無償化と子ども手当 疑問多い外国人への支援

毎日新聞 2010年03月29日

子ども手当法成立 理念忘れず持続可能に

民主党の目玉政策である子ども手当法が成立した。国会で議論が深まったとは言い難く、消化不良のまま6月に支給が始まる。子ども手当の理念はとても重要な意味を含んでいるのに、どうして民主党はきちんと説明しないのか。もどかしい。11年度からは満額(1人月2万6000円)が支給される予定で、財源難から懸念の声も高まっている。もう一度理念を確かめ、持続可能な制度設計をして参院選前に示すべきだ。

子ども手当への批判は、(1)所得制限を設けないため富裕層にも一律に支給されるのはふに落ちない(2)保育所など現物給付の方が重要(3)毎年5兆円以上の支出を続けることへの懸念--などに集約される。少子化対策や経済効果が期待できないとの意見も根強い。子どもは家族が育てるもので、貧困家庭に手当を絞るべきだという考えは自民党だけでなく、子育てを終えた世代にも多い。

たしかに所得制限をすればコストを抑えて政策効果が期待できる面はあるが、所得制限を設けると自治体の事務量が膨大となり、所得の正確な把握も難しいことを私たちは指摘してきた。選別主義的な制度は行政の裁量が大きくなり、不正受給も起こりやすく、行政不信や市民間の不信が増幅するという学説もある。

保育所などが重要なのは言うまでもないが、現金給付でなければ改善できないこともある。親の失業や貧困による心理的ストレスは悲惨な児童虐待に密接に絡んでいる。一方、忙しすぎる親を仕事から少し解放し、育児にかける時間を経済的に保障することも必要ではないか。家庭外に仕事を持つ女性が日本よりはるかに多いスウェーデンでさえ、1歳未満の子の育児に限っては親が直接担っている割合が日本より多い。

家庭内や地域社会で人のつながりが薄れ、子育てが難しい時代になった。貧困と孤立が子育て世代を侵食し、子どもの自尊感情や周囲の人々との信頼関係に深刻な影を落としている。親が子育てに幸せを感じ、子どもが自分自身を愛することができてこそ、生きる力に満ちた社会の実現は望める。それが少子化対策の土台ではないのか。

個別のニーズに応える従来の公的扶助の考えから、子育ては社会全体の責任であり、子どもは手厚い支援を受ける権利があるという理念に基づく制度へ転換する必要がある。累進的な税制・社会保険料と組み合わせることで、格差を是正し制度への信頼も確保できるはずだ。日本は国民負担率も税の再配分も先進諸国の中で最低レベルだ。子ども手当の理念を見失わないために、消費税も含む税のあり方全体を考え、11年度以降の恒久的な制度を検討すべきだ。

産経新聞 2010年03月29日

無償化と子ども手当 疑問多い外国人への支援

■日本のためになる制度設計を

鳩山政権が看板政策としていた子ども手当法が成立した。高校授業料無償化法案も近く成立の見通しだ。

子ども手当は中学卒業まで1人月1万3千円を支給する。高校無償化は公立高校で授業料を徴収せず、私立高校生には世帯の年収に応じて年約12万~24万円を高校側に一括支給する。

日本の少子化は急速に進んでいる。これまで後回しにされがちだった子育て支援政策を拡充したという面では意味がある。だが、外国人への支給要件をはじめ制度の中身は、あまりにも問題が多い。参院選前の支給を急ぐあまり、精緻(せいち)な設計を怠ったツケと言わざるを得ない。鳩山政権はただちに問題点を洗い出し、制度設計を根本的に見直すべきである。

◆クルクル変わる政策理念

子ども手当と高校無償化の制度上における大きな問題点は、目的や効果がいまだにはっきりしないことだ。鳩山政権は「少子化対策」から「福祉施策」、「景気対策」まで、その場しのぎの説明を繰り返してきた。あいまいな政策理念では、きちんとした制度設計ができるはずがない。

数ある課題の中でもとりわけ問題なのが、外国人の取り扱いだ。高校無償化法案では、私立高校などの在学生について支給対象を「日本国内に住所を有する者」としている。このため日本にある外国人学校の生徒へ支給される可能性がある一方、海外に住む日本人高校生には助成されない不公平が生じる。

川端達夫文部科学相は国会答弁で、中華学校やドイツ、フランス系など教育課程が確認でき、本国の高校と同様の教育課程の外国人学校のほか、インターナショナルスクールなど国際評価機関の認定を受けている学校について支給対象とする方針を表明した。

だが、教育基本法は「すべて国民は、ひとしく、その能力に応じた教育を受ける機会を与えられなければならず」と対象を「国民」に規定している。今回の法案は、この基本原則から外れている。国籍要件の盛り込みこそ検討すべき課題である。

外国人を対象から外す場合、教育の機会均等という目的が損なわれるとの指摘もある。だが、日本の多くの学校の入試は外国人にも開かれており、「無償化されなければ機会を奪われる」というのは乱暴だ。低所得で進学が難しい外国人世帯には別途、支援策を講じる方法もあるのではないか。

◆置き去りの「国籍」要件

さらに問題なのが、国交がなく教育課程が把握できない朝鮮学校の扱いだ。文科省は専門家の検討機関を設け、審査の仕方や判断方法を含め支給の是非について夏までに決めるとしている。

朝鮮学校問題について、鳩山由紀夫首相らは「教科の内容で判断しない」としている。だが現代史などの教科書をみると、故金日成主席、金正日総書記父子を神格化する独裁者への個人崇拝教育など民主主義社会とは相容(い)れない。北朝鮮や朝鮮総連の強い政治的影響力を受けている朝鮮学校への支給に国民の理解は得られまい。

外国人の取り扱いの問題点は子ども手当も同じだ。外国人が対象となり、海外に居住する日本人が外れるという矛盾が生じる。日本人の出生数減少に歯止めをかけようという本来の目的から大きく外れると言わざるを得ない。

それどころか、子ども手当は支給条件に「子供の日本国内居住」を義務付けていないため、外国人が母国に残してきた子供にまで支給される。手当の財源は日本国民の税金だ。子供が外国で暮らしているケースにまで支給するのは、あまりにおかしい。

政府は、自治体が相手国の証明書類などを厳格チェックすることで対応するとの考えを示しているが可能なのか。自治体関係者からは不安の声も上がっている。

野党は「支給額が大きく、虚偽受給が横行する可能性がある」として法案修正を求めたが、長妻昭厚生労働相は「平成23年度の制度設計見直し時に検討する」とした。制度の不備であり、早急に対応すべきだった。これら外国人の取り扱いも考え直すべきだ。

法案づくりの過程はほとんど公開されなかった。所得制限を設けなかったことも再考すべきだ。バラマキ批判だけでなく、少子化対策の効果としての疑問も出ている。低所得世帯を手厚くするなど、国民のニーズをきめ細かくとらえたメリハリのある支援策に改めなくてはならない。

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