JR不採用問題 労組に甘すぎる政治決着だ

毎日新聞 2010年04月13日

JR不採用決着 過去のトゲは抜いた

1987年の国鉄分割・民営化に伴う国鉄労働組合(国労)組合員らの不採用問題が大筋で政治決着した。与党・公明党がまとめた解決案受け入れを国労側が表明した。

国策とも言える民営化で、採用をめぐる組合差別があったことは経緯を振り返れば明らかだ。23年たった。鳩山由紀夫首相が過去を清算して政治決断したことを評価したい。

分割・民営化で、27万人いた国鉄職員のうち当初JRに採用されたのは約20万人だった。残りの多くは公務員や民間への再就職など別の道に進んだ。国鉄清算事業団(現鉄道建設・運輸施設整備支援機構)の雇用対策から漏れ、解雇されたのが1047人の国労組合員らだった。

問題解決が遅れた一因は、中央労働委員会と司法の判断が食い違ったことにある。中労委は、採用に組合差別があったとしてJRに救済命令を出した。しかし、JR側が起こした行政訴訟で、最高裁は03年、命令を取り消した。法律解釈上、採用の責任は旧国鉄と事業団にあるとの理由で、採用差別の存在を否定したものではなかった。

最高裁判決後も、事業団を相手取った訴訟で、採用差別を認定する司法判断が相次いだ。国際労働機関(ILO)も解決を促し政府に勧告を出した。行政と司法のボタンの掛け違いは、もはや政治が解決するしかなかったのである。

解決が遅れた背景に、国労側の硬直的な姿勢もあった。00年に、自民党など当時の与党3党と社民党が、和解金支払いや雇用確保を含む「4党合意」をまとめた。だが、国労執行部が強硬派を説得できず、ご破算となったのだ。節目で方針が揺れる主体性のなさが交渉を難しくしたことも反省すべきだ。

解決案によると、和解金など組合員1人平均2200万円が機構から支払われる。対象は910世帯だ。額についてはさまざまな意見があろう。だが、組合員らはアルバイトなどで細々と食いつないできた。高齢化した現状も配慮したようだ。ただし、事業団から国の一般会計に継承された旧国鉄債務は20兆円弱あり、今も税金を使って返済が続く。旧国鉄、JRにかかわる人たちはその重みを改めて自覚してほしい。

解決案には、JR各社に、政府が200人程度の雇用を要請する内容も含まれた。JR側は現時点で難色を示す。最高裁判決で法律的に決着しており、北海道や九州など地元の就職にこだわった国労組合員らを処遇するのは「ゴネ得」を許すことになるとの考えがあるようだ。

だが、過去の恩讐(おんしゅう)を乗り越える時ではないか。妥協する道も探ってもらいたい。

読売新聞 2010年04月10日

JR不採用問題 労組に甘すぎる政治決着だ

国鉄分割・民営化における、国鉄労働組合(国労)の組合員ら1047人のJR不採用問題で、政府・与党と公明党が解決案をまとめ、国労も受け入れると回答した。

1987年の民営化以来、23年ぶりに解決に向かうことになったが、あまりに労組寄りの政治決着である。旧国鉄関係者はもちろん多くの国民も、強い違和感を持つのではないだろうか。

民営化に反対し、組合員の雇用より政治色の強い運動を優先させてきた国労の対応を、政府が認めたに等しい内容だ。

まず、和解金などとして1人当たり約2200万円を支払うことにしているが、何を根拠に、こんな高額になるのだろうか。

JRの採用過程で組合差別があったとして、国労組合員らは、鉄道建設・運輸施設整備支援機構を相手取り、損害賠償などを求める複数の裁判を起こしている。

だが、これまでに認められた最高の賠償額は、遅延金利分を含め1人当たり約1100万円だ。今回の政治決着の半額である。

しかも、支援機構は組合差別はなかったと上訴している。時効で賠償請求権は消えたとする別の判決もある。政治決着は、こうした裁判の経緯を無視したものだ。

さらに、政治決着のもう一つの柱として政府は、約200人の採用をJRに要請する。

すでに最高裁は、JRに採用責任はないとの判断を示し、法的には決着済みの問題だ。就職先が決まらない新卒者も多い昨今、政府が組合員の採用をJRに押しつけるのは、筋違いも甚だしい。

そもそも、これまで不採用問題が決着しなかった責任は、国労と組合員の側にある。

国鉄当時の元の職場への復帰にこだわり、JR間の広域異動や再就職の支援も拒否してきた。これまで、自民党などの政党や旧運輸省が示した和解案にも、国労は応じてこなかった。

民営化に協力した労組が「彼らを復職させるなら、広域異動や転職に応じた我々の仲間を、まず元の職場に帰してくれ」と主張してきた。こんな経緯も考えると、まさにゴネ得である。

経営環境は厳しく、企業の合併や従業員の出向、希望退職募集などは珍しくはない。労組も企業の存続を優先させ、苦悩しつつ経営に協力しているのが現状だ。

今回の解決案は、こうした労組や組合員を逆なでするものでもあることを、政府・与党と公明党はわかっているのだろうか。

産経新聞 2010年04月13日

JR不採用決着 「ゴネ得」としか映らない

国鉄の分割・民営化に反対した国労組合員らがJRに採用されなかった問題が政治決着した。

政府が1世帯当たり約2200万円を和解金として支払う代わり、国労側は旧国鉄(現・鉄道建設・運輸施設整備支援機構)を相手取った係争中の訴訟すべてを取り下げることが合意の柱だ。

原告団910世帯で総額200億円という和解金の算出根拠も疑問だ。国鉄再建のため、あえて広域転勤などにも応じた多数の国鉄マンにはゴネ得としか映らないだろう。その意味でも、JR採用を希望する場合は政府が雇用受け入れを各社に「要請する」とした合意はおかしい。

前原誠司国土交通相は「あくまでも判断するのはJR各社だ」としつつも、「最大限の努力を要請したい」とも語り、民間会社への権利侵害にはあたらないとの見解を示している。分割・民営化を主導した官庁のトップとして、信じがたい発言である。

今回の決着は、与党の民主・社民・国民新3党と公明党が3月中旬に政府に提出した「4党提案」がたたき台になっている。和解金も3000万円近かった当初案からすれば相当減額されている。

しかし、JRの雇用受け入れについては社民党はじめ4党・国労側が最後まで譲らず、最初は難色を示していた政府も「要請」なら責任は回避できるとみて最終的に受け入れを決めたようだ。

国労側が政府の後押しに終始こだわった背景には、ちょうど10年前にもあった4党合意の失敗が“教訓”としてある。

当時は自民・公明・保守の与党3党と野党の社民党による合意だったが、提案内容が金額や雇用義務で具体性を欠いた結果、2年後には白紙撤回された。

前原国交相発言に社民党の又市征治副党首が「政府の要請は重い。単に要請ベースみたいな話ではすまない」と、すかさず実現を迫ったのもこのためである。

原告団でJR採用希望者は北海道と九州を中心に200人程度いるという。すでに完全民営化で国の手を離れた本州の3社はともかく、国が依然、全株を保有する北海道など他のJR各社には無視できない圧力となろう。

JRの不採用については、平成15年12月の最高裁判決で「責任なし」の司法判断が確定している。政府には、その自覚とともに民間への介入自制を強く求めたい。

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