核燃サイクル 練り直す時ではないか

朝日新聞 2009年09月07日

核燃サイクル 練り直す時ではないか

青森県六ケ所村の使用済み核燃料再処理工場で、日本原燃は先月の予定だった試運転終了の時期を来年10月まで延ばすことにした。高レベル放射性廃棄物のガラス固化試験でトラブルが相次いでいるせいだ。先延ばしは、これで17回目となる。

原発の使用済み燃料からプルトニウムとウランを取り出す再処理は、自民党政権がめざしてきた核燃料サイクル政策に欠かせない。六ケ所村の再処理工場は2兆1930億円かけて建設された。支えているのは私たちの払う電気料金である。

今回の延期が1年以上にも及ぶことは、トラブル解消の難しさを物語っている。来年中に本格操業を始められるかどうかも不透明になった。

考えるべきことは非常に多い。

これまで政府が核燃料サイクルの実現をめざしてきたのは、資源を有効活用するためだ。この立場だと「再処理を進めるべきだ」ということになる。

その一方で、相次ぐトラブルに「サイクル路線から撤退を」という声は強まるだろう。「あわてる必要はない」という見方もある。プルトニウムの使い道が限定されている今、再処理を進めるとプルトニウムの在庫が増えてしまうからだ。

国際社会の動向にも目を向けなければならない。プルトニウムは核兵器の材料にもなるから、再処理が広がると軍事転用の危険も大きくなりかねない。「核不拡散のため再処理を多国間の管理下に置いた方がいい」。そんな考え方が出ているのだ。

日本は唯一の被爆国であるだけでなく、非核保有国の中で、例外的に再処理ができる立場にある。多国間管理の議論には積極的に加わらねばなるまい。そのなかで、六ケ所村の再処理工場について判断を迫られる局面も出てくるだろう。

日本政府として、自前のものだと主張するのか。再処理工場に多国間管理の一翼を担わせるのか。あるいは、思い切って操業を凍結させるのか――。

こうした新しい状況を踏まえて、鳩山新政権は核燃料サイクル政策を土台から練り直し、方針を固めるべきだ。そのために、この1年余の空白期間を生かして、再処理やプルトニウム利用について幅広く一般の人々や専門家の意見を聴く場を設けてはどうか。

もう一つ、見過ごせないのは、このままだと原発の運転に支障が出かねない、という懸念だ。

全国の原発からは毎年1千トンの使用済み燃料が出る。再処理工場の貯蔵プールはすでに満杯に近いのに、原発で搬出を待つ使用済み燃料は増え続けている。使用済み燃料を一時保管する中間貯蔵施設づくりをどうするか。

鳩山新政権にとって、原子力政策をめぐる難題も待ったなしだ。

読売新聞 2009年09月08日

核燃サイクル 技術確立へ抜本対策が必要だ

今夏の竣工(しゅんこう)を目指してきた日本原燃の「再処理工場」(青森県六ヶ所村)の工期が、1年以上遅れることになった。

工期の見直しは、1989年の事業指定申請以降17回目となる。試運転の最終段階で深刻な技術トラブルに直面したことが理由という。

問題は、相当にやっかいなトラブルということだ。事態を悪化させた原燃の責任は大きい。一義的には原燃が抜本的な対策を講じるべきだが、その場しのぎの対応では解決できまい。産官学が力を結集して当たるべきだ。

再処理工場は、日本がエネルギー政策の柱に掲げる「核燃料サイクル」の中核施設だ。原子力発電所の使用済み核燃料から、ウランとプルトニウムを回収する。

回収したプルトニウムなどを核燃料として使うことで、ウラン資源を有効活用できる。さらに放射性廃棄物の量も減らせる。

原発は、エネルギーの安定供給に重要な役割を担う。しかも、排出削減が急務の二酸化炭素をほとんど出さない。核燃料サイクル技術が確立すれば、原発を長期に安定して運転する基盤が整う。

だが、現実は、今回を含めた工程の遅れで、六ヶ所村の再処理工場で処理するはずだった使用済み核燃料が、国内各地の原発に滞る事態になっている。

再処理工場が動かないと、2~3年のうちに、使用済み核燃料の保管場所がなくなって停止に追い込まれる原発が出かねない。

今回のトラブルは、プルトニウムなどを回収した後に残る放射性廃液をガラスと混ぜて固化する工程で起きた。ガラスと廃液を混ぜる炉が詰まるなどの不調が試運転で続いた。

これを解決しようと試験を繰り返すうちに、炉の一部が壊れたり密閉施設内ながら廃液が漏れたりした。漏れた廃液が、さらに施設内の装置を腐食した。

原燃は、この炉の改修や、施設の洗浄作業を計画している。しかし、施設内の装置の故障が続発して作業は難航している。

施設の大がかりな改修が必要との指摘も出ている。そうなれば資金調達、地元了解など、原燃だけでは解決できない事態となる。

核燃料サイクル政策は、これまで政府が電気事業者とともに推進してきた。新たに政権を担当する民主党は、この政策を継承すると公約に明記している。

実態をよく把握したうえで、再処理工場の稼働に向けて、取り組みを強めてもらいたい。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/30/