原発が安全に運転されないなら、それはもはや地球温暖化問題の解決策のひとつとはいいがたい。別の深刻な環境問題になりかねない。
中国電力の島根原発1号機と2号機で、点検漏れが明らかになった。
定期検査のときに、部品の交換や点検をせずにすませていたことが計123件あった。万が一の際、原子炉を止める緊急炉心冷却システムの関連機器も含まれている。
原子力安全・保安院は、定期検査中の2号機に加え、1号機も再点検するよう指示した。当然の判断だ。
中国電力は、意図的な不正ではなく、原子炉の安全性も損なわれていないという。だからといって、見過ごせる問題ではない。
原発の定期検査では、電力会社が数万にわたる項目を点検し、報告を受けた原子力安全・保安院が不備がないかをチェックする。安全性確保の仕組みは、電力会社への信頼の上に成り立っているのである。
今回の不祥事は、その信頼を裏切ったという意味で深刻だ。こんな例が続くと、電力会社と原発に対する疑問が広がるに違いない。
中国電力は猛省するべきだ。他の電力各社も、自らが背負っている責任の重さを改めて肝に銘じてほしい。
原発を取り巻く環境は変わりつつある。先月末の閣議に報告された原子力安全白書は、温暖化を防ぐために原子力を活用していく時代になったと強調している。ただ同時に「前提となる安全の確保についても必要性が高まっている」と付け加えている。
運転中に二酸化炭素を出さない原発が、温暖化防止で一定の役割を果たすのは確かだ。政府も、現在60%台にとどまる原発の稼働率を80~90%程度に上げようとしている。
すでに、そのための新検査制度もできている。13カ月ごとだった定期検査の間隔を長くできるほか、運転中の点検も認めることで定期検査のための運転停止を短くする内容だ。
であればこそ、点検など安全性確保のための作業には一層の注意が求められる。いうまでもなく、稼働率に気を取られて安全確認をおろそかにすることなど、あってはならない。
世界的にも、温暖化問題を追い風に原発を見直す動きが広がっている。
政治や社会に不安を抱える新興国や途上国への売り込み合戦も盛んだ。これに参戦している日本は、自国での安全管理のみならず、世界に最高水準の安全性を広げる使命も背負っている。そんな自覚が必要だ。
原子力は人間にとって両刃の剣である。大きな恩恵をもたらす一方で、一歩間違えれば、人や環境に回復不能な打撃を与えかねない。そのことをあらためて考えたい。
この記事へのコメントはありません。