タイで日本人死亡 真相究明が最優先だ

朝日新聞 2010年04月13日

バンコク流血 正統性ある政権が必要だ

タイの首都バンコクで、タクシン元首相を支持するデモ隊と治安部隊が衝突し、流血の大惨事となった。

取材していたロイター通信日本支局のカメラマン村本博之さんをはじめ20人以上が亡くなった。死傷者は900人近くに達する。

赤シャツ姿のデモ隊は1カ月前から抗議行動を始め、総選挙の実施をアピシット首相に要求してきた。タイ正月を前に、政権が軍を動員して強硬策に踏み切ったことが裏目に出た。

アピシット政権は武力を頼まない方法で首都の治安回復に全力を挙げてもらいたい。日本政府と協力して村本さんの死因も徹底調査すべきだ。

それにしても、「ほほ笑みの国」といわれるこの国に刻まれた亀裂の深さに、将来への不安が募る。

タクシン元首相派と反タクシン派はこの10年近く、対立を繰り返してきた。タクシン氏は2001年に政権を取り、市場経済主義への対応や貧困対策に積極的だった。その支持層は東北部や都市の貧困層が中心だ。

しかし金権腐敗体質や独裁的な姿勢への批判が広がり、06年の軍事クーデターにつながった。反タクシン派の支持層には官僚や王室周辺のエリート、都市中間層が目立つ。

経済成長による富が首都に一極集中し、貧富の格差が進む。対立の背景には新興国共通の矛盾も見える。

政治的な意見対立は、議会を中心に選挙や言論活動などを通じて解決を図るのが近代国家のあるべき姿だろう。

ところがこの国では近年、総選挙でタクシン派が勝利すると、黄シャツ姿の反タクシン派が空港を占拠。これに対抗する元首相が海外から支持者に抗議行動を呼びかけるなど、議会の外で政治を変えようとしてきた。

大衆行動やクーデターが歴代政権の土台を揺るがす。それは、タイの立憲体制と統治の正統性が危機にさらされていることにほかならない。

政治対立を仲裁してきたプミポン国王も高齢となり、そうした役割は期待できまい。08年に発足したアピシット政権は選挙の洗礼を受けていない。回り道なようでも総選挙を早期に実施し、正統性のある政権を樹立することが、混乱収拾への第一歩だろう。

タイは東南アジア諸国連合(ASEAN)の中核であり、ASEANは東アジア地域と米国、ロシアとの連携強化に乗り出そうとしている。西の隣国ミャンマー(ビルマ)の民主化を促す上でもこの国の役割は大きい。

自動車をはじめ製造業が集中し、ASEAN経済の核でもある。多くの日本人と日系企業が活動している。

鳩山政権がアジア外交を展開するうえで、タイの協力は欠かせない。この危機を、遠い出来事として軽く考えるべきではない。

毎日新聞 2010年04月13日

タイで日本人死亡 真相究明が最優先だ

タイの政治的混乱は常軌を逸している。バンコクで反政府デモ隊と軍が衝突し、民間人や兵士20人以上が死亡した。ロイター通信日本支局の日本人テレビカメラマン、村本博之さんは胸に銃弾を受けて亡くなった。07年にミャンマーで反政府デモを取材中、兵士に射殺された長井健司さんの最期の姿も目に浮かび、暗然たる思いにとらわれる。

首都の中心部で市街戦さながらの衝突を起こし、タイの国家的威信は失墜した。観光部門をはじめ経済的なダメージも大きかろう。混乱を鎮静化させ、民主的な手続きに従って国政を正常化させるのが、国益を守るうえで必須のことと言えよう。

その最も重要な最初の一歩は、流血事件の真相究明でなければならない。タイには多くの日本企業が投資し、4万5000人以上の日本人が在留し、年間120万人以上の日本人観光客が訪れている。この密接な両国関係を考える時、村本さんの悲劇の経緯は極めて重要だ。撃ったのは誰か。流れ弾か意図的なものか。意図的な銃撃ならばその狙いは何だったのか。こうしたことをぜひとも明らかにする必要がある。タイ政府の誠実な対応を強く求めたい。

一方、この国の政治混乱を収拾するには、対立するタクシン元首相派と反タクシン派の双方に、よほどの決意と姿勢転換が不可欠だろう。

この対立は06年、当時のタクシン首相を失脚させた無血クーデターに端を発している。これで国外に追われたタクシン氏だが、新興財閥のオーナーとして稼いだ豊富な資金と、貧困層への厚遇政策などで獲得した影響力を駆使し、国内への揺さぶりを続けた。反対派は対抗した。

その結果が、双方のデモ隊が交互に起こした一昨年の国際空港占拠や昨年の東アジアサミット妨害といった事態だ。今回の騒乱もその延長線上にある。タクシン氏一族の国内資産の約6割を没収する最高裁判決を受けて、3月中旬から約1カ月も反政府集会が続いてきた。要求は国会解散と総選挙実施である。

アピシット首相がこれを受け入れないのは、選挙でタクシン派に勝つ自信がないためだと言われる。この姿勢には民主主義の原則から見て無理がある。タクシン政権時代の不正腐敗や「ばらまき」政治にも批判が強いとはいえ、いつまでも選挙を実施しないわけにはいくまい。そしてタクシン氏も、デモ隊の実力行使で復権への突破口を開こうというのは強引すぎる。

双方の対立は根深く、解消の展望は開けない。しかし少なくとも、穏健な国民が支持できるような、国益を害さない政治手法を選ぶべきだ。友好国日本の願いでもある。

読売新聞 2010年04月13日

タイ流血衝突 政権の統治能力が問われる

「ほほ笑みの国」として知られるアジアの民主主義国タイが、また流血の惨事に見舞われた。

軍治安部隊が、バンコクの中心街を占拠し続ける赤シャツ姿の反政府デモ隊を強制排除しようと出動し、武力衝突になった。

取材中のロイター通信日本支局の日本人カメラマン、村本博之さんを含む21人が死亡し、860人以上が負傷した。タイでは、1992年の大規模な民主化要求運動以来の大惨事である。

村本さんは取材活動中に銃弾を受けた。鳩山首相がアピシット首相に対し、速やかに真相を知らせるとともに、在留邦人と邦人観光客に最大限の配慮をするよう求めたのも当然である。

軍部隊は撤退したが、デモ隊は現場に居座り続けている。タイ政府は、事態収拾の解決策を打ち出していない。今後、どう推移するのか、予断を許さない。

今回の事態に、内政不干渉を原則としている東南アジア諸国も懸念を表明し、早期解決を促している。こうした域内の声にタイは誠実に耳を傾ける必要がある。

問題の中心には、2006年の軍事クーデターで政権の座を追われたタクシン元首相がいる。携帯電話事業で巨万の富を築き、東北地方の貧しい農民の救済を手がけて圧倒的な支持を得たが、汚職や脱税などが命取りになった。

タクシン支持者らがアピシット首相の退陣と議会の早期解散を求め、今回の占拠騒ぎとなった。デモ隊の占拠区域は、最大の商業地区にも拡大、周辺商店は閉店を余儀なくされた。

今年2月、最高裁でタクシン一族の不正蓄財のうち、6割に当たる約1390億円を没収する判決が下されたことに対しても、「不当な判決だ」と抗議していた。

一昨年は、逆に現政権支持の黄色いシャツを着た勢力が、首都国際空港を不法占拠した。

双方の抗争の背景には、タクシン氏に代表される新興財閥勢力に地方農民や都市の貧困層を加えたグループと、既存の財閥勢力や都市中間層との利害対立がある。

軍と国王は後者を支持しているとされるものの、問題の解決は容易ではない。両勢力とも、大量のデモ参加者を長期に動員できるのは、各財閥系の支援があるからだとも見られている。

繰り返される赤と黄の各勢力の攻守を入れ替えた争いに、国際社会だけでなくタイの国民もあきれ顔なのではないか。アピシット政権の統治能力が問われている。

産経新聞 2010年04月13日

タイ流血 「デモ常態化」早期収拾を

反政府集会・デモが1カ月も続くタイで治安部隊との間で流血の衝突が起き、取材中の日本人カメラマン1人を含む20人以上が死亡した。

最悪の展開となったことはきわめて残念だ。日本人カメラマンは左胸を銃撃されたことが分かった。タイ政府には死亡原因の徹底解明を要求したい。同時に、これ以上犠牲者が出ないよう、騒乱収拾に全力を尽くすよう強く求める。

今回の騒乱は、タイ最高裁が今年2月末、国外にいるタクシン元首相一族を不正蓄財で裁き、資産の6割を没収する判決を下したことが引き金となった。

3月中旬以降、議会解散・総選挙を要求するタクシン派による最高10万人規模の反政府集会・デモが断続的に続いた。アピシット首相とタクシン派との会談も物別れとなり、デモ隊が国会に乱入した。首都バンコクと周辺には非常事態宣言が出され、治安上憂慮すべき事態となっている。

国内外の大手銀行や企業の事務所が集中するバンコク中心街がデモ隊に占拠されて休業が相次ぎ、経済損失はすでに数百億円規模にも達しているという。

アピシット首相はハノイで先週開催された東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議への出席を取りやめざるを得なかった。政府側も反政府側のタクシン派も内政、外交への打撃を深刻に受けとめるべきである。

日本への影響も小さくない。タイにとって日本は貿易、投資、援助のいずれもが最大の国だ。日本の自動車や家電など大手メーカーのほか中小企業までを含めると約7000社が進出している。今後、タイ国内の混乱で輸出のための物流網が寸断されるような事態は何としても回避したい。

解決へのシナリオは描きにくい。騒乱の根源が、通信事業などで巨額の富を築いたタクシン氏が代表する新興勢力とアピシット首相に象徴される旧支配・エリート層の対立にあるからだ。とくにタクシン氏が、低額医療などの首相時の政策によって、国外にいる今も貧困層の熱狂的支持を得ていることが問題を複雑にしている。

反タクシン派もかつて大規模デモを展開してバンコクの国際空港を占拠する騒ぎを起こし、それがアピシット政権の誕生につながった。だが、このようなデモの常態化と、その延長の政権交代では国が消耗するだけではないか。

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