普天間政府案 鳩山首相に成算はあるのか

朝日新聞 2010年03月29日

普天間移設案 負担軽減の実を見せよ

鳩山政権が検討してきた米海兵隊普天間飛行場の移設案の輪郭が見えてきた。今週の日米間の閣僚協議をへて、日本政府案にまとめあげようということのようだ。

鳩山由紀夫首相が国内外に宣言した解決期限の5月末までもう2カ月しかない。「最低でも県外」を訴えて政権に就いて半年。なのに、どうだろう。今の案は沖縄の負担軽減に確かな展望を開くどころか、「県内たらい回し」の色彩が濃い内容にしか見えない。

名護市のキャンプ・シュワブ陸上部へのヘリポート新設は、既存の施設内への建設とはいえ、自民党政権時代の日米合意よりも危険や騒音が増す可能性がある。ホワイトビーチ沖を埋め立てて大規模な人工島を造る案も、環境問題などを乗り越える必要があり、すぐに実現する見通しはない。

普天間が担っている訓練などの機能を本土の施設へも分散するのは大切な選択肢だが、検討中の案の程度では、首相が先週の記者会見で表明した「極力、県外に」にあたるだろうか。

現実性はどうだろう。仮に、米政府が鳩山政権との関係を考慮して分散移設を嫌う米軍当局を抑えたとしても、肝心の沖縄は県も関係自治体も反対の声を強めている。来月には「県外」を求める県民大会が予定される。

このままでは、案が浮かんでは実現しない過去を繰り返すことになりかねない。現実性が疑われる案では、米政府もまともに対応できないだろう。

朝日新聞の最近の世論調査では県内移設に反対が39%で賛成の28%を上回ったが、回答保留が33%もあった。抑止力と沖縄の負担の間で国民世論も迷っているように見える。

いま直ちに県外に移設先を見つけるのが難しいのは、その通りだ。場合によっては、暫定的に一部の負担を県内で引き続き担ってもらうことも、万やむを得ないシナリオとしてはありうるだろう。ただ、それには、負担軽減の具体策に基づく首相自身のよほど誠実で丁寧な説得が要る。

この問題は、首相のあまりに拙劣な手法や外交感覚の乏しさもあってこじれきってしまった。しかし、安保の負担を沖縄だけでなく国民全体で分かち合おうという提起は間違っていない。

必要なのは、本格化する米政府との交渉や地元との協議の中でそうした方向に知恵を絞り、実をあげることだ。

より多くを本土が分担する。大規模な恒久施設の建設は、極力避ける。県内の負担が当面一部残る場合でも、将来の縮減の展望を示す。日米合意の海兵隊グアム移転のロードマップへの影響を可能な限り避けることも焦点だ。

首相に残された時間は少ない。もう迷走している場合ではない。政府案作り、対米交渉の中で、そうした方向での思い切った踏ん張りを求めたい。

毎日新聞 2010年03月27日

「普天間」検討案 展望見えない県内移設

米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題で、政府は、県内移設を軸に、一部基地機能の県外移転を組み合わせた案を検討しているようだ。具体的には、米軍キャンプ・シュワブ陸上部(同県名護市)や米軍ホワイトビーチ(同県うるま市)沖合への移設に加え、訓練などを徳之島(鹿児島県)をはじめとする沖縄県外に移転する案とされる。北沢俊美防衛相が仲井真弘多沖縄県知事に、岡田克也外相がルース駐日米大使にそれぞれ検討状況を伝えた。

鳩山由紀夫首相は、移設先について昨年の衆院選で「最低でも県外」と表明し、その後も県外移設に期待を持たせる発言を繰り返してきた。26日にも「極力、県外移設の道筋を考えたい」と語った。北沢防衛相が仲井真知事に「分散移転」を明言して一部基地機能の県外移転を強調したのも、政府内に訓練などの5割以上を県外に移せれば、という期待があるのも、県外移転を組み合わせた案なら首相の公約違反と批判されにくい、という思惑があるのだろう。

しかし、そうだろうか。シュワブ陸上部にしろ、ホワイトビーチ沖合にしろ、沖縄県内に新たな飛行場を建設することに変わりない。少なくとも首相の「県外」発言を聞いた国民は、飛行場の県外移設を期待したはずだ。特に、沖縄県民には「首相の背信」と映るのは当然である。

また、政府検討案の実現性には大きな疑問符が付く。普天間返還の日米合意から14年たつが、その経緯は、移設先地元の受け入れ合意なしに基地を建設することの困難さを教えている。ところが、沖縄では知事、県議会ともに県外移設を求め、名護市、うるま市は受け入れに強く反対している。首相公約の「5月末決着」まで2カ月しかない。期限までに地元が合意する可能性は極めて小さい。

一方、米政府や米軍内には、部隊の運用面から「分散移転」案に否定的な意見があるうえ、地元合意のない移設案には懐疑的な見方が強い。米政府は、依然として、シュワブ沿岸部に移設する日米合意案が最善との公式の立場を崩していない。

懸念されるのは、普天間周辺住民の危険と生活被害が継続する「普天間の固定化」である。5月を過ぎても米政府と沖縄の合意が得られなければ、その可能性が高くなる。そうした事態を招くなら、5月末決着を約束した首相の政治責任は重大である。

沖縄県民の県外移設への期待を膨らませたのは、首相自身だ。米政府と移設先地元の合意を前提にした「5月末決着」を繰り返し明言してきたのも首相である。普天間問題の行方は鳩山政権の帰趨(きすう)を決める。問題解決能力、指導力など鳩山氏の首相としての資質が問われている。

読売新聞 2010年03月28日

普天間政府案 鳩山首相に成算はあるのか

米軍普天間飛行場の移設先の政府案が、ようやくまとまった。だが、米国も、沖縄も、社民党もこの案に否定的だ。鳩山首相は5月末までに問題を解決する成算があるのか。

政府案では、沖縄県名護市の米軍キャンプ・シュワブ陸上部か、うるま市の米軍ホワイトビーチ沖に代替ヘリポートを建設する。ヘリ部隊の訓練は極力、県外の複数の場所に移転するという。

普天間飛行場の機能を県内外に「分散移転」させることで、県内移設を求める米国と、県外移設に固執する社民党や沖縄の双方に配慮する狙いがあるようだ。

だが、シュワブ陸上案とホワイトビーチ沖案は、日米両政府が過去に検討したが、安全性や機能上の問題から断念し、最後は現行のシュワブ沿岸案に落ち着いた経緯がある。関係自治体も強く反対している。現実的とは言えない。

訓練の大幅な分散移転も、海兵隊の負担となり、部隊運用が制約される恐れがある。

政府案の実現が極めて困難なのに、鳩山首相は、5月末までに移設問題を決着させる「覚悟」を公言し続けている。首相は、自らの言葉の重みを自覚しているのか。決着させられない場合は、どう責任をとるつもりなのだろうか。

疑問なのは、なぜシュワブ沿岸案を排除するのか、政府がきちんと説明していないことだ。

沿岸案は、陸上案より住宅地から遠く、騒音や安全面で優れている。名護市議会が陸上案への反対を決議しながら、沿岸案に反対していないことに注目すべきだ。

ホワイトビーチ沖を埋め立てて大型の代替施設を造るよりは、沿岸案の方が費用も少なく、より早く、確実に建設できるだろう。

自民党政権が米国と合意した案なので、民主党のメンツが立たないという理由で沿岸案を排除した結果、普天間飛行場が現状のまま長期間、固定化されるとしたら、沖縄にとって極めて不幸だ。

現在の厳しい状況は、昨年の段階から十分予想されていた。まともな戦略も、司令塔もないまま、沖縄県民の県外移設の期待をあおり、問題解決を困難にした責任はひとえに鳩山首相にある。

首相は、代替施設完成後も普天間飛行場を閉鎖せず、有事の際に活用する可能性に言及している。米国との交渉カードにする狙いだろうが、これはおかしい。

市街地にある飛行場の返還を実現し、有効な跡地利用を通じて地域振興につなげる。これこそ、政府が取り組むべき課題だ。

産経新聞 2010年03月27日

普天間移設 辻褄合わせは国益を失う

鳩山由紀夫政権は普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)を米軍キャンプ・シュワブ陸上部などに分散移転し、最終的にホワイトビーチ沖合に代替基地を造る「2段階移設案」を含めて地元や米政府との調整作業に入った。

2段階案の中身はいずれも過去に地元や米軍から不都合とされ、決まっても実現は8~15年先だ。4年後に普天間を返還できる現行計画ではなぜいけないのか。その説明もないままに実現性を欠いた案を進めれば、日米同盟はますます空洞化の危機にさらされる。鳩山内閣は頭を冷やして原点に戻り、現行計画の履行を決断すべきだ。

もともとシュワブ陸上案は、ヘリなどの飛行経路が住宅地の上にかかり、安全性や技術面からあえて現行計画のシュワブ沿岸案に差し替えた経過がある。しかも政府案では、米海兵隊のヘリ部隊と固定翼機が県内外に分散され、一体的運用を損なう恐れもある。

ウィラード米太平洋軍司令官は「統合運用が難しく、任務を果たせなくなる」と警告し、抑止能力にも危険な欠落を生じかねない。これらの問題を無視して、つじつま合わせのような構想を推進するのは理解に苦しむばかりだ。

さらに問題なのは、ホワイトビーチ沖合の埋め立て案が最低でも10~15年かかり、工事規模や費用の面でも現行計画を大幅に上回る可能性があることだ。普天間飛行場の長期継続使用が続くことになりかねず、地元うるま市も沖縄県も一斉に反対を強めている。

何よりも疑問でならないのは、「現行計画はゼロに近くなった」(北沢俊美防衛相)としながら、鳩山首相も主要閣僚も、現行計画を選択しない理由について一度も国民や国会に明確な説明をしていないことだ。

普天間返還は1996年に日本政府が要望した。地元の声も取り入れながら、10年の歳月をかけてまとまったのが現行計画だ。地元の名護市や沖縄県、米政府の足並みもそろっていた。それにもかかわらず、鳩山首相自らが「県外、国外」に自らこだわって迷走を重ね、決着を先延ばしにしてきた責任は重い。

日本の安全を守る「抑止力の維持」と「県民負担の削減」の条件をともに満たせる案は現行計画以外にない。米政府もこれを最善としている。首相は過去の経過を改めて検証し、国益を見据えた決断を下してほしい。

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