米核戦略見直し 「安全な世界」へ結束を

朝日新聞 2010年04月07日

米核戦略転換 「非核の傘」さらに大きく

オバマ米大統領が、核戦略について英断を下した。

米紙との会見で、核不拡散条約(NPT)を順守する非核国に対しては核攻撃をしない方針を明らかにした。通常兵器はもちろん、生物・化学兵器による攻撃やサイバー攻撃に対しても、原則として核による報復攻撃をしない。核の役割を縮小する転換である。最新の核戦略見直しの柱の一つだ。

同盟国を核抑止で守ることは「核の傘」と呼ばれる。これに対し、非核国を核攻撃しないと保証することは「非核の傘」とも言うべき、新たな安全保障政策である。

米国はこれまで、核兵器を持つ国はもとより、その同盟国も「非核の傘」の外に置いてきた。オバマ新戦略によると、これからはNPT加盟の180カ国以上の非核国が対象となる。「非核の傘」が広がることで、NPTの一員として条約を順守する利点もはっきりする。非核を徹底すれば安全もより確かになる、という考えを根づかせる力になろう。

今後の大きな課題は、米国以外の核保有国を同調させて、「非核の傘」を世界標準にできるかどうかだ。

今のところ、ロシアは非核国に対しても核使用を辞さないというのが基本戦略だ。北大西洋条約機構(NATO)に比べて通常戦力で劣るロシアの態度は硬い。まずはNATOが、オバマ新戦略に合わせるのが得策だろう。NATOメンバーである英仏もそれに賛同したうえで、より包括的な軍縮、安全保障協議を進め、ロシアも「非核の傘」を広げるよう、促すべきだ。

中国は、核の先制使用はしないとの立場を繰り返し表明している。真剣な戦略であるなら、オバマ大統領に同調して、「非核の傘」を広げる外交を積極的に展開すべきだろう。12、13日にワシントンで開催される核保安首脳会議には、胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席も参加する。主要テーマは核テロ防止だが、米中首脳会談を開き、非核国への核不使用の徹底についても話し合ってはどうか。

核戦略見直しの過程では、核攻撃の抑止を核兵器の「唯一の目的」とする方針も検討された。しかし、そこまで目的を限定すると、北朝鮮やイランなどの非核兵器に対する抑止力が弱まるとの国防総省の慎重論もあり、見送られた。

日豪主導の国際賢人会議は昨年12月、2012年までにすべての核保有国が「唯一の目的」宣言をするよう提言している。12年が無理でも、できるだけ早期の宣言を促している。

オバマ新戦略は画期的な一歩だが、ここで立ち止まらせてはならない。日本は、核の役割をさらに軽減して核軍縮を進めていくために、核保有国が「唯一の目的」宣言に向かうよう、外交努力を強めていくべきである。

毎日新聞 2010年04月08日

米核戦略見直し 「安全な世界」へ結束を

一連の「オバマ・イベント」のキックオフを歓迎したい。米政府が6日に発表した「核態勢見直し」(NPR)は、冷戦終結後、唯一の超大国となった米国の核戦略を大きく変える内容だ。8日にプラハで行われる米露の新核軍縮条約の調印、12~13日にワシントンで開かれる核安全保障サミット、5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議に先立ち、オバマ米大統領は米国の立場と方向性を明確にしたわけだ。

「キックオフ」は政治的パフォーマンスではあるまい。重要な政策転換であるのは、前回の「見直し」と比べると一目瞭然(りょうぜん)だ。米同時多発テロ(01年9月)の興奮も冷めやらぬ02年1月、「見直し」を公表したブッシュ政権は、新型核爆弾の開発や地下核実験再開の可能性を排除しなかった。核実験全面禁止条約(CTBT)の批准にも反対した。同時テロから4カ月しかたっていないことを勘案しても、実に戦闘的で物議を醸す内容だった。

それから8年。新たな「見直し」でオバマ政権は、米国の核兵器の役割を「米国と同盟国に対する核攻撃の抑止」と現実的に定義する一方、新型核の開発をしないことを明言し、NPTを順守する国に対しては原則的に核攻撃をしないことも明らかにした。その際、2度も核実験を行った北朝鮮、核兵器開発疑惑が晴れないイランを例外としたのは当然である。国際社会に背を向けて不正な核開発を続ける国には厳しい態度で臨むべきだ。

発効から40年のNPTは核兵器を持てる国を米英仏露中の5カ国に限定したが、いまやインド、パキスタンが核兵器を保有し、北朝鮮も数発の核爆弾を持つとの見方が有力だ。イスラエルの核兵器保有も自明である。さらにイランやシリアなどの核兵器開発も懸念され、核技術などがテロ組織に渡って核兵器テロにつながる恐れも高まっている。

揺らぐNPTの原点に戻って世界の危険な現状の改善をめざすオバマ政権の取り組みを評価する。世界の核兵器の9割以上を持つ米露が核軍縮に努めてNPTの範を示す。NPT体制に従う国への核攻撃を否定して、反米国家などの核兵器開発にブレーキをかける。それがオバマ政権の狙いだろう。北朝鮮やイランがどう反応するかはともかく、NPT体制の強化を積極的に支持したい。

冷戦後、核兵器の役割は確実に変わった。米国とソ連が大量の核兵器を持ってにらみ合う時代は去り、国家間の核戦争は考えにくい時代になった。「ロシアは敵ではない」と主張するブッシュ政権は、ミサイル迎撃網を米露各1カ所とする弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約を「冷戦の産物」とみなして脱退した。そしてミサイル防衛(MD)の開発に突き進んだことがロシアの反発を買い、「新冷戦」とも呼ばれる対立が生じたのは皮肉である。

オバマ政権下でもMDをめぐる米露の摩擦はある。「見直し」にロシアへの配慮が目立つのはそのためだろう。米側が大陸間弾道弾(ICBM)に複数の弾頭を積まず1個のみにすること、欧州に配備した戦術核兵器の撤去を検討課題とすることを表明したのも、その一例だ。

今後の課題も少なくない。オバマ政権が掲げる「核兵器なき世界」の実現はまだまだ遠いとしても、核兵器の役割を可能な限り小さくするのは、その遠大な目標を達成する必須の条件である。今回、「見直し」は核兵器の先制不使用をうたうには至らなかった。核兵器の唯一の目的は核攻撃の抑止であるという宣言にも踏み切れず、「そのような政策を安全に導入できる条件作りに努める」とするにとどめた。

北大西洋条約機構(NATO)は90年代に「相手が核兵器を使わない限り、こちらも使わない」という先制不使用の原則を導入するか論議したが、米国などの反対で見送った経緯がある。だが、核保有国がこぞって先制不使用を宣言するのは「核なき世界」の実現にも有益だろう。軍関係者や保守層の反対をかわして「見直し」をまとめたとされるオバマ大統領の努力を多としたいが、今後の宿題も忘れてはなるまい。

鳩山由紀夫首相は、非核保有国を核攻撃しないという新戦略を「核なき世界に向けた第一歩」と評価した。岡田克也外相は「北朝鮮はNPTから外れているから核保有国とみなされてもやむを得ない」として北朝鮮例外化に理解を示した。

しかし、日本の主張と「見直し」の内容には落差がある。日豪両政府が主導して設立した「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」は、昨年12月にまとめた報告書で、すべての核保有国が2012年までに核兵器の役割を核攻撃抑止に限定することを宣言し、25年までに核兵器の先制不使用を表明するよう提言した。この提言が実現するか微妙である。

ただ、日本にとって何より重要なのは、米国の核戦略が日本の平和と安全に寄与するかどうかを見定めることだ。「核なき世界」への日米協力が必要なのも言うまでもない。そのためにも鳩山政権が米国と良好な意思疎通を図るよう望みたい。

読売新聞 2010年04月08日

米核戦略指針 核拡散防止に実効はあがるか

核の脅威を減らし、より安全な世界にしていくために、米国はどう取り組んでいくのか。

オバマ政権が発表した核戦略指針「核戦力体制見直し(NPR)」は、「核兵器の役割」を縮小していく、という重要な政策転換を盛り込んだ。

核軍縮、核拡散防止の行方に大きな影響を与えるだけではない。米国と同盟関係にある日本にとっては、安全に直結する問題だ。指針の具体化をめぐり、米国と緊密に政策協議を進めるべきだ。

オバマ大統領は1年前、チェコのプラハで「核兵器のない世界」を目指すと宣言した。今回のNPRは、その究極的な目標の実現に向け、とくに核拡散防止に力点を置いた内容となっている。

背景には、冷戦終了後の世界の安全保障環境の変化がある。

核保有を目指す「ならず者国家」やテロ組織など、新たな脅威の台頭によって、核拡散防止は米国にとって最優先課題となった。

NPRでは、非核国に対して、「核拡散防止条約(NPT)加盟国で、核不拡散義務を順守している」場合、「核兵器の使用も威嚇もしない」と明言した。

非核国に核の脅威を与えないと保証するこの措置は、「消極的安全保証」といわれる。従来、「NPT加盟の非核国が、他の核兵器国と連携、同盟して、米国やその同盟国を攻撃しない限り」という条件付きで、宣言していた。

条件を「核不拡散順守」に簡素化することで、非核国が自衛を目的に核武装に走る動機をつみ取ろうという狙いがあろう。

NPRは、「米国とその同盟国、友好国に対する核攻撃への抑止」が核兵器の「基本的役割」だと明記した。核兵器の目的を核攻撃への抑止に限定すべきだ、という考え方を反映したものだろう。

このため、通常兵器や生物・化学兵器による攻撃には、基本的には通常兵器で反撃し、核兵器の使用は、「極限的状況」においてのみ検討するとした。ブッシュ前政権まで踏襲されてきた「あらゆる選択肢を排除しない」という方針を転換した。

抑止力における核の比重は小さくしても、米国と同盟国の安全は、ミサイル防衛(MD)や、通常兵器の改良で補完可能とした。

だが、核の役割を縮小することが、現実の脅威への抑止を弱めることになってはなるまい。

核ばかりか生物・化学兵器も保有する北朝鮮について、例外扱いとし、核による抑止効果を再確認したのは当然のことだ。

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