宇宙戦略 無限の空間、有限の予算

朝日新聞 2010年04月08日

宇宙戦略 無限の空間、有限の予算

宇宙開発は、時代の節目を迎えている。宇宙飛行士の山崎直子さんが乗ったスペースシャトル・ディスカバリーの飛行がそれを象徴している。

シャトルの乗組員は7人中3人が女性で、ドッキングした国際宇宙ステーション(ISS)でも1人が長期滞在しており、女性は合わせて4人となった。長期滞在組の6人の中には野口聡一さんもおり、日本人2人の初顔合わせも実現した。

宇宙活動が新しい時代に入ったことを感じさせる光景だが、一方で、間違いなく、一つの時代の終わりをも告げている。

1981年の初飛行から約30年、老朽化の目立つスペースシャトルは今年中には引退する予定だ。日本人がスペースシャトルで飛行するのは、今回が最後になるだろう。

来年からは、ISSに人を運ぶのはロシアのソユーズ宇宙船だけになる。

宇宙開発をめぐる状況は今、内外ともに大きく変わりつつある。

日本も、とりわけ巨費を要する有人活動についてどう進めるのか、広い見地から考えるべきときを迎えている。

米国のオバマ政権は2月、ブッシュ前政権の有人月探査計画を中止する一方、2015年までしか決まっていなかったISSの運用を20年まで延ばす考えを明らかにした。シャトルの後継となる、宇宙への乗り物の開発は民間に託すという。

先端的な科学技術の先導役としての宇宙開発の重要性は認めるけれど、予算難もあるので効率的に進めよう、という考えのようだ。

日本も政権交代で、宇宙開発の戦略は練り直しが迫られている。

内閣官房に置かれた宇宙開発戦略本部が自民党政権時代に宇宙基本計画をまとめている。二足歩行ロボット、次いで有人による月探査計画も盛り込まれた。しかし、歩調を合わせていた米国の月探査計画が後退したこともあり、宙に浮いてしまった。

一方、前原誠司宇宙開発担当相の下で、有識者会議が2月から今後の宇宙開発について議論を始めたところだ。

宇宙開発は、技術のフロンティアであると同時に、ISSには米ロのほか欧州やカナダなども参加しているように国際協力の場でもある。目先の利益だけで判断はできない。

だが、予算が限られているのは日本も同じだ。有効に使うのは当然だ。日本の強みをさらに伸ばし、国際的にも存在感を発揮することを考えたい。

まず、毎年約400億円かかるISSの日本の実験棟「きぼう」の運用の意義を再確認することが欠かせない。

さらにその先に、自前の有人飛行をめざすのか。むしろ日本が得意なロボット技術の追究に力を注ぐべきなのか。しっかりした戦略を立てたい。

毎日新聞 2010年04月09日

日本の宇宙戦略 自ら目標を見つける時

高度350キロ。地球の周りを回る国際宇宙ステーション(ISS)で、宇宙飛行士の山崎直子さんと野口聡一さんが対面した。ISSで日本人2人が活動するのは初めてだ。

宇宙での日本人の存在感が増したととらえるのも一つの見方である。しかし、山崎さんの飛行の焦点は、日本人最後のスペースシャトル搭乗という点だろう。

81年の初飛行以来、シャトルの飛行は131回を数える。日本人は92年以来、山崎さんを入れて7人が計12回搭乗した。米国は今年でシャトルを退役させる予定で、残すフライトは3回。その後、人の輸送はロシアのソユーズ頼みとなる。

自前の有人技術を持たない日本にとって、シャトルが貴重な体験を提供したのは確かだ。宇宙に人を送るのに、どれだけの訓練が必要か。どういう実験ができるか。人体にはどのような影響が出るか。身をもって体験できたのは、シャトル搭乗の機会を得たからこそだ。宇宙での国際チームの一員ともなった。子どもたちに夢も与えたはずだ。

一方で、シャトル搭乗によって得られた成果とコストは、きちんと総括されてきたとはいえない。

米国のオバマ政権はISSの運用を20年まで延長する方針を打ち出している。実験棟「きぼう」が完成したばかりの日本にはありがたいが、日本のISS運用費用は年間400億円に上る。漫然と延長しては税金の無駄遣いになりかねない。

そうしないためにも、日本がこれまで有人飛行で得た成果と費用を検証しておきたい。ISS有効利用の戦略は、その上に築くべきだ。

考えておきたいのは短期戦略だけではない。オバマ政権は人類を月や火星に送る計画を中止。ISSへの輸送機開発は民間中心に移行する方針だが、めどはたっていない。米国の方向性が揺らいでいる今、有人飛行まで視野に、日本が独自の長期戦略を描くチャンスでもある。

米国の記者会見でシャトル後について聞かれた宇宙航空研究開発機構の立川敬二理事長は、無人補給機HTVの帰還能力の獲得について検討中と答えた。この先、費用とリスクを覚悟の上でHTVを有人機に育てることも不可能ではないだろう。日本の得意技術を生かし、無人機として最大限に利用していくこともできる。

宇宙の探索は有人飛行だけではない。ガリレオが400年前に始めた望遠鏡による観測は、初期宇宙の姿や生命の起源に迫るまでになった。無人の小惑星探査機「はやぶさ」は、数々の困難を乗り越え、まもなく地球に戻ってくる。日本は、何を目的に、どこに力点を置いて、宇宙を探るのか。自ら目標を定める時だ。

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