対する米側の不信感があるのは確実だ。
鳩山首相が12月の国際会議でクリントン国務長官と同席後、問題先送りに「理解が得られた」と身勝手な解釈を披露した非常識な振る舞いも、影響したのだろう。
政府は今、ヘリ部隊の鹿児島県・徳之島への移設案を軸に、沖縄県のキャンプ・シュワブ陸上部案やホワイトビーチ沖合案も加えて、調整を図ろうとしている。
だが、地元自治体はそろって反対し、米側は実務者協議の開催を拒否している。政府案が極めて甘い見通しで作られたうえ、内容もあいまいで流動的なためだ。
軍事施設の移設は、様々な部隊運用上の条件が伴い、専門的かつ技術的な検討を要する。
移設先でも、経済振興策への期待から誘致に前向きな人たちが一部にいたとしても、安全や環境面の理由で断固反対する勢力が多数いるのが通例だ。地元の了解取り付けは並大抵な作業ではない。
いずれも、単に政治家が「政治主導」の名の下で決断し、強権を発動すれば、実現するような単純な問題ではない。鳩山内閣は、政権運営の経験が乏しいとはいえ、そんな初歩的なことさえ認識していなかったのだろうか。
米国や地元と信頼関係がなく、調整作業にも着手できない中、どう問題を決着させるのか。首相に残された時間はあまりない。
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産経新聞 2010年04月17日
普天間移設 首相は決着に政治生命を
鳩山由紀夫首相が普天間飛行場移設問題で日米合意達成を含む「5月末決着」を約束していることについて、平野博文官房長官が「合意の解釈には幅がある」などと発言を後退させた。
先に訪米した首相とオバマ米大統領の非公式協議が不首尾に終わったこともあり、期限内達成を事実上断念して問題解決のハードルを下げる考えとみられる。到底容認できない。
重大な問題は、このような無責任な対応がもはや国内での迷走を超えて、同盟国の信頼が問われる国家間の次元に広がりつつあることだ。このままでは日本の平和と安全を支える日米安保体制の相互信頼が失われる。政府が迷走を重ねるたびに同盟関係の基盤が掘り崩され、国家と国民が重大な危険にさらされよう。
首相の迷走と不決断が米紙で批判されるなど米側でも不信感が広がり、同盟空洞化の危機が日を追って深まっている。移設の要件を唯一満たせるのは現行計画以外になく、鳩山、平野両氏は同盟の信頼回復に全力を傾けるべきだ。
訪米した首相は、米海兵隊を鹿児島・徳之島へ分散移設するなどの案に大統領の理解と協力を訴えたものの、米側の反応は冷たく、成果はなかったという。政府・与党内では「5月決着」が絶望視される状態となった。
これを受けてか、平野官房長官は15日、「具体的に詰める土俵ができれば合意だ」などと語り、5月末の段階でも、必ずしも首相がいう「(1)米政府(2)地元(3)連立3党を通じた最終合意達成」にこだわらない考えを表明した。
また鳩山首相自身も「決着」の定義について「方向が互いに認められた状態を指す」(15日朝)などと再び発言がぶれ始めた。
核安全サミットに出席した鳩山氏を「最大の敗者」とした米紙コラムでは「一部米当局者の見解」として首相個人の資質が揶揄(やゆ)される異常事態まで起きた。日本とその指導者のイメージ失墜が一般市民に浸透しかねない情勢だ。
この背景には、昨年11月の日米首脳会談で鳩山氏が「私を信頼してほしい」と語るなど、2度にわたりオバマ政権の信頼を裏切ったとの受け止め方が米政府側にあることも指摘せざるを得ない。
米政府は現行計画の微修正などには応じる構えだ。首相と平野氏は、自らの政治生命をかけて期限内に決着すべきである。
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