米露新条約 核兵器全廃への弾みに

朝日新聞 2010年03月28日

米ロ核軍縮 「プラハ構想」を動かせ

冷戦の遺物とも言うべき大量の戦略核弾頭を減らす新条約に、米国とロシアが合意した。オバマ米大統領が「核のない世界」を目指すと宣言した昨年4月5日のプラハ演説から約1年。署名式は8日、米ロ首脳がそろってプラハで行われる。

これで急速に世界が核ゼロへと動くわけではない。だが、あの歴史的な演説で世界に発した言葉を行動に移していこうとする、オバマ氏の並々ならぬ意欲を感じさせる。

新条約で米ロは、配備する戦略核弾頭をそれぞれ1550発以下に減らす。大陸間弾道ミサイルなどの運搬手段の保有数は、未配備分も含めて計800を上限にする。両国は発効から7年以内に削減目標を達成しなければならない。

昨年12月に失効した第1次戦略兵器削減条約(START1)では弾頭の上限が6千発、運搬手段は計1600だった。新条約でもなお、世界の主要都市を何度も破壊できるほどの過剰装備ではあるが、安全保障戦略での核の役割を減らしていくための、重要な一歩である。

条約の発効には、米ロ双方の議会による批准承認が必要だ。過去には、批准承認がうまくいかず、未発効に終わった核軍備管理条約がふたつもある。米ロの議会は早期に批准を承認し、さらなる削減を促すべきである。

プラハ演説でオバマ氏は、米ロだけでなく、保有国による多国間核軍縮を提言した。核不拡散条約(NPT)体制の強化、包括的核実験禁止条約の発効、兵器用核分裂物質の生産禁止条約の締結の必要性も強調した。「プラハ構想」とも呼ばれる、核軍縮・不拡散政策の数々である。

その基本線は、核保有国は軍縮を進め、持たない国は非核を継続して核ゼロをめざす。同時に核の闇市場などを封じ込めて、テロ集団の手に核が渡らないようにする――というものだ。

オバマ氏の呼びかけで4月12、13日に、核テロ防止を主眼にした核保安サミットが開催される。5月には、5年に一度のNPT再検討会議がある。今回の米ロ条約合意を足場にして、「プラハ構想」を着実に前進させていかなければならない。

日米はこの秋に向けて同盟の「深化」を協議していく。そのなかでも核政策での協力はとても重要なテーマとなろう。核拡散、核テロ防止のための国際協調の幅をどう広めていくか。核実験した北朝鮮、軍事費を増大させる中国を抱える北東アジアにおいて、核の役割縮小に必要な地域的安全保障をどう組み立てていくか。

日米が協力してこそ効果が高まる課題が、たくさんある。日本も積極的に提案し、「プラハ構想」前進の主要なエンジンとなっていくべきである。

毎日新聞 2010年03月28日

米露新条約 核兵器全廃への弾みに

久々の大型核軍縮である。オバマ米大統領とメドベージェフ露大統領が、昨年12月に失効した第1次戦略兵器削減条約(START1)の後継条約の内容で合意した。世界の核兵器の9割以上を保有する米露の核軍縮は国際的な緊張緩和につながる。オバマ大統領が打ち上げた「核兵器なき世界」への確かな一歩としても歓迎したい。

削減の対象になるのは主に長距離用の戦略核兵器だ。米側の発表によると、新条約では米露が配備できる戦略核弾頭の数が各1550とされた。START1では戦略核弾頭の上限が各6000、02年の米露モスクワ条約では各2200~1700だから大幅な削減である。

「弾」だけでなく「発射装置」にも大ナタが振るわれた。核兵器はミサイルや航空機に載せて使用されるが、大陸間弾道弾(ICBM)と潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、戦略爆撃機の総計上限は、米露各1600基・機から800基・機へと半減された。

冷戦中は米国とソ連が核兵器の備蓄を増やしてけん制する「恐怖の均衡」理論がまかり通った。しかし、もはや大国同士が核兵器を使って争う時代ではない。むしろ核兵器の拡散や核によるテロを警戒した方がいい。米露が核軍縮に取り組む背景には、そんな時代認識があるだろう。

逆に言えば、核の脅威はより身近になったとも考えられる。核拡散防止条約(NPT)が認定する5カ国(米英仏露中)の他にも核兵器を持つ国が現れ、特に北朝鮮の核兵器は大きな脅威を近隣に及ぼしている。中東ではイラン、シリアによる核兵器開発の疑いも消えない。

オバマ大統領が今回の合意にあたり「2大国(米露)が世界を先導する」と語ったことは心強いが、米露の核軍縮と同時に、核兵器の拡散防止に努めること、特に北朝鮮の非核化を実現することが肝要である。米露の相互削減だけでは世界は決して安全にならない。

4月中旬にはワシントンで核安保サミットがあり、5月にはNPT再検討会議も開催される。これらの重要会議に先立って米露は4月8日に新条約調印式をチェコの首都プラハで行う。米露主導で核軍縮、核廃棄の機運に弾みをつけてほしい。

新条約の発効には米露の議会の批准が必要で、特に米上院(定数100)で3分の2の賛成が得られるかどうかは微妙だ。だがプラハはオバマ大統領が「核なき世界」演説を行った場所である。冷戦時のチェコスロバキアは東西対立の最前線とも目されていた。因縁の地で調印される条約が、新しい時代を開くよう願わずにはいられない。

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