朝日新聞 2009年09月08日
G20 見えてきた新首相の課題
世界経済を「100年に1度」といわれる危機に突き落とした米大手証券リーマン・ブラザーズの破綻(はたん)から間もなく1年。同時不況はなお続くが、回復への動きが強まりつつある。
ロンドンで開いた20カ国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁会議は、共同声明で「断固たる協調した政策措置が景気後退を止めた」と、総額約500兆円にのぼる財政出動などの対策と金融支援の成果をうたった。これは、世界恐慌の二の舞いを防ぐ上で中国などを含む新たな国際協調が成功をおさめたことへの自信の表れだ。
再来週には米国ピッツバーグでG20首脳会合が開かれ、民主党の鳩山代表が新首相として出席する。新首相がそこで担うべき役割も、ロンドンの会議から見えてきた。
声明は、世界経済は改善しているが、「必要な金融支援措置および拡張的金融・財政措置の断固たる実施を継続する」とした。米欧や日本での失業率悪化や、対策の手を抜けば景気が再び失速する危険があることなどを考えれば当然のことだ。
新首相は、G20の協調を力強く支えることを表明するとともに、総選挙で公約した諸政策の実施が内需拡大を通じて日本の成長につながることを説得力をもって説明しなければならない。
公共事業を削減して子ども手当を始めるなど、歳出構造の変換が新政権の看板のひとつだ。全体として景気に「中立的」とはいうが、当面の歳出は緊縮的に傾く恐れもある。景気最優先の運営を世界に約束する必要がある。
世界同時不況の克服に力を合わせるだけでなく、危機の再発防止に向けても積極的に発言したい。
とくに金融機関の経営者らの報酬規制は重要だ。高額報酬に目がくらんで金融商品を無謀なまでに売りまくり、バブル崩壊で損が出たら税金による救済にすがりつく。そうした事態を繰り返さないよう、各国がしっかりした金融規制に踏み切る必要がある。
再発防止策のもうひとつの柱は、景気回復後に金融機関の自己資本をどう増強するのか、という問題だ。これまで銀行には細かな規制があったが、証券会社などの「影の銀行」と呼ばれる部門は野放しだった。この部分の規制の強化も当然である。
新首相は、日本が経験した不良債権問題や金融システムの信頼回復の筋道を改めて世界に発信し、景気回復の機運作りと危機の再発防止策づくりに貢献できる立場にいる。
国際通貨基金(IMF)や世界銀行の改革も、危機克服や再発防止への協調強化という観点から重要だ。
新興国をはじめ途上国の発言権を拡大することが課題とされているが、その積極的な後押しをするという役割も求められる。
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毎日新聞 2009年09月07日
G20金融会議 報酬規制でお茶濁すな
あの9月から1年である。「過去最悪」を更新し続ける失業率も、歴史的規模の景気刺激策とそれがもたらす国の借金膨張も、「リーマン・ショック」をはじめとする昨年9月の金融大混乱が出発点だった。
当時のパニック状態に比べたら、世界経済は相当落ち着きを取り戻している。1930年代と異なり、国際社会が迅速な協調行動を取った意義は大きかった。
今月下旬に米ピッツバーグで開かれるG20金融サミット(首脳会合)の準備会合となった財務相・中央銀行総裁会議も、共同声明でこれまでの成果を強調し、危機対策を当面継続していくことを決めた。だがこの1年を振り返り、この先を展望する時、これで大丈夫かと懸念せざるを得ない問題がある。
一つは金融危機の再発防止をめぐる議論の矮小(わいしょう)化だ。財務相会議では金融業界の高額報酬が重要テーマとなった。年間何十億円という米欧金融機関の報酬が暴走の元凶だとしてフランスが上限設定を求め、米英が反対した。結局、業績が悪化した場合に過去の報酬を回収するなど短期的利益追求を抑止する枠組みづくりで合意し、上限設定も検討課題とすることで収めたが、木を見て森を見ないような議論である。
事の本質は、高額報酬を払っても余りある巨額利益を金融機関が継続的に出せたこと、そしてその利益の源泉が一般企業や消費者など経済の主役を支える活動とは無縁のマネーゲームにあったことではないか。
米英が主張し共同声明に盛り込まれた金融機関の自己資本規制強化は利益の歯止めや業績が悪化した場合の緩衝役として一定の効果はあるかもしれない。しかし、資本の内訳をどうするかといった細目の議論に迷いこんでしまってはいけない。経営の失敗が社会全体を道連れにする金融から、社会に貢献する金融への転換をどうやって図るかが議論の根本にあるべきだ。
次に気がかりなのは「出口戦略」の遅れである。確かに今の景気はまだ脆弱(ぜいじゃく)で、失業率もさらに悪化の恐れがある。それでも、昨秋や年初と現状とでは明らかに緊迫度が違う。「まだ心配、まだ不安定」と準備が遅れ、異例ずくめの緊急時モードから脱出するタイミングを逸したら、次の悲劇が待っているだけだ。
危機のさなかで「とにかく結束」をアピールし、G20協調体制が生まれた昨秋のワシントン・サミット。危機による影響が深刻なG20外の新興国・途上国に100兆円超の資金支援を決めた今春のロンドン。3回目となるピッツバーグは、これからの10年の進路にかかってくる。深い議論を期待したい。
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産経新聞 2009年09月07日
G20 邦銀制約する規制は残念
ロンドンで開かれた20カ国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁会議は、景気回復が確実になるまで財政拡大や金融緩和を継続する必要性を強調した。
昨年秋の米国発金融危機から間もなく1年がたつ。「市場は安定し、世界経済は改善している」としながらも、雇用悪化を警戒し、景気刺激策の継続で合意したのは適切な判断である。
しかし、日本にとって問題なのは、金融危機の再発防止に向けて打ち出された金融機関に対する規制強化の中身だ。批判の強い金融機関の高額な報酬に対する国際的規制の設定や、金融機関の健全性の物差しとなる自己資本の規制強化は一見もっともな主張だが、具体論になると日本を含め各国の利害が複雑に絡んでくる。とりわけ自己資本規制は、中身次第で日本の金融機関の国際的な活動が制約されかねない。
米欧が提案している新ルールは、融資など総資産に占める普通株の割合を「4%以上に保つ」とするものだ。日本の金融機関は、議決権がない代わり高配当を約束する優先株などの比率が米欧に比べて高く、規制案をそのまま受け入れると著しく不利になる。
普通株を増やせば、不況時でも配当を減らして業績を押し上げる効果が期待できるというのが規制強化論の根拠だ。米欧の金融機関は、破綻(はたん)回避に国の資本注入を普通株で引き受けてもらった経緯があり、そもそも比率が高いことが背景になっている。
これでは国の支援を受けた金融機関の方が見かけ上の健全性が高まるという皮肉な状況も起きてしまう。会議で日本はそうした点を指摘したが、米欧が議論を主導して賛同は得られなかった。
ただ邦銀も欧米主導のルールづくりに、いたずらに反論するだけでは理解は得られないだろう。自己資本強化は金融機関が自発的に行うべきものだ。これまで友好企業の株式引き受けなど自己資本を増やす補完的手段に頼りがちで、本来の質改善が不十分だったことは反省点だ。
1980年代後半に自己資本規制が導入された際も「バブル景気で世界進出した邦銀の活動抑止が目的」とする見方があった。国際ルールは国益を左右する。今月下旬には米国のピッツバーグでG20金融サミット(首脳会議)が開かれる。官民挙げて金融戦略の抜本的練り直しが必要だ。
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