3社長強制起訴 再発防止につなぐ審理を

朝日新聞 2010年03月27日

歴代社長起訴 JR西の体質にも迫れ

前代未聞の判断は、悲惨な大事故の背景となった経営体質に対する厳しい問いかけだといえよう。

5年前のJR宝塚線(福知山線)脱線事故をめぐり、神戸第一検察審査会はJR西日本の歴代社長3人を強制的に起訴すべきだと議決した。

昨年から、審査会が起訴すべきだと2回議決すると必ず起訴されることになった。兵庫県明石市で起きた歩道橋事故で当時の明石署副署長が強制起訴されるのに続き、不起訴という検察官の判断を市民の代表が覆した。

宝塚線事故では、神戸地検は現場付近を急なカーブに変えた当時に鉄道本部長だった山崎正夫前社長だけを業務上過失致死傷罪で起訴。付近に自動列車停止装置(ATS)を整備しなかった責任を問うた。

検察審査会は、井手正敬(まさたか)氏と南谷(なんや)昌二郎氏、垣内剛氏の歴代トップ3人も現場の危険性を認識でき、ATS整備を指示すべきだったと判断した。

この起訴には批判もある。当日の警備にもかかわったとされる明石署副署長と同列に扱えるのか。業務上過失致死傷罪で企業の責任を問うのはどうか。刑法の解釈を法律家ではない人々の判断で塗り替えていいのか。原因の解明より責任の追及を優先することにならないか。

うなずける点もあるが、ここは2回に及ぶ審査会の判断を尊重したい。山崎氏1人の起訴なら、ATSの未整備だけを問うことになる。3人の刑事責任の有無を問うことになれば、JR西日本があの大事故を引き起こすに至った背景や経営が抱えてきた問題も解明される可能性が出てくる。

3人の元社長は法廷でどう語るのか。なかでも井手氏は、国鉄が分割・民営化された1987年から20年近くにわたってJR西日本で副社長、社長、会長、相談役を歴任した。私鉄王国と呼ばれた関西で、ダイヤの高速化によって競争力を強め、経営基盤を築き上げた。

しかし、この成功は安全性を犠牲にしていたのではないか。事故はそうした疑念を生んだ。収益を重視するあまり、安全への投資が後回しにされ、それがATS整備の遅れにつながったのではないかというわけだ。

この点について、取締役会や経営会議などの場で井手氏はどう発言し、どんな議論が交わされたのか。法廷で詳細を明らかにしてほしい。

JR西日本が設けた第三者機関は昨年秋、事故の背景には井手氏がつくりあげた独裁的な経営体質があるとする報告書をまとめた。

いまの佐々木隆之社長は「上意下達」の企業風土の改革を掲げる。改革は叫ばれ続けたが実現したとは言い難い。言葉だけに終わらせないためにも、真実の解明が必要とされる。

毎日新聞 2010年03月29日

JR歴代社長起訴 企業体質が裁かれる

107人が死亡した05年4月のJR福知山線脱線事故で、JR西日本の井手正敬氏ら歴代社長3人が業務上過失致死傷罪で強制的に起訴されることになった。

神戸第1検察審査会が起訴すべきだと2度にわたって議決したのは、社長が安全対策の基本方針を実行すべき最高責任者であり、JR史上最悪となった惨事の刑事責任は免れないと判断したためだ。事故の誘因に利益優先という姿勢がなかったのか。井手氏らは法廷で、経営トップとして果たした役割を説明しなければならない。

神戸地検は昨年7月、現場カーブにATS(自動列車停止装置)を設けていれば事故を防げたとして、鉄道本部長だった山崎正夫前社長を起訴した。一方、井手氏らについて、安全対策の権限を鉄道本部長に委ねており、現場の危険を認識できなかったとの理由で不起訴にした。

歴代社長は、社内各部署の幹部で構成する総合安全対策委員会(後に総合安全推進委員会)の委員長を務めていた。起訴議決は、新路線開業で収益拡大を図るという経営方針で、事故の9年前に急カーブに付け替えたと認定した。そのうえで、委員長を務める社長が現場にATSを整備させないまま放置した過失が事故を招いたと判断した。

安全が最優先の公共交通機関にとって、事故防止対策を束ねる委員長の立場はお飾りではない。起訴議決は市民感覚に沿うものと言えよう。

昨年、国土交通省航空・鉄道事故調査委員会(現・運輸安全委員会)の調査報告書がJR西幹部に漏えいした問題が発覚した。これを受け、有識者によるJR西の特別委員会は経営体質を検証し、井手氏について「閉鎖的な組織風土、上に物申さぬ文化を作った」と批判している。その経営姿勢を後継社長の2人が改めたわけではない。井手氏は民営化後の上場など一定の役割を果たしたとはいえ、公の場で事故に言及することは一度もなかった。

JR西と遺族による脱線事故の検証も始まっている。運転ミスに対する懲罰的な日勤教育や過密ダイヤ、ATS設置などの課題を分析する。検証結果を公開し、再発防止につなげたい。

日航ジャンボ機墜落事故や信楽高原鉄道事故など過去の大事故で経営陣が起訴されることはなかった。業務上過失致死傷罪は個人の責任しか問えず、予見可能性の立証も難しい。公判を維持する検察官役となる指定弁護士の責務は重く、検察の協力も欠かせない。

山崎氏を含めJR西の歴代4社長が起訴される異常事態だ。裁判では、これまでの企業風土そのものが問われることになる。

読売新聞 2010年03月29日

3社長強制起訴 JR西の企業風土が裁かれる

安全よりも収益拡大路線に走ったJR西日本の「企業風土」を、厳しく問う結論だろう。

乗客106人が死亡した2005年のJR福知山線脱線事故で、神戸第1検察審査会は、神戸地検が不起訴としたJR西の井手正敬元社長ら歴代3社長を起訴すべきだという2度目の議決を出した。

一般市民が不起訴の適否を判断する検察審査会に起訴権限を与えた新制度により、3人は業務上過失致死傷罪で強制起訴される。

地検が既に、山崎正夫前社長を同じ罪で在宅起訴している。歴代の社長4人が裁かれる異例の事態である。JR西は、安全最優先の企業へと改革を急ぐべきだ。

審査会は歴代3社長を「安全対策の最高責任者」と位置づけた。その上で、現場を急カーブにした1996年の工事で事故の危険性が高まったのに、自動列車停止装置(ATS)の整備を部下に指示しなかった過失があるとした。

安全対策は鉄道本部長に任されていたとして、96年当時の本部長山崎前社長だけを起訴した地検の判断を覆し、トップに高度な安全管理責任を求めたといえる。

井手元社長は私鉄に対抗して高速化やダイヤ過密化を進め、民営化後の経営基盤を固めた。他の2人は効率重視路線を継承した。

ATS整備が後手に回った背景に、利益優先、安全軽視の企業風土があるのではないか。審査会には、法廷で井手元社長らの責任を検証し、組織の問題を解明してこそ、再発を防げるという考え方があったのだろう。

遺族の心情をくみ取った審査会の議決は、理解できる。だが、危うさもはらむ。事故を予想できたという「予見可能性」の立証が容易ではないからだ。

強制起訴は裁判所が指定した弁護士が担うが、十分な証拠を得られるのか。起訴した主体が異なる裁判が並行し、相互の立証が矛盾する事態も想定される。

兵庫県明石市の歩道橋事故で初の強制起訴を決めた神戸第2検察審査会は、審査の基本的な立場を「有罪か無罪かではなく市民感覚の視点」に置いた。今回の議決も「市民感覚」を重視している。

起訴議決にあたっては補佐役の弁護士から法律上の助言を受けるが、検察官や弁護士という法律家とは別の見方で判断したということだろう。多角的な助言を得られるよう、もっと補佐する体制を拡充してもいいのではないか。

裁判所には、法と証拠に基づく厳正で慎重な審理を求めたい。

産経新聞 2010年03月28日

3社長強制起訴 再発防止につなぐ審理を

乗客106人が死亡した兵庫県尼崎市のJR福知山線脱線事故で、神戸第1検察審査会はJR西日本の井手正敬(まさたか)元相談役ら歴代の3社長について、起訴すべきだと議決した。

改正検察審査会法に基づく「強制起訴」の決定は今年1月、兵庫県明石市の歩道橋事故での明石署副署長(当時)に次いで2例目だ。鉄道事故の刑事責任が企業トップにまで及ぶかどうか。難しい裁判だが、大惨事の原因究明につながる審理を望みたい。

神戸地検は昨年7月、当時の鉄道本部長だった山崎正夫前社長だけを「事故現場を急カーブに付け替えた際、事故防止のための自動列車停止装置(ATS)の整備を怠った」として、業務上過失致死傷罪で在宅起訴した。

井手元相談役ら3人については、「安全対策上の責任まで求められない」と嫌疑不十分で不起訴とした。この処分に対し、遺族側が不服を申し立てていた。

検察にも市民感覚を取り入れようと昨年5月施行された改正検審法では、審査員11人中8人が「起訴相当」の議決を2度出すと強制力を持つ。今回の事故では10月に最初の「起訴相当」が出され、地検は再度、不起訴とした。

その際、地検側は「審査会は事実を誤認している可能性がある」と審査会側に異例の注文をつけた。そのうえで、「鉄道本部の会議に3社長は出席していなかった」という事実を挙げるなどして不起訴の理由を説明した。検察側としては、「有罪の見通しが低い起訴はできない」との判断だったのだろう。

審理の困難さは、遺族らも分かっている。トップ3人を何が何でも有罪にしたいわけではない。事故はどのようにして起きたか。どうして防げなかったのか。それを3人の口から聞いてみたいというのが思いではあるまいか。

その点、井手氏は昭和62年の分割民営化以来、JR西日本の実質的なかじ取りを担当し、同社は「井手商会」とも呼ばれた。ともすれば安全対策よりも、営利優先の企業体質を作りあげたとの批判があるのは事実だ。

井手氏は強制起訴が決まったことを受け、「深く受け止めなければならないと考えている」とコメントした。事故の原因究明と再発防止につなげるためにも、3人は知っている事実を正直に証言してほしい。

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