日医新会長 政権への接近より患者優先を

朝日新聞 2010年04月04日

日医新体制 「命を守る」先頭に立て

日本医師会(日医)の新会長に、茨城県医師会長の原中勝征(かつゆき)氏が選ばれた。民主党とのパイプを生かした「政策実現力」を掲げての当選だ。

日医と言えば、自民党の強力な応援団として医療政策に大きな影響力を持ち、いわば名うての「圧力団体」と目されてきた。

その力が、今度は民主党に向かうというだけなら、政治と「業界」の関係のあり方は何も変わらないということになる。新体制が問われているのは、原中氏も言うように「国民を守る」ことに力を傾注する医師会に脱皮できるかどうかである。

政権交代後、日医は苦汁をなめた。診療報酬を議論する中央社会保険医療協議会から日医幹部が外されるなどし、組織内に不満や不安が募った。それが今回、原中氏を押し上げた要因といっていい。

原中氏は自公政権時代に導入された後期高齢者医療制度に反対し、昨年の総選挙では自民王国だった地元茨城で民主党候補を支援した人物だ。

就任後のあいさつでも早速、民主党との関係修復や、「強い医師会」の復活を掲げた。

しかし、政権与党と業界団体が太いパイプを築き、既得権を守るようなやり方はもはや時代錯誤である。業界が多額の献金や集票力にものを言わせ、政治がそれに応えて利益をばらまく。そんなことが許される状況ではない。

「医療崩壊」は深刻である。地域医療を立て直すには、医療現場にもっとお金も人も投入しなければいけない。

膨らみ続ける社会保障費と、国の厳しい財政事情を考えれば、大切な財源は必要度の高い分野にメリハリをつけて配分しなければいけない。

日医の主力をなす開業医の取り分をいかに増やすか、といった問題にかまけている場合ではない。

日医がこれからも国民の広い支持を得ていくには、これまで日医が後ろ向きの姿勢だと思われていたような政策にも進んで取り組み、日本の医療全体を考えていることをわかりやすく示すことである。

例えば病院への患者集中をどう解消するか。幅広い病気を診る力を持ち、初期の診療を担う「総合医」(家庭医)を多く育てることが有効だ。そうした医師を認定する仕組みをつくるのに積極的な役割を果たしてはどうか。

夜間、休日も対応してくれる開業医がもっと増えれば、病院の救急現場の負担ももっと減らせるはずだ。

医療事故を繰り返さないための原因究明や再発防止の仕組みづくり、看護師の役割の拡大などについても、踏み込んだ提言をぜひ聞きたい。

日医が「国民の健康と命を守る先頭に立つ専門家集団だ」と言うのなら、具体的な行動で示してほしい。

毎日新聞 2010年04月05日

日医新会長 風見鶏になるよりも

歴史的に自民党の支持母体だった日本医師会(日医)の会長に、民主党支持を鮮明にした原中勝征氏(茨城県医師会長)が当選した。病院や開業医の財布に直結する診療報酬の決定権を与党が握っている以上、政治の風向きに敏感になるのはやむを得ないが、政権交代のたびに風見鶏のように振る舞うのは少々見苦しい。予算獲得の圧力団体から、国民に信頼される医療・学術団体に徹すべき時期ではないのか。

昨年の総選挙で原中氏は、診療報酬を4回連続マイナス改定した自民党に反旗を翻した。政権交代後、民主党は中央社会保険医療協議会から日医の指定席だった3ポストを取り上げ、原中氏の茨城県医師会にポストを与えた。露骨な論功行賞と言われたが、それでも日医側は7月の参院選で組織内候補である自民党公認の現職、西島英利氏の推薦を変更しようとしなかった。そのために民主党の団体窓口である幹事長室への訪問すらできない状態が続いていた。

「民主党にものを言えるのは私だけ」とアピールした原中氏が勝利した背景に全国の医師たちの危機感が透けて見えるようだ。ただ、内閣支持率が急落する中で、現職の唐沢祥人氏、京都府医師会の森洋一氏にも多くの票が集まり、副会長にはいずれも非原中系の3人が当選した。原中新執行部は早々に参院選の対応に直面するが、その後も難しいかじ取りを迫られそうだ。

高齢化に伴い医療費は今後も増加していかざるを得ず、国民の負担も増えていく。時の与党にすり寄っているだけでは国民の納得は到底得られまい。まずは診療報酬改定と日医会長選が毎回同じ年に行われることで、診療報酬改定が会長の勤務評定のように位置づけられていることを改めるべきだ。2月、日医の生命倫理懇談会は「高度情報化社会における生命倫理」の報告をまとめた。ネットで患者や医療事故の被害者を中傷する医師への対策、電子カルテやレセプトオンライン化、学生や研修医の医療倫理教育などが重要な課題として挙げられている。もともと医療界は自浄作用が機能しにくいと言われる。日医がこうした問題に果敢に取り組む組織へと脱皮する姿を見せてほしい。

民主党にも注文を付けたい。日医を揺さぶり冷遇して原中氏を勝利に導いた真意は何なのか。16万人余の会員のいる日医の資金力と票は、選挙を考えると魅力には違いない。しかし、患者を置き去りにして互いの利益のために癒着していた自民党の二の舞いになることだけはごめんだ。

政権交代が現実に起きる時代になった。日医だけでなく業界団体と政治の関係が問われている。

読売新聞 2010年04月02日

日医新会長 政権への接近より患者優先を

日本医師会と政権与党が親密になるだけで、日本の医療の課題が解決するわけではない。

2年に1度行われる日医会長選挙で、民主党を支持する原中勝征(かつゆき)・茨城県医師会長が、これまで自民党寄りだった現職の唐沢祥人(よしひと)氏と、中間派の森洋一・京都府医師会長を破って当選した。

原中氏は茨城県で療養病床中心の中規模病院と老人ホームを経営している。

自公政権が導入した後期高齢者医療制度に反対し、総選挙で民主党候補を全面的に支援した。その際に同党の小沢幹事長と信頼関係を築いたとされる。

一貫して自民党の有力支持団体だった日医に民主党支持派の新会長が誕生したことは、医療界にとどまらず、他の業界団体へ及ぼす影響も少なくないだろう。

ただし、原中氏の得票は約3分の1に過ぎない。

会長選は代議員356人の投票で行われ、原中氏が131票を取ったものの、森氏も118票、唐沢氏も107票を得た。

3候補が票をほぼ三分したことは、政党との距離感をめぐって揺れ動く日医の現状を浮き彫りにしている。

原中新会長が求心力を持って日医を運営できるか、不安を抱えての船出と言えよう。

原中氏が勝った背景の一つに、民主党への接近競争と呼ぶべき医療関係団体の動きがある。

日本歯科医師会の政治団体は、政権交代後に素早く自民党支持を白紙化して、民主党支援を打ち出した。診療報酬改定で、歯科の報酬引き上げが他の診療科より高率になったのは、その成果と見る向きもある。

多くの勤務医を抱える病院団体からも、幹部が民主党の比例候補として参院選に出馬する。

こうした動きに出遅れたままでは日医の中心勢力である開業医の主張を政策に反映できない、との危機感が強かった。

日医もまた、政権交代に連動してリーダーを代える必要があったということだろう。

だが日医はいつまで、時の政権とのパイプを太くすることに執着するのか。

日医に必要なのは、政権との近さを誇示することではなく、開業医と勤務医を問わず、すべての医師の意見をくみ上げ、日本の医療全体の利益を代表する団体に生まれ変わることではないか。

原中新会長の手腕が試されるのは、その点であろう。

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