米露核軍縮 他の保有国も引き込む一歩に

朝日新聞 2010年04月09日

米ロ条約署名 中国も核軍縮へかじを

核超大国の米国とロシアだけではなく、他の保有国も含めた核軍縮への糸口になるのではないか。米ロによる新核軍縮条約署名を、核に依存しない世界づくりへの転換点としたい。

米ロ首脳がプラハで署名した新条約では、配備する戦略核弾頭をそれぞれ1550発以下に減らす。オバマ米大統領は近いうちに、次の核軍縮条約の交渉に入る意向だ。やがて米ロが1千発以下、あるいは数百発に減らすことも検討課題となろう。

ただ現在の核の脅威は、保有国同士の戦争より、拡散や核テロである。防止にはすべての国の結束が必要だ。オバマ大統領はそう強調する。的を射た安全保障観だ。それには、米ロ以外の核保有国も多国間の軍縮構想に加わらなければならない。署名は他の保有国の動きを促す下地を作ったといえる。

北大西洋条約機構(NATO)は今年11月に新戦略概念をまとめるが、ドイツ、ベルギーなど非核の5カ国は戦略を再考し、核廃絶に向けた動きを加速する方針をすでに表明している。

核の数や役割を縮小するオバマ路線に、百数十発の英国、約300発のフランスも同調するべきだ。ロシアとNATOも安全に共生できる地域の枠組みづくりへ、本格的に乗り出してもらいたい。そんな試みが、新たな米ロ交渉と同時に進めば、一方が他方を後押しする相乗効果も生まれるだろう。

問題は中国だ。200発前後の核を持ち、今も軍事費の増大を続ける。どこまで核装備の能力を高めるのか。核先制不使用を宣言しているが、信頼できるのか。中国の戦略は不透明感が強く、そこに根差す疑心暗鬼は北東アジアの軍拡競争の火種となりかねない。

核軍縮には反対しないが、米ロの削減が先決だ。それが中国の立場だが、もはや、その言葉には閉じこもれない。オバマ大統領によってすでに、核軍縮の歯車は大きく回った。

中国の胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席は昨年の国連総会で「中国は一貫して核兵器なき世界を主張してきた」と強調した。中国には国連安全保障理事会の常任理事国としての、大きな責任がある。米ロの動きを待つばかりでなく、自ら具体的な構想を示して欲しい。とりわけ、北朝鮮の核問題も含めた北東アジアでの核軍備管理、地域安全保障への将来構想を示してもらいたい。

米中は経済相互依存を強めている。相手を徹底破壊する冷戦期のような「恐怖の均衡」による抑止は、むしろ現実味に欠ける。米中間で、核の役割縮小や包括的核実験禁止条約の批准などについて対話を深めるべきだろう。

来週、米国で開かれる核保安首脳会議に出席する胡主席はオバマ大統領と会談する。核拡散、核テロを防ぐためにも、G2による核軍縮協力の出発点にすべきである。

読売新聞 2010年04月09日

米露核軍縮 他の保有国も引き込む一歩に

米国のオバマ大統領とロシアのメドベージェフ大統領が、チェコのプラハで、新たな戦略兵器削減条約(新START)に署名した。

世界は、新たな核保有や核テロなどの脅威に直面している。その中で、米露が核削減を通じて戦略的な安定を図ることは、世界の安全に寄与するものだ。

オバマ大統領は1年前、この地で、「核兵器のない世界」実現に向けて具体的な措置をとると公約していた。新条約は、「核兵器の役割縮小」をうたう新たな米核戦略指針の発表と並び、その最初の成果である。

新条約の発効から7年以内に、米露両国は、戦略核弾頭の配備数を各1550発以下に削減する。また長距離弾道ミサイルや長距離爆撃機など核兵器の運搬手段も、各800基以下に制限する。

米露両国は新条約を速やかに発効させ、着実に履行すべきだ。

それでもなお、世界には約2万発の核兵器が残る。その9割以上を保有する米露には、さらに大胆に核を削減する責任がある。

配備から外して備蓄に回した戦略核弾頭や、巡航ミサイルなどに搭載する戦術核は、まだ手つかずだ。今後、こうした核兵器の削減も実行しなければならない。

米露の核軍縮の一方で、中国が核近代化に走るなら、核の脅威は高まる恐れがある。核軍備の拡張を進める中国も取り込んだ核軍縮が不可欠となる。

オバマ政権は、核戦略指針で、中国の核戦略の「透明性の欠如」に強い懸念を表明し、高官級対話を提唱した。米中は、核をめぐる対話を進めるときだ。

来月、ニューヨークで開かれる核拡散防止条約(NPT)の再検討会議は、核保有国と非核国が一致した行動を取れるかが焦点となる。核拡散防止は、非核国の協力なしには不可能だ。

そのためにも、米露だけでなく、中英仏を含めすべての核保有国が核軍縮に取り組むことが肝要だ。NPTの枠外で事実上の核保有国となったインドやパキスタンなども引き込む必要があろう。

核実験全面禁止条約(CTBT)の早期発効や、核兵器の原料となるプルトニウムや高濃縮ウランの生産を禁じるカットオフ条約の早期交渉開始など、取り組むべき重要課題は山積している。

まず、米国が、米露新条約やCTBTを早期に批准して、範を垂れることだ。上院で3分の2の支持獲得は至難の業だが、オバマ大統領は全力を挙げてほしい。

産経新聞 2010年04月10日

米露核軍縮条約 幻想に流れず現実直視を

オバマ米大統領とメドベージェフ・ロシア大統領が昨年末失効した第1次戦略兵器削減条約(START1)に代わる新たな核軍縮条約(新START)に調印した。

世界の核の95%を占める米露が率先して核削減努力を示すことで核不拡散体制強化を訴え、北朝鮮やイランなどに国際圧力を高める狙いがある。その意義や効果に注目していきたい。

ただ、新たな削減は限定的で、戦術核や中国の核戦力などの課題は手つかずという現実もある。軍縮・不拡散外交を掲げる日本政府も「核なき世界」の過剰な幻想に流されずに、着実で現実的な安保政策を追求する必要がある。

新条約の核弾頭、運搬手段の数え方や定義には両国の利害が反映された。要約すれば、米露は発効後7年以内に実戦配備核弾頭をそれぞれ200発ほど減らせばよいことになる。実戦配備から外した核弾頭は備蓄に回すことが認められ、廃棄義務もない。

弾道ミサイルや爆撃機などの運搬手段についても、削減義務は小幅にとどまった。オバマ氏が掲げた「核なき世界」の第一歩としては、きわめて控えめな内容といわざるを得ない。

だが、そうなったのには理由がある。両国とも一足とびに核の大幅削減や廃絶を実現するという幻想はなく、現実の戦略的思惑で互いに折り合ったということだ。

新条約の発効には両国議会での批准が必要だ。さらには、欧州地域に配備された米露の戦術核削減、東欧の米ミサイル防衛(MD)計画なども課題となる。

中でも米露の削減につれて重要課題となるのは、アジアで唯一の大規模軍拡を進めている中国の核戦力だ。核弾頭数は200~300と推定されるが、中国は公表を避けている。オバマ政権の核戦略体制の見直し報告も中国の現状に「透明性を欠き、戦略的意図に疑念を抱かせる」と警告した。

米露合意を核拡散防止条約(NPT)体制強化へつなげ、北朝鮮などにルールを守らせるには、英仏中などの核保有国も含めた削減協議が必要だ。中国には核能力や戦略の透明性を高める責任があることもいうまでもない。

日本の安全保障環境は北の核・ミサイルや中国の軍拡にさらされている。鳩山由紀夫政権も、核の傘を含む日米同盟の抑止体制に国家と国民の安全が委ねられている現実を忘れないでもらいたい。

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