沖縄密約判決 背信繰り返させぬために

朝日新聞 2010年04月10日

沖縄密約判決 背信繰り返させぬために

沖縄現代史の研究者や毎日新聞の元記者らが沖縄密約をめぐる文書の公開を求めた裁判で、東京地裁は全面開示を命じる判決を言い渡した。

国は「文書を保有していないので公開できない」と主張した。これに対して判決は「文書があるかどうか十分に探したとは評価できない」と述べ、国の態度を「知る権利をないがしろにし不誠実」と強い言葉で非難した。

「文書がない」として公開に応じないケースは少なからずあるが、判決は、一定の条件がある場合は「ないことの証明」を行政側がしなければならないと指摘した。今後の情報公開の武器ともなる貴重な判断だ。

政権交代後、政府は広範な調査をしたが、問題の文書は見つからなかった。裁判の進行の都合でその事実は判決に反映されていない。

判決は文書について「第一級の歴史的価値があり、領土問題を抱える日本の外交交渉にいかすことができる」などと評価した。外交機密を盾に真実を隠し続けてきた歴代政府の行為が、国民と歴史に対する背信以外の何物でもないことを改めて銘記したい。

あるはずの文書がない。適切に管理されていない。年金記録の紛失や肝炎患者リストの放置など、幾度も繰り返された問題だ。役所の立場を守るために廃棄した疑いのある例すらある。そんな政府をだれが信用するだろう。

その反省のうえに昨年6月、公文書管理法が成立した。作成・保存・移管・利用それぞれの局面で共通ルールを定め、順守状況を定期的にチェックし改善する仕組みを導入した。歴史的に重要な文書はすべて国立公文書館などに移すことも盛り込まれた。

ただ肝心なのはそれを使う人間の姿勢だ。文書の量は膨大で、チェックにも限界がある。公務に携わる一人ひとりが「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」との認識と緊張感をもつ必要がある。

意識改革が求められるのは政治家も同様である。民主党はかつて文書管理の重要性を指摘していた。だが政権の座についた後は、政務三役会議の議事録をはじめ、政権の意思決定の過程を検証できる記録の作成や公開に後ろ向き、あるいは無頓着だ。

国会で追及を受け、ようやく枝野幸男行政刷新相が対応し始めたが、「政治主導」の看板が泣くというものだ。

情報公開と文書管理は民主主義を支える車の両輪である。「地域に権限を」と唱える地方自治体も、文書管理の面で中央に負けぬ責任を全うしなければならない。

その責任を負う相手は、いま目の前にいる納税者や有権者だけではない。記録を残すことは、将来の国民に対する説明責任を果たすことでもあると、自覚して取り組んでほしい。

毎日新聞 2010年04月10日

「密約」開示判決 徹底して再調査せよ

沖縄返還の財政負担をめぐる密約文書を開示するよう西山太吉・元毎日新聞記者らが求めた情報公開請求訴訟の判決で、東京地裁は密約があったと認定し外務省などに関連文書を開示するよう命じた。裁判所が日米密約の存在を明確に認めたのは初めてだ。判決は外務、財務両省のおざなりな調査も厳しく批判した。両省は判決を真摯(しんし)に受け止め徹底した再調査を行うべきだ。

西山氏らが開示を求めたのは、米国が支払うべき旧軍用地の原状回復費400万ドルと、米国の海外向け短波放送「VOA(ボイス・オブ・アメリカ)」の施設移転費1600万ドルをいずれも日本が肩代わりすることを示した文書、沖縄返還をめぐる財政負担の内訳に関する日米の了解事項を記した文書などだ。

これらの文書は日本側では発見されておらず外務省の有識者委員会や財務省は「広義の密約」があったとの判断を示している。しかし、判決は「日本が国民に知らせないままにこれらを負担することを米国との間で合意していたこと(密約)を示すものというべきである」と断じ、日本政府が密約を行ったのは「米国から沖縄を金で買い戻す」という印象を日本国内で持たれたくないと考えたからだ、と言い切った。明快な指摘である。

さらに注目されるのは、外務省や財務省の調査のいいかげんさを指弾したくだりである。秘匿の必要性がある文書は関与した可能性のある者に対して逐一聴取するなどの十分な調査をして初めて評価されるとしたうえで、仮に廃棄されているなら「相当高位の立場の者」が関与し組織的な意思決定がされていると解するほかない、と言及した。

密約文書が破棄された可能性については国会の参考人質疑でも指摘された。岡田克也外相は判決について「そのまま受け入れることはないと思う」と控訴の可能性を示している。政権交代を受けて密約調査を指示した外相としては納得できない点があるのかもしれない。

しかし、有識者委員会の検証のもとになった外務省調査には時間的な制約もあり限界があったとの指摘もある。自民党政権下での不開示決定とはいえ、ここは「国民の知る権利をないがしろにする外務省の対応は不誠実と言わざるをえない」との判決の指摘を重く受け止め再調査を優先すべきだろう。

判決は、開示請求された文書の作成が証明されたあと役所側が「存在しない」と主張する場合、立証責任は役所側にあるとの判断を示し、併せて当時の外相の注意義務違反も認めた。役所側の誠実な対応を求めたものとして評価したい。

産経新聞 2010年04月10日

沖縄「密約」判決 報道倫理の検証も必要だ

昭和47年の沖縄返還をめぐり、日米両政府が交わした「密約」文書の開示を元毎日新聞記者、西山太吉氏らが求めた訴訟で、東京地裁は原告側の主張を全面的に認め、国に文書開示を命じた。

西山氏らが開示を求めたのは、米軍用地の原状回復費400万ドルを日本が肩代わりするとした文書だ。米国では、これに相当する文書が見つかっているが、外務省はこれまで文書の存在を否定し続けてきた。

判決は「文書調査を尽くさず、漫然と不存在と判断した」「国民の知る権利をないがしろにし、不誠実だ」と厳しく指摘した。

国の機密に関する文書の扱いは知る権利だけでなく、国益の問題も絡む。地裁判断はやや一面的で感情的表現もある。しかし、文書の保管方法や外務省の調査が十分だったかは検証が必要だろう。

沖縄返還時の原状回復費の肩代わりをめぐっては、先月発表された密約問題に関する有識者委員会の報告書で、「明確に文書化されていないが、日本側もこれを認識し、広義の密約に該当する」との結論が出された。外交文書の扱いについても、岡田克也外相が「外交記録公開・文書管理対策本部」の設置を表明した。

政治的にはほぼ決着し、判決にそれほど大きな意味はない。

原告の西山氏は毎日新聞政治部記者時代、この密約に絡む外務省の機密公電のコピーを同省女性職員から入手し、国家公務員法違反罪に問われた。1審は無罪だったが、2審で執行猶予付き有罪となり、最高裁で確定した。

この刑事裁判では機密文書の入手方法の当否などが争われたが、裁判とは別に、西山氏や毎日新聞の報道のあり方も問われた。

西山氏は入手した公電のコピーを当時の社会党国会議員、横路孝弘氏(現衆院議長)に渡し、横路氏は国会でこれをふりかざして政府を追及した。このため、公電の出所が容易に判明し、情報源(女性職員)を秘匿できなかった。

当時、毎日新聞は編集局長名で「西山氏が横路氏側にコピーを渡したのは正義感から」「取材源の秘匿に配慮したが、結果的に女性職員に迷惑をかけた」などという趣旨の調査報告を載せた。とても十分な検証とはいえない。

国家機密の扱いや報道の仕方、記者のモラルなどについて、毎日新聞も含めた報道機関が改めて考えてみる必要がある。

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