島根原発点検漏れ これでは信頼保てない

朝日新聞 2010年04月05日

原発点検漏れ 「両刃の剣」使う自覚を

原発が安全に運転されないなら、それはもはや地球温暖化問題の解決策のひとつとはいいがたい。別の深刻な環境問題になりかねない。

中国電力の島根原発1号機と2号機で、点検漏れが明らかになった。

定期検査のときに、部品の交換や点検をせずにすませていたことが計123件あった。万が一の際、原子炉を止める緊急炉心冷却システムの関連機器も含まれている。

原子力安全・保安院は、定期検査中の2号機に加え、1号機も再点検するよう指示した。当然の判断だ。

中国電力は、意図的な不正ではなく、原子炉の安全性も損なわれていないという。だからといって、見過ごせる問題ではない。

原発の定期検査では、電力会社が数万にわたる項目を点検し、報告を受けた原子力安全・保安院が不備がないかをチェックする。安全性確保の仕組みは、電力会社への信頼の上に成り立っているのである。

今回の不祥事は、その信頼を裏切ったという意味で深刻だ。こんな例が続くと、電力会社と原発に対する疑問が広がるに違いない。

中国電力は猛省するべきだ。他の電力各社も、自らが背負っている責任の重さを改めて肝に銘じてほしい。

原発を取り巻く環境は変わりつつある。先月末の閣議に報告された原子力安全白書は、温暖化を防ぐために原子力を活用していく時代になったと強調している。ただ同時に「前提となる安全の確保についても必要性が高まっている」と付け加えている。

運転中に二酸化炭素を出さない原発が、温暖化防止で一定の役割を果たすのは確かだ。政府も、現在60%台にとどまる原発の稼働率を80~90%程度に上げようとしている。

すでに、そのための新検査制度もできている。13カ月ごとだった定期検査の間隔を長くできるほか、運転中の点検も認めることで定期検査のための運転停止を短くする内容だ。

であればこそ、点検など安全性確保のための作業には一層の注意が求められる。いうまでもなく、稼働率に気を取られて安全確認をおろそかにすることなど、あってはならない。

世界的にも、温暖化問題を追い風に原発を見直す動きが広がっている。

政治や社会に不安を抱える新興国や途上国への売り込み合戦も盛んだ。これに参戦している日本は、自国での安全管理のみならず、世界に最高水準の安全性を広げる使命も背負っている。そんな自覚が必要だ。

原子力は人間にとって両刃の剣である。大きな恩恵をもたらす一方で、一歩間違えれば、人や環境に回復不能な打撃を与えかねない。そのことをあらためて考えたい。

毎日新聞 2010年04月05日

島根原発点検漏れ これでは信頼保てない

このようにずさんな点検が、どうしてまかり通っていたのか。原発の安全性への信頼を根本から揺るがせる重大な失態だ。

中国電力の島根原発1、2号機(松江市)で計123件の点検漏れがあった。同社は定期検査で停止中の2号機に加え、1号機の運転も停止し、点検作業に入った。点検漏れを理由とする原発の停止は前例がない。関係者は「直ちに安全性に影響するものではない」としているが、運転を停止し、徹底した点検を実施するのは当然のことだ。

本来は06年に交換したはずのモーターが、昨年6月の定期検査で交換されていないことが分かった。納入されたモーターのサイズが異なり、交換できず持ち帰ったのに、記録上は交換済みになっていたという。異常時に原子炉内に水を注入する高圧注水系の蒸気弁を作動させるもので、安全上、重要な装置だ。あきれるほどの、ずさんさである。

改めて過去の点検計画表と、点検記録を照合した結果、定められた分解点検や消耗品の交換がされていないケースが多数見つかった。記録が不備で、1号機が稼働した74年以来、点検や交換をしたのかどうか分からない部品もあるという。

関西電力美浜原発で04年、2次系配管から水蒸気が漏れ、作業員5人が死亡する事故があった。配管の肉厚が薄くなっていたのが原因だ。破損個所は長年点検リストから漏れており、稼働以来28年間も交換されていなかった。適切な点検を怠れば惨事につながるという見本である。

日本原電敦賀原発1号機が今年3月、国内の商業用原子炉として初めて運転40年を迎えた。当初は30~40年が寿命とされていた原発だが、新規立地や増設が困難な中、想定を超えて長期運転される場合が増えた。電力会社は、安全上重要な機器は定期的に点検し、適切に交換するなどで60年程度の運転は可能としている。だがそれも、検査への信頼が前提であることを忘れてはならない。

日本の原発は地震や検査による運転停止が多く稼働率は60%台と米国や韓国と比べ低い。これを80%台以上に高めたいという願いが電力業界にある。コストや二酸化炭素の削減につながるという理屈だ。こうした声に押され定期検査の間隔を延ばす動きがあるが、今回の事例を見ればすんなり認めるわけにはいかない。

国は中国電力に対し、原因解明と再発防止策の提出を求めている。しかし、長年にわたり検査漏れを見過ごした責任は国にもある。今回の教訓を他事業者も共有できる形にし、同様のミスをおかさないよう指導を強化すべきだ。でなければ原発政策への、国民の信頼は得られまい。

読売新聞 2010年04月06日

ずさん点検 原発への信頼を損ねてしまう

なによりも安全が基本の原子力発電所で、ずさんな点検がまかり通っていたことに驚く。

島根県松江市にある中国電力の島根原発1、2号機で、機器の点検漏れが計123件も見つかった。

社内規定で決められた部品交換や分解点検を定期検査の際に実施していなかった。現場の点検状況をチェックすべき管理部署もこれを見過ごし、放置していた。

トラブル時に原子炉に冷却水を注いで冷やす高圧注水系では、弁のモーターを社内規定の交換期間を超えて使っていた。故障すれば安全性を左右しかねない。

島根原発では3号機を増設中で来年には運転を始める予定だ。中国電力は、山口県でも原発の新規立地を進めている。

原発部門が拡大する中、基本となる「点検」が手薄になっていなかったか。徹底的に調査して態勢を引き締めることが必要だ。

問題が公表されるまでの経緯にも多くの疑問がある。

発端は昨年6月、記録上は交換済みの1号機部品がメーカーから納入されたことだ。実際は交換済みという記録が間違いで、納入品は、交換すべき時期に発注した部品が遅れて届いたものだった。

これを受けて社内で調べたところ、次々に問題が見つかり、今年3月末、公表した。詳しい再点検のため原子炉の運転も止めた。

定期点検項目は1、2号で計約7万件にのぼる。再点検を終えたのは、うち安全上重要な機器など1万2600件だ。まだ点検漏れが見つかる可能性がある。

機器の交換時期は余裕を持って決めており、直ちに安全上の問題はないと中国電力は言う。とはいえ、実態を把握しないままの運転継続は信頼を大きく損なう。

規制側も対応が遅い。経済産業省原子力安全・保安院の現地担当者は今年1月には点検漏れの事実を説明されていた。ただ、詳しい調査を指示しただけという。

原子力発電は、電力の安定供給と二酸化炭素の排出削減に貢献が期待されている。だが、国内の原発は、地震による損傷などで稼働率が7割に達していない。

政府はこれを国際水準の8~9割に上げる目標を掲げ、点検制度も柔軟にした。運転実績の良い原子炉は、点検間隔を現在の13か月よりも長くすることができる。

しかし、現状は、点検間隔を延ばすどころでない。規制当局も速やかな対応ができないと信頼を得られない。電力会社、規制当局とも緊張感を持ってもらいたい。

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